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《Blade Online》  作者: 夜之兎/羽咲うさぎ
―World End―
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 白い床に大勢のプレイヤーの足音を響かせながら、俺達プレイヤーはひたすら先へ先へと進行していく。先へ進むには部屋ごとにポップするモンスターを撃破していかなければならない。ポップするのは今まで俺達が倒してきたボスモンスターや、隠しエリアなどに登場するユニークモンスター達だ。まるでラストダンジョンでの、ラスボス前のボスラッシュの様だ。

 一つの部屋を突破する度に、仲間が少しずつ減っていく。中には『誰かが運営のボスを倒せば、皆助かる』と言って自ら囮になって、死んだ者もいた。

 ここまで目の前で多くの人が死んでいくのは初めてだ。これまでは死んだらそれっきり、ゲームオーバーの世界で生きてきた。それが『ゲームオーバーになっても死なない』という言葉を聞いただけで、命を投げ出せる人が出来た。

 俺は頭の中に浮かんできた、致命的な考えを必死で消す。運営の一人だったという人間がそう言っているのだから事実のはずだ。実際、あいつの言うことを聞いたお陰でこの運営の連中がいる施設に入る事が出来たのだ。だから、本当なのだ。


 ヒュン、と戦闘中であるにも関わらず、注意力を散らしていた俺のすぐ横を斧が通過していった。その斧が進路にいた女性プレイヤーの腕を切断した。槍を握っていた女性の右手が後ろに飛んでいき、ドサリと音を立てて地面に落下する。腕を切り落とされた女性は真っ赤な切断面を抑え、耳を塞ぎたくなるような絶叫を上げ、床に倒れ込んで転がる。

 俺は自分に向かってきた斧を大太刀で叩き落とし、その女性に駆け寄る。戦闘中に地面に転がっていては確実に死んでしまう。

 アイテムボックスから回復薬を取り出して、切断面に掛けようとした時だ。「兄さん!」という栞の叫び声と《見切り》に反応が合ったことで、俺は《ステップ》で横に跳んだ。先程まで俺がいた場所を、巨大な斧が通過していったのだ。当然、通路にいた女性は無事では済まなかった。上半身と下半身を分断されていた。余りの激痛からか、女性は大きく目を見開き、口をパクパクと閉口させていた。そして俺が助けるよりも早く、HPを0にしてしまった。身体が光の粒となり、天に昇っていく。


「兄さん、どうしたんですか! 集中してください!」


 最前列でボスにアタックを仕掛けてグルアラ達が、ボスモンスターを倒した。次の部屋への扉が開かれる。

 栞が隣までやってきて、俺の手を握りながら強い口調で注意してきた。目の前にいる栞の顔を見て、不吉な考えを完全に振り払った。


「ああ、すまない。注意する」

「全く。……かなり、皆消費してきている様です。一体、いつになれば戦人針という人の所に辿り着けるのでしょうか……」

「俺達をここに寄越した奴はその辺については教えてくれなかったからな。だけど運営の連中にとってもこの出来事は想定外という感じだったし、俺達をここに寄越した奴にも何か勝算があった筈だ。もしかしたら今頃、混乱に乗じて何かやってるかもしれないしな」

「確かに、そうですね」

「だから進んでれば絶対に、あいつらをぶっ殺す機会はやってくる。それまで頑張ろうぜ。案外もう少しかもしれないし」


 部屋にいた全員が休憩を終えた様だ。《照らす光》のギルドメンバーの一人が栞にその事を伝えに来た。栞は俺との話を打ち切ると、プレイヤー達へ指示を出すために走って行ってしまった。玖龍がいなくなった今、プレイヤー全体に指示を出すことが出来る人は限られてくる。そのため、今全体の指揮を取っているのは《照らす光》のギルドマスターである栞だ。


 栞の指示によって陣形を整えると、俺達は次の部屋へと突入する。部屋の中は代わり映えせず、相変わらず全てが真っ白だ。こんな部屋に長時間いては気が狂いそうだ。

 全員が部屋の中に入ると、次の部屋の扉の前に光が集まっていく。モンスターがポップする前兆だ。プレイヤー達が次のモンスターは何かと息を呑む。

 出てきたのは全身が金色の毛皮に覆われた、気高さを感じさせる大きな狼だった。巨大な牙を剥き出しにし、金の双眸で俺達を睨みつける。名前は『レイア』だ。このモンスターとは戦っていないから、恐らくユニークモンスターだろう。いつかどこかのギルドのプレイヤーが倒したという話を聞いたことがある。

