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突然のお願いに思わず呆気にとられてしまった。まさかパーティーを組んでくれなんて言われるとは全く予想していなかったわ。というか俺は太刀なのにパーティー組みたいのか? 太刀ってだけでパーティーに入れて貰えなかったのは今でも良く覚えている。あいつら絶対に許さない。絶対にだ。
俺が何て返そうか迷っている間、二人は期待を込めた視線を送ってくる。何というか、凄く断りにくい。…………。俺の無言を否定だと思ったのか、女の方が慌てて言葉を付け加えてきた。
「ず、ずっとパーティーを組んでくれって訳じゃなくて、ここのボスを一緒に倒して欲しいの! その、ゴーレムの時強かったし、助けてくれて、優しそうだから、お願いします! ボス一緒に倒してくれたら、後で料理御馳走しますから! わ、私これでも【料理人見習い】の称号持ってるんですよ!」
男の方が女の言葉に頷く。つまりボスを倒すまでで良いからパーティーを組んで欲しいって事か。ふむ……。知らない相手とパーティーを組んで油断したところを後ろからブスリ、なんて事もあり得るし慎重に考えなければならない。と言ってもこの二人がそんな事をするとは考えにくいし、仮に襲ってきても負ける気がしない。うーん……。OKしてみようか……。この二人はいったいどれくらい現在の状況を把握しているのだろうか。もしかしたら色々聞き出せるかも知れない。それに料理を御馳走して貰えるのは結構魅力的だ。【料理人見習い】って事はある程度料理してるみたいだし、ずっと木の実や生肉を食べてきたから久しぶりに温かい料理が食べたい。まあ、俺もこの後ボスに挑むしそのついでだと思えばいい。利用価値はありそうだしな。
「分かった。パーティーを組んでくれ。料理楽しみにしているよ」
俺の返答を聞いた二人は飛び跳ねて喜んだ。いったいなんでそこまでボスを倒したいんだ? 嬉しそうに笑う二人を見ながら、俺は首を傾げた。
「ほ、本当ですか! じゃあ、パーティー登録をしましょう」
二人がフレンド登録のためのカードを取り出した。パーティーを組むにはまずフレンド登録する必要がある。俺もカードを取り出して二人に渡し、カードを受け取った。男の方はリュウ、女の方はリンという名前だ。
「じゃ、えっと暁さん、リーダーになってください」
パーティーを作る時に親となった者がリーダーになる。二人にパーティー申請を送り、受理されるのを待つ。しばらくするとポーンと言う音が響き、三人はパーティーとなった。
リュウがお願いします、と握手を求めてきた。俺はそれに応じ握り返す。この世界に来てずっと一人だったからパーティーを組めてなんか感動した。……というのは嘘だが、まあ悪くはない気分だ。役に立ってくれよ、ガキ共。
取り敢えず、一度中腹に戻ることにした。来た道を戻りながら俺は気になっていた事を二人に尋ねる。
「二人はどういう関係なんだ?」
些かストレート過ぎたかも知れない。まあ何て聞いたらいいか思い浮かばないし仕方ないな。二人は顔を見合った後、リュウが話し始めた。
「えっと、リンは僕の妹です。双子なんですけど、僕の方が早く生まれて……。僕達は中二でした」
やっぱり兄妹だったか。二人とも中学生なのによく一年も生き延びてこられたな。街やエリアで見かけるのは大体が高校生以上の人で、中学生ぐらいの年齢の子は見かけていない。弱い者から死んでいくこの世界では小さな子供では生き延びていけないからな。死んだか引き籠もっているんだろう。
「二人だけで今まで生活していたのか?」
リュウとリンはその質問に目を伏せた。何かまずい事を聞いてしまったか?
「……この世界に閉じこめられてから僕とリンは宿に閉じこもっていました。だけどしばらくして持っていた金もなくなり、エリアで戦わないといけなくなった……。そんなとき、親切なお兄さんが僕達のような子供を集めてギルドを作りました。経験値を分けて貰いながら安全な狩りをして、僕達もある程度戦えるようになりました……。だけど、ある日第二攻略エリアの《ダイナソージャングル》で、PKプレイヤーの集団に襲われて、仲間は殆ど殺されてしまいました……」
あー、地雷踏んじゃったな。そんな事があったのか。やっぱこういう状況でもPKに走る奴はいるんだな。俺も気を付けなければ。それにしても、そんな目に遭ったのになんでまだエリアにいるんだ? 俺の疑問を察したのか、今度はリンが口を開いた。
「レベルの低い安全なエリアの街は引き籠もった人で溢れているから、宿が使えなくて私たちはレベルの高いエリアに行かなくちゃならないの。レベルの高いエリアだと宿や料理が高いし、金を稼がなきゃいけない……。二人だけではこの世界では生きていけないけど、私たちみたいな子供は足手纏いになるって誰もパーティーに入れてくれないの……。私が料理作るにしても材料がいるし……。だからここでレベルを上げて、ボスモンスターから取れる素材を使った防具を手に入れることが出来れば、みんなに認めて貰えるかなって思って……」
「ボスの防具?」
リュウが答えた。
「ここのボスから作れる防具は高性能なので……。丈夫だし、《生命力》のスキルが付いているんですよ。ここの防具は攻略組の人達がしばらく使っていたから、何というか、持っていると認められる? というか……」
防具や武器の中には装備するだけでスキルが使えるようになる物がある。ここのボスの素材は防具にスキルを付加するみたいだ。《生命力》とはどんな攻撃を受けてもHPが1残るというプレイヤー達から重宝されているスキル。俺も早く手に入れたいな。
「それで適正レベルも越えたしボスに挑もうと思ったんですが、道を間違えてしまってここに来て……それでモンスターハウスに……」
「だからもう一度掲示板で確認した方が良いって言ったのに。リュウの馬鹿! 暁さんがいなかったら私たち死んでたのよ!」
「ご、ごめん……」
適正レベル越えたってお前達二人じゃボスには勝てないと思うぞ……。むしろ道を間違えて幸運だったなお前ら。それにしても兄であるリュウより妹のリンの方がしっかりしてる。全く、妹を守ってやれない兄なんて兄失格だぞ。
「そう言えば、二人のレベルって今どれくらいなの?」
「えっと、僕は23でリンは22です。ここの適正レベルは16だから大丈夫だと思ってたんですけど……」
あー。第三攻略エリアだからそこまで高くないと思ってたけど俺のレベルとかなりの差があるな……。攻略組はつい最近第十一攻略エリアをクリアしたばかりなんだよな。そこにいる奴っていったい何レベルなんだ?
