孤独 (Complete Version)PDFで表示縦書き表示RDF


 この作品はミツルが幻界で魔道士になった後、どのようにして宝玉を集めていったのかを想像して書いたものです。
 この度、カットシーンや活動休止中に新たに浮かんだアイデアを付け加え、Complete Versionとして発表しました。
 なお、作中でミツルが考えていることを実際にやってしまうと間違いなく犯罪になります。 くれぐれもまねをしないよう、お願いします。
孤独 (Complete Version)
作:地球の星


 おためしの洞窟を抜けてきたミツルは、ラウ導師の前で結果発表を受けていた。
「新たなる旅人ミツルよ。おぬし、優れた能力を持っているのう。」
「そうですか?」
「うむ。あのなぞを50秒で解いた上に、これほどまでの特殊能力があるとは…。よろしい、おぬしに魔道士の装備を与えよう。」
 ラウ導師は自分の持っている杖を振りかざした。
 するとミツルの体は宙に浮き、光に包まれた。
 着ている服は魔道士の服装に変わり、右手には杖を持っていた。
「ここに開いている5つの穴は、何をするためのものですか?」
「それは宝玉をはめ込むための穴じゃ。5つ全てがそろった時、運命の塔への道が開ける。そこに行って女神様に願いを伝えれば、おぬしの運命は変わる。そういうことじゃ。」
「分かりました。それで、宝玉はどこにあるのですか?」
「本来ならそれは言えないことになっておるが、1つだけ教えてやろう。現世うつしよにある。おぬしがこの世界に来る時に幽霊ビルと呼ばれる建物を通ってきたじゃろう?」
「はい。」
「そこに1つめがあるのじゃ。一度現世に戻るがよい。」
「そうですか。では戻してください。」
「分かった。」
 ラウ導師は持っている杖を再び振りかざし、ミツルを現世へとワープさせた。

「おれのなんだ。」
 ミツルは冷たくそう言い放ち、1つめの宝玉を持っている亘のところに歩み寄って有無を言わさずに取り上げた。
 そして宝玉を杖にはめ込むと、ゆっくりと幽霊ビルの屋上から先に続く階段のところまで来た。
 ミツルは杖を振りかざした。次の瞬間、彼の体は宙に舞い上がり、一気に要御扉かなめのみとびらのところまで向かっていった。
 その直後、亘は後をつけてきて、幽霊ビルの屋上までやってきた。
 彼はミツルが扉をくぐって幻界へと入っていくのを目撃した。しかし、ミツルはそれに気づかないままだった。

「これを5つ集めれば、妹を蘇生させることが出来る。そのためならどんなことをしてでも手に入れてやる。」
 幻界ヴィジョンにあるガサラの街を一人で歩きながら、ミツルはそうつぶやいた。
 1つめは現世に戻るだけで、労せずに手に入った。しかし、残りはどうやって手に入れればいいのか、それは分からなかった。
 これから戦いに巻き込まれることもあるだろう。誰かをだましたりすることもあるだろう。この世界に何らかの犠牲を払うこともあるだろう。
 しかし、それでもかまわない。絶対に手に入れてやる。
 おれは、願いをかなえるためなら、何でも出来るんだ。
 彼の心はすでに決まっていた。
 そうしていると急に「食い逃げだ!」と言う大きな声が聞こえた。叫んだのはユナ婆だ。
 すぐに彼女の周りには人だかりが出来た。
 ミツルは食い逃げには特に興味がなかったが、直感でもしやと思い、素早く宝玉の力を発動させ、空を飛んだ。
 遠くを見渡すと、確かに一人の男が走りながら逃げている。
 よく見ると、手にはナイフを持っている。下手に追いかけて捕まえようとすれば、返り討ちにあってしまうだろう。
 現に、まわりの人達は捕まえるどころか、逆に道を空けていて、逃げ道を与えているような状況だった。
「あいつか。」
 ミツルは迷うことなく空を飛びながら犯人のところに向かっていった。
 それから10秒も経たないうちに、男の前に立ちはだかった。
「貴様、そこをどけ!それとも刺されたいか!」
「…フン!」
 ミツルは相手を威嚇するようにつぶやいた。
「とにかくおれは急いでいるんだ。邪魔をするなら、くらえ!」
 男はナイフを持って振りかぶった。
 危ない!刺される!
 誰もがそう思った時、ミツルはまるでテレポートでもするかのように瞬時に体を動かして攻撃をかわした。
「貴様ああ!」
 男は明らかに殺気立ちながら振り返り、再び攻撃を仕掛けてきた。
(こんな奴に魔法など使いたくもないが、まあいいだろう。)
 ミツルはそう思いながら、さっと杖を構えた。

