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《Blade Online》  作者: 夜之兎/羽咲うさぎ
―World End―
103/148

98

最終章。

時間の進みが早くなります。

急展開が増えると思います。

 今回のボス攻略で、ようやく第二十攻略エリア《デスプラント》が攻略された。徐々に強くなっていくボスにプレイヤー達も苦戦していたが、今回は犠牲を出さずに倒すことが出来た。第十八攻略エリア《ヘルファイア》では戦力不足のせいで多くの犠牲を出してしまったが、ようやく戦力が以前と同じくらいに戻ってきたという事だろう。今回の戦闘では今まで攻略組一歩手前だったプレイヤー達が多く参戦した。以前行動を共にしたパーティ『ラケット』、――――今はギルド《アドバンテージ》になった――――もその一つだ。彼らもメンバーを増やし、攻略組として頑張っていた。今回の参戦でも大いに活躍していたし、これからも期待できそうだ。

 第十二攻略エリア《バーサーカーグレイブ》攻略から大体半年経った。この間に起こった大きな事件について話しておこうと思う。

 あれから身を潜めていた《屍喰グールらい》が、第十八攻略エリアの攻略が大詰めになってきた辺りで動いたのだ。事の発端は《攻略連合》が《不滅龍》と《照らす光》に「三ギルド共同で攻略しないか」と言い出した事だった。お互いに切磋琢磨する事、それから大きなギルド同士が共同で行動することで、他のプレイヤー達の意思を高める事が目的だと、《攻略連合》二代目ギルドマスターであるセンズキは語ったという。色々なやり取りがあり、最終的に三つのギルドは共同攻略を行う事にした。

 そして事件は起こった。攻略中に突如として仮面を被った黒尽くめのプレイヤー達が現れ、ギルドを襲撃し始めたのだ。その外見的特徴から彼らは《屍喰らい》と判断された。迎え撃つプレイヤー達、戦場はかなり混乱していたらしい。その時、なんと《攻略連合》のプレイヤー達が裏切り、《不滅龍》と《照らす光》に攻撃し始めた。そう、最初から《攻略連合》は裏切るつもりで今回の共同攻略を提案したのだ。しかし、《攻略連合》には以前から黒い噂が幾つかあり、《照らす光》と《不滅龍》はいざという時の為の手を打っていた。自分のギルドの仲間や、信用できる攻略組のプレイヤーをすぐ近くに伏せて置いたのだ。《英雄》《瑠璃》《犬騎士ドッグナイト》《ふにゃふにゃ》《赤き閃光フィアスレッド》……いや俺……などの二つ名持ちプレイヤーや、ギルド《烈火》などが戦場に駆けつけ、《不滅龍》達に加勢した。戦況は一気に傾き、《屍喰らい》と《攻略連合》が押され始めた。すると連中はすぐさま戦場から離脱し、行方をくらました。

 不幸中の幸いか、プレイヤー側に大きな犠牲は出なかった。街に帰還したプレイヤー達は、すぐさま《攻略連合》のプレイヤーを指名手配した。街に何か痕跡が無いかと探索したが、結局は何も発見出来なかった。

 それから一ヶ月後。第十四攻略エリア《タウンオブザデッド》にある無数の廃墟の一つで《攻略連合》のプレイヤーが発見されたという情報が手に入った。すぐさま攻略組のプレイヤー達は《タウンオブザデッド》に向かい、情報にあった建物に乗り込んだ。俺もその一人だ。一方的に敵を殲滅するという当初の予定は、予想外の抵抗によって崩れ去った。


――――――――――――――――

 

 《タウンオブザデッド》に登場するのは、おぞましい姿をした化け物だ。このエリアには設定がある。栄えていた街の地面から突如として謎のガスが吹き出した。そのガスを吸った人間たちは化け物に姿を変え、街を破壊し始めた。今はそのガスは出ていないが、破壊された街の残骸と元人間の化け物は残っている。

 俺達は《攻略連合》が逃げ出す前に廃墟に辿り着かなければならない。モンスター達が活性化する夜の中、攻略組の精鋭達は迅速にエリアの中を進んでいく。襲い掛かってくるミュータント達をスキルで斬り裂く。


