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《Blade Online》  作者: 夜之兎/羽咲うさぎ
―World End―
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腕が沢山飛びます

 カタナを庇うために前に出たリンの背中をカタナは太刀を抜いて斬り付け。

 遥か上のレベルを持つカタナの攻撃を喰らったリンのHPが一撃で大きく減少し。

 リンの服に付けられていた《生命力》のスキルによってHPが1残り。

 そして、カタナが背中から心臓を貫く事で残ったHPを0にした。


 後ろでその様子を見ていたエッグワン達はその流れる様な動きに一切反応する事が出来なかった。一歩前に立っていたアカツキも何が起こったか全く理解できていないようだった。

 リンがアカツキに何事かを呟き、悲しそうな笑顔を浮かべたまま消滅していった。青色の光がチカチカと点滅しながら天へ昇っていく。

 最期にリンが浮かべたのは死を恐れている表情はではなく、むしろ残されたアカツキが可哀想だと思っているような、そんな表情だった。


(おいおい……何かしでかすんじゃないかとは思ったが、まさかいきなりここまでするとはな)


 リンを殺害し狂ったように笑うカタナを見て、エッグワンは内心で舌打ちをした。指摘すれば何かしらのアクションを起こすとは思っていたが、まさか親しくしていたリンを殺すとは。予想外の行動に反応する事が出来なかった。もっと警戒していれば、カタナの最初の一撃は無理にしろ、次の攻撃からはリンを守れたかもしれなかった。自分の迂闊さにエッグワンは頭を抱えたくなる。


「あ……あ……あぁ」


 アカツキはうわ言の様に声を上げると、その場で膝から崩れ落ちた。地面に視線を落とし、何事かを呟いている。力なく垂れ下がった肩に誰も声を掛けることが出来ない。


「て、てめえ……何てことをしやがるッ!」


 アカツキの様子を見て、固まっていたカズヤ達が動き出した。仲間達がカタナへ激しく罵倒を浴びせる。背中から大剣を抜き放ち、今にも飛び掛りそうなカズヤに、カタナは笑いを止めた。

 そして彼の浮かべていた表情にエッグワンはゾッとする。

 まるで何も無かったのような、言い訳の無い友人に苦言を呈する様な、そんな軽い表情だったからだ。人一人殺したのを何とも思っていない事が伝わってくる。

 カタナは突き出したままの太刀を引き戻し、腕の力を抜いて地面に垂らす。刃の先が地面にぶつかって音を立てた。カタナはふぅ、と呆れた様な溜息を吐く。



「おいおい、ゲームでマジになると嫌われるぜ?」



 このゲームの中で、必死に生きるプレイヤー達を真っ向から馬鹿にするその発言にその場が凍りつく。馬鹿な事を言った友人を諭すような、まるで日常の延長線上の様な口調のまま、カタナはそう言ったのだ。

 これはやばいな、とエッグワンは喉を鳴らす。

 今まで自分はあまり目立たぬように生きてきた。家の端で、教室の隅で、テニスコートの後ろで、人に紛れて生きてきた。後ろから人間を客観的に見てきた彼だから分かる。この男は今まで自分が見てきたどのタイプとも違うのだと。PKギルドの人間ですら殺した後は『歓喜』『快楽』などと言った何らかの変化を見せていた。しかし、カタナは全くとして変わりがない。

 まるで。

 まるで日常的に人を殺しているかのよう。

 

「こ、の――――ッ!」


 一瞬の間を開け、カズヤの感情が爆発した。憤怒の表情を浮かべ、大剣を手にカタナに飛び掛ろうとする。

 しまった、とエッグワンは慌ててカズヤに腕を伸ばして止めようとする。カタナは自分達よりも明らかに格上だ。同じ攻略組と言っても上と下ではレベル差は大きい。ここにいる全員で掛からなければ勝ち目は薄い。

 

「ッ!?」


 そんなエッグワンの前で、カズヤの腕が宙を跳び、次いで首が吹っ飛んだ。一撃目はスキルによる攻撃の部位欠損、そして二撃目は急所に的確な攻撃を打ち込まれた事による 一撃死クリティカルヒット――――。

