『ブラッディバレンタインデー』
頭空っぽにして書きました。
めちゃくちゃです
時系列は栞とアカツキが仲直りしたぐらいの話です
「遂に来たか」
二月十四日。
そう、バレンタインデーだ。
モテる男は女性からチョコレートを貰え、そうでない者はただ絶望するのみ。そんな希望と絶望が入り混じる日。
バレンタインデーの元になったヴァレンティヌスさんは撲殺されているとかいうとんでもない日だ。何でチョコを渡すなんて日になったんだ。
この《Blade Online》の世界にも、バレンタインデーという概念は存在している。
男性プレイヤーの数が女性プレイヤーよりも圧倒的に多いため、チョコが貰えない者の方が圧倒的に多い。その為、毎年チョコが貰えないプレイヤーの怨嗟の声が掲示板に書き込まれるのだ。
この日になると、バレンタインデー限定のエリアが出現する。入れるのは男性限定だ。このエリアに午前十時までに入ると、その日の午後七時まであるイベントが行なわれる。その名も《ブラッディバレンタイン》。
このエリアに入ったプレイヤーは午後七時まで、殺し合いをする事になる。そして残った者は『ブラッディチョコレート』というステータスを上昇させるアイテムをゲットすることが出来るのだ。
現在時刻、午前九時五十九分。
今年もまた、血のバレンタインがはじまる。
――
木で作られた家や建物に雪が積もっているという、ごく普通の街の風景。だがそんな街の中では、血で血を洗う闘争が繰り広げられていた。
「居たぞ! あいつは確か、瑠璃さんにチョコを貰ってやがる!」「待ちやがれ《犬騎士》ィ!」「うおおおおわあああ」
「こいつ、我ら《バレンタインデー撲滅軍》に入っていながら、女性プレイヤーにチョコを貰っていたらしいぞ!」「切り刻めェ!」「ぎゃあああ」
「《異端審問会》を開始する。こいつの罪状はァ、チョコを三個も貰った事だァ! 判決は当然死刑だァ!」「「「「異議なし!!!!」」」」「っべー! こいつらマジっべーぞ!」「ランナウェイ!!」
建物の後ろに隠れて街の様子をうかがうが、背筋が凍るような恐ろしい光景が広がっていた。複数のプレイヤーが一人のプレイヤーを取り囲み、集団リンチを行っているのだ。
このエリアではHPが0になっても死ぬことはないとはいえ、あの連中の血走った目には恐怖を感じる。
現在街の中ではチョコを貰えない非リア充プレイヤー達が徒党を組んで、イベントに参加したリア充プレイヤーを血祭りにあげている。ここリアルじゃないんだけどな。
《バレンタインデー撲滅軍》《異端審問会》《リア充血祭りにし隊》《非リア充同盟》《血盟軍》などと言った、グループが結成され、至る場所でその猛威を振るっている。
「リア充に死を!!!!」
「「「「リア充に死を!!!!」」」」
頭に黒い袋を被った男達がそんな物騒な事を言いながら、整列して街の中を歩き回っている。恐ろしい奴らだ。
俺はどちらかというと、リア充側に属しているので、表に出ることは出来ない。リンからは確実にチョコレート貰えるだろうし。
「あいつもリア充グループの一人だ! 滅殺するぞ!」
「チッ」
真っ黒なローブを被った連中が、いつの間にか俺を取り囲んでいた。確かこいつらは《非リア充同盟》だ。
……アンチバレンタインを掲げる連中は、何故か皆黒い袋とか仮面とかローブを着ているのは何故だろう。
さて、囲まれているがどうするか。
空に逃げるという手もあるが、SPの消費の問題からあまり使いたくはないな。
「ならば、悪いが蹴散らして行くぞ!」
雄叫びを上げながら近付いてくる連中に向かって太刀を一閃。その瞬間、正面に居た連中が爆風に巻き込まれたかのようにぶっ飛んでいく。中にはHPを0にして即死した奴もいた。
「弱い……」
このイベントは参加するのに、男性限定という点を除けば何の制限もない。その為、低レベルなプレイヤーでも《ブラッディバレンタイン》に参加する事が出来るのだ。
太刀を振るう度、面白いように黒ローブの連中が吹き飛んでいく。まさに無双だ。断末魔の悲鳴を上げている連中には悪いと思うが、何だか凄く楽しい気分だぜ。
「ボ、ボス!」
必要以上に攻撃して、連中がほぼ壊滅状態になった時だった。黒いローブを来た連中がサッと道を開けた。その中を通ってくる、今までとは違う気迫を持った男。
