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《Blade Online》  作者: 夜之兎/羽咲うさぎ
―World End―
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 襲撃してきたカタナ達を撃退した戦人針は、朝倉と共に施設の中を歩いていた。侵入者のせいで大騒ぎになっていた筈の施設の中には何故か殆どの研究員がいなかった。プレイヤー達を監視しているメインルームとは連絡が取れるが、他との連絡が途絶している。連絡を取れないようにされているのかと、直接施設の中を歩いていたものの、研究員は見掛けていない。

 

「メインルームは人が多いからか」

「?」


 戦人針の呟きに朝倉が反応するが、それを無視して戦人針は施設の中を歩く。そしてまだ見ていない最後の部屋に辿り着いた。今、メインルーム以外で見ていない部屋といったら、この部屋だけだ。

 研究員の息抜きの為に作られた休憩室。


「朝倉、お前は下がっていろ」

「え? は、はぁ……」


 戦人針は朝倉を下がらせておき、自分一人で扉を開いた。その瞬間、赤い閃光が入り口から飛び出してきた。戦人針はその光を横に飛ぶことで回避する。光は施設内の壁にぶつかり、大きな音を立ててそれを破壊した。瓦礫が地面に落下し、光となって消滅した。

 部屋にいた誰かが《デスレイ》を使用したのだ。朝倉がそう判断し、動き出すよりも早く部屋の中にいた何者かが飛び出してきて、戦人針に襲い掛かった。

 何者かは白衣をはためかせながら、手に持っていた太刀を戦人針に振るった。いつの間に抜いたのか、戦人針は大剣を抜刀しており、その一撃を受け止めた。

 両者は刃を交え、競り合う。カチカチと刃同士がぶつかり合う音が、閑散とした施設の廊下内で反響する。やがて戦人針の力が相手に勝り、太刀を持っていた男は後ろへと吹き飛ばされた。壁に激突し、「ぐふぅ!」と悲鳴を上げる。


「いてて……あーあ。最初の一撃目を躱されたのは致命的だったなぁ」


 その聞き慣れた声に、朝倉は目を細めた。前に立っている戦人針の表情は見えないが、彼は大きく肩を揺らし、溜息を吐いた。

 

「いやぁ、お前なら待ち伏せしているだろうと思ってね、浦部」


 顔を顰めながら、太刀を支えにして起き上がる浦部に向かって、戦人針はいつもの口調より、やや抑揚の無い声でそう告げる。その言葉に「だよなぁ」と浦部は顔を抑え、弱り切った表情を浮かべた。


「かなり前から、朝倉君が私に進言してきてね。浦部はどうも怪しいので、私に監視させてくれませんか、と」

「おいおい……朝倉。上司を疑うとはどういう了見だ。人は信じるもんだって学校で習わなかったのかよォ!」

「だ、黙れ! 実際、今こうしてお前は裏切っているじゃないか!」


 浦部のふざけた態度に朝倉が怒鳴ると、彼はフッと口元を歪ませた。そして太刀を構え、鋒を戦人針向ける。戦人針はそれを見て、目を細めた。


「浦部。何故裏切った。お前は私の部下という立場ではあるが、私と共にここまで来たじゃないか」

「途中まではな。俺も世界を支配し得る力、世界を改革出来る程の技術っていうもんに憧れちまって、ここまで来た」

「では何故裏切った? 仕事が怠かったからか? お前に与えている仕事のノルマは他の研究員よりも多少少なめに設定しているし、そもそもお前ならあの程度の量は朝飯前だろう」

「……別に与えられる仕事が不満だった訳じゃねえよ。やりがいは合ったし、仕事の合間に可愛い女プレイヤーの様子を眺めたり出来たからな」

「………………」

「この仕事の行き着く先って奴を冷静になって考えた。お前は言ったよな、私達は『神』になるって」

「言ったとも。この技術があれば私達は仮想世界で神にも等しい存在になれる」

「お前のその『神』って奴が気に入らねえんだよ。いつまでも過去を引きずってんじゃねえ。俺はお前に元に戻って欲しいんだよ、戦人針。時間が立てば立ち直れると思ってたが、ますます悪化してやがる」