 首を失ったカズヤが力なく地面に倒れ込み、リンと同じように消滅していく。後ろにいた仲間達が悲鳴を上げた。


「ご、ごめんなさいッ! 動いたら殺しますッ!」


 カズヤを殺したのは今まで黙って後ろに控えていた手斧だった。その小柄な身体に似合わない大きな斧を手に、彼女は可愛らしくそう告げる。人を殺してからのこの態度は、カタナの同類の物。

 親友を殺された事による激しい怒りを無理矢理に押さえ込みながら、エッグワンはこの場を切り抜ける手段を探す。目の前でリーダーを殺されたのだ。後ろにいる最近入ってきた新人ではもう動けないだろう。かと言って、自分だけでは確実に勝ち目がない。


「あっはっはっは。ご苦労、手斧ちゃん。邪魔が入らないように見といてね」

「は、はいっ!  お兄姉ちゃん・・・・・・

 

 いっそ気が抜ける様なそのやり取りに、エッグワンは押さえ込んでいた怒りがせり上がってくるのを必死で抑える。


「そんな怖い目で睨まないでよね。皆カリカリしちゃってさあ。ゲームなんだから楽しまないと」


 そこでカタナは一旦間を空け壊れたラジオの様に言葉を紡ぐ。


お遊びゲーム おふざけゲーム 戯れゲーム 心行かしゲーム 気散じゲーム 娯楽ゲーム 遊楽ゲーム 御遊ゲーム 遊興ゲーム 余興ゲーム 暇つぶしゲーム 退屈しのぎゲーム 時間つぶしゲーム 息抜きゲーム 気晴らしゲーム!!!!」


 ゲームなんだからさぁあああああああああああああああああ。


 カタナの狂気すら感じさせる言葉に、皆が本能的に嫌悪感を感じて後ろに下がる。


 


 その時だ。今まで地面に膝をついていたアカツキが、絶叫しながらカタナに飛び掛った。双眸を血走らせ、歯を剥き出しにして動くアカツキは獣の様だ。後ろで見ていたエッグワンは背中からでも分かるアカツキの迫力に気圧される。

 大太刀が光ったかと思うと、その刀身が黒く濁った銀色に飲み込まれていく。当初白に近い綺麗な銀色だったアカツキの《オーバーレイスラッシュ》が、淀んだ黒銀に変色している。アカツキは獣の様に叫びながら、スキルの勢いを使ってカタナに叩きつける。


「『適応値』っていうのは変動するんだねぇ。よく分かんないや」


 カタナは何事かを呟くと、アカツキの一撃目を身体を後ろに逸らして躱すと、同じく《オーバーレイスラッシュ》を発動する。アカツキとは違う、緑色の光。


「アカツキ君の強みはさぁ、その圧倒的な速さとそれを活かした人並み外れた反応力、そして大剣並みの力。この三つなんだけど」


 上から叩き潰すかの様に振り下ろされた大太刀を、カタナは斜め下から弾くのではなく、掬い上げるように太刀をぶつけて受け流していく。黒銀と緑がぶつかり合い、目が眩むような光を撒き散らす。そんな中で、カタナは普段と同じような口調で言葉を紡ぐ。


「今の君はいつもより鈍いし、何より力に振り回され過ぎだね」


 そしてアカツキが最後の一撃を振るが、それも軽く流された。

 アカツキはスキルが終了し、崩れた状態のアカツキに緑色の光が瞬く。

 大太刀を握っていた右腕が斬り飛ばされ、グルグルと回転して後方へ飛んでいく。


「ぉ、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉッ!」


 片腕を失ったアカツキは、それでも動きを止めず残った左腕をカタナの顔面目掛けて撃ち込む。それが届くよりも早く、カタナの太刀がそれを斬り落とした。


「――――今の君と殺っても詰まらないね」


 カタナは身体を右に捻り、そこからアカツキの顔面を蹴り抜いた。激しい衝撃がアカツキを後ろへ吹き飛ばす。地面をゴロゴロと転がり、両手を失った状態で無様に藻掻く。そんな彼にエッグワン達が気を取られている間に、手斧がひゃーっと可愛らしい声を上げながらカタナの元へトテトテと走っていく。