片手に神々しい剣を握り、もう片方に巨大な盾を装備している。
その男の名は――――
「アーサー!? お前、何やってるの!?」
黒いローブに身を包んだアーサーが《非リア充同盟》の連中の中央に立ち、剣を構えてこちらを睨んでいる。
お、お前、どっちかというとリア充側かと思ったんだけど……。
「…………毎年…………チョコゼロだクソがァァ!」
次の瞬間、アーサーが盾を放り投げ、真紅のオーラーを纏って突撃してきた。これは持っている一切の防御を捨て、全てを攻撃に転じるスキル――《アウトレイジ》。
「ちょま!? いきなりそんな切り札使うなよ!!」
凄まじい速度で突っ込んでくるアーサーを間一髪の所で回避する。空振ったアーサーの一撃がすぐ隣の建物に激突し、そして激しく爆発した。建物が爆散し、その破片が雨のように降り注ぐ。
「ぎゃああああああ」
慌てて回避した俺は無傷で済んだが、アーサーの後ろにいた《非リア充同盟》達は瓦礫に押し潰されて、次々にその命を落としていく。
「き……貴様ァァ! よくも仲間をォ!」
激高して再度突っ込んでくるアーサー。
ダメだこいつ、キャラが崩壊している。
暴走するアーサーの脇をすり抜けて、俺は一目散に逃走した。後ろから悍ましい叫び声が聞こえたけど、無視無視。
――
「貴様が《不滅龍》のギルマス、玖龍だな? 《BO》屈指の実力者だと聞いているが、しかし、チョコを貰っている以上、見逃す訳にはいかぬ」
大剣を構えた大男の周囲を取り囲む、《リア充血祭りにし隊》。彼らが囲んでいるのはトップギルド《不滅龍》のギルドマスター、《震源地》玖龍だ。
因みに《BO》とは《Blade Online》の略だ。ブレオンだけじゃなくて《BO》って呼んでる人もいるんだって。今更だけど。
取り囲む大量の男どもに全く怯んだ様子を見せず、ただ直立している玖龍。ただ立っているだけだというのに、その気迫は凄まじい。
「……お前らに、一つ言っておこう」
「な……なんだ」
今まで黙っていた玖龍が口を開いた。
重みのある低い声だ。
「……貴様らは俺がチョコを貰ったとか思っているみたいだが、それは大きな間違いだ」
「な……なんだと?」
「昨日、サブマスのルークと喧嘩したせいで多分あいつからはチョコ貰えないし、ギルメンの女性陣からチョコ貰えると思ったけどそんな事は無かった」
「「「「な、なんだってー!?」」」」
今明かされる衝撃の真実。
隠れていた聞いていた俺も思わず一緒に叫びそうになった。
「そ……そうだったのか……」「わりいな……」「俺、あんたの事勘違いしてたよ」
今までの剣呑な雰囲気はどこに行ったのか、《リア充を血祭りにし隊》の連中が玖龍にフレンドリーに接し始める。玖龍も「HAHAHA」と笑いながらそれに応じる。
なんだ、玖龍はチョコ貰ってなかったのか。
などと思ったのも束の間。
「それは違うぞ!」
突如として、空から一人の男が降りてきた。
その男の名は尾前我優名。《不滅龍》に幹部であり、《双翼》の二つ名を持つ男だ。
《空中歩行》で空を歩いてきた尾前我が、《リア充を血祭りにし隊》の連中に衝撃的な事を告げる。
「ルークはこっそり、厨房でチョコレート作ってるし、他のギルマスも同じように制作なうだ! 多分、このイベントが終わった後に渡す気なんだろうな! このチョコ野郎が!」
ざわ……ざわ……と《リア充を血祭りにし隊》の連中の間にざわめきが走る。そ
「き、貴様! 尾前我! お前だってアンネラテから義理だろうけどチョコ貰ってたじゃねえか! お前が言うな!!」
「ははは、アデュー」
それだけ言うと、尾前我は再び《空中歩行》で去っていった。
残された玖龍が周りに視線を向けると、そこには嫉妬に狂った男達の姿が。
「…………オラァ!」
《リア充を血祭りにし隊》の連中が何かを言うよりも早く、玖龍は剣を振るった。それも稀少スキル《アースシェイカー》を発動してだ。
周囲にいた連中を悲鳴を上げるまもなく、たった一撃でぶっ飛ばされて消滅していった。
「よ……容赦ねえ……」
《アースシェイカー》の威力と、その容赦の無さに恐怖を覚えて、俺はそそくさとその場を退散したのだった。
