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現れた運営の人間を蹴散らし、俺達は施設に向かって進行する。次から次へと現れる伽藍堂の鎧を蹴散らしながら、全速力で進む。玖龍やルーク、瑠璃やらーさん、アーサーや《海賊王》、そして栞など、実力者達がプレイヤーに指示を出しながら、自身も圧倒的な力で鎧を叩き潰す。プレイヤーを超える数の鎧が襲い掛かってきているにも関わらず、俺達の進行は止まらない。
俺達が施設に近付いているというのに、あれから運営の人間は出てきていない。プレイヤーの反逆にビビっているのか、籠城を決め込んでいるのか。まあどちらにせよ、外に出てこようが中に引き篭もっていようが、やる事は一つだ。連中をぶち殺してリンを救い出す。
しかし、施設まであと一歩という所で、俺達の進行速度は落ちる事となる。俺達の全方位から、新たな鎧が現れたからだ。今までの人間サイズと違う、俺達を見下ろす事が出来る程の大きさだ。四本の腕が生えており、その全てに大剣が握られている。
巨大な鎧は今までの鎧の中に混ざりながら、プレイヤーに向かって進んでくる。その鎧達の迫力に気圧され、何人かのプレイヤーが立ち止まってしまう。
「早く進むんだ!」
「走れェ!」
至る所でプレイヤーの叫び声が聞こえる。立ち止まった者は我に返り、再び走りだす。施設まであと少しだというのに、鎧達の勢いを見ると間に合いそうに無い。
先頭のプレイヤー達が、いち早く巨大な鎧との戦闘を開始した。スキルを発動し、鎧に攻撃を仕掛けるプレイヤー達だが、四本の腕で攻撃が防がれてしまい思うようにダメージを与えられていない。それどころかあの巨体から放たれる攻撃に耐え切れず、吹き飛ばされてしまっている者もいる。そんな風に立ち止まっている間にも、全方位から鎧は押し寄せてきている。前にいるプレイヤー達が巨体の鎧に苦戦していると、そこへ他の鎧も参戦し、状況は悪化していく。
不味いな。
周りを走るプレイヤー達にひたすら走るよう叫びながら、近付いてくる鎧を確認する。俺達が鎧に挟まれて叩かれないように、《不滅龍》の幹部達やその他のプレイヤー達が鎧に攻撃をしているが、恐らくそう長くは持たない。
「糞がァ!」
すぐ近くで戦っていたグルアラが、二体の巨大な鎧に攻撃されていた。彼は二体の鎧から放たれる攻撃を躱しながら、合間を縫って攻撃しているが、今の所大したダメージは与えられていない。躱し損ねた攻撃をグルアラが大剣で受け止めるが、彼の剣は一本しかない。しかし相手は二体。更に一体につき四本の腕がある。彼が動きを止めた瞬間、四本の腕がそこへ襲い掛かる。
叫びそうになった俺だが、すんでのところでその叫びを飲み込む事になった。鎧の脇腹を津波のような波が叩いたからだ。バランスを崩した鎧はもう一体の鎧を巻き込んで地面に倒れ込む。
「今だやれェ!」
グルアラを救ったのは《海賊王》だった。彼の持つサーベルのスキル《大津波》を使用したのだろう。
グルアラは頷くと、大剣を持ち上げ、スキルを発動して倒れている鎧に振り下ろす。一体の鎧が真っ二つに両断され、消滅していく。
俺はその辺りで彼らから視線を外し、再び前を向く。彼らがどうなるのかは気になるが、もう余裕が無い。
殿を務めていたルーク達がすでに後ろから来ていた鎧との戦闘を開始している。押し寄せてきた鎧を食い止めようと戦っていた何人かのプレイヤー達も、鎧の波に飲み込まれてその命を落としてしまっている。
俺はプレイヤー達が死んでいく様子を見ながら、前を走る栞の背中を見る。人が死んでいく恐怖を打ち消す。
リンだけじゃない。俺は栞も守らなくてはならないんだ。
その時、前の方で凄まじい轟音が響いた。
