私ノ過去・彼ノ今
亮は咲を抱えたまま、凍った森へ飛び込んだ。
亮「いてっ!!なんだこれ?」
亮の身体に何かが刺さる。
咲「木々の枝が芯から凍ってるんだよ…溶ける気配もない。…あっいや別に…。」
咲は思っていたより冷静に喋る自分にびっくりした。
亮「なるほど…本当の針葉樹ってことね。」
亮は笑いながら咲を見た。
咲は顔を赤らめる…。
そして自分から喋ってみようと試みた。
人間の言動は気持ちによって左右されることがある。
環境など、それに値しない。
周りが見えなくなるというのはそういうことだ。
これがその一例である。
咲は何を言おうか決める前に口を開いてしまった。
咲「し、針葉樹って…ば、ば、馬鹿じゃないのっ!!」
口走ってしまった…。
亮「…はっ?あぁゴメン、上手いこと言えたと思って。へへ。」
急な侮辱に最初は驚いたものの、咲に合わせてくれた。
とても優しい心の持ち主だった。
咲は自分のことを話そうと思った。
もしかしたらこの少年は自分をしっかり見てくれるかもしれない。
初めて自分のことを知ってほしいと思える人が現れた。
咲「ゴメン…。私あんまり人と…喋ったこととかなくて…。何て喋り始めたらいいのかわからなくて。だから!だから。だから…。」
亮は咲の瞳から流れる何かを見て見ぬフリをした。
何故かそれを見たらいけない気がしたからだ。
おそらくは、全てを受け入れてあげるためだろう。
それを見たのがばれてしまえば、彼女のこれからの障害になってしまうかもしれない。
そう思ったからだ。
亮「ほらもうすぐあの人のところだよ!お姉ちゃん!」
咲はわかっていた。
少年の思いを無駄にするのはいけないと思い、どうしようか考えた。
行動で示そうか…。
じゃあどうすればいい?
ライトノベルの流れなら黙って抱き着くのが主流か?
いや…ちがう。
ここは自分の思いをはっきり言おう。
そう決めた。
それが一番いいと思った。
咲「……咲……。」
亮「ん?何かあった?」
咲「……私の名前…咲って言うの。」
やっと言えた。
やっと気持ちを伝えた。
亮「あっ!そういうことか!俺は亮だよ、咲お姉ちゃん。」
亮は、ようやく自分に打ち解けてくれたと思うと何故か笑えてきた。
亮「へへへっ!」
咲「何も可笑しくないよ…ふ…ははっ。」
亮・咲「ははははっ…!!」
二人の笑い声は凍った森に響き渡った。
全てを吸い込みそうな漆黒の氷も、反射させるしかなかった。
久しぶりに笑った。
赤ちゃんの時以来だろう。
今までに無理矢理の笑顔は何度かあった。
疲れた…。
一度自然に笑ってみたいと心の隅で思っていた。
それもごく最近の話し…。
亮「いたよ!あの人!」
咲は起き上がって亮が指指す方向を見た。
そこには制服姿の少年が仁王立ちで動かない。
咲「何してるんだろ?」
亮達はすぐに地上に降り、少年の元へ向かった。
亮「大丈夫ですか?」
亮は喋りかけてみた。
するとすぐに返事が返ってきた。
それはそれは小さな声で…何度も何度も…。
彰「俺じゃない…俺じゃない…俺じゃない…俺じゃない…俺じゃない…俺じゃない…俺じゃない…俺じゃない…俺じゃない…」
亮「な、何がですか?どうしたんですか?」
亮は何が何だか解らないでいた。
肩を揺すっても、ぶつぶつと言い続ける。
亮「何かおかしいよ…。お姉ちゃん。」
咲を見ると、彼女は何か考えていた。
仕方なく、亮は無理矢理起こそうと決意した。
亮は両肩を掴み、大きく揺らそうとした。
その時だった。
彰の目がぎょろっと動き、亮を見下した。
亮は驚いた。
亮「……!!!!」
咲は気付いた…。
咲「まさかっ!!」
自分に起こったことを思い出していた。
あの時咲は黒煙の冷気に助けられたが、実際は自力で我に返った。
もし無理矢理あれを解かれていたら…。
あの時は突風で無理矢理解除した…もしかしたら。
そう思いすぐに亮の元へ走った。
そして叫んだ。
咲「逃げてっ!!多分力の制御がまだできてないのっ!!」
亮「え…?」
その通りだった。
パソコンのコンセントを急に抜くのと同じだ。
起動中の状態で抜くとバグることがあるのはご存知だろうか。
あれは「終わる」という動作を行っていないからだ。
だから急な誤作動にショックを受ける。
それが原因だ。
今のパソコンではあまりないが、彰が古いパソコンなのであればそれは狂気を意味する。
遅かった…。
彰は呟いた…。
彰「お前か。」
その瞬間、何処からともなく現れた黒煙は彼ら全員を包んだ…。
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