天上の劫火(1/1)縦書き表示RDF


天上の劫火
作:quartz



第一話・砂漠の戦い


レイタールがギオラ砂漠を渡り始めてから三日、白く広がった大地と、夜が明けて白み始めた雲ひとつ無い空の間に、汚れのような青い色が現れた。ギオラ砂漠の西に広がる、銀の森と呼ばれている森林だ。

それに伴うように、レイタールの周辺の景色も、若干の色を帯び始める。見渡す限りの砂地だったのが、ところどころに茶色く湿った土が現れ、僅かながら植物も見受けられ始める。白い砂ばかりを見続けていたレイタールにとって、それらの放つ色彩は新鮮な輝きに満ちていた。

三日にも及ぶ砂漠越えのせいで、すっかり汚れてしまった白い外套を纏い、レイタールは再び歩き始めた。

風が吹き、舞い上げられた砂がレイタールの髪に絡みつく。それを払いながら、彼は足を速めた。
グズグズすれば日が昇りきり、あまりの暑さに移動できなくなってしまうからだ。

レイタールは、まだ17の青年だ。15で成人として認められるこの国では、17といえばもう立派な大人だが、一人で砂漠越えをするにはまだ若い。

引き締まってはいるが、華奢で線の細い肉体には幼さが残り、漆のような艶のある黒髪や、端整に整った色白な顔がもたらす中性的なイメージが、彼の持つ不安定さに追い討ちをかけている。

しかし、鋭く光るブラウンの瞳は、自信と活力に満ちており、見る人に底知れぬ力を感じさせた。
砂の上を歩くその足取りは力強く、三日間砂漠の移動した疲れを感じさせない。

レイタールは、年齢にそぐわず、既に一角の旅人としての風格と実力を兼ね備えているのだ。

その上、彼は背に、身の丈程にもなる大きな木の杖を背負っていた。
その杖の先には、太陽を模した金の装飾が施されており、その中心には大きな赤い宝石がはめ込まれている。
一体どれほどの値が付くか想像も付かない程、豪華で気品に満ちた杖だ。

それを見れば、どんな人間であれ、彼を普通だと思う事は無いだろう。
旅人が、それ程までに価値のある代物を盗られずに持ち歩けている事自体が、その実力を証明していた。

レイタールは銀の森に向かって、砂漠を黙々と歩いて行く。
銀の森は、もう既に幹の茶色と葉の緑色が、はっきりと判別出来る距離まで近づいていた。

『……ん?』

ふと、レイタールは足を止めた。
銀の森の方角から、人影が幾つか彼の方へと向かって来る。

『こんな砂漠に人……?』

レイタールは、人影に目を凝らした。
人数は四人、皆一様に燕尾服の様な黒服を身に纏っている。
この位置からは、表情までは読み取れないが、少なくとも自分よりは年上のようだ。レイタールは、そう判断した。
皆一様にしっかりとした体つきをしており、何より身長が高い。

レイタールは、四人に対する警戒を強めた。
これから日が登っていく時間帯に砂漠に現れた事といい、熱のこもる黒い服装をしている事といい、彼らが単なる砂漠越えに来た旅人では無い事は明らかだ。

何よりも、燕尾服の四人から、殺気にも似た、強い気迫を感じる。レイタールは本能的に、己が狙われていることを悟った。

背中にある杖を引き抜き、身構える。

次の瞬間、戦いが始まった。

四人の内の一人が走り出した。そして、懐から投げナイフを取り出し、数本、連続して投げ飛ばす。

レイタールは、前かがみになりながら、一歩飛び退く。投げナイフは、回転しながら彼の頭上を通り過ぎた。

しかし、その隙に燕尾服は距離を詰める。燕尾服の一人が、一気にレイタールの懐に入り込んだ。拳すら届く距離で、男の持つナイフが光る。

しかしレイタールは、冷静さを失わない。
ギリギリの所でナイフをかわし横へ避ける、攻撃を空振りした男は、勢い余って前につんのめった。
その倒れそうになっている男の顔に、杖の先をぶち当てる。
衝撃で男は宙を舞い、砂の上に乾いた音を立てて落ちた。

一瞬の出来事だった。

残った燕尾服の三人は、レイタールの実力を目の当たりにして警戒したのか、飛び退いて距離を取る。
しかし、三人は連携を取りながらレイタールを囲い、逃がさないようにしていた。やはり、彼らは自分を狙っている。レイタールはそう確信した。

『なら遠慮は要らない……』

杖を構え直し、気を練り上げる。

すると、杖の赤い宝石が光り始め、辺りの空気もそれに呼応するように震えだした。

レイタールは、炎を操る魔術師だ。
杖からエネルギーを放出し、辺りに漂うマナという物質を自在に操り火を起こす。
これが、レイタール本来の戦い方なのだ。

燕尾服の三人も直ぐに異変に気づき、タイミングを合わせてレイタールへと突撃した。
しかし、レイタールの方が対応が早い。

レイタールは、上に飛び上がると、下に向かって杖を振り下ろした。すると、マナがレイタールの下へと集まり、大きな空気の流れを生んだ。
その空気の流れは、彼を押し上げて飛ばし、大きく跳躍させた。そしてレイタールは、三人から遠く離れた所に着地する。

三人も慌てて、レイタールの方へ駆け出すが、どう頑張っても一分は掛かるだろう。

この術は、多くの魔術師が敵との距離を取るのに使う、《空翔》(サーフ)と呼ばれる基本魔術だ。

空翔で敵との距離を取ったレイタールは、再び杖を構え、マナを集め始める。
今回は、空気の震えだけで無く、大きな熱量が生み出され、周囲の気温がドンドン上がっていく。

頃合いまでマナが集まった事を確認したレイタールは、杖を振り、構えを変えた。
そして、詠唱を始める。

「始原に至り、生まれ出でるモノよ。地を喰らい、天焦がす赤き光よ。水消、氷解、森灼き、土溶かす。唱えるは、万物を侵略するモノの名。炎よ! 我が手に集い、型成せ!」

レイタールは、勢い良く左手を振り上げる。レイタールの周囲から炎が巻き起こり、彼の頭上へと舞い上がった。

「その姿、《球》!」

彼の頭上に集まった炎が、大きな球状へと変形する。2mにも及ぶ、その炎の球は、さながら小さな太陽のようだ。

「我が敵を討て! 《轟球》(ボール)!!」

そして、レイタールが左手を振り下ろした。それを合図に炎球は動き出し、物凄いスピードで三人へと迫る。
三人は慌てて後ろへ跳び退くが、もう間に合わない。炎は三人を巻き込んだ後、一気に燃え広がった。

燃え広がった炎は、空中を漂うようにして飛び回り、すうと消えていった。炎が役目を終え、再びマナへと変質したのだ。

炎に巻き込まれた三人は、地面に力尽きて倒れている。
痙攣している所を見ると、まだ息はあるようだ。四人の内の一人は伸びているだけだし、運が良ければ助かるだろう。

レイタールは、四人に背を向けると、再び銀の森へと歩き出した。














ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




TOP


小説家になろう