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殺到してきた伽藍堂の鎧達を、先頭の玖龍達は迎え撃つ。
黒い剣で斬り掛ってきた鎧に対して、玖龍が叩き付けるようにして大剣を振る。大剣と黒剣が交差し、激しく火花を散らした。大剣の威力が黒剣に勝り、鎧は大きく仰け反った。そこへ、隣に並んでいたプレイヤー達が飛び掛る。スキルを発動し鎧に叩きこんでいった。表示されていたHPバーが0になり、鎧はバラバラに砕け散る。
他のプレイヤー達も、各自鎧と戦闘を開始した。
鎧は施設を目指して進むアカツキ達を囲むようにして、四方からポップする。そして黒剣を手に襲い掛かってくる。
「必要以上に戦うんじゃない! 前を目指して進むんだ!」
列の最後尾で殿を務めていたルークが、鎧と戦おうとするプレイヤー達に叫ぶ。彼女の声に合わせるようにして先頭のプレイヤー達が鎧を蹴散らして道を作ると、「続け!」と声を張り上げ前進する。
《照らす光》のギルドメンバーに混じって、栞の隣を歩いていたアカツキも前に進もうとするが、横から襲い掛かってきた鎧に動きを止められてしまう。動きを止めたアカツキに、他の鎧達も狙いを定めて襲い掛かる。
「ぐぅッ」
「兄さんッ!」
アカツキの助けに入ろうとする栞だったが、後ろから来ているプレイヤー達に流されて思うように動くことが出来ない。
突き出される黒剣を横に跳んで回避し、大太刀を振る。刃が黒い鎧にぶつかり、アカツキの手に硬い衝撃が走る。思った以上に防御力が高い。早く倒して前に進まないと、他の鎧に囲まれてしまう。既にすぐ近くまで二体の鎧が接近してきていた。舌打ちし、スキルを発動しようとするアカツキ。
「ここは任せて先へ行くべ」
ズガァッ!! と目の前の鎧が横から飛んできた斬撃によって一撃で両断される。斬撃はそのまま近づいて来ていた二体の鎧を巻き込み、衝撃を撒き散らす。
アカツキを助けたのは、《不滅龍》の幹部のとっぽいだった。
引き締まった長身で大剣を片手に持ちながら、スキルを発動して斬撃を周囲に飛ばしている。《断裁》の二つ名は伊達ではなく、斬撃は命中した鎧を真っ二つに斬り裂いている。
見れば、他の場所でも《不滅龍》の幹部達が鎧を引きつけ、プレイヤー達を先に進むように叫んでいる。幹部達は流石の実力で鎧を近付けさせない。殿ではルークとその仲間が、押し寄せる鎧の進行を食い止めていた。
「すまない!」
アカツキはとっぽいに背を向けると、前へ走りだした。
前では玖龍が《アースシェイカー》を発動して、施設まで一直線、鎧を吹き飛ばしていた。プレイヤー達は出来た道の中を全力で駆け抜けていく。
心配そうに振り返る栞に手を振って安心させると、アカツキも道を目指して走り出す。
「!?」
何か赤い光が瞬いた。
次の瞬間、アカツキの直ぐ目の前の空間を真っ赤な光が横切っていく。その光に飲み込まれたプレイヤー達はHPを0にして、消滅していく。
後ろや前からも同じように赤い光が見える。プレイヤー達の悲鳴が聞こえてきた。
栞は無事か?
アカツキは栞の安否を確認しようとするが、その余裕は無かった。
「全く、どうなってやがんだ。殆どの機能が制限されてんじゃねぇか」
気怠げそうな男が、アカツキ達の前に現れたからだ。
その男は研究者が着るような白衣を身に付けており、その服装には不釣り合いな真っ黒な大剣を担いでいた。どんよりと濁った瞳で面倒臭そうにアカツキ達の方を見て、「とっとと駆除しねぇと」と呟く。
「お前は……運営の人間か?」
アカツキは震える声でその男に問う。
男は「あぁ?」と聞き返した後、思い出したかのように笑う。
「あぁ、てめぇらの言うところの運営って奴だなぁ? それがどうかしたか?」
「どうかしたか、だって?」
白衣の男はアカツキの浮かべていた表情に、一歩後ろに下がる。
ゲームの中で何年もプレイヤー達を観察していた自分を、狂人だと自負している白衣の男だったが、それでもアカツキの浮かべていたまさに狂相とでも呼ぶべき凶暴な表情を見て、思わず恐怖を感じてしまった。
「ぶち殺すに決まってんだろうがァ」
アカツキの所だけでなく、殿を務めるルーク達の後ろ、栞達のすぐ目の前、先頭の玖龍の前など、至る所から白衣を来た男が現れ、プレイヤーの動きを止めている。
「はぁ……最近はトラブルばかり起きますねえ……早くこのモルモットを檻に入れないと」
最前列。
玖龍達の前に立ち塞がった男は、粘着くような声で愚痴を言う。服装はアカツキの所に現れた男と同じで白衣だが、手にしていたのは栞が使用していた稀少武器と同じ、バスタードソードだった。
人間の登場に驚いたプレイヤー達だったが、白衣の男の言葉に動きを止める。
「モルモット……だと?」
