『クリスマス企画的なやつ:祝』
同時投稿なので前に一話あります。
口直しです。
〈倉橋綾女の場合〉
「最初会った時はキャラ違うと思ったけど、こうやって接してるとやっぱらーさんはらーさんだな」
「……(・ω<)」
「また語尾を顔文字にしたんだ」
「……(^_^)v」
「可愛いよ」
「っ……(´д⊂)」
不意打ちで褒めてみると、顔を赤くしてそっぽ向いてしまった。可愛い。
綺麗にまとめられた黒髪のツインテール、ブルーのマフラーにふわふわした白いセーター。几帳面な印象を受ける彼女が顔を赤めている姿はギャップが激しい。ギャップ萌えという奴だ。
らーさん。いや綾女は結構照れ屋だ。ゲームの中ではあんな性格をしていたけれど、現実では敬語だしあれほど饒舌には喋れない。無口だからといって饒舌で無いわけじゃない、という奴だ。
綾女曰く、現実じゃないからブレオンの中では喋れた、らしい。
正直、その区別がよく分からん。
メールとかゲームだとおしゃべりなんだけどなあ。
今日はクリスマスだ。
幸いな事に俺も綾女も都合が合い、こうして二人で会って話す事が出来ている。
現在俺達は夜の街を歩き、二人で事前に予約した店へ向かっている。結構高めの店だ。俺が奢ろうと準備していたのに、綾女も俺に奢るつもりでいたらしく、二人でどっちが奢るか言い合いになってしまった。あまりに綾女が譲らないから、結局二人で割り勘する事になってしまった。綾女は意外と頑固だ。
「……(--)」
緊張しているのか、綾女の口数はかなり少ない。チラチラと俺の方を見てくるのが可愛い。
綾女と付き合えて本当に良かった。
綾女と付き合うために、俺はリンを振った。あの時の事は今でも忘れない。号泣するリンの事を思い出す度に胸が苦しくなる。栞にしても、もう前みたいに甘えてくる事は無くなってしまった。
とても寂しく思う。
だけど、後悔はしていない。
俺は綾女と付き合えてよかった。
「綾女」
「何……(・・?」
「愛してるよ」
「うぅ……アカツキ君……あんま不意打ちでそういうのはやめてください(´д⊂」
「綾女のそういう所、凄く可愛いよ」
「っ……」
語尾に顔文字を付ける余裕が無くなったみたいだ。耳まで真っ赤にしている。
「わ……私もアカツキ君の事、愛してます」
綾女の精一杯の言葉に胸が満たされる。
思わず綾女を抱きしめ、唇を奪った。
柔らかくて甘酸っぱい感触。
俺はとても幸せだ。
〈七都海の場合〉
クリスマス。
俺の部屋で海と二人でクリスマスパーティをしている。俺は外食をするつもりだったのだが、海が俺の家が良いと言ったので、結局俺の家でクリスマスを過ごすことになった。
二人で鍋の素と具材を買ってきて、現在グツグツと煮込んでいる。キムチ鍋だ。具材は白菜、ネギ、もやし、えのき、豚肉、油揚げ、豆腐、カマボコだ。
部屋の中にグツグツと音を立てる鍋の良い匂いが漂っている。
「アカツキって中二病っぽい名前」
「ヒデェ事言うな……。確かにちょっと中二っぽいけどさ」
具材を皿に装いながら、海がサラッと酷い事を言ってくる。付き合う前から思っていたことだが、海はかなり毒舌だ。
俺は拗ねた表情を浮かべたまま、油揚げを口に入れる。
油揚げの独特の食感。歯を立てると中から甘辛いキムチ鍋の汁が溢れ出してくる。火傷しそうになってハフハフしながら、何とか飲み込む。
「それに比べて私の海という名前はもはや芸術的に美しい」
「はいはい、海は可愛いよ」
子供をあしらうように言ってやると、今度は海が拗ねた様に頬を膨らませる。まるでリスの様な顔に笑うと、「むぅ」と唸って顔を元に戻す。
海は毒舌だが、相手に言い返されるのも嫌いじゃないらしい。要するに、いじるのは好きだけど、いじられるのも好き、という奴だ。
鍋を食べやすいように髪をポニーテールにまとめているが、とても良く似合っている。何となく外見の雰囲気がらーさんに似ているな。あいつのポニーテールもよく似合っていた。
「他の女の事考えてる顔してる」
「そんな顔してません」
「アカツキは私のだから」
「はいはい」
やっぱり、今日はいつもより甘えてきてるな。可愛さが倍増している。普段はもう少しツンツンしてるんだが。
