その女は手を伸ばした。
届きそうで届かない距離。
数メートル先には、
かつて、女と愛し合った男。
そして、彼女が今も愛している男が、
銃を向けている。
…かつて愛した女に。
「ジン…こっちへ来て」
女は弱々しい声で啼いた。
右腕は組織の下っ端に撃たれた傷で、
紅く衣服を染めていた。
男―ジンは、女に応えない。
その代わり、世界一冷たい言葉を吐き出した。
「俺にお前は必要ない」
不意に銃声がして、
女はよろけた。
胸からは鮮血が絶え間なく流れ出し、
女は唖然とした。
胸に手を当てて、べっとりとした感触に気づく。
正確に急所に収まった鉄の弾は熱く、
既に、痛みさえ感じなかった。
ジンはポーカーフェイスを崩すことなく、
彼女をじっと見ている。
かつて、愛した女を…。
「私を…撃ったの」
女がゆっくりと片膝をつく。
既に傷口を押さえた手は朱に染まっていて、
もう、助からない事は自分で解っていただろう。
ジンは初めて顔を歪め、瞳を逸らした。
「お前は…知りすぎたんだ…俺達の事を」
「わ…私への愛じゃなく、組織を選んだのね・・。
あなたらしいわ」
次第に女の意識が混濁していく。
ジンに言いたい事は山ほどある。
でも、どうやら彼女にはそんな時間は残されてないようだ。
ジンは少し揺れる瞳でその死に掛けた恋人を見つめた。
言葉を探しているようだった。
その顔は、既にいつもの無表情な様子に戻っている。
でも、目の奥に潜む迷いを、女だけは見抜いていた。
言葉を探しているようだった。
贐の言葉…なのかもしれない。
可哀相な生き方しか、選べない男。
不器用な彼に、
女には、どうしても伝えたい言葉があった。
「愛してる…永遠に」
辛うじて囁いた言葉は、
彼に届いただろうか?
……最後に、ジンの涙が見えた気がした。
女は力尽きて倒れこみ、永久に言葉を失った。
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