「おいおい、今戻ってきちゃ駄目でしょ」

「で、でも、あっちの人顔怖いし、もうアカツキさんと戦う気無さそうだし、もういいかなって」


 カタナが苦笑し、手斧が慌てる。

 この微笑ましい光景がこの現状で、一体どれ程異常な事なのか。

 地面に倒れたアカツキに、エッグワン達が慌てて駆け寄る。


「なんでッ! なんでリンを殺したんだよぉぉおおお! ふざけんなよッ! なんで! 死ねよ! クソ! 裏切り者! てめぇなんか信じるんじゃ無かった! 死ね! 屑野郎!」

「前に言ったでしょ。ストーリー性が大切だって。親友に裏切られ、愛する者を殺される。ドラマチックだよね」


 ボロボロと涙を零しながら、身体を持ち上げてアカツキは口汚く罵声を浴びせた。愛した女を失った男が、冷静でいられるわけがない。罵声を口にしなければ、アカツキは狂ってしまいそうだった。そんな哀れな姿を見て、カタナは少しだけ悲しそうに笑う。そして以前口にした言葉を再び口にする。

 既に破綻仕掛けているアカツキではその言葉を理解する事は出来ない。

 アカツキの怒りの矛先は当然、同じように裏切った手斧にも向く。


「おいッ! てめえもカタナの仲間だったんだなッ!? ふざけんじゃねえぞ! 《連合》の連中から助けてやって、牛乳を一緒に取りに行ってやって! その仕打ちがこれかよッ!? 何なんだよてめぇらは! なんでリンを! っぅああああ! 殺しやがったんだよぉぉおおお!!!!」

「ひっ」


 アカツキの言葉に手斧は涙を浮かべ小さく悲鳴を上げる。

 彼女が小さいからだとか、友人だからだとか、一切の事が頭から抜け落ち、ひたすらに汚く罵倒する。

 そんなアカツキの姿は酷くみっともなく、そして酷く普通の反応だった。


「そんな主人公らしからぬ所が好きなんだけどね」


 どこかうっとりとした表情を浮かべ、そう口にしたカタナの左腕がズルリと地面に落ちた。地面に落ちた腕と自分の手首に視線を向け、カタナは何が起こったのかと首を傾げる。


「うん?」


 彼の腕を切断したのは、手斧の持つ斧だった。


「い、言ったじゃないですか」


 隣を見たカタナの表情が僅かに引き攣った。


「言ったじゃないですか言いませんでしたか言いましたよね言ったですよね言った言った言った言った!約束約束約束ヤクソクやくそくやくくしたしたししししたしたしたしたのに! ワタわた私隠し事してるってそれで嫌わないってヤクソクしたのになんでなんでなんでそんな酷いこと言うんですかなんでそんな目で私を見るんですかやめてくださいよいつもみたいにわらってくださいよあたまなでてくださいほめてくださいよきらわないっていったじゃないですかあたなもそうなんですか皆と同じように私に嘘吐くんですかいやです嫌わないでイヤイヤイヤイヤ嫌々嫌いやいやいや嫌! ふふふうふふうふふふう好きですよアカツキさんわたしを認めてくれましたよね嬉しかったんですよとってもとってもとっても! なのになのになんでなんでなんでなんでなんで!」


 隣にいるカタナにお構いなしに、手斧は斧をブンブンと振り回す。斧が地面や壁に叩きつけられ、破壊不能な筈のそれらを砕いていく。モンスターが現れたせいか、破壊不能なオブジェクトでも破壊可能になっているのだ。

 自分の方に飛んでくる斧をカタナが「ひゃー」と悲鳴を上げながら躱す。それからアイテムボックスから回復薬を取り出し、手首に振りかける。

 手斧が凶相を浮かべ、狂ったように笑い出す。そのあまりの様子にエッグワン達は言葉を失い、アカツキは目の前の状況に脳がついていけなくなり意識を失った。白目を向き、顔面から地面に倒れ込む。


「返事してください無視しないで無視はいやねえねええねねえねえねえねえねえねえねええねえねねええねねねねえねえねえねえねえええええねええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」


