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《Blade Online》  作者: 夜之兎/羽咲うさぎ
―World End―
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 プレイヤー達が扉を開き、次の部屋へ入って行く。

 《不滅龍ウロボロス》のプレイヤー達が玖龍を置いてはいけないと、残ろうとするが、玖龍はそれを制した。

 「ここは俺に任せて、先に行け」という定番の死亡フラグを言いながら、グルアラ達幹部に仲間を連れて行って貰う。


「危なくなったら逃げてこい」


 仲間の尻を蹴りながら、グルアラはいつになく真面目な顔でそう言う。玖龍はらしくないな、と笑った。


「逃げるも何も、別に倒してしまっても構わんのだろう?」


 その言葉にグルアラは苦笑を浮かべ、去っていった。仲間の後ろ姿を見つめながら、玖龍は目を細める。


「それで、お前は行かないのか?」


 自分は関係ないと言わんばかりに、隣に突っ立っていたルークは、その言葉に行くわけ無いだろう、と玖龍の肩にパンチした。 

 広い部屋に残ったプレイヤーは、玖龍とルークの二人だけだ。入り口から大量に押し寄せてくる鎧が、ガチャガチャと音を立てながら近付いてくる。それだけではなく、部屋全体を囲むようにして鎧がポップする。その数は優に百を超える。

 

「さて……イッチョやるか」

「いつも通りかましてやれ」


 玖龍は大剣を勢い良く地面に叩き付けた。刃が床を砕く。その刃が刺さった部分を中心にして、緑色の光が全方位に広がっていく。鎧達の足元も緑の光に包まれるが、鎧達はそれを気にせず進行する。

 次の瞬間、大地が揺れた。緑色に包まれた地面が激しく振動し、上に立つ鎧を激しく揺さぶっていく。バランスを崩して地面に倒れ込んむ鎧達。それで終わりではない。最後に一際地面が大きく揺れ、緑色の光が弾けた。床が爆発し、砕け散る。

 緑色の光が収まる頃には、大量にいた鎧の数は大幅に減っていた。それでもかなりの数がいるのだが、その殆どが未だ地面に倒れ伏している。

 《アースシェイカー》の持つ、二つの能力の一つ。大剣を地面に突き刺すことで広域に全方位攻撃を放つことが出来る。使用すると周囲のプレイヤーまで巻き込んでしまうため、普段は威力を一点に集中させる方の能力を選ぶは、今は周りを憚る必要はない。プレイヤー達からバランスブレイカーとまで呼ばれた、強力なスキルは迫っていた鎧に大打撃を与える事に成功していた。

 しかし、それでも全てを倒す事が出来た訳ではない。耐久力が強いであろう、巨大な鎧はダメージから立ち直り、すでに動き始めていた。《アースシェイカー》は使用者の消耗が激しい。玖龍は近付いてくる巨大な鎧に対応する事が出来ない。

 目の前にまで迫った鎧が、巨大な剣を振り下ろす。


「私を忘れられては困るな」


 玖龍が斬り裂かれる前に、刃は動きを止めた。玖龍と鎧の間に、大きな盾を構えたルークが割り込んでいたからだ。鎧はもう片方の大剣をルークに振り下ろすが、同じように止められてしまう。

 

「それにしても……やはり強烈だな」


 そう呟いたルークのHPは半分近く削り取られていた。全方位に放たれた《アースシェイカー》は当然ルークにもダメージを与えていた。防御スキルを発動していたのにも関わらず、耐久力の高いルークのHPが半分も削られている事からその威力の高さが伺える。

 一体の鎧を相手にしている間に、他の鎧達が立ち直り始めた。ルークと戦っている鎧の後ろから、何体もの鎧が近付いてくる。流石のルークでも、それら全てを相手にする事は出来ない。


「私の見せ場だな」


 鎧達が近付いて来たのを見計らって、ルークはスキルを発動した。喰らったダメージ分の半分を相手に与える事が出来るスキル《リベンジ》。ここに来るまでの間のダメージと、今の《アースシェイカー》のダメージの合計の半分が、ルークの持つ盾から放たれる。それは目の前の鎧だけでなく、近付いて来ていた鎧も巻き込んで、激しく吹き飛ばした。巨大な伽藍堂の鎧が宙を舞い、そのまま空中で動きを止め、光の粒になって消えていく。