「いやあ……緊張するねえ(棒)」

「なんでそこで棒なんだよ」

「…………」


 俺達はいくつかのルートに別れ、一つの建物を目指す事にした。俺の部隊には《瑠璃色の剣》のメンバーが揃っている。瑠璃がリーダーを務めていた。

 らーさんと剣犬の気の抜ける様なやり取りを聞きながら、順調に進んでいく中、どうにも俺は嫌な予感に包まれていた。胸がもやもやするような、まさに小説で「俺は何かを見落としている気がする」とかいう文を見た時のような、そんな嫌な何かを感じていた。しかし感じるだけではどうしようもない。周囲をより警戒し、らーさん達に「注意してくれ」と言うぐらいしかすることが無かった。

 結果的に、その嫌な予感は的中した。俺達の中に裏切り者がいたのだ。《照らす光》のメンバーで、名前を『きるぎる』というプレイヤーだったらしい。最終的にそいつはドルーアの手によって斬り捨てられる事になるのだが、しかしそいつのせいで俺達の情報は《攻略連合》に伝わっていた。

 俺達は話にあった建物を取り囲んだ。この時点では何の問題も無かった。玖龍が率いる部隊が最初にそのビルに乗り込んだ。そして第二の部隊が突入するよりも先に、玖龍の部隊にいたルークが廃墟から出てきて、「罠だ!」と叫んだのだ。廃墟の中には大量のミュータントが押し込まれていたらしい。モンスターを引き寄せる系のアイテムでも使ったのだろう。

 そして唐突に俺達は背後から襲撃された。連中も攻略組だったのだ。それなりの実力を持っている。最初の襲撃により、こちらにそれなりの犠牲が出た。嫌な予感がしていた俺は主力メンバーだった瑠璃やらーさん、剣犬の三人の側にいたので助かった。らーさんと瑠璃が襲撃前に気付いたのだ。恐ろしい察知能力だ。襲ってきた連中を迎え撃つ。周囲でも叫び声や悲鳴が響いていた。

 

「オラオラオラオラオラオラ!」


 勇ましい叫び声を上げ、斧で襲撃者を吹き飛ばしていく瑠璃がかなり頼もしかったのを覚えている。らーさんも剣犬も、それに同じ部隊の仲間も強かった。襲ってくる連中の大半を倒していく。もう敵を殺す生かすという判断をする余裕はなかった。向かってくる敵をただひたすらに斬る。他の連中も同じように必死だっただろう。あらかた片付け、他のプレイヤーを助けに行こうとした時、それが襲ってきた。

 色々な生物を無理やりくっつけた化け物、狼の顔を持ったゴリラや大きなトカゲなどの部品を持つそれは『混合獣』アルエギアという名前らしい。後で分かったことだが、そいつはこのエリアの地下にあった隠しエリア《地下研究所》に出てくるユニークモンスターらしい。何故そんな化け物が通常エリアにいるのか。答えはすぐにでた。《攻略連合》の誰かがアルエギアをテイムしたのだ。

 この《Blade Online》の世界にはモンスターテイマーという職業はないが、条件をみたすことで【○○の絆】という、そのモンスターを使役出来るようになる称号が存在している。恐らくは隠しエリアを発見した《攻略連合》のプレイヤーがその称号を手に入れたのだろう。

 そいつは大きく咆哮すると、臀部についている大きな尻尾を振った。あっけに取られていた隣のプレイヤーがそれを喰らった。吹っ飛び、地面に転がったそのプレイヤーに《攻略連合》のプレイヤーが遅い掛かり、HPを0にした。

 助けが必要になったのは俺達の方だった。敵プレイヤー十数名に、テイムされたユニークモンスター。絶望的な戦況の中で、俺達は必死に戦った。アルエギアは一撃一撃が高い攻撃力を誇る。そしてスピードも速い。しかし、一度の攻撃は速いが次の攻撃に移るまでにしばらくの隙が出来るという弱点があった。俺達はそこを突き、何とかアルメギアのHPを削っていく。


