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 外に出ると他のプレイヤーの視線が痛かった。宿に行くときは全速力で走っていたからそれほど気にならなかったが、今は鍛冶屋を探してゆっくりと歩いているからそうもいかない。「おい、あいつ初期装備でしかも太刀だぞ」「まだ太刀使い居たのか? もう全員違う武器に鞍替えしたって聞いたぞ」「俺太刀使ってる奴初めて見た」など、プレイヤー達は俺を見ながら喋っている。クソ、おかしいだろ。何でゲームバランスを保つための運営があんな事を言うんだ? それに他のプレイヤーも真に受けすぎだ。なんであんな胡散臭い奴の言葉を信じられるんだよ。

 プレイヤー達を無視しながら、街の中を歩いて鍛冶屋を探す。NPCが開いている鍛冶屋を見つけたが、スルーする。NPCの出している生産系の店よりもプレイヤーがやっている店の方が遙かに生産の腕が上なのだ。きっとこの街にもプレイヤーの開く鍛冶屋はあるはずだ。


 しばらく探しているとプレイヤーがやっていると思われる鍛冶屋を発見した。NPCの店は全部同じ形をしていて特徴がない。今目の前にある鍛冶屋はさっき見かけたNPCの店よりも大分大きいから目立っている。俺はこの鍛冶屋に入ってみることにした。

 ささむけた木の扉を開いて中に入ると「らっしゃーい」」と間の抜けた声が聞こえてきた。声からしてこの店を開いているのは女性のようだ。

 店の中には幾つかの棚が並べられており、それに防具や武器が所狭しと置かれている。

 カウンターに立っているたのは茶髪の女性だった。短く切られた髪がどこか男っぽさを感じさせる。顔はなかなか整っていて、大きな二重まぶたの目が特徴的だ。


「すいません。モンスターの素材から防具一式を作って欲しいんですけど」


 怠そうに俺の方を見た女性の目が見開かれる。どうやら太刀装備が珍しいみたいだ。俺の全身を舐めるように見た後、その女性は口を開いた。


「あーと。君なんで太刀? というか何で初期装備のまま?」


 女性の口から出てきたのは疑問だった。あんまり聞いて欲しくないんだけどな。確かに太刀装備は珍しいし初期装備なんてもう居ないだろう。つうか本当によく初期装備であの森から出ることが出来たな……。奇跡だろあれ。


「まあ色々あってちょっと」


 適当に誤魔化しておく。誤魔化せてないけどな。

 女性は怪訝そうな顔をしたが取り敢えず仕事モードに入ったらしい。どんな素材を持っているか聞いてきた。


 うーん。あれからかなりの量の素材手に入れたからな。取り敢えず、あの中で一番強そうだったあの青い熊(名前は巨青熊グルヴァジオ)の素材を出してみることにした。

 俺はカウンターに巨青熊の剛毛皮、巨青熊の鋭爪、巨青熊の剛骨、巨青熊の尻尾、巨青熊の牙を置く。女性は毛皮を手に取り顔に近づけて観察する。生産系のスキルには《鑑定眼》という物があり、見ただけでアイテムのレア度とか効果が分かるようになるらしい。この女性も《鑑定眼》を持ってるのか?


「え、嘘、何だこれ!?」


 女性はカウンターに置かれたグルヴァジオの素材を見て驚きの声を漏らした。何だって言うんだよ。急に大声出すな。

 女性は子供みたいに目をキラキラ光らせて、素材を手にとって見ている。何が見えているのか分からない俺は黙ってその様子を見ているしかない。一通り見終わった女性はふう、と息を吐いてこちらを見てきた。


「君、なんでこんなレア素材持ってるわけ? 何これあり得ない。こんなレベルの素材見たことない。なにこれ? どっかのボスモンスターの? でもこんな名前のモンスター知らないし……どこで手に入れたの?」


 女性が興味津々な顔で聞いてくる。どこで……って言われてもなぁ。バグのせいで《ブラッディフォレスト》に行ってましたなんて言う訳にはいかないし、どうしようか。うーん。


「あんま詮索しないで貰えますか? 他の鍛冶屋に行っても俺は良いんですから」


 取り敢えず、どこかの小説で読んだような台詞を吐いてみる。これでもまだ聞いてくるなら本気で他の所に行こう。注目されたくないから好ましくは無いんだけどね。


「あーごめんごめん。分かったよ。これで防具作ってみる。あー後武器も作れるけどどうする?」

「じゃあ太刀をお願いします」


 この言葉に女性は何か言おうとしたが寸前で止めたようだ。良かった。他の鍛冶屋を探しに行くのは面倒だからな。


「……分かった。完成するまで半日ぐらいかかるよ。出来たら呼ぶからフレンド登録してくれる?」


 頭の中でフレンド登録、と念じると手元にカードのようなものが現れた。女性も同じ物を出し、お互いにカードを交換した。これでフレンド登録は完了だ。好きなときにチャットをとばして確認することが出来る。

 女性はレンシアという名前だ。


「じゃあ暁君、お代は防具が完成してからで良いよ」


 レンシアさんの言葉に頷き、俺は鍛冶屋を後にした。次に向かうのはNPCが開いている何でも屋だ。何でも屋と言ってもそこまでの種類のアイテムが置いてある訳じゃないんだけどな。ここに行くのは手に入れたアイテムを売るのと回復薬などを揃えるためだ。レンシアさんの作業が終わるのは半日後。まだ昼にもなっていないし、この後俺は《ゴーレムマウンテン》の攻略エリアに行くつもりだ。防具と武器が来るのを待った方が良いとは思うが、正直もう我慢できない。俺の一年がどれぐらい通用するか早く試したい。あの森に居たときはこんな事は思わなかったけど、やっぱ外に出てみるとこんなモンだな。


「いらっしゃいませ」


 何でも屋は露店だ。店の前に立つとNPCのどこか無機質な声が俺を出迎えた。アイテムボックスから不要なアイテムを選択してNPCに渡す。

 

 赤熊の毛皮×10、赤熊の爪×10、紅殻蠍の剛殻×10、紅殻蠍の鋏×10、紅殻蠍の毒尾×10、痺角兎の毛皮×10、痺角兎の角×10、痺角兎の尻尾×10、巨殺蜂の羽×10,巨殺蜂の針×10など、あの森で手に入れた素材アイテムを全て売ることにした。もう要らないしな。同じアイテムは十個までしか持てないから、森でゲットしたアイテムは全部合わせるともの凄い量になっただろうに勿体ない。


「126万2926テイルになります」

「え」


 NPCの口から飛び出た金額に思わず聞き返してしまう。今更だがこの世界の金の単位はテイルだ。高い安いの基準は円と殆ど変わらないと思う。だから100万テイルはかなりの高額だ。いくら何でも高すぎるだろ……。まあいいや、お金を沢山持っていて損はないしな。大金を持っているとPKされる恐れがあるけど、まあ持っていることを知られなければ問題ないだろう。

 NPCから金を受け取った後、回復薬とスタミナドリンクなどの回復系のアイテムと、エリアから街まで瞬間移動できるワープロープを買い、露点を後にした。因みにワープロープは他のアイテムと違い一個しか所持することが出来ない。それにボスとの戦闘が始まると使用できなくなる。まあこれは飽くまで保険だ。今の俺なら楽勝な筈だ。


 向かうのは当然、《ゴーレムマウンテン》。


 さあ皆さん、俺の華麗なる太刀無双をとくとご覧あれ。



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