「暁さんは何レベルなんですか? すっごい強かったですけど……」
「60だ」
「「はぁ!?」」
二人が同時に聞き返してきた。何だよその顔は。二人して体をブルブル震わせるな。そして何か憧れの人を見るようなキラキラした目で俺を見るんじゃない。
「えっ、えっ、ろく、60レベルですか!?」
「ちょ、ええ!? 嘘でしょ!?」
リュウとリンがもの凄い反応をしながら急接近してくる。嘘じゃないよ。何だよその反応怖いってば。フレンド登録したんだからレベルぐらい確かめられるでしょうが。
「も、もしかして暁さんって攻略組の人ですか!? 確か第十一攻略エリアは60以上じゃないと通用しないんですよね! と言うことは第十一攻略エリアに行ったことあるんですか!? モンスターが格段に強くなったって聞きますけど、どうなんですか!? 何で初期装備なんですか!? というか何で太刀なんですか!?」
「もしかして《不滅龍》とか《照らす光》に入ってますか!? 《流星》さんとか《震源地》さんとか《移動城壁》さんとか《嵐帝》さんとか有名な人と会ったことありますか!? なんで初期装備なんですか!? というか何で太刀なんですか!?」
二人がもの凄い剣幕で質問攻めにしてきた。全く何を言っているのか分からないぞ……。一人ずつ喋ってくれ。
「俺は攻略組じゃない。それとそのうろなんちゃらとかなんちゃらの光なんていうギルドには入ってないし、その人達にも会ったことはない。俺には複雑な事情があるから、その辺はあまり聞かないで欲しい。それと、出来れば攻略組について詳しく教えて欲しいんだが……」
二人は俺の言葉に落胆して肩を落とした。そんなガッカリする事無いだろ……。
「分かりました……。そこまで詳しいことは知らないんですけどね……」
……やはりこの二人を助けて良かった。聞きたい情報をピンポイントで入手することが出来たぜ。恐らく攻略組についてはこの世界で常識になっている。常識をわざわざ掲示板で探すのは面倒だだからな。
二人の話を纏めてみるか。今、攻略組を除いた殆どのプレイヤーのレベルは10から40程度。それ以上はそこまで多くないらしい。大体のプレイヤーは安全なエリアでレベルで少しずつレベルを上げたり、生産職についているようだ。
命知らずな攻略組がクリアした第十一攻略エリアの適正レベルは65。今までのエリアよりもモンスターが格段に強いらしい。ボスモンスターは《不滅龍》と《照らす光》という有名なギルドが協力して倒したようだ。で、リンが言っていた《流星》やら《震源地》はプレイヤーの二つ名のようだ。プレイヤー名は不明。《流星》が《照らす光》のギルドマスター、サブマスターは不明らしい。《不滅龍》のギルドマスターは《震源地》でサブマスターは《移動城壁》。《嵐帝》はギルドには所属せずパーティーで活動しているプレイヤーなんだと。これらの二つ名は数ヶ月おきに行われる《イベント》の時に活躍したプレイヤーに掲示板で考えられた物が付けられる。《イベント》後は二つ名を決めるために掲示板がもの凄く盛り上がるらしい。
《イベント》とは不定期に行われる行事のような物だ。希望者が参加して他のプレイヤーと競い合う。参加する者はその時だけ表示される名前を変えられるられるらしい。その様子を参加していないプレイヤーは観戦して楽しめるようになっている。今までに《イベント》は二回行われたようだ。表示される名前は変更することが出来、殆どのプレイヤーが自分の名前を隠して参加する。前の《イベント》で二つ名を付けられると次回では表示名をそれにして参加するプレイヤーもいるようだ。《イベント》時はHPが0になっても死ぬことはない。
《イベント》は今までに二回行われていて、一回目はモンスターを時間制限内に何体倒せるか、二回目は障害物競争のような物だったらしい。もう少ししたら行われる三回目の《イベント》内容はプレイヤー同士の一対一のバトルのようだ。これまで以上に盛り上がることが期待されている。
とまあこんな感じだ。成る程な。
こんな状況なのに《イベント》を楽しめるってここのプレイヤー達は気楽だなぁ。まあ一年もすれば慣れるか。……クソ、俺もイベントに出たかったし見たかった……。