「次尻尾攻撃! お前とお前は隙をついてくるプレイヤーを牽制しろ! それでお前らは尻尾攻撃回避後隙をついて攻撃!」


 普段はよく分からない事を言っている瑠璃だが、その時はリーダーとして的確な指示を出していた。混乱していたプレイヤー達も彼女の指揮で冷静さを取り戻していく。そしてどれくらい経っただろう、苦しい戦いが続き、ようやくアルメギアのHPが赤く染まった。その瞬間、アルメギアの首が伸びた。誰もが目を見開き、驚きの声を上げた。まるで亀の様に首の部分が伸び、巨大な狼の首が瑠璃に向かっていったのだ。その時、反応できたのは一人だけだった。


「るり!!!!」


 剣犬が瑠璃とアルメギアの間に割り込んだ。スキルを発動し、アルメギアの口めがけて槍を突き出した。そして俺は見た。槍がアルメギアの喉を貫くよりも先に、その口に生えていた牙がザザッと音を立てて歯茎から飛び出した。剣犬が反応するよりも速く、それは彼の上半身を貫いた。剣犬も防御力の高い武器を装備していたはずだ。数本の牙に貫かれるだけでは死なない。が、アルメギアは剣犬に喉を貫かれるのを構わずに彼を、喰らった。急所を攻撃された事でアルメギアのHPが減るが、同時に増えた。剣犬を喰らった事で回復したのだろう。

 剣犬が死んだ。

 俺は彼が死んだことで我に返り、攻撃してきた襲撃者を斬り捨てた。他のプレイヤー達も身体の硬直をほぐし、動き始めていた。その中でらーさんと瑠璃が閃光の如くアルメギアに突っ込んでいった。一瞬だった。彼女らの武器が煌めいたと思うと、アルメギアの首が吹き飛んだ。HPが0になった。と、同時に最後の足掻きとアルメギアの尻尾が彼女達に振るわれた。しかしその尻尾は一瞬にして粉微塵になり消滅した。瑠璃が斧で斬ったのだろう。

 恐ろしい勢いでアルメギアを倒した彼女らの表情は、仲間の俺でさえ喉を鳴らしてしまうほどだった。


「生きて帰れると思うなよ」


 らーさんはそう呟くと同時に、自分の前にいた襲撃者の喉を貫いた。瑠璃も同じように襲撃者を斧で切断する。それから数分後、襲撃者は全滅した。他の部隊も片づけ終わったようだった。

 戦いが終わった後、瑠璃は一切の無表情、らーさんは嗚咽を漏らして泣いていた。俺はガロンの時と同じで、なんて声を掛けていいか分からなかった。アルメギアのアレはどう考えても初見殺しだ。剣犬が対応出来たのは僥倖だったと思う。俺に向かって首が伸びていたなら分からなかったが、少なくとも瑠璃を助ける為に動くことは出来なかった。

 らーさんや仲間を失ったプレイヤーの泣き声がベッタリと耳にこびりついた。


 こうして二つ名持ちプレイヤー四名、通常プレイヤー十四名を失うという最悪の事件は幕を閉じた。この事件により、《攻略連合》という大きなギルドも消滅し、多くの犠牲者を出し、攻略組の戦力は大幅に低下した。ボス攻略にも大きな支障が出た。

 更に言えば、《攻略連合》は壊滅出来たが、こいつらはあくまで《屍喰らい》の一部なのだ。まだ何も解決していない。今回、戦人針の姿は確認されなかった。まだ連中の頭は健在だ。

 何も、解決していない。

 


 瑠璃に切断された《攻略連合》の一人が「俺は現実に帰りたくない」と叫んでいたのを思い出す。連中はこのゲームをクリアさせない為に動いているらしい。戦人針は狂っていた。自分が正義だと、そう語っていた。俺はそれが正義だとは思えない。しかし、奴の元にはプレイヤーが集まっている。あいつのあの言葉に共感してしまうような人がプレイヤーの中にはいると言うことだ。そんな連中が集まっている《屍喰らい》を俺は改めて恐ろしいと思った。