 それから30分後のことだった。
「あんた、本当に強いね。それにしても、その勇気ある行動は認めるけれど、怖くなかったのかい?」
 ガサラにあるハイランダーの館に案内されたミツルに向かって、カッツが言った。
「別に、死ぬのは怖くない。おれはただ、宝玉を持っているかもしれないと思っただけだ。」
「それなら好都合だったな。何しろあの犯人が本当に持っていたんだからな。知っていたのか?」
「いや。」
「そうか。だが、いくら食い逃げ犯とは言え、あんなに顔が腫れ上がり、鼻血がダラダラ流れるまで打ちのめすことはないと思うのだが。」
「他人のことなど知るか。おれは余計なことにかまってはいられないんだ。ここにも長居はするつもりはない。」
「それにしてもあんた、旅人かい?」
「ああ。」
「それなら、うちの部隊に入らないか?残りの3つを探すのに役に立つと思うが。」
「あいにくですが、断ります。おれは誰にも従うつもりはない。宝玉は自分で探す。」
「…そうか。まあよかろう。私が決めることではないからな。」
「はい…。」
「それから、あんた。」
「何ですか?指図なら結構です。それに、おれは『あんた』じゃない。ミツルだ。」
 カッツの問いかけを受けて、今、館を後にしようとしていたミツルが振り向き、ぶっきらぼうに答えた。
「それならミツル、あんたはこの世界のお金持っているのかい?」
「そんなものは持っていない。」
「お金を稼ぐあてはあるのか?なければ少し恵んでやるが。」
「…。」
 ミツルはしばらく考え続けた。
「それならうちの店に来んかい?腹いっぱいごちそうしてやるよ。」
 かたわらにいたユナ婆が問いかけた。ミツルはしばらく黙っていたが、やがて
「…いや、結構です。おれはこれから宝玉の力を使って一旦現世に帰ります。ラウ導師が言うには、宝玉を1つ手に入れる度に、1度だけ戻ることが出来るようになるから。」
 と、冷たく吐き捨てた。
 そしてミツルはカッツやユナ婆に背を向けると、つかつかと館を出ていってしまった。

 現世に一時的に戻ってからは、ミツルは転校生、芦川美鶴として過ごしていた。
「芦川君。ちょっといい?」
「この問題分からないの。教えて。」
「あ、ずるい。あたしも。」
 学校の教室では、女子達が興味深そうに周りに集まってきて、算数の問題の解き方について聞いてきたが、美鶴は黙ったままだった。
 彼はこんなに多くの生徒達に囲まれながらも、結局孤独に1日を過ごしていた。
 それでも、勉強面では優等生振りをいかんなく発揮し、その日に行われたテストでもダントツの点数を取った。

 その日の夕方、美鶴は学校からまだ誰も帰っていない我が家に帰ってくると、悲しそうな表情を浮かべたまま、すぐに仏壇のある部屋に行った。
 そこには優しく微笑んでいる妹の遺影があった。
「アヤ…。」
 美鶴は両手を合わせた。
(おれは、生き残ってしまった。親父がお袋と不倫相手、そしてアヤを殺した。その時、おれはたまたまその場にいなかったせいで、幸運が重なったせいで自分だけ生き残ってしまった。おれは、お前を守れなかった。親なんてどうなったっていい。だがせめて、アヤ。お前だけでも無事だったのなら…。)
 彼は時間も忘れて、その場でじっとしていた。

 やがて、どれくらい時間が経ったのだろう。やがて合わせていた手を離すと、遺影を見ながら立ち上がった。
「こんな運命はきっと変えてやる。きっと生き返らせてやるからな。待っていてくれ。」
 美鶴はそう言い残すとやがて振り返り、つかつかと部屋を出ていった。
 そして台所へと歩いていった。
 幻界では確かに文無しだったが、現世なら金銭的には困らないだろう。
 しかしここにいたって運命は変わらない。アヤを生き返らせることなど出来ない。
 まして、現世にいられる時間は限られている。あまりゆっくりはしていられない。
 美鶴は冷蔵庫にある残り物で食事を済ませた。
 そして誰も戻ってこないうちに、足早に家を後にしていった。
 その頃、亘の家では父親が出ていってしまい、亘が懸命に後を追いかけていた。