 ルークが鎧の相手をしている間に、玖龍はスタミナを回復し、再び動ける様になっていた。

 《アースシェイカー》で動きを止めた鎧達も、再び進行を開始した。それを食い止めるため、玖龍達は片っ端から攻撃を仕掛けて行く。

 連続して《アースシェイカー》を使わないのは、残りの回復アイテムはそこまで多くないからだ。ここで力尽きる訳にはいかない。当然、仲間達と合流するつもりだ。死亡フラグを回収させる訳にはいかない。数が減った鎧達ならば、《アースシェイカー》無しでも十分に戦える。

 玖龍とルークは視線で合図し合いながら、連携し、鎧達を圧倒していく。




 どれ程の時間が経っただろうか。

 あれ程いた鎧はもう殆ど残っていない。しかし、玖龍達も無事という訳にはいかなかった。満身創痍という言葉が合うくらい、疲弊していた。HPやスタミナは回復できても、疲労度だけは休む事でしか癒せない。


「あぁ……疲れた。途中でレベルアップしちまったよ」

「私も……だ。はは、これだけの数を相手にしたのは、初めてだ」


 地面に寝転びながら、二人は軽口を叩く。しかしお互いに疲労の色は濃い。

 しかし、ここで立ち止まる訳にはいかない。

 これだけ鎧を倒せば、もう後ろからの鎧を気にすることはないだろう。仲間達を追おう。

 玖龍がそう思った時、部屋の隅から新たにモンスターがポップした。それを見て、彼らは動きを止める。

 現れたのは今までの鎧とは違う、どす黒いオーラを纏った鎧だった。大きさは三m程だろうか。他の鎧と同じように伽藍堂ではあるが、握られている漆黒の剣から放たれる迫力は他とは段違いだ。

 

「おい、ル――――」


 玖龍がルークに声を掛けようとした時、鎧が動き始めた。今までの鎧とは比べ物にならない速度で、玖龍達の目の前にまで迫る。そして漆黒の剣を横薙ぎに振るった。玖龍とルークは咄嗟に《ステップ》で斜め後ろに回避する。真後ろに跳ばなかったのは、攻略組プレイヤーの勘という奴だろうか。

 その勘は的中し、鎧は横薙ぎに振った後、正面に向かって突きを繰り出していた。刃の先からどす黒い光が放たれ、四メートル先まで貫いた。

 玖龍とルークは着地してから止まること無くすぐに動き出していた。

 玖龍が剣を突き出した状態の鎧に向かって大剣を振るう。鎧に直撃し、ダメージを与えるが、減少したHPはほんの僅かだけだ。

 鎧は攻撃されるとすぐに反応し、玖龍に向かって剣を振るう。漆黒の光を纏った刃は、玖龍の隣に控えていたルークによって防がれた。

 ルークに盾を通じて重い衝撃が走る。歯を食いしばって耐えるルークの後ろから、再び玖龍が飛び出してきた。スキルを発動させ、重い一撃を鎧に叩き込む。《キルディメンジョン》という単発攻撃スキルだ。

 鎧にぶつかった大剣から、玖龍の手に堅い手応えが伝わる。相手が堅すぎるせいか、切断する事が出来ない。攻撃を受けた鎧はグラつき、蹌踉めくが、スキルを受けてもそのHPは三割程度しか削れていなかった。

 攻撃力の高いスキルを選んだのに、この程度か。

 予想外の頑丈さに玖龍は舌打ちし、鎧から一旦距離を取ろうとして、思い切り吹き飛ばされた、体勢を立て直した鎧が予想外の速さで攻撃を繰り出して来たのだ。玖龍もルークも反応する事が出来なかった。