 手斧は気を失ったアカツキが返事を返さない事に苛立ち、声を出させようと斧を振り上げた。そんな彼女の腕をカタナが掴む。彼の斬り落とされた左腕は既に回復薬によって生えてきている。


「あはは。怖いよ手斧ちゃん。まあ、そーやって怒るのはいいんだけどさ」


 ずいっと顔を近づけ


「アカツキ君を殺すのは僕だから、邪魔するなら君も殺すよ?」


 背筋が冷えるようなカタナの言葉に、手斧は正気を取り戻す。そして涙を浮かべで「ごめんなさいごめんなさい」と壊れたラジオの様に連呼する。その様子に満足したのか、カタナは「いーよ」と笑みを浮かべる。

 そして、呆然としているエッグワン達の方を見て、あいつらも殺しちゃおっか、と呟いた。

 

「ッ」


 エッグワン達は慌てて武器を手に、戦えるように陣形を組む。しかしその内心は彼らへの恐怖に震えており、とても戦える状況では無かった。仲間達の武器を持つ手が震えているのを見て、エッグワンは勝ち目が無いことを再認識する。自分自身、震えていない自信がなかった。同じ人間にここまで恐怖するのは生まれて初めてだ。

 ジリジリと距離を進めてくるカタナ達に、エッグワンは万事休すかと諦めかける。それでも目を逸らさずに彼らを睨み続けたのは称賛に値するだろう。


 その時だ。



 先ほど手斧の 発作・・によって斬り落とされたカタナの左腕が再度斬り落とされた。そして同時にその横にいた手斧が何かの攻撃で吹き飛ばされ、壁にめり込んだ。


「おっ、と」


 その瞬間、カタナが今までの比ではない速度で動く。グルンと後ろを振り向き、太刀を振るう。何かがそれとぶつかり合い、激しく火花を散らした。それが連続し、金属音と火花が飛び散る。


「予想より随分早かったね、栞ちゃん。と、ドルーア君」


 カタナの後ろには武器を手にした栞とドルーアが立っていた。

 後ろからやってきた栞がカタナの腕を斬り落とし、その横からドルーアが手斧を吹き飛ばしたのだ。待ち望んだ援軍の到着に、エッグワン安堵のは溜息を吐く。アカツキが送ったのとは別に、栞達にメッセージを送っておいたのだ。その段階ではカタナが本当に裏切り者かは分かっていなかったが、送ったのは正解だった。


 走ってきたのか、栞達は僅かに息を切らしている。しかし栞の目には凍えるような冷たい色と、同時に燃え上がるような怒りが浮かんでいた。ゾッとするような視線を向けられても、カタナは全く気圧された様子はない。


「よくも。よくも、私の兄さんを」


 栞はそれだけ言うと、閃光の様な速さでカタナに突っ込む。カタナは「あはっ」と笑いを漏らすと、壁にめり込んでいた手斧を抱きかかえると強く地面を蹴りつけ、上へ跳んだ。壁を次々に蹴り、建物の屋根へと昇る。


「全く、不意を突かれて二度も攻撃を喰らうなんて、随分と訛ったよなあ。まあ、栞ちゃん。君と殺り合うのも魅力的だけど、今日の所は別件があるから帰るね」


 ――――じゃあ、アカツキ君。今度会った時はもっと楽しく殺し愛をしようね。


 バイバーイと言葉を残し、カタナはそのまま姿を消す。栞は即座に屋根へと跳び上がり、彼の姿を探すが既にどこにもいなかった。《察知》にも反応は無い。完全に逃げられた。

 栞は舌打ちすると、屋根から飛び降りて地面に倒れ伏している兄に駆け寄る。上級の回復薬を振りかけ、部位欠損している部分を治し、全回復させる。しかしHPは満タンにも関わらず、アカツキに意識はない。精神的なダメージを受けてしまっているのだろう。栞は優しくアカツキの頭を撫でると、その身体を抱きかかえた。


「……ひとまず、このエリアから撤退しましょう」




 

 こうして、《鈴音亭》の料理人であるリンと《アドバンテージ》のギルドマスターであるカズヤの二名は命を落としたのだった。

 



 

 


 

すごく、腕が飛びました

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