 美鶴が目指す幽霊ビルの近くまで来ると、そこにはビルのオーナー、大松三郎社長と車椅子に座っている娘の香織がいた。
 社長は美鶴に気がつくと、「こんにちは。」と言いながら小さくお辞儀をしてきた。
 美鶴は無言で通り過ぎようとしていたのだが、嫌々「こんにちは。」と返した。
 一方の香織は全く反応しないままだった。
「君はこのビルに行くのかね?」
 社長が問いかけてきた。
「何でそんなこと聞くんですか?」
 美鶴はぶっきらぼうに返した。
「あそこには今、乱暴者の石岡達3人がいる。行かないほうがいいぞ。」
「誰がいようと関係ない。おれには行かなきゃならない理由があるんだ。」
「…そうか。」
 社長はそれ以上言うことが出来ず、美鶴がつかつかとビルに入っていくのを見届けていた。
「やれやれ、近頃は物騒な事件が相次いでいるというのに、無鉄砲な人だな。万が一あの子が暴行沙汰にでも巻き込まれたら…。私の娘だって、不良どもにからまれて連れ去られ、こんな姿にされてしまったと言うのに…。」
 美鶴の姿が建物に吸い込まれていき、見えなくなると、社長はため息をつきながら香織の後ろ姿を見つめた。
 彼女は振り返ることもせずにじっとしたまま、車椅子の上に座り続けていた。
 その目はうつろで、ただまばたきをするだけだった。

(し、しまった。まさか不意打ちを食らって、口をガムテープでふさがれるとは。うかつだった。)
 石岡達3人によって手を縛られ、一方的にやられながら美鶴は心の中でつぶやいた。
 確かに魔法を使えばこんな奴らなど一気に片付けられるだろう。今すぐにでもバルバローネを呼び出し、こいつらを飲み込んでやりたかった。
 しかし言葉をしゃべれない状態では、魔法を使うことが出来ない。
「イナズマシュート!」
 小川が叫びながら缶を思いっきり蹴った。
 ゴールが決まったと喜ぶ姿を見ながら、美鶴はあせっていた。
 だが、こんな古びた建物に果たして人は寄り付くのだろうか?
(このままではやられる。誰かいないのか?)
 そう思っていたその時、タイミング良く(?)亘が姿を現した。
 そして…。


 再び幻界に戻ってきてからのミツルは次なる宝玉を求めて歩き回っていた。
 とにかく情報がほしい状況ではあったが、誰に聞けばいいのか分からなかった。
 それでも彼は心の中で自分の決意を言い聞かせていた。

 ―この世界ではおれは孤独だ。
  頼れる人もいない。
  当たり前のように使っていた電化製品もない。
  生きて運命の塔にたどり着ける保証もない。
  まわりにはこんなに人がいる。しかしおれは孤独だ。本当に一人なんだ。
  それでもいい。一人でもやってやる。
  誰が宝玉を持っているのか分かれば、何が何でも手に入れてやる。
  たとえ人を傷つけても、殺してもかまわない。
  戦いに巻き込まれれば、この宝玉の力を駆使して戦ってやる。
  空腹になったら、食料を盗んででも生き伸びてやる。
  この世界を破壊することになってもかまわない。
  おれの手によって、おれのような悲しみを背負う人が出ようが、それでもかまわない。
  全てはアヤのためだ。誰よりも大切な存在だった妹を蘇生させてやる。
  その願いをかなえるためなら、おれは何だって出来るんだ。―

 翌日、ミツルは灼熱の砂漠の中を歩いていた。
 ここは以前ワタルが足を踏み入れ、ねじオオカミに襲われたところをキ・キーマに救われたところでもあった。
 来た理由は、ここに探しものがあるかもしれないという話を聞いたからだった。
 確かな情報ではない。もしかしたら無駄な努力になるかもしれない。
 それでも彼はここに来た。少しでも可能性があれば、やってやろうという気持ちだった。
 確かにここは暑い。しかしそんなことは眼中にはなかった。
 そうしていると、ワタルの時と同じように、ねじオオカミの群れが姿を現した。
 たちまちミツルは取り囲まれ、逃げ道を失った。
「お前らなのか?宝玉を持っているのは。」
 試しに問いかけてみたが、相手はうなり声を上げるばかりだった。
「…まあいい。答えることが出来ないのなら、力ずくでねじ伏せるまでだ。覚悟しろ。」
 ミツルは杖を構え、呪文を唱え始めた。
 その時だった。ねじオオカミの群れが大きく口を開き、宙に舞って、一斉に襲い掛かってきた。
「うああああああああぁぁぁっ!!」
 誰が見ても無謀な戦いだと思う状況の中で、ミツルは怖気付くこともなく杖を振りかざした。

