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《Blade Online》  作者: 夜之兎/羽咲うさぎ
―World End―
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「ッ!!」


 風圧によって吹き飛ばされたプレイヤー達はすぐさま体勢を立て直していく。全員がバラバラの位置に居たため、陣形はバラバラだ。栞達が大声で指示を出しているが、予期せぬモンスターの襲撃により皆混乱状態に陥っている。戦いの後だったため、回復途中だったプレイヤーもいて、HPが少ない者は悲鳴を上げてボスから距離を取っている。中には回復薬切れを叫んでいる者もいる。俺も既に殆どの回復系アイテムを使用してしまっている。まだ幾つか残っているが、この残量ではいつまで持つか分からない。

 プレイヤー達が体勢を整えるより早く、グルヴァジオが動き始めた。巨大な腕を持ち上げ、近くにいるプレイヤーに向かって振り下ろす。攻撃対象になったプレイヤー達は慌てて回避しようと走りだすが間に合わない。グルヴァジオの攻撃力は高い。何の防御態勢も取らずに攻撃を受ければ、かなりのHPを持っていかれる。逃げていたプレイヤーが爪の餌食となり、その中の何人かが死んだ。

 グルヴァジオはもう片方の腕を振り上げ、更にプレイヤーに向かって振り下ろす。


「クソ!」


 グルヴァジオの攻撃を止めようと走るが、他のプレイヤーが邪魔で思うように進めない。栞の方を見ると、俺と同じように走り出していたが間に合いそうに無い。

 逃げ惑うプレイヤーを鋭い爪が切り裂く――――その寸前、グルヴァジオの腕が何かに阻まれたように止まる。見ればグルヴァジオとプレイヤーの間に、盾を構えたアーサーが立っていた。

 流石のアーサーだったが、無傷と言う訳にはいかなかったらしい。顔を苦痛に歪め、後ろに後退させられている。HPも三割程減少している。

 攻撃を防がれたのが気に入らなかったのか、グルヴァジオは小さく唸ると、腕を再度振り上げアーサーに向かって振り下ろす。


「させないよー!」


 そこへアーサーの両脇から二人のプレイヤーが飛び出してきた。瑠璃とらーさんだ。


「っしゃらああああああああああああ!」


 瑠璃が雄叫びを上げ、スキルを発動してグルヴァジオの爪と斧を激突させる。グルヴァジオの攻撃が相殺され、動きを止める。そこへらーさんが突きの一撃をお見舞いした。スキルの青い光を纏った槍先がグルヴァジオの腕を貫いた。

 瑠璃達が戦っている間に、他のプレイヤー達も体勢を立て直し始めた。負傷したプレイヤー達を《アドバンテージ》のギルドメンバーが回収し、グルヴァジオから距離を取っている。


「テメェらぁ! 俺に続けやァ!」


 グルアラが一部のプレイヤーを率いて、グルヴァジオの足元へ突撃した。十名近くのプレイヤーが一斉に片方の足へスキルを叩き込む。

 禍々しい赤い光を纏った大剣を、グルアラが両手で大きく振りかぶりグルヴァジオの足に振り下ろした。あれが噂に聞いていたスキル《ゴッドイーター》だろうか。

 片足を攻撃されバランスを崩したグルヴァジオが地面に倒れ込んだ。グルヴァジオが倒れている間に、急ごしらえではあるものの、プレイヤー達は陣形を立てなおしていた。

 

「行くわよ!」

「間違いなく、今が攻撃の時だ!」


 早い段階で陣形をある程度整えていたプレイヤー達は、アンネラテと寸鉄の指示によって倒れているグルヴァジオに攻撃を仕掛けた。

 アンネラテが鞭でグルヴァジオの頬を激しく叩き、寸鉄が片手剣で顔を斬り刻む。他のプレイヤー達も彼らに続き、グルヴァジオの顔に攻撃を叩き込んでいく。

 しばらくしてグルヴァジオは起き上がり、顔を攻撃してきていたアンネラテ達に四足歩行の状態で突進攻撃を仕掛けようとするが、栞の指示によってタンク部隊が身体を張ってそれを受け止めた。HPを回復したアーサーはその戦闘で攻撃を受け止めている。

 

 体勢を立て直した後は、グルヴァジオの行動パターンを読んで対処していけばいい。後は殆どの犠牲を出さずに攻略する事が出来る。

 そう考えていた。しかし、そうはいかなかった。

 

「こ、こんな攻撃パターンは無かったぞ!」


 グルヴァジオのHPが半分近く削られた時だった。

 グルヴァジオはまるで駄々をこねる子供の様に地面をゴロゴロと転がり始めたのだ。回避が遅れたプレイヤーが踏み潰されていく。

 街を襲撃したモンスターは、まるで知能を持っているかのように今までの行動パターンとは違った動きを見せたという。引き篭っていた俺はあまりそれらのモンスターとは戦っていないのだが、グルヴァジオの動きを見ればそうだと分かった。

 突進攻撃が来るだろうと構えていたタンクのプレイヤーの大部分がそれに巻き込まれ、潰されてしまった。アーサーや一部のプレイヤーは咄嗟に回避していたが、既にタンク部隊は壊滅したと言っていい程、人数が減ってしまっていた。


「逃げろ! 逃げろ!」


 起き上がったグルヴァジオが両腕を滅茶苦茶に振り回し、狂ったように部屋の中を走り回る。プレイヤー達は暴れまわるグルヴァジオのせいで陣形を崩され、散り散りになってしまう。その為、自分の判断で行動しなければならなくなった。