「あはぁ、そうですよ。確か貴方は《不滅龍》とかいうギルドのマスターをやってるんでしたっけぇ? このモルモットの親玉って訳だぁ。良かったら君の仲間を止めてくれないかなぁ。面倒なのは嫌いなんだよねぇ、僕」
「ふざけるなァ!」
玖龍が叫び、白衣の男に剣を振るう。
こうして、遂にプレイヤーと運営の戦いが開始されたのであった。
――――――――――――
「はっはっは。どうやってここまで来たんだい? このエリアが開放されたのは今さっきの事だし、プレイヤーが侵入すればすぐさまアラームが作動する筈だ。それに、ここに来るまでに何人も研究員が居たはずなんだがね?」
運営のボス――戦人針は白々しい笑みを浮かべながらカタナ達に問いかける。隣の朝倉がカタナ達を睨み付けタブを開いて何かをしようとするが、戦人針はそれを腕で制して一歩前に踏み出す。
「この前、戦人針さんを殺した時に、手斧に貴方のユーザーデータにハッキングして貰ったんだよ。前から貴方が普通のプレイヤーじゃ無いって分かっていたからね。予想通り、貴方は運営の人間だった。データを辿って運営のシステムから貴方の権限のほんの一部を拝借して、この施設の内部にやってきたという訳ですよ。アラームは鳴らないように設定しました。途中じゃあ誰にも会わなかったかな」
「……おかしいな。まあいい。しかしカタナ君。私は君達の前で運営の人間だという素振りを見せたことは一度も無い筈だが?」
「あはは、そこは手斧任せでしたよ。手斧が貴方の持っていたプレイヤーとしての権限は、一般プレイヤーよりも多いという事を見抜いてくれたんだ」
そう言ってカタナは手斧の方を向くが、依然として彼女は無表情を浮かべている。カタナはその様子に苦笑を浮かべ、再び戦人針に視線を向ける。
「なるほど。と言うことは、ゲームが開始されてからゲートをこじ開けて中に入ってきたのは君達だったという訳だね」
「その通り。ま……僕達がこのゲームに入ってこれたのは、君達の中にいる裏切り者のお陰だし、裏切り者がいなければ僕達はゲームについての情報を得ることも出来なかったかもね。ま、手斧がゲームの中にいながらハッキング出来るのは、『僕達』の所有している技術の力のお陰だけど」
戦人針はカタナの言葉を聞きながら、脳内で彼らの素性を考える。彼らの行動や、カタナが不用意に漏らした『ククリ』という男の名前、そして彼ら自身の名前から、何となく予想が着く。
彼らの言葉が本当なら、運営の中にいる誰かが妨害し得る力を持つ組織に情報をリークしたのだろう。
「はっはっは……私達の中にいる裏切り者はとても興味深いが、今の所は置いておくとしよう。それで君達の目標は何かね? ただここから出たいというだけじゃあ無いのだろう?」
「当然。僕達の目的は三つ。一つ目はこのゲーム内で使用されている『技術』を手に入れること。これに関してはとっくに終わってるけどね。二つ目はこのゲーム内のデータを全て破壊すること。もう用済みだからね。そして三つ目、君達全員を捕獲、もしくは処分する事だ。僕達以外にこの技術が渡るのは面白く無いからね」
「……はっはっは。好き勝手言ってくれるじゃあないか。私の考えに賛同してくれたから、折角洗脳せずに私のギルドに入れてあげたというのに」
「あはは、あれは実際自演だった訳でしょ? ギルドまで作っちゃってさ。それに……戦人針さんの考えって支離滅裂、荒唐無稽、意味不明、全く全然共感出来なかったよー☆」
挑発するカタナだが、戦人針は笑みを深めるだけで不快に思っている様子は無い。朝倉に下がっている様に言うと、戦人針はタブを開いて何も無い空間から大剣を召喚する。
「はっはっは。まあいい。君達はこの前の借りを返した後、洗脳して仲間にするとしよう」
パチンと指を鳴らすと、黒尽くめの男女が大剣と同様、何もない空間から現れた。
彼らは戦人針が実験の一環として洗脳したプレイヤー達だ。戦人針は彼らの事を『神兵』と呼んでいる。
「カタナ君は私と戦っても貰おうか。他の二人は神兵と戦っているといい。朝倉君はそこで待機していたまえ」
神兵がけだまくと手斧を囲む。けだまくは「雑魚に興味はねぇんだがなぁ」と愚痴を漏らしながらも、舌舐めずりして武器を取り出す。手斧は何も言わずに斧を担いだ。
カタナは戦人針の前まで歩いてきて、太刀を抜いて獰猛な笑みを浮かべた。
戦人針はカタナを見て、笑みを浮かべると、待機を命令された朝倉を振り返った。鋭い表情を浮かべている朝倉を見て苦笑すると、もう一度前を向く。
「先手必勝」
既に目の前にはカタナが迫っていた。太刀を振り上げ、叩き付けるようにして戦人針に振るう。
「そんな顔をするなよ、朝倉君」
戦人針は大剣で太刀を受け止めながら、朝倉に向けて言葉を放つ。
「――――すぐに終わる」