 自分の欲望の為に人を殺す。

 その行為を正当化しているのだ。

 

 そして。

 そんな理由を持った《屍喰らい》と違い、ただ殺したいという理由のみで集まったPKギルド《目目目ブラッディアイ》は依然として動きを見せていない。

 不気味な程、静かだった。


――――――――――――――――


「ありがとうアカツキ君」


 俺とらーさんはでぅでぅ喫茶で向い合ってコーヒーを飲んでいた。剣犬が死んでから彼女はニコニコと笑う様になった。瑠璃は無口になった。そして二人に共通するのはより攻略に取り組む様になったということだ。見ている方が引いてしまう程に彼女達は攻略を突き進む。そんな彼女達に栞の姿を重ねてしまい、俺は声を掛けた。瑠璃には「あはは。どぅるるー。大丈夫だよん」と言ってはぐらかされてしまった。らーさんとは、こんな風に時々二人で話をするようになった。

 正直、これは俺がどうこういう問題では無いのだろう。引き篭っている時、栞に何か言われて俺は「何も知らねえ癖に知ったような口を聞くな!」と言った。彼女達は俺にそう言いたい気分だったのではないだろうか。

 剣犬の存在は二人にとって大きかったみたいだ。見ていれば分かった。

 コーヒーを飲んでいると、唐突にらーさんが礼を言ってきた。どうしたんだ、と俺は返す。らーさんはあはは、と笑った。


「…………」

「あはは……。二日前くらいにね、リンちゃんと話たんだよ」

「リンと?」

「うん。私結構あの子と仲いいんだよ。そこでさ、リンちゃんのお兄さんの話を聞いたんだ」

「…………」

「いやー、よく話す割りにリンちゃんのことあんまり知らなかったよ。アカツキ君お兄ちゃんじゃないんだね」

「あ、ああ」

「はは……。まあそれで、色々話聞いてね。まあ内容は言わないけどさ、ちょっと色々考えなおしたんだよ。だから瑠璃ちゃんとしっかり話したんだ。はは、あの子の泣いたとこ初めて見たよ」

「…………」

「ということでらーさんは元通りに戻るよ。色々励ましてくれてありがとうね」


 俺はこいつらと友達のつもりだ。あっちもそう思ってくれてると思う。だけどこいつらについて殆ど何も知らない。身内ですら無い。

 自分の事すらまともに出来ないのに、他人の事情に口出しする。俺は昔からそうだった。リンとリュウの時もそうだ。 原因は分かってる。自分がすっきりしたいからだ。自分が出来ないから、他の人にやらせる。リンの代わりはいない。栞の代わりもいない。そう思う。これは本当だ。なのに自分の事となると他人に押し付ける。

 俺がもし栞を失ったら。もしリンを失ったら。きっと立ち直れない。剣犬が死んだ時に考えたのはその事だった。だから、こいつらに立ち直れと、声を掛けたのだ。

 剣犬が死んで悲しいと思った。思ったが、悲しいという感情よりもまず、自分の場合を考えてしまった。


「優しいね、アカツキ君は」

「別に……普通だよ」

「あははー。そういえばアカツキ君って頭撫でるの好きだよね」

「お?」

「栞ちゃんやリンちゃんの頭撫でてる所前に見たし、私の頭も撫でてきたねー」

「…………」

「カタナの人が僕も撫でて欲しいぜとか言ってたよ」

「おぞましいわ!」

「自慢してやったけどね。あははー頭撫でられるとか家族以外初めてですヨ。きゃーアカツキ君に私の初めて取られたー」

「変な言い方するなよ……」


 あははーとらーさんは笑う。前みたいに無理をしている様子は無い、と思う。


「前にアカツキ君がモブって言ったけど、訂正するよ」


 彼女は少し真剣な顔をしてからそう言った。


 「アカツキ君は主人公みたいな性格しているよ」


 顔はモブだけどね(笑)。

 顔は余分だ、とつぶやいた。



 


 


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