本編 由美の3つの鍵
―9 委員長の答え探し1 ~回想~
雪。
そうあの日は雪が降っていた。すごい雪だった。外に出ればすぐに体が埋もれてしまうような勢いで雪が体に吹き付け、足場は雪に足を埋めた跡すらすぐに無くなる。
氷河期を迎えたような激しい雪。空を見上げても激しい冷気によって空気は白く染まり雪すらも見ることも叶わなかった。歩くことにも激しく体力を消耗して立つことも辛くて、その場に私は座り込んだ。雪がさらに上から吹き付け、座ったところの雪が若干へこみ私の体を半分ほど埋めた。それでもなお吹き付ける雪は少しずつ、しかし確実に私を白に変えていった。
背中にある白い翼を動かせばまだ凍らずに済んだかもしれないけど私はそれすらもする気力がなかった。このまま埋まって消えるならそれでも構わない。自分の戦う理由が無意味なものだと知り、自分が生きる意味すらもないと気づいた。
自分が戦って達するべき世界。そこに立ち入り戦うことが私にはできない。それを満たす条件が私には決定的に抜けていた。それを手にできない私は生きる意味を持つべきではない。
翼は重くただの荷物にしか思えない。かぶる雪を振りほどくこともめんどくて。
ただ天使として生まれただの出来損ないとして消えていく私。それで構わない。だってそうじゃないか、私が生きても何にもならない。なにも守れないし何かが奪われ消えていくのをただ外側から見つめることしかできない。それがどれほど辛く重たいものか。
人間が思っている感覚とは違う。助けれるはずの力を持つのに助けれない。たったひとつの違いで私はあの世界に、領域に飛び込むことができないんだ。
埋まっていく体はもう半分雪に沈んだ。まだ翼を動かせば飛ぶことはできなくても生き延びることはできたかもしれないのに、私はふっと重たい瞼を閉じた。このままここで眠ればきっと死ねる。消えていける。
大剣を振い、悪魔を切り裂いてきた腕や手にはもう感覚がない。今まで戦った記憶も感覚も全て終わる。さようならも言うこともない。天使はいつも孤独に生きるのだ。悪魔と同じように。
悪魔も天使も似ている。というか一緒だといっても過言じゃないはずだ。だからそのまま目を伏せよう。悪魔が消えていくように私も消えていこう。一緒に戦った天使達の姿を愛しく思ったりもしない。ここでお別れなんだ。
私は埋まっていく翼を羽ばたかせることはなかった。
私はあの日に全てを終わらした気だった。何もかも捨てたつもりだった。でも永らえた。
そして今、今まで至らなかった猟奇に足を踏み入れる条件を揃えた。私が本来戦うべきである悪魔への領域。
でもやっぱりうまくいかないものだ。まず人間を慣れ親しむという時点で私には向いていない。
「はぁ……人間ってめんどくさいわよね」
あの人は違う雪ではない激しい雨が私を打ち付ける。カバンが濡れて中身が濡れようと服がびしょびしょになろうと関係ない。いちいち気にしてなんかいられないし、まず雨が降っていたなんて聞いていない。どのみちこの雨の中を歩かなければなかったんだ。
コンクリートの歩道に溜まった水たまりは雨によって幾度となく波紋を作っている。その水たまりを踏みつけながら私を歩を進めた。靴の中に水が入ってくる。びちゃびちゃ靴の中で音がして気持ち悪い。
「私は間違ってなんかないわ」
小さくつぶやいた。
顔にかかる髪を一気に後ろに流し、空を見上げる。やはりあの日とは違い空を見渡せる。真っ黒な曇天に染まった空だけど。
歩を止めて目をつむる。そして思い出してみる。あの頃の私を……。
そこに私と人間の考え方と何の違いがあるのかわかるかもしれないから……。
家に帰ったらまたお爺ちゃんがうるさい。この雨の中の方がまだ落ち着いて思い出せるかもしれない。目を開けて再び前を向く。どしゃ降りの雨に打ち付かれながら学校と住宅地を分ける川幅20Mの大きな川を繋ぐ大橋まで歩いて橋の端によって川を見下ろした。川面もすごい勢いで揺れ波紋をたくさん作っている。
鞄をすぐそばに置いて目を伏せる。
暗い視界。そこに昔の私を描いた。
消えた――はずだった。だけど私は目を覚ました。そこは真っ暗でなにがないか分からない。でもここはきっとどこかの屋内だ。もしかしたらほんとに消えて死んだ者が来る場所なのかもしれないけど体に残る寒さとヒリヒリする全身の凍傷が私に生きているということを伝えてくる。
横になっている体の下にはふんわりとして暖かい布が敷かれている。とても心地よい、ここまで暖かい布があるものなのかと思いながらゆっくり体を起こす。まだ目が慣れないせいで変わらず周りは真っ暗だ。
不闇に動くのは適切ではないのは確かだ。だから私は身に付けているはずの戦闘服の内ポケットに手を差し入れて気がつく。
(戦闘服じゃない!?)
