ある土曜日の夕方のこと。
「お〜い、博士〜」
今日も阿笠邸のリビングに、勝手知ったる他人の家とばかりにチャイムも鳴らさないで入ってきた、コナンの声が響く。
「博士は今日学会で帰ってこないわよ。」
と、リビングで雑誌を読んでいた哀が、雑誌から目を離さずに言った。
「マジかよぉ〜?追跡メガネのバッテリーやばいのに。」
はぁ〜、っとため息をつきつつコナンが言った。
「しょうがないでしょう。また明日にでもきなさい。」
尚も雑誌から目を離さずに言った。しかし、さすがの哀も次の発言には顔を上げることになる。
「じゃ、今日はここに泊まってくか。」
と、当然のようにコナンが言ったのだ。
哀が驚き顔を上げると
「しょうがないだろ。お前一人じゃ危ないし…それに、今日は土曜だし平気だろ。」
と、取って付けた様な理由を言っている。
「平気よ。組織が私のことに気付いたならとっくに殺られてるわよ。それに、体は子供でも、精神は大人なんだからあなたと居る方が危ないわ。」
と、返すが最早コナンは聞いていないようだ。
「じゃ、俺は蘭に電話して来るから。」
と、言うとさっさと行ってしまった。
コナンが行ってしまうと、哀は声に出さずに
(まったく、急に決めるんだから……それにしても二人だけなんて……)
と、考え、思わず顔を赤らめた。そこへ、コナンが戻ってきた来たので、哀は慌てて顔を背けた。
「灰原…泊まって良いってさ。これで決定だな。」
と、コナンは笑いながら言った。
それを見て哀は
(こっちの気も知らないで……)
と、思わずにはいられなかったが、口には出さず、
「そう…じゃ、あなたは博士の部屋で寝てね。」
「分〜ってるよ。じゃ、俺は小説でも読んでるから。」
と、言って持って来ていた荷物の中から、小説を取り出し、読み始めた。
哀も雑誌を読むのを再開したが、ふと気になって、
「そういえば何で、小説なんて持ってきてるのよ。追跡メガネの充電にはそんなに時間は掛からないから、時間を潰す必要は無い筈よ。」
と、訊ねてみた。
「この新作面白いから、いっつも持ち歩いてんだよ。」
「そう…相変わらずの推理マニアっぷりね。」
と、皮肉で返したが、心の中では
(まぁ……私はそんな貴方のことを………)
と、考えていた。
それから小一時間程たって。
「そろそろ夕食にしましょうか。」
「ん?ああ、そうだな。もうこんな時間か。この小説があまりに面白くて時間を忘れちまったぜ。」
「まったく。本当に推理マニアなのね。」
「うるせ〜な。別に良いだろ。それより、夕飯どうすんだよ?」
「今から作るからちょっと待ってて。」
と、言って哀はキッチンの方に向かって行った。
それから数十分程経って
「出来たわよ。工藤君。」
と言う哀の声が聞こえたので、コナンは夕食を食べに向かった。
「「いただきます。」」
ご飯を食べる前の定番の挨拶をし、二人は夕食を食べ始めた。
「なぁ、灰原…お前って意外と料理とか上手いけど、組織にいた頃も作ってたのか?」
「そうね。この体になる前も基本的に自炊していたから。」
(まさか、あなたに食べてもらいたかったから、なんて言えないわよね……)
「ふ〜ん。そうだったのか……ごちそうさま。」
いつの間にかコナンの皿は空になっていた。
「ふ〜。うまかった。」
コナンは満足そうな表情を浮かべ水を飲んでいる。
「ごちそうさま。」
その内に哀も食べ終わり、二人は風呂に入ることにした。
「灰原…お前が先入って良いぞ。」
「当たり前でしょ。」
と、言って哀は風呂場に向かって行った。
コナンは
(まったく…もうちょっと素直にしてれば可愛いのに……)
と、思ったが
(まぁ良いか……それがあいつらしさってやつだし………にしても、あいつが風呂から出るまで暇だな……小説の続きでも読むか……)
と、思い直し、また小説を読むことにした。
しばらくして哀が風呂から出て、コナンが入ることになった。
コナンもしばらくして風呂から出た。
しかし、哀には疑問に思うところがあり、コナンに聞いてみた。
「あなた……どうしてパジャマなんて、持ってきてるの?」
すると、コナンは少し慌てて
「こ、これはだな………」
「もしかしてあなた、最初から泊まる気だったの?」
と、思ったことを率直に述べると、コナンは何も言い返せない様だったが、その態度が雄弁にも肯定を示していた。
「呆れる……どうして?」
と、聞くと、少し顔を赤らめ
「そ、それは……お前と一緒にいたかったからだよ……」
と、コナンは答えた。
「えっ……?そっ、それって……?もしかして……」
と、言うと哀も顔を赤らめ、俯いた。
「その先は、もっとちゃんとした所で言わせてくれよな……」
二人の距離は、当人たちが思っていたよりも近かったようである。
(おわり) |