 レイアはこちらの身がすくむような声量で咆哮する。するとレイアの周囲に十何匹かの黒い狼がポップした。レイアより一回りほどサイズが小さい。


「来るぞ!」


 タンク部隊の戦闘に立っていたアーサーが叫ぶ。レイアが小さく吠えると、狼達が一斉に動き出した。タンク部隊に向かって統率のとれた動きで同時に飛び掛る。タンク部隊のプレイヤー達は狼達の突進に後退しながらも何とか耐え切った。

 そこへ時間差でレイアが飛びかかってきた。その巨体からは信じられないような速度で、狼達の突進に対応しているタンク達に向かっていく。余りの速度に後列にいたタンクのプレイヤー達が反応し切れない。


「こっちだ」


 レイアが前列に突っ込むよりも早く、自分が対応していた狼を蹴散らして、アーサーがレイアを受け止めた。流石と言うべきか、アーサーは防御スキルを使いながら完全に攻撃を受けきり、後ろに控えた俺達が前に出る時間を稼いだ。

 タンク部隊が後退し、入れ違いに俺達が狼達に攻撃していく。先頭を栞が走り、レイアに向かって剣を振るう。俺もレイアに接近し、横腹に大太刀の一撃をお見舞いした。

 憤怒の色を金の瞳に映しながら、レイアが攻撃を当てた俺に噛み付き攻撃をしてきた。攻撃を喰らうよりも早く後退する。すぐ目の前でガチンとレイアの歯が音を立てる。

 その隙に他のプレイヤー達がスキルをお見舞いしていく。レイアは悲痛な鳴き声を上げると大きく後ろに跳躍した。その頃には他の狼達は大方片付けられており、レイア一匹になっていた。

 レイアは再び天を仰ぎながら大きく咆哮する。再び黒い狼達がポップし、再び陣形を取り始めた。

 次の狼達の突進を前に出てきたタンク部隊が防ぎ、再び同じように俺達がレイアと狼に攻撃を加えていく。

 このまま楽に倒せるかと思ったが、やはりそう簡単にはいかなかった。レイアのHPが七割近く減少すると、レイアが今までとは違う、咆哮を上げた。するとレイアの周りにいた狼達の毛皮が逆立ち銀色の光を放ち始める。最後の抵抗か。

 狼達の攻撃をタンクが受け止めようと前に出るが、しかし狼達はその上を飛び越えていく。


「なっ!?」


 プレイヤー達が驚愕の表情を浮かべて上を見上げる。


「馬鹿野郎! 前だァ!」


 跳躍した狼達に気を取られている俺達に、グルアラが叫んだ。前を向いた頃にはレイアがタンク部隊の前列に突進し、蹴散らしている所だった。巨体からの突進を喰らったプレイヤーが宙を舞い、首から上を食い千切られたプレイヤーが力を失って崩れ落ちる。

 慌てて助けに入ろうと後列のタンク部隊が動き出すが、そこへ跳躍した狼達の一部が飛び掛った。背後からの攻撃に面食らって後列のタンク部隊が対応している間に、レイアが前列で暴れ回る。

 後ろに控えていた俺達にも、銀色の狼達が襲い掛かる。これまでとは比べ物にならない程の速度で、縦横無尽に動き回る狼達に俺達も混乱状態に陥っていた。

 

「くっ」


 銀色の光を尾の様に引きながら、狼の一匹が俺の喉仏を食い千切らんと牙を剥き出しにして飛びかかってきた。その口の中に大太刀の刃を突き入れてやる。自分のスピードによって狼は串刺しになり、ビクビクと痙攣して消滅する。HPはそれ程多くないのだ。