玖龍が《アースシェイカー》を発動したのだろう。まるで旧約聖書に出てきたモーゼの断海の様に、前から来ていた鎧達の間に道が出来ている。この機を逃すわけにはいかない。
全てのプレイヤー達がその割れた道を死に物狂いで走る。鍛えられたプレイヤー達の走行速度はかなりの物だ。道が閉じるよりも早く、通り抜けていく。今まで鎧を食い止めようと戦っていたプレイヤー達も、戦闘を中断して走りだす。
そして先頭を走っていた玖龍達が施設に辿り着いた。入り口を塞いでいた真っ白な門が開き、彼らは中に入っていく。そこへ後続のプレイヤーが続く。俺も中に飛び込んだ。
真っ白な壁に、真っ白な地面。施設の中は白かった。どこか病院の廊下を連想とさせる。施設の中は広く、俺達が入ってもまだ余裕があった。
「!?」
玖龍達が次の扉へと近付こうとした瞬間、扉の目の前に何体もの巨大な鎧が現れた。鎧達が行く手を遮る。
後ろを見ると、ルーク達殿が中に入ってくる所だった。その後ろからは凄まじい数の鎧が押し寄せてきている。このままではやばい。
と、そこで前の鎧達が先頭のプレイヤー達に倒された。見れば、アンネラテや寸鉄などの幹部が前で戦っていた。すぐさま彼らは次の扉の中に入る。俺達もそれに続いた。
玖龍達が次の扉に近付こうとした瞬間、今度は地面から巨大な樹が生えてきた。その姿には見覚えがあった。最初のエリア《ワイルドフォレスト》に出てきたボス、ハングリーツリーだ。
先の尖った枝が伸びて、先頭のプレイヤー達を串刺しにしていく。
後ろからはもうすぐそこまで鎧が迫ってきている。
挟まれる。
「……俺が後ろの鎧を蹴散らす! その内に進めェ!」
そこで、前に立っていた玖龍がそう叫んだ。そして俺達の間をすり抜けて後ろへ走って行く。
そんな玖龍の行動にプレイヤーは戸惑うが、すぐにハングリーツリーとの戦闘を開始した。リーダーの玖龍が殿をするのはどうかと思うが、確かにあの鎧を食い止める事が出来るのは玖龍しかいないだろう。
《アースシェイカー》は強烈な威力を持つスキルだが、その真価は複数のプレイヤーを相手にする時に発揮される。
玖龍の為にプレイヤー達が道を開けたお陰で、あっと言う間に後列にまで辿り着いた。
俺もここでただ戦闘を眺めている訳にはいかない。
苦戦しているハングリーツリーとの戦いに、俺も加わった。俺達が苦戦しているということは、こいつのレベルは《ワイルドフォレスト》に時よりも遙かに上がっているのだろう。それでも、弱点は変わらないはずだ。
伸縮する鋭い枝を躱し、地面に突き刺さった枝を斬り付ける。
ハングリーツリーは全ての枝を斬り落とさなければ、本体にダメージを与える事が出来ない。
以前とはまるで違う速度と威力を誇る枝を、何とか全て斬り落とす。その瞬間、そこにいた全てのプレイヤーが本体へと殺到した。同士討ちになるのではないかと思ってしまうぐらいの勢いで、そこへスキルを叩き込んでいく。俺もそこへ跳び込み、単発スキル《龍閃》を叩き込む。
ハングリーツリーのHPはプレイヤー達のラッシュによってほぼ一瞬で0になり、消滅した。ボス戦では慎重にならざるを得ず、こんな風にラッシュを掛けるのは危険だが、今はそんなことを言っている暇は無かった。
ハングリーツリーが消滅し、扉が開いた。俺達はすぐさまその扉を潜る。
中に入ると、すでに次の扉が見てた。そして扉の前に《ゴーレムマウンテン》のボス、アイアンゴーレムが現れる。
まるで、ゲームのラスボス前のボスラッシュだ。ふざけやがって。
待ってろ、リン。
とっととこいつらぶち殺して、すぐにお前を助けてやるからな。
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