「HPが残り少ないものは出来る限り下がってろ!」


 俺はそう指示を出しながら、HPが残り少なくなり死の恐怖でパニックになっているプレイヤー達を退かす。そして暴れ回って疲れたのか、動きを止めたグルヴァジオの背後に回る。

 グルヴァジオの正面で他のプレイヤーが注意を引き付けてくれているため、今がチャンスだ。

 《空中歩行》で跳び上がり、グルヴァジオの首元を目指す。グルヴァジオのHPは既に半分を切っている。急所に攻撃を叩き込めれば倒せるかもしれない。

 それにしても、まさかまたやる事になるとはな。

 大太刀を構え、グルヴァジオの首のすぐ下まで来た時だった。グリン、と首を捻ってグルヴァジオが俺を見た。巨大な眼球が俺を睨む。

 クソッ、やはり前みたいにそう上手くは行かないか。

 グルヴァジオが口を大きく開き、牙を剥き出しにした。そして後ろにいる俺に向かって首を伸ばしてきた。大剣の刃と同じ位の大きさを持つ牙が生え並んだ口を見て、流石にやばいと身構えた時だった。

 俺の目の前にまで迫っていた口が急に動きを止めた。何が起きたか分からないが、俺はその隙にその場から離脱する。

 降りてみると、栞がグルヴァジオの足に《オーバーレイスラッシュ》を叩き込んでいる所だった。

 また栞に助けられちまったな。

 《オーバーレイスラッシュ》を何発か放った所で、グルヴァジオが栞の方を向いた。スキル発動中は他の行動をとることが出来ない。栞に向かって、グルヴァジオが腕を振り下ろす。


「し、しお――――」


 俺が叫ぶよりも早く、振り下ろされた腕に何筋かの光がぶつかった。それにより腕の動きが止まる。

 ドルーアと七海だ。

 二人がグルヴァジオの攻撃を受け止めたのだ。

 グルヴァジオが苛立ちの篭った唸り声を上げ、さっきまでと同じように両腕を同時に振り下ろす。迫る鋭い爪に、七海が跳び上がり、スキルをぶつけて動きを止める。そしてドルーアが《オーバーレイスラッシュ》を打ち終わった栞に代わり、スキルの一撃を叩き込む。

 グラリとグルヴァジオの巨体が揺れ、地面に倒れ込んだ。


「今がチャンスだ! 行くぞォォォ!!」


 《海賊王》達が今が好機と倒れこんだグルヴァジオに突撃していく。様々な方向からスキルを叩きこまれ、グルヴァジオのHPが恐ろしい勢いで減少していく。


「削り切るんだ!」


 アーサーが一切の防御を捨てて攻めに転じる《アウトレイジ》を発動し、グルヴァジオの顔面に激しい攻撃を叩き込んでいく。瑠璃やらーさん、グルアラやアンネラテ、寸鉄やとっぽい、栞と林檎と七海とドルーア、そして駆けつけた俺、周囲にいたプレイヤー達が一斉にスキルを叩き込む。全てのプレイヤーが一切の守りを捨て、グルヴァジオを叩いた。


「やっ、やった!」


 グルヴァジオが立ち上がるよりも早く、俺達はそのHPを削りきった。空になったHPバーを見て、早くもプレイヤー達が歓声を上げた。


「!?」


 しかしHPが0になった後、グルヴァジオは最後の抵抗を見せた。左手を突き出して前方にいたプレイヤーを吹き飛ばし、目の前に居たアーサーに向かって首を伸ばし、その右腕に喰らいついた。

 瑠璃やアンネラテ達が左腕の攻撃に巻き込まれてダメージを負い、アーサーも右腕を喰い千切られて部位欠損状態に陥った。

 何人ものプレイヤーに大きなダメージを負わせ、ようやくグルヴァジオは消滅していった。



「いてぇ……」


 グルヴァジオを何とか倒したものの、死亡したプレイヤーは多く、負傷したプレイヤーは更に多かった。なんせ第二十九エリアのボス、タナトスと戦ってからアイテムの補給無しでここまで来たのだ。既にプレイヤー達のアイテムは尽きかけており、負ったダメージを回復出来ずにいた。まだアイテムを持っているプレイヤーはいるのだろうが、それも残り少ない。そろそろ俺達にも限界が近づいて来ていた。

 しかし、永遠に続くかと思われていたボスラッシュももしかしたら終わりかもしれない。グルヴァジオを倒して開いた扉の先には、今までと違い、上へと繋がる階段があった。もしかしたらこの先に戦人針がいるのかもしれない。


 結局、ダメージを負った何人かのプレイヤーはこの場に残る事になった。回復する手立てが無く、ダメージを負った状態で先に進めば、高確率で死ぬことになるからだ。

 まだ戦えるメンバーが陣形を整え、先に進むことになった。


「アカツキ君、また会おう」

「ああ」

「頑張ってね、らーさん。ついでにアカツキ君も」

「任せろー!」

「……ああ」


 アーサーや瑠璃と挨拶をして、俺達は階段を登っていく。階段を登った先でまたボスラッシュが続くのか、それとも戦人針が待っているのか。

 疲労と緊張でプレイヤーの口数はほぼ無い。

 そして、階段を登り切った先にあったのは屋上だった。かなり広い。施設に入る前まで快晴だった空は、今はどんよりと重く濁っている。

 そして広い屋上の中央に、奴がたっていた。

 

「やあ、モルモット諸君。よくここまで辿り着いたね」





 


 


 

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