「おお、これはこれは!」
「ねじオオカミの肉がこんなに!」
「信じられん!運命の女神様からおれ達へのお恵みか?」
「分からん。だが、これほどまでの食料はそうめったにありつけんぞ。」
「とにかくありがたい!早速いただくとしよう。」
 ミツルが砂漠から立ち去ってから1時間後、その場所では大勢のカルラ族の連中が集まっていた。

「ちっ。結局あの砂漠には宝玉はなかったのか。あのハイランダーめ、でたらめを言いやがって。」
 リリスの街にワープしてきたミツルは一人で殺気立っていた。
 だめでもともとで行ってはみたのだが、それでも探し物が見つからなかったのはショックだった。
 それでも彼はここで再び懸命に情報集めを繰り返した。
 そうしているうちに、トリアンカ魔病院のある森のどこかに宝玉が隠されているかもしれないという情報が手に入った。
 それを聞いてミツルはいてもたってもいられなくなり、早速その場所へと移動していった。

 その日の夜、ミツルは森の中でバウワウワの実を採って食べていた。
 森の中をあちこち探し回ったものの、結局この日は見つからなかった。
(一体残りの宝玉はどこにあるんだ。最初はじっくり探せばいいと思っていたのだが、状況が変わった。聞いた話では、三谷もこの幻界に来ているということじゃないか。一刻も早く5つ全て集めなければ。あいつなんかに追い越されてたまるか。あいつなんかに願いを横取りされてたまるか。)
 彼の心には絶対に願いをかなえなければという焦りが生じていた。
 食事が終わって夜空を見上げていると、ふと少女の声がした。
「誰だ!」
 ミツルは地面に置いてあった杖を拾い上げ、素早く立ち上がった。
『私よ。ワ・タ・シ。』
 その声の主は謎の少女だった。
「お前か。何の用だ!おれはお前の指図など受けないぞ!」
『怖いわね。そんな言い方しなくってもいいじゃない。それよりあなた、宝玉探しは順調にすすんでる?』
「うるさい!順調も何もあるか!おれは一刻も早く宝玉を5つそろえなければいけないんだ。妹のためにも、うかうかしてなんかいられないんだ!」
『あら、それならいい考えがあるわよ。』
「お前からの指図なんかいるか!ほっといてくれ!おれは願いさえかなえばそれでいいんだ!さっさと引っ込んでろ!」
『やれやれ。そこまで言うのなら仕方ないわね。せっかく私からいい考えがあったんだけれど、まあいいわ。』
 謎の少女の声はそれ以降聞こえなくなった。
 彼女は『ワタルから宝玉を盗むと言う手があるわ。』と言おうとしたのだが、結局言えなかった。
 確かにこの時点でワタルは2つの宝玉を集めていたのだが、ミツルにはそこまでの発想は思い浮かばなかった。

 その日の夜遅くまで、ミツルはじっと星空を見上げていた。
「所詮、人は孤独な生き物だ。それに人は早かれ遅かれ、いつか死ぬんだ。だったら、これから先何人の人が犠牲になろうとかまうものか。アヤ、お前の命は幻界で生きる人全ての命を合わせたものよりもはるかに重いんだ。だからこそ、おれは行く。どんな手を使ってでも、宝玉を集めてやる。」
 星空にアヤの姿を思い描きながらつぶやいた時、彼の心の中にあるアイデアが浮かんだ。
(そうだ。これだけの木々があるから見通しが悪くて見つからないんだ。だったら、こんな森などなくしてしまえばいい。おれは、宝玉さえ手に入ればいいんだ。こんな森がどうなろうと知ったことか。)
 ミツルはそう考えると、不敵な笑みを浮かべた。
 彼のまわりには、たくさんのバウワウワの木が風に揺られながらたくさん生い茂っていた。
 この森はその後…。