私の手を差し込んだのは素肌と衣服の間だった。おかしい。戦闘服はここまでおおきく胸元は開けていないはずだ。それに素肌に手が触れるなどありえない。
戦闘服は天使になった者が着衣する服のことだ。薄い布には特殊な加工がされていてそれは悪魔の霊体からの攻撃を最小限に抑える効果を持ち、数多の隠しポケットが存在する周到便利な衣服なのだ。
そっと衣服に触れる。私が寝転んでいた布のおかげか衣服はほんわりと暖かい。手触りは厚めとも薄めとも言えない微妙は布。だが、ちょっと毛糸が飛んでいることからセーターかなにかなのかもしれない。
でも戦闘服ではない服が着せられているということは私の手には武器が無いという事になる。戦闘服の内ポケに入れているはずのcubeを取られては成す術がない。私の天使としての霊力はcubeから作り出す固有結界内のみなんだ。
このままここにいるわけにはいかない。そう思って立ち上がろうとして、ふと違和感を覚える。
「……? なにか……おかしい」
背中に違和感を感じた。おかしいというイマイチぱっとしない感覚。なにかが足りない。体中の感覚が戻っていないからどこがどうおかしいかは掴めないがなにがおかしいというのは分かった。
(もやもやするわ……)
こういうのはあんまり好きじゃない。はっきりと物事を把握したい方なんだ。でも仕方ない。まだ目は慣れないし、今はこの屋内から出ることを考えたほうが良いだろう。
すると、ちょうど私の目の前に光が輝き出す。急な光に私は目を細める。その光の正体を掴む前に声が聞こえた。
「あ、起きたみたいだよ。お爺ちゃん」
とても幼い声だった。私の目の前の扉を開いた幼い少女の声をした人影は扉の向こうの光によってうまく見ることができない。ただ声質から女だと判断しただけだ。
急に出来事に私は息を飲んだが、すぐに立ち上がって後ろに飛ぼうとまだ感覚が戻っていない翼に力を入れた。……でも。
「……あれ!?」
翼が動く気配がない。
後ろを確かめようとしたらその幼い声が私を呼んだ。
「天使さん」
「……!!」
「大丈夫? 痛いところない?」
そう言ってその少女はすぐ脇の壁に手を伸ばし、この部屋の電源を入れた。
一気に照らされた部屋。蛍光灯の白い光が部屋の中に満ちる。扉からだけ差し込んでいた光が全体に満たされることによって私の目も徐々に慣れ始める。目を若干隠しながら少女を見つめた。
白い……白い髪の毛をバッサリと首ぐらいで切った少女だった。あまりにもガサツな毛先からナイフやそこらへんで切ったのは一目瞭然だった。そしてその瞳は真っ赤に赤く、整った顔立ちをしていた。
そして小柄なその体型の後ろからは私からもしっかりと見える大きな翼を生やしていた。
「天使……?」
「あ、そうよ。私もあなたと同じ天使よ。羽根のない天使さん」
「……え?」
少女が赤い瞳を閉じてにっこり笑った。その言葉の意味を理解するのに数秒かかった私はゆっくり後ろを振り向いて背中から生えているはずの翼を見た。
だけど……そこには床に敷かれた布と奥の白い壁が見えるだけで大きな翼を見つけることができなかった。
活動報告で書いたとおりかなり厳しいです!
受験が受かったらまた顔を出します!!!!
すいません!
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