「それの何が悪い。人間は過去で成り立っている。過去に影響されるのは当然だろう」

「理屈をこねてんじゃねえ。お前はもう終わっちまってんだよ。終わってるのにズルズルと終わらずにここまでやってきてる。だから俺がお前を完全に終わらせてやる」

「お前には関係の無いことだろう! 私が気に入らないのならこの世界から出て行け! ここは私の世界だ!」

「世界世界うるせぇんだよ! この中二病やろうが! 俺はお前はここまで一緒に来たんだ、無関係じゃねえよ。お前がそうなるのを加速したのは俺だ。だから、俺に責任がある。後、この世界はお前だけの物じゃねえ」

「いや、この世界は私の物だ」

「違うって」

「違わない。この世界は私の物だ」

「違うな」

「世界は私の物だ!」

「……」

「ふん……話にならない。もういい。お前が運営のシステムに細工している事は分かっている。お前の管理人権限を奪い取って、この事態を収集させる」


 もう話をする価値はないと、言葉の応酬を打ち切り、戦人針は大剣を持ち上げた。

 その後ろで、朝倉は二人のやり取りを見て驚いていた。戦人針がこうも自分の感情を顕にするのを見たのは初めてだったからだ。彼と浦部は昔からの友人だったという話は聞いていたが、戦人針に友人というビジョンが朝倉には思い浮かばなかった。戦人針は感情を顕にせず、誰に対しても飄々とした態度で真剣に向き合っていなかったからだ。


「ぉらァ!」


 浦部の太刀から《デスレイ》が発射された。直線上にしか進めない《デスレイ》を躱すのは難しい事ではない。戦人針は先程と同じように横に跳んでそれを回避し、浦部に向かって突進した。

 戦人針の大剣が白い光を纏う。それに応じて移動速度が加速し、瞬く間に浦部の目の前にまで迫る。

 大剣の上位突進系スキル《モーメントエッジ》。全大剣スキルの中で最も速度のあるスキルだ。

 ほぼ一瞬で目の前にまで迫った戦人針に、浦部は破れかぶれになったのか、太刀を突き出しながら突進し始めた。斜めから振り下ろされた大剣は向かってきた太刀を軽々と弾き、浦部の肩口からその身体を切断した。身体が二つに分断され、浦部は身動きが取れなくなる――――筈だった。


「こ、れは」


 全くの手応えの無さ。

 戦人針の大剣は浦部を斬り裂いたというのに止まること無く地面に叩きつけられた。柄を握る手に衝撃が走り、一瞬力が入らなくなった。そこで自分が攻撃した浦部が幻だったと悟る。