 栞やグルアラ、海賊王などのプレイヤー達が必死で指示を出し、何とか混乱を収めてきている。それでも動き回る狼には手こずっているようだ。

 俺は戦況を確かめると、《空中歩行スカイウォーク》で跳び上がった。この狼達を使役しているのはあのレイアだ。ならばレイアを倒してしまえれば、狼達も動きを止めるだろう。しかしこの混乱した状況ではレイアの所にまで辿り着く事は難しい。ならば飛んで行けばいい。

 

「お」


 同じ事を考えていたのか、俺と同じ様に《空中歩行》を持っているという《不滅龍》の幹部、《双翼》の尾前牙優名が跳び上がっていた。彼は俺を見て小さく声を漏らすと、コクリと頷いてレイアへ向かっていく。双剣を持ちながら跳ぶ姿は確かに翼を広げて飛んでいる様だ。

 タンク部隊の後列をも食い破り、レイアは後ろに控えていた俺達の前列に襲い掛かっていた。栞が指揮を取り、ドルーア達とレイアと戦っている。

 そこへ俺より早く尾前牙優名が辿り着き、頭上からスキルを叩き込んだ。攻撃をぶち当て、尾前牙優名はバク転してレイアの背後に着地した。攻撃を当てられたレイアは後ろの尾前牙優名に注意を払う。そこへ栞達が攻撃を叩き込んでいく。


「お、らァ!」


 レイアの頭上まで辿り着いた俺が、レイアのうなじへと大太刀を振り下ろす。攻撃を当てた俺は尾前牙優名の様に格好よく着地する事が出来ず、地面をゴロゴロと転がる。

 すぐさま起き上がるが、レイアはすでに俺の攻撃でHPバーを0にしていた。レイアは弱々しく鳴くと、地面に崩れ落ちる。


「…………」


 その時、その金の瞳と視線が重なる。死の直前でも尚、気高さが感じられる。何故かレイアの死んでいく姿に少し悲しい気分になった。

 金色の粒子へと姿を変え、レイアが消滅していった。

 やっと倒せた、と安堵するプレイヤー達。俺も地面に座り込もうと身体の力を抜いた。


「おい!」


 プレイヤーの誰かの叫び声で、俺は座ろうとするのを止めた。見ると、入り口の目の前に再び光が集まっていたのだ。まさか、とプレイヤー達がざわめく。

 その光は青く、炎の様に揺らめいていく。それが徐々に巨大な何かを形作っていく。


「ここでお前か」


 この登場の仕方には見覚えがある。忘れもしない、あの《ブラッディフォレスト》で何回も俺を殺してくれた、あいつだ。

 炎が完全にそれを形成した。その瞬間、炎が霧散しその巨大な物の姿が露見する。

 青い毛に全身を包んだ、巨大な熊。

 『巨青熊』グルヴァジオがその姿を現した。

 グルヴァジオが先程のレイアとは比べ物にならない、威力を伴った咆哮を上げる。起こった風圧がバラバラに散らばっていた俺達を叩く。

 回復する間もなく、第二グラウンドが開始された。




―――――――――――――――


「戦人針さん、ようやく管理人権限の一部が譲渡されているプレイヤーを特定しました!」


 プレイヤー達の姿を巨大なモニターで見ながら、現在使用出来る権限を使ってモンスターをポップさせていた戦人針に、彼の隣で解析を行っていた朝倉が声を上げた。

 

「ほう。誰だい?」

「はい、このプレイヤーの様です。譲渡したタイミングも分かりました」


 開いたタブに表示されたプレイヤーの姿を見て、戦人針はほぅと声を上げる。彼はモニターでグルヴァジオと戦っているプレイヤー達の姿を一瞥すると、椅子から立ち上がった。


「戦人針さん?」

「モンスターをポップして足止めする事は出来ても、部屋を封鎖してプレイヤーを閉じ込めることは出来ない。浦部の奴の細工のせいだ。プレイヤー諸君はもう幾ばくもしない内にここにたどり着く。だから少し場所を移すのだ」

「どこへ行くのですか?」


 戦人針は「屋上だ」と答えると、部屋を出て行ってしまう。朝倉は慌てて彼の背中を追いかける。


 「何故、屋上なのですか?」と朝倉が問うと、戦人針は子供のような笑みを浮かべていった。


「ラストバトルは屋上と相場が決まっている」

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