プロローグ
神話において、竜とは、神の荒ぶる側面の象徴である。
――ヨーゼフ・ティッス
『ジャンルという名のレッテル』より
真っ黒いローブで全身を覆っているため、体格はよく分からない。ただ、背が非常に高いのは分かる。俺の1.5倍はあるか。
ローブから出た両手は指が長く、そして太い。
金色の長い髪、褐色の肌、牙、そして何よりも、金色の瞳。
その男の見た目は、いやがうえにも俺の中のある人物を連想させる。
ただ、顔だけを見る限り、男は痩せ型で、神経質で学者肌の性格を思わせる。
そこが違うか。
「七大探偵。全員が揃ったのはこれが初めてか」
顔から想像できるような、静かで中性的な声で男が言う。
「全員? 一人、いないだろう」
気だるそうに頬杖をついたマサカドが吐き捨てる。相変わらず、鎧を着込んだままだ。
「あれは都市伝説のようなもの。いないものだよ」
燕尾服を着たゲラルトはステッキをかつりと鳴らす。
「それを言うなら、七大探偵自体が都市伝説のようなものだっての。別に明確な基準があるわけじゃなくて、世間が勝手に言ってるだけなんだからよ」
二代目ジャンゴを名乗る、元はハウザーという名を持っていた少年、いやもう青年か、は周囲を睨みつける。
あの目つきの悪さは、生まれつきと緊張からくるものに由来しており、別に機嫌が悪いわけではないことは今の俺には分かる。
「それで? 我々は暇ではない。速やかに用件をいいたまえ」
赤毛の若い女、長い髪も手足も体も目も鼻も口も、全てが真っ直ぐなその女、トカレフは感情の篭っていない声で促す。
会うのは初めてだが、噂通りの外見だ。鉄の女、とはよく言ったもんだ。
「ああ、その前に、そこにいるヴァン君、ボブ君、そしてキリオ君にはショックが大きいようだ。説明が必要かな」
突然名を呼ばれて、俺は体を硬直させる。後ろでボブとキリオが体を硬くしたのも感じる。
そうだ。その通りだ。
「私が、君達の友人によく似ている件について」
その男、不死公の金色の目が俺の方をゆっくりと向く。
「私は、不死公。ドラゴンイーターだ」
ここはナムト王城。
何故こんな場所で、探偵が集合しているのか。
話は数週間前に遡る。