――
「リア充爆発しやがれ!」「う、うるせえ! キモオタ凝縮しろ!」「あァン!? てめぇを凝縮してそれから爆発させてやんよォォ!!」「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ」
最初の方は非リアVSリア充みたいな争いが起きていたんだけど、
「てめぇ、その顔で何か非リアだよ! 十分イケメンじゃねえか!?」「んだと!? てめぇこそ、そんなに身長高いくせによく言うな! 肉体の方も引き締まっていて、逞しいじゃねえか!」「「え……」」「そ、そうかな」「そうだよ……」
だんだんとこんな風な阿鼻叫喚の地獄絵図になっていき、最終的には非リアグループ同士での抗争が起こってしまった。
まさに骨肉の争いだ。
「大変でしたね……アカツキさん」
「ああ……お前らは無事だったか……」
戦乱と最中、俺はドルーアとところてんと合流し、共に身を潜めていた。
俺ら三人も流石の連戦で体力を失い、休息を取らなければやっていけない状態だ。
外はすっかり暗くなり、更には雨が降り始めてしまった。視界は最悪だ。外を動きまわるのは危険だろう。
「お前らはチョコもらえたのか?」
俺の質問に、ドルーアが苦笑して答える。
「ええ……まあ、栞達から一応。まあ、義理チョコでしょうけどね」
「そうかー。あの連中、義理でも許してくれないからな」
と、そこで俺とドルーアは、ところてんが黙っている事に気が付いた。
「おい、ところ――」
は?
ところてんに話しかけようとしたドルーアが、両断された。真っ二つになったドルーアが消滅していく。何が起きたか分からない。
「ククク……」
「と、ところてん……?」
「僕はチョコ、貰ってないスよ」
「し……栞達は……?」
「忘れられてるんっすよ!! 出番がすくねェから!! ようやく出番と思えば番外編!? ふざけんじゃねーっスよ! 読者の方で僕の事を覚えている人、一体どれほどいっスか!?」
「お……落ち着け! 何を言っているんだお前!?」
ところてんは視線を建物の外へ向けた。
つられて外を見る俺。外には何もなく、ただ雨が降っているだけだ。
「この雨……僕のなんっスよ」
「何を言っている!?」
ところてんはそれだけ言うと、大剣を構えて襲い掛かってきた。
《残響》を使用し、ところてんの背後に回り込んで斬りつけた。
ところてんは死んだ。
「………………」
それから二時間後……戦いは終了した。
多くの犠牲を出したこの戦いで、生き残ったプレイヤーはたったの五千人だった。
結構多かった。
――
「お兄ちゃんは『ブラッディチョコ』貰えたんだから、チョコいらないよね?」
「兄さんはそれがあるからチョコ入りませんよね」
「アカツキ君はチョコいらないんじゃないかなー(棒)」
「あはは、僕はあげるよ」
宿に帰ると女性陣が集まっていて、そんな事を言われてしまった。オイ最後。
慌てて一人ひとりに事情を聞けば、「バレンタインデーだからお兄ちゃんと遊びたかった」「兄さんとデートしたかった」「イベント楽しかった? よかったねー(棒)」「あはは、いや、僕はあげるよ?」との事だった。
「ごめんな、リン。今度ちゃんと埋め合わせするから。よしよし」「んー……馬鹿ぁ」
「ごめんな、栞。今度一緒にデートしような? なでなで」「もぅ……兄さんの馬鹿ぁ」
「ごめんな、らーさん。今度一緒にラーメンでも食いに行こうぜ。奢るからさ」「よろしい(許)」
「…………」「あれ、アカツキ君? 僕には? 僕にはなんかないの?」
ってな感じでそれぞれをなだめて、最終的にチョコレートを貰いました。
リンはマカロン、栞は生チョコ、らーさんはギモーブ、カタナはどす黒い何かをくれた。最後以外はとても美味しかった。
バレンタインデー。
モテる男は女性からチョコレートを貰え、そうでない者はただ絶望するのみ。そんな希望と絶望が入り混じる日。
俺はチョコレート貰えたので勝ち組でした。
酷い話でした。
一時間で書き上げました。ギリギリ間に合った。
バレンタインデー、皆さんはどうお過ごしでしょうか?
チョコ貰えましたか?
貰えなかった人、チョコなんてただのお菓子ですよ!そんなに気にすることないですよ!
(チョコを食べながら)