ツンデレ、というよりはクーデレって感じだ。
あらかた鍋の中身を食べ終わった。残った汁の中にご飯と溶き卵、チーズを投入する。よくかき混ぜた後、数分煮る。しばらくするとさっきまでとは違う甘い匂いがしてくる。
チーズと卵が合わさったキムチ雑炊には濃厚な甘みがある。前に海が作ってくれた時から大好物だ。それまでは締めはうどんだった。うどんも美味しいけど、俺はこの雑炊の方が好きだな。
「…………」
食べ物に夢中になっていると、海が俺を睨んでいた。
食べ物ばっかじゃなくて私を見て欲しい、という事だろう。可愛い。
「言ってなかったけど、今日は、アカツキの家に泊まる」
唐突な宣言。
しばらく言葉の意味を考える。
つまりは、そういう事だろう。
「ああ、大丈夫。準備はしてあるから」
準備はしてある、というと途端に海の顔が赤くなった。何を想像したんですかねぇ、といじめてやりたい気分だけど、取り敢えず今は雑炊を食べよう。
満たされたクリスマスを過ごすことが出来た。
〈カタナの場合〉
クリスマスの夕方、ショッピングモールでお買い物中。相手はカタナだ。
俺がカゴを乗せたカートを運んでいる。カタナは好き勝手に食べ物を持ってきて、カゴに入れていく。どんだけ乗せるんだよと文句を言いたい所だが、今日の買い物は全て代金カタナ持ちなので何も言えない。
カタナはビックリするほど金持ちだ。
最初は俺が奢る、と言っていたのだが、上手いように言いくるめられて、結局俺が奢られる事になってしまった。「アカツキ君の持ち金じゃ、僕の満足する物は買えないよ」と真顔で言われては何も言い返せない。その後「僕は君が側にいてくれるだけで満足なんだからさ」とか言われて思わず赤面してしまった。やられっぱなしだ。
「…………」
カゴ一杯に積まれた食材の山。
一体どれだけ食べるつもりだ。
カニ一匹まるごと、マグロ、サーモン、ハマチ、ホタテ、ウニ、数の子、魚介類を大量にいれたかと思えば、牛ロース、豚ロース、せせり、軟骨と肉系を入れ始める。
「僕燃費悪いからね。夕飯はこれぐらい食べないとやってられないのさ」
「つっても限度があるだろ」
それから飲み物売り場やお菓子売り場を回り、ようやくレジへ向かう。カートが重い。ドクペを買うのはいいが、あった奴全部とか買いすぎだ。
レジでドヤ顔でカードを出すカタナに殺意が湧いた。
「重い……」
袋を幾つかぶら下げて、駐車場へ向かう。カタナは俺よりも多く袋を持っているのに、全く涼しい顔をしているのが憎らしい。
やっとこさ車に袋を詰め込んで、ショッピングモールから出た。
ちなみにこれは俺の車だ。就職祝いに買って貰った。新車。
「……それにしても以外だな。クリスマスに会いたいとか言い出すから一体何をするのかと構えていたが、ただのショッピングとは。てっきり『殺し愛』とか言って襲われるかと思ったぜ」
「あはは、それはそれで魅力的なんだけどね。僕だって普通に買い物したり、ご飯を食べたりしてみたいんだよ。それにアカツキ君とはもう決着が着いてるからね。僕はもう満足なのさ」
「ふーん。そういうもんか」
ブレオンの世界から脱出してからしばらくして、カタナは何事も無かったかのように現実世界で俺に接触してきた。「やぁ」とか言って目の前に現れた時は開いた口がしばらく閉じなかったよ。
助手席でこれまた意外にきちっとシートベルトを付けたカタナは、いつも通りの笑みを浮かべて、運転している俺を楽しそうに見ている。
「なんかアカツキ君が車運転してる姿とか似合わないよね」
「うっせえ。お前がそうやって助手席でシートベルト付けてる姿の方が似合わないよ」
「あはは。そんな事を言ったら、こんな僕と付き合ってるアカツキ君の方が似合わないよ」
「…………」
認めたくないが、俺とカタナは交際関係にある。何でこんな奴と付き合ってるのか自分でもよく分からない。気付いたら付き合っていた、という表現が一番しっくりくる。全く、人生は分からない。
「食べた食べたぁ……」
「食い過ぎだ……」
家に帰って早めの夕食。