「玖龍!」


 ルークの叫び声が聞こえる。剣で腹を思い切り斬られたようで、傷口が焼けるような痛みを発している。意識が朦朧としてきた。

 不味いな。

 震える手で何とかアイテムボックスを開き、回復薬を探す。視界がぼやけてよく見えない。

 まさか一撃でここまでダメージを受けるとは。


 ぼんやりとする意識の中で、玖龍は自分の過去を振り返る。走馬灯という奴だろうか。

 その走馬灯を見て、玖龍は笑ってしまいそうになる。

 現実では流されるままに生きて来た。大きな失敗はしなかったが、とりわけ大した成功も無かった。まるで予め定められたレールの上を歩くかのような、抑揚のない人生だった。しかし、ゲームの世界に閉じ込められてからの人生は違った。。自分に人を率いる事が出来るなんて考えても見なかった。仲間が増えていくのは嬉しかった。退屈な人生がここ数年(ゲーム内での時間では、だが)、輝いていたように思える。それも全部、仲間のお陰だ。悪友と呼べるグルアラ、ちょっとうざい冥弦、ちょっと苦手なアンネラテ、あの馬鹿達のお陰だ。

 

「ぐふ……くく」


 玖龍は笑いながら、回復薬を傷口にぶちまけた。HPが回復していく。

 あの馬鹿達の為に、もう少し頑張ろう。

 立ち眩みのようにグラグラする視界に耐えながら、玖龍は立ち上がった。

 ルークがあの鎧と戦っている所だった。ルークが攻撃したのか、鎧のHPは四割程度にまで減っていた。

 玖龍が立ち上がった事にルークが気が付く。

 そう言えば、ルークにも言っておかなきゃならない事があるな。玖龍はぼんやりとそう考えた。


「大丈夫か!?」


 鎧と距離を取ったルークがこちらに駆けてきた。鎧は剣を構えたまま、急に動きを止めた。プレイヤーが距離を取ったら、動きを止めるのだろうか? 鎧に大して警戒は怠らない。

 わーわーと何事かを叫ぶルークを見ながら、玖龍は取り敢えず思ったことを口にしてみた。


「この戦いが終わったら、俺と結婚してくれないか。お前が好きだ」


 一瞬の沈黙。


「は、はぁ!? 唐突過ぎるだろお前!」


 ルークの当然の突っ込みに玖龍が返事を返そうとした瞬間。

 離れていた筈の鎧が一瞬で目の前に迫っており、ルークの腹を思い切り剣で貫いた。腹から突き出した刃は玖龍の左肩を削る。

 ダメージを喰らった部分が一瞬黒く光ったと思うと、玖龍のHPがどす黒く染まる。状態異常『呪い』だ。アンデット系のごく限られたモンスターしか使用しない、状態異常。一定の量のHPを削ると自動的に解かれる状態異常だ。解除するには聖水というアイテムが必要だ。

 貫かれたルークも呪いに掛かっていた。流石の耐久力で、ルークのHPはまだ四割程残っていたが、貫通ダメージと呪いのせいでじわじわと削れている。呪いはHPを四割近く固定で削る。聖水を持っていないこの状況では、もうルークは助からない。


「く……ふ」


 口から空気を吐き出し、ルークが玖龍の目を真っ直ぐ見つめた。ルークはそのまま剣と盾を地面に落とすと、自分の腹から突き出ている剣に両腕を絡ませた。

 《締め付け》という、両手が開いている時に使用できるスキルがある。ほんの数秒間だけ、技を掛けた相手の動きを止められるスキルだ。リスクが高く、習得するにも手間が掛るので、使われることは少ない。

 

「そうか……」


 玖龍はルークの言わんとしている事を理解した。

 そして、身動きを止めた鎧から数歩離れ、最適の距離を取る。

 玖龍の大剣が緑色に光る。

 大剣を振り下ろす前に、ルークが笑った。いいよ、と。

 次の瞬間には緑色の閃光がその笑顔ごと、鎧を吹き飛ばしていた。





「やった……か」



 膝をつきながら、HPが0になった鎧を見る。

 もうしばらくは、俺も動けそうにないな。

 そう思った時、ヒュン、と音がした。


「あ?」


 腹に剣が突き刺さっていた。

 鎧の方を見ると、光の粒となって消滅している所だった。その手に、今まで持っていた剣はない。


「はん、そくだ……ろ」


 視界が急速に暗くなっていく。

 玖龍は力を失い、崩れ落ちた。



 こうして、《不滅龍》のギルドマスターとサブマスターは死亡した。



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