「助けてくれーーーー!!おれはまだ死にたくない!!」
「ここから出してくれーーーーー!!」
「誰か来てくれ!!妻と子供を残して、こんなところで死んでたまるかーーーーー!!」
 燃え盛る火の海の中からは人々の断末魔の叫び声が聞こえてきた。
「離してよ!まだあの中には私の夫がいるのよ!!」
「もうだめだ!あきらめろ!あの中に飛び込んだらお前も死ぬぞ!」
「かまわないわ!お願いだからその手を離して!!いやああああああっ!!」
「パパ。パパーーーー!!」
 周囲からも泣き叫ぶ声が響き渡った。
「フン!悪いのはお前らだ。おれに潔く宝玉を渡せばこんなことにならずに済んだんだ。まったくてこずらせやがって!」
 エア・ラダーの魔法で宙に浮いているミツルはその光景を見ても全く同情する様子がなかった。
 そして「悪く思うなよ。自分も同じような目にあったんだからな。」と冷たくはき捨てると、さっさと場所を移動していった。

 ミツルの行為を遠目から見ていた謎の少女はさすがに心を痛めずにはいられなくなっていた。
『やれやれ。黙って見ていれば、むごいことをするのね。だけどミツル。あなたはこのままなら、たとえ宝玉を5つ集めて運命の塔に登っても、絶対に願いを叶えることなんか出来ないわ。戦って、戦った末に、あなたは殺されるわ。自分自身にね。』
 彼女はこれまでミツルにも度々助言をしてきたのだが、さすがについていけなくなり、これからはワタルをサポートしていくことに決めた。


 ミツルのおかげでトリアンカ魔病院でのワナから抜け出すことが出来たワタルは、マキーバの街にやってきて、現地の人々の悲痛な言葉を聞いた。
 その衝撃的な内容に、それを聞いてから、彼はしばらく放心状態になってしまった。
(芦川…。どうしてこんなことを…。お前はこの幻界に来てから、他人の気持ちを考えたことあるのか?お前のせいでこんなに悲しむ人達が出来たんだぞ。この人達にだって家族がいるんだぞ。待っている人がいるんだぞ。お前はその人達の幸せを永久に奪い去ってまでして、自分の願いをかなえたいのか?)
 どうすればいいのか分からずに立ち尽くしていると、マキーバの人達が問いかけてきた。
「お前さんはハイランダーかね?」
「はい。そうですけど。」
「それなら、お願いがあるのですが…。」
「何ですか?」
「どうか…、どうかあの魔導士を退治しておくれんかね?」
「えっ?た、退治…です…か?」
「お願いします。何のためかは分かりませんが、森に火を放ち、こんなにむごいことをしていった人を許すわけにはいきません。」
「仇を打ちたいのですが、私達ではどうすることも出来ません。あなた達ハイランダーだけが頼りなのです。」
「捕まえたら、どうかお知らせください。我々の手で、我々の幸せを奪い去った人を裁いてやりたいのです。」
 必死にお願いをされたが、ワタルは返事が出せずにいた。
 無理もない。芦川は友達だ。しかも、トリアンカ魔病院では危ないところを助けてもらった。彼がいなかったら、自分が死んでいただろう。倒すなんて、そんな…。
「お願いします!」
「このままでは死んでも死にきれません。」
「あなたしかいないのです!」
 人々は必死に頼み込んできた。
「…分かりました。」
 ワタルは静まらない動揺の中で、どうにか答えた。もちろん、本心で言ったわけではない。 しかし、もしここで断ったら、まして友達だなんて言ったら、どんなことになるのだろうか。
 そう考えると、嫌でもこう答えるしかなかった。
(僕は一体どうすればいいんだ。命の恩人と戦うなんて…。それに、芦川と戦って勝てるわけなんか…。)
 ワタルの心は一層激しく揺れ動いていた。
 出発する時間になっても動揺はおさまらないまま、彼はキ・キーマとミーナを探しに、マキーバの街を後にしていった。


 地球の星と申します。
 これまで約5100字の作品として発表していましたが、その後新たに加筆をして、約7900字にしました。
 最初は衝撃的なシーンはカットして発表していました。
 しかしその後、やっぱり命の重さについて訴えたいと思うようになり、悩んだ末にそのシーンを復活させ、さらに活動休止中に新たに浮かんだシーンを付け加えました。

 読者の方々にはこの作品を通じて、命の重さや大切さについて、今までより少しでも深く考えていただければと思っています。













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