カニ鍋をしつつ、刺し身を食べつつ、焼き肉をした。それから胸焼けがするほどのドクペを飲み、甘ったるいお菓子を山ほど食べた。中盤から俺は箸を止めていたがカタナに無理やり口に突っ込まれた。クソ。
「頭がクラクラしてきたよ」
またまた意外な事に、カタナは酒に弱い。ドクペに混じっていた酎ハイ三本目で顔を真っ赤にしていた。さっきから何やらしゃべっているが、呂律が回っていないため聞き取りにくい。
「よぉし、脱ぐぞぅ」
「お、おい」
急にそんな宣言をすると、カタナは急に服を脱ぎ始めた。似合わないパンツを放り投げ、全裸になるカタナ。慌てて注意したが間に合わなかった。
直視しないように裸体から目を逸らす。それでも目に入ってくる、カタナの身体。
作り物の様に白く綺麗な肌。線はかなり細い。
「…………」
そんな肌に入っている、何本かの痛々しい線。カタナ曰く、仕事の最中に付いた傷らしい。
カタナは一体何の仕事をしているのだろう。何度か仕事に着いて聞いたが、カタナは頑としてその内容を教えてくれなかった。俺を巻き込みたくないと、そう言っていた。
「アカツキくん」
全裸のカタナが俺にしなだれかかってくる。受け止めようとしたが、後ろに押し倒されてしまう。カタナは俺に馬乗りになり、俺の頬に手を当てる。
「意外かもしれなぃ……けどさぁ。ぼくだってこうして普通にイチャイチャしたりとか、興味、あるんだぜ」
甘える様な声色でカタナがそう囁く。やはり若干呂律が回っていない。
「駄目、かい?」
「……わかったよ。ほら」
「あは」
普通じゃないけど、普通を求めていたカタナとの、普通のクリスマスはこうして過ぎていった。
――――――――――――――――
「おらぁああ、リュウ君、脱げぇえええ」
「ひぃああああああああ」
「やっぱらーさんの方が呼びやすいよな」
「私も犬君の方が呼びやすいかもしれません☆彡」
「うふふ、賑やかですねえ」
「いいっすね、こういう雰囲気。今日のオフ会が無けりゃクリぼっちだったんで最高っす」
「ほら兄さん、枝豆が来ましたよ」
「アカツキ君、キムチだよ!」
「チャンジャ」
「なんでお前らはツマミ系ばっか進めてくるんだよ!」
クリスマス。
俺は東京のある店でブレオンのクリスマスオフ会に参加していた。
参加しているのはゲームの時の名前で言うと、瑠璃、リュウ、剣犬、らーさん、林檎、ところてん、栞、リン、七海、俺だ。
他のメンバーも来たがっていたのだが、用事が重なって来ることが出来なかった。残念だ。
酔っ払った小椋崎さんがリュウに絡み、服を脱がそうと暴走している。リュウは涙目で抵抗しているが、もう数分も持たないだろう。
剣犬とらーさんは山盛りフライドポテトを奪い合うようにして食べながら、のんびり話している。林檎はところてんと喋りながら、ビビンバとかラーメンだとかガッツリ食べている。
俺は栞とリンと七海に囲まれるような体勢で、三方向からやってくるツマミ系を順に食べている。塩味が効いた枝豆、シャキシャキとしたキムチ、独特の食感のチャンジャ、他にもキムチキュウリだとか塩キャベツだとか塩辛だとか色々食べた。確かに美味しいんだけど、何でツマミ系ばっかりなんだよ。串カツとか揚げ物系が食べたいよ。
次々と口の中に入れられる食べ物を咀嚼しながら、俺はふと考えた。
今日、俺はここでクリスマスオフ会を開いている。
だけどもし、俺がここに至るまでに違う選択をしていたら、どうなっていたのだろう、と。
何かを間違えていたら、もしくは何かを間違えなかったら。
今、俺は何をしていただろうか。
IF。
もしもの世界。
「どうしたんですか、兄さん。スルメですよ」
「アカツキさん、ワサビエンガワですよ」
「ユッケ」
「もうツマミ系はいいから! 揚げ物が欲しい!」
俺の言葉を受けて、らーさんと剣犬が食べているフライドポテトを奪いに行った三人の背中を見ながら、俺は小さく笑う。
まあ、結局今は今だ。後から『もしも』について考えても、何の意味もない。一度選んでしまった選択は、もう取り戻す事は出来ないのだから。
だからせめて、これからの人生で後悔しないように選択していきたいな、と思った。
メリークリスマス。