コーチとして・・・(9/13)縦書き表示RDF


いよいよ佳境に入りました。なんか駆け足ですみません(汗
コーチとして・・・
作:矢枝真稀



第六話 決戦前日


今日は試合前で練習もない金曜日。うだる熱さも慣れるといいのだが・・・。


「あーつーいー・・・」
「・・・・・・」


ただいまの状況だが、昼休み中であり、いつものように竜一と伶、そして俺の三人で飯を食っている。暑いと駄々をこねているのは竜一。何を言うでもなく黙々と弁当を食べているのは伶。最早、完全に無視を決めたようだ。


「涼!」
「何?」
「あーつーいー!!」
「・・・・・・」


時々、ホントにウザイと思う・・・。無視をして、伶同様に黙って飯を食う。


「・・・それより、明日は試合らしいな・・・」
「あぁ、まぁ何とかなるだろ」


伶の言葉に、あっけらかんに応える。実際、試合なんてものはやってみなければわからない。


「勝算は?」
「わかんない」
「わかんないって・・・」
「・・・今回の試合、勝ち負けは関係ないと思う。ちび達が楽しければ、俺はそれでいい」
「・・・しかし、それでは・・・」


言いかけた言葉を飲み込んだ伶は、しばらく無言だった。


「伶、どうかした?」
「いや、なんでもない・・・」


その後は一言も発さず、終始、無言のままだった。



???





→→→→→→→→→→→→



今日は練習はない。しかし、俺と緋野さんは今、小学校の職員室にいる。


「・・・という訳なんだ」
「なるほど!!」


緋野さんに説明したのは、『お楽しみ』。プリントの最後の項目だが、簡単に説明すれば、ちび達にお疲れ様の意味を込めた、BBQ大会だ。しかしこれは、あくまでもサプライズ!!ちび達には一言も喋っていない。


「という事で、この事は秘密で!」
「了解!!」


ビシッ!と敬礼をする緋野さん。なんか可愛い・・・。

それから明日の予定を確認。参加する保護者の了承も得た。後は、テントの設置・ライン引き・椅子とテーブルの設置だけだ。
BBQ用の肉と野菜は先生が既に手配済みだ。飲み物も、アルコール関係以外は俺が無料で手配した。その数なんと、100本!!


「後は生徒が帰ってから準備を始めましょう♪」


とりあえず話し合いは終わり、応接室でティータイム。ここの職員は、何かと気軽に声をかけて来る。黙って座っていたら、冷たい麦茶を持って来る。別にそういう心使いは無用なのだが、好意は甘んじて受ける。



キーンコーンカーンコーン・・・
《下校の時刻になりました・・・》

なんて放送が流れ、その10分後には、生徒はいなくなった。
ただいまの時刻、5時30分。門を閉め、準備に取り掛かる。


ライン引き・テント張り・テーブル、椅子の設置を終えた頃には、空はオレンジ色に染まっていた。


「終わった〜!!」


作業を終えた緋野さんが、小走りでグラウンドの中央にいる俺の元へと駆け寄って来た。


「お疲れ様」
「何を見てるの?」


グラウンドの中央、つまりセンターラインからまっすぐに見つめた視線の先にあるのは、サッカーゴール。

「いや、昔はここからあのゴールに向かってがむしゃらに走ってた。それがなんだか懐かしい・・・って気分かな?」
「ねぇ、よかったら少しだけサッカーを教えてくれない?」



突然の提案だった。グラウンドにいるのは俺と緋野さんの二人だけ・・・。先生はいつの間にかいなくなっている。


「少しだけなら・・・」


用具倉庫には鍵がかかっていない。おもむろに一つのボールを取り出し、グラウンドの中央で待っている緋野さんに向かい、ボールを蹴る・・・。


蹴り上がったボールは弧を描き、バウンドしながら彼女の足元へと転がっていく・・・。

ゆっくりと彼女の元へ歩いていたが、少し遠目の位置から、彼女は俺に向かってボールを蹴った。


転々とボールは転がって、俺がいる位置から少しズレた所に向かっていく。軽く早足でボールを追い、再び彼女にパスを出す。


「ねぇ」
「何?」


ボールを足で受け止めた彼女が声をかけ、俺も相手に聞き返す。


「黒崎くんって、好きな人はいるの?」
「いないよ」


ボールを蹴りながら、彼女は俺に問い、ボールを受け止めた俺も、彼女に言葉を返しながらパスを出す。

「気になる人は?」

「いない。緋野さんは?」
「いるよ!」

「・・・そっか」


少し浮かび上がったボールを足で止め、言葉を返した。



・・・少しだけ、ショックだった。ここ最近、彼女と過ごした時間を考えると、余計に・・・。でも、当たり前の事だと思う・・・彼女にだって、好きな人くらいはいるだろう。


「頑張って!」


今彼女にかけてあげられる言葉は、これくらいしかない。


「・・・ありがとう」


ボールを受け止めた彼女が、そう呟いた。そして、再びパスを出す。


「あのさ・・・」

「ん?」

「明日の試合、勝てるかな?」

「・・・わからない」

「私ね、願掛けしてるんだ」

「・・・うん」

「明日の試合に、もし勝つ事ができるなら、その時は告白しようって・・・」

「・・・」

「だから・・・」



真剣な表情だった・・・夕日を背にした彼女の顔なんて、よく見えない筈なのに・・・その瞳は、はっきりと見える。


「私は、勝って欲しい・・・」

「責任重大だなぁ」

「勝手な事だってわかってる。負けても別に、黒崎くんを責めたりしない」

「・・・緋野さんが願うなら、明日の試合・・・きっと勝つさ!」

「ありがとう!!」



気休めの言葉・・・。でも、微かにわかる彼女の笑顔は、今まで見たどんな笑顔よりも・・・ずっと綺麗だった。












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