 その幻を突き破り、浦部が飛び出してきた。


「残像だ」


 浦部の使用したスキルは《幻影》。

 回避系の稀少スキルの一つだ。目の前に自分の幻を作り出す事が出来る。その間、相手は本物の自分に気付くことが出来ないのだ。

 大剣を振り下ろした状態で固まる戦人針に浦部の太刀が襲い掛かる。その一撃が脇腹をえぐり込むようにして叩きこまれた。

 その瞬間、今度は浦部が目を見開いた。

 攻撃を叩き込んだ戦人針の身体が砕け散ったからだ。このスキルに見覚えのある浦部は咄嗟に後ろを振り返る。


「残像だ」


 振り返った浦部の腹部を大剣が貫いた。分厚い刃が身体を貫通し、白衣を破って背中から突き出る。


「が、ふ」


 腹を突き破られた激痛に、浦部は苦しそうに息を吐き出す。ガクンと身体の力が失われ、握っていた太刀が虚しく地面に落下する。

 即死こそしなかったものの、浦部のHPは今も貫通ダメージで減少している。傷口から赤い光が血のようにして流れ出ている。


「お前は昔からこういった戦いに弱い」

「うる……せぇ。運動神経は……あまり良くないんだ」

「…………。残念だ……浦部。お前は、お前だけは私にずっと着いてきてくれると思っていたのだがな」

「か、は。誰が、今のお前なんかに……ついていくか」


 苦しそうにしながらも、浦部は咽せるように笑った。

 自分の友人――親友とすら呼べる男が自分を笑う姿を見て、戦人針は歯ぎしりする。


「わるかった……な。おまえ、は俺が……とめてやりたか……た」

「……止める必要などないさ。私は神になる」

「この中二病……野郎……がっ」


 浦部のHPは減り続ける。

 自分のHPがもう幾ばくもしない内に0になることを悟った浦部は、嘲るような笑いを浮かべて、最後にこう言った。


「俺は……全プレイヤー中、最弱っ! 俺が、死んでも、第二、だいさん、の、プレイヤーが、お前を……殺しにくる! 俺の意志が、お前の野望を……打ち破る――――っ!!」


 そう言い残し、浦部健正は《Blade Online》の世界から消滅した。

 浦部が消滅し、空へと昇っていく光を見ながら、戦人針は静かに呟いた。


「健正。……お前も十分に中二病だよ」


 しばらくの間、呆けたように天を仰ぐ戦人針。

 朝倉が声を掛けようと近付くと、クルリと振り返った。

 そこに浮かべられていたのはいつもと変わらない、中身の無い笑み。

 戦人針は自分の目の前にキーボートを出現させると、浦部によって制限された権限を取り戻すべく指を動かし始める。


「さて、これで浦部の管理人権限は取り除かれた。後は細工を解除するだけだ」

「あの……消えた研究員達はどこへ?」

「ああ、浦部が殺したんだ。私を消すのに邪魔だと思ったんだろうな。メインルームの研究員達に手を出さなかったのは、人数が多かったからだろうな。恐らく浦部は不意打ちで研究員を殺していただろうから。あいつは弱いからな」

「なるほど……」


 朝倉に説明しながらも、戦人針は指を止めない。軽口を叩いている時の浦部を何となく思い出しながら、朝倉もその場で権限の復旧作業に参加する。

 ロックを掛けられていた権限を一つ取り戻す。この調子で全ての権限を取り戻せば、施設の周りにいるプレイヤーを一掃する事は容易いだろう。

 しかし、そうはならなかった。

 

「ロックが外れない? 浦部の管理人権限がまだ生きている……」


 幾つかのロックは外せたものの、それらはプレイヤーを一掃する程の効果はない。肝心な権限のロックを外そうとすると、途端に弾かれてしまうのだ。そのロックは管理人権限を使用して掛けられている。

 部下という形では合ったものの、浦部と戦人針の持つ権限は殆ど同じレベルだ。しかし、浦部はこの何年かの間に運営のシステムに忍び込んで、自分の権限が優先されるように細工を施していた。

 その細工は浦部が世界から消えたことで消失し、戦人針の権限でロックを外せるようになる筈だった。しかし、依然として浦部の管理人権限が優先されている。浦部が消えたはずなのに、だ。

 朝倉はその管理人権限の元を辿る。


「戦人針……さん。管理人権限の出処が分かりました」

「……どこかね?」

「現在活動中の、一万近くいるプレイヤーの誰かです。浦部が自分の権限の一部をコピーして、プレイヤーに譲渡していたみたいです」

「特定は?」

「まだ……時間が掛かりそうです」


 消えてなお、邪魔をする浦部に苛立ちながら、朝倉はそう告げた。

 戦人針は大きく溜息を吐く。


「分かった。特定を急いでくれ」

「戦人針さんはどうするんですか?」



「私が指揮を取って、襲撃してきたプレイヤーをどうにか殲滅することにしよう」

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