コーチとして・・・(2/13)縦書き表示RDF


まだ恋愛には入りません。
コーチとして・・・
作:矢枝真稀



第ニ話 日常


ピリリリリッー♪


けたたましい電子音で、意識を覚醒させて、布団から伸ばした右手で音源を探り当てる・・・。

ピリリリリリッ♪ピリッ・・・。

布団からゆっくり姿を現し、半覚醒状態の意識の中で、ようやくベッドから身を起こす・・・。
昨日は学校の宿題を済ませた後に、サッカー部のちび達の保護者宛て用の書類を制作していて、ようやく完成させた時は、夜中の3時を過ぎたくらいだった。現在は朝の7時・・・4時間弱の睡眠に少しの不満を覚えつつも、着替えを済ませてリビングヘ。既に親父は会社に行ったようで、お袋が食器を洗っている所だった。
「おはよ・・・」
「はい、おはよう。ご飯はテーブルの上にあるからさっさと済ませなさい」

言葉通り、テーブルの上にはキチンと朝食が並べられていた。ふむ、今日はシンプルにトーストとオムレツか・・・。
いそいそと朝食に手をつける。うん、今日も美味い!
「ごちそうさま!」
「はい、どうも」

朝食を済ませて再び部屋ヘ戻り、昨日制作したプリントをカバンに詰め、俺は学校ヘと向かった。



県立宮ノ川高校・・・皮肉にも、スポーツ推薦で受けようと思ってたこの学校だが、事故で推薦は泡となって消えた。まぁ結局の所、一般入試で受かったのだが・・・・・・。
この高校はサッカーの名門でもあるが、県内ではバリバリの進学校としても有名である。俺は普通科で将来の事などあんまり考えないで過ごしているが、時折サッカー部の声が聞こえると、少し寂しい感情に捕われる・・・。

本当なら、俺もあの中にいるはずなんだ・・・。

朝からシリアスになってしまったが、今はそれほど気にすることも無く、正門を抜けて玄関から入る。本校舎は七階で構成されており、なんとエレベーターが完備されている。
いつもより早く学校ヘ着いてしまったために、学校自体が静まり返っている。クラスは五階・・・いつもならエレベーターで行くのだが、今日は気分的に階段から上ってみる。

「意外とキツイな・・・」

ようやく教室にたどり着く・・・いつもの見慣れた風景。俺の席は、前列の窓際だ・・・。
ここから見える風景が、俺は好きだ。グラウンドの向こうには、山々がそびえ立ち、季節の変化を色濃く映し出す。現在七月、青々とした木々が、今更ながら夏なんだと実感させる。

「おはよ!」
「お、おはよう・・・」

不意にドアの方から挨拶が聞こえ、俺は慌てて挨拶を返す。声の主は、緋野美咲ひの・みさきだった。俺と同じクラスの緋野は、女性にしては背が高く、肩下まで伸びた髪の毛を一つに束ねたポニーテールが印象の女の子。活発な性格で、男女問わず人気がある。
「今日は早いね?」
「あ、うん・・・なんかいつもより早く目が醒めたから」

どうも女の子と話すのは苦手だ・・・。何を話せば良いのか正直わからない。

「ねぇ、いつも何を見てるの?」

自分の席に座った緋野が、何気なくそう尋ねる。ちなみに緋野の席は、前列の中央・・・つまり、教卓の正面だ。

「ん〜・・・そう言われても、わかんないなぁ」
「わかんないって・・・」
「何て言えばいいかわからないけど、ここから見える景色が好きなんだ」
「そう?私にはありきたりな風景にしか見えないけど・・・」

外の方へ視線を移しながら、緋野は首を傾ける。
確かに、当たり前の風景・・・以前の俺も彼女と同じ感想を抱いただろう。ただ少し、何気ない風景を違った見方をすれば、俺のようにこんな風景でも好きになるんじゃないだろうか・・・。

何て力説する事も無く、俺は緋野の言葉にハハッと笑うだけだった。
それから外に向けた視線をカバンに落とす・・・おもむろに取り出したのは、深夜までかかって制作した保護者向けのプリント。一応文章に目を通し、誤字・脱字の確認。・・・うん、なんとか大丈夫だ。


それにしても眠い・・・。今頃になって極度の睡魔が襲い掛かる。
プリントを脇に抱え、窓から入る心地よい風に吹かれた俺は、その意識を夢幻に任せた・・・・・・・・・。

緋野の視線が自分に向いているとも知らずに・・・・・・。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「・・・・・・くん」

「・・・・・・崎くん・・・」

「黒崎くん!」
「ハイッ!!・・・って、あれ?」

反射的に返事をして立ち上がったが、あれ?いつの間にか友達が来てる・・・しかもみんな笑ってるし・・・・・・・・・ハッ!なんか物凄く視線が突き刺さってるんだけど・・・。

「起きたか?黒崎〜♪」

もんのすごい視線を向けていた主が、無気味に笑っている。それは、担任の村瀬由香むらせ・ゆか先生。現在独身の26歳・・・美人で言いたい事はずばずば言う性格の持ち主。きっと、それが災いして彼氏が出来ないのだろう・・・・・・。
「なんか言ったか?」
「いえ、何も・・・」

マジで冷や汗をかいた・・・。この人、心を読めるんじゃないのか!?
などと考える俺の顔面に・・・。

スコーンッ!!!

「いってぇ・・・っ!?」

チョークが額に命中!・・・さすがは『スナイパー由香』、狙った獲物(生徒の額)は逃さない・・・。ちなみに『スナイパー由香』は、俺の友人が付けたあだ名である。

「黒崎〜♪今は休み時間じゃなくて、な〜んの時間だ〜?」
「・・・由香先生の、楽しい数学の時間・・・かな〜?」
「わかっとるんなら、さっさと教科書開けやーっ!!!」
「は、ハイッ!!!」

慌てて教科書をかばんから取り出し、隣の席の女の子にページを聞いて、指定された所を開く。・・・ん?そういや先生に彼氏が出来ないのは、こういった暴言が原因・・・・・・

「く〜ろ〜さ〜き〜・・・」
「ひいぃぃぃ〜っ!!!」



校舎全体に、悲鳴ともいえる断末魔が聞こえたのは、言うまでもナイ・・・・・・・・・。












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