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パルクール・サバイバーRe:System 作者:桜崎あかり

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エピソード4


 4月1日午前11時、北千住駅からカバン片手に出てきた人物、それは黒い制服姿の小野伯爵だった。
汗をかいているような表情は見せていないが、電車の中で視線の集中を受けたのは言うまでもない。
カバンの中身は黒マントなのだが、これは竹ノ塚駅にガーディアンがいた関係上で隠していた物である。
しかし、北千住駅で改札を出る時にガーディアンと目があってしまい、そこで身分証明を求められた。
「お手数ですが、身分証明のご協力をお願いします」
 白い提督服を着ており、どう考えてもガーディアンなのは明白。
彼らは一般人には興味を示さず、コスプレイヤーと思わしき人物をピンポイントに調べているようだ。
その場から足早に立ち去るのは簡単だろう。
しかし、そのようなあやしい行動をすればガーディアンに対して抵抗を見せたとして拘束されるのは目に見えている。
特に危険物を輸送している訳ではないので、ここは素直にガーディアンの指示に従う事にした。
「ここへの目的は?」
 ガーディアンから理由を聞かれる。下手に目的を言ったとして、疑われるのも確実だろう。
簡単に話したとして、それであっさりと解放するかどうかは別問題。
そうした状況を踏まえ、数秒の間を置いて理由を言うのだが……。
「アンテナショップの――営業です」
 アンテナショップへ行く事自体は間違っていない。
しかし、勢い誤って営業と言ってしまった。ショッピングと言えば、問題はなかったかもしれない。
下手に訂正したとしても、信じてもらえるとは思えないので、ここは様子を見る事になった。
「あの辺りは色々とメーカー本社が集まっている。大変だろうが、頑張ってくれ」
 肩を軽く叩かれ、あっさりと解放された。向こうは何の疑いも持っていない為、上手くごまかせたのだろう。
言い間違いだったのに、大丈夫なのだろうか。そんな不安は無駄であった事を、駅を出てすぐのモニターが物語る。


 小野伯爵が駅を出てすぐ、目に入ったのはパルクール・サバイバルトーナメントのレースを伝えるモニターだった。
そこには、周囲がパワードスーツの様な重装備をした人物が映し出されている。
彼らが装備しているのはランニングガジェットと言う専用のガジェット。違法ガジェットかどうかは――見た目では分かりにくい。
実際には装備するガジェットもあるが、この場合は操縦という言葉が近いのかもしれないだろう。
「一人だけ、違う装備の人物が……」
 小野伯爵が驚いていたのは、その中で軽装備をしたピンク髪の女性が混ざっていた事。
パルクール・サバイバーが新ルールになってからは、あり得ない光景でもあった。
「あの選手、本気か?」
「これはテレビのスポーツバラエティー等ではない。ARゲームだと言うのに――」
 それを見ていたギャラリーの男性も、彼女の装備に関して疑問を持っているようでもあった。
軽装備のARゲームと言うのはゼロではないが、それはあくまでもあまり大きな動きをしないジャンルに限られる。
パルクール・サバイバーは、重装備が推奨と言うよりも――ライセンスが必要な大型ガジェットを運用する事が必要とも言われているARゲームだ。
一体、どういう経緯があってこの装備で挑もうと思ったのか?


 午前11時頃、一人の女性がパルクール・サバイバーで使用されるコース上のスタートラインに立っていた。
今回のレースに関しては一部エリアの中継映像でも流れており、注目度も高くなっている。
有名ランカーも数人出場しているのも、その注目度を上昇させている証拠だろう。
しかし、今回のレースに限れば……ランカー以上に注目されている選手が1人だけいたのである。
その人物とは、58番というゼッケンの女性選手である。見た限りではアスリートにも見えるのだが――。
彼女の装備は足にプロテクター、背中にガジェット用のエネルギーユニットという最低限装備は確認されている。
最低限の保護プロテクターとARガジェットの電源ユニットは必須であり、未装着が確認されると即失格と言うルール、それが新レギュレーションにもなっていた。
しかし、彼女は最低限装備以外では、強化ゴムのライダースーツに58というゼッケンが目立つ。
数字には特に意味はないが、ネット上で注目を浴びている数字なので利用したという考えだろうか?
「これがパルクールのコース……」
 軽い準備運動を始め、コースを実際に走る気満々な表情を見せる。
周囲のギャラリーは応援と言うよりも、動揺と言う表情をしている事に周囲を見回した彼女は疑問を抱いていた。
中には、写真を撮ってネット上へ拡散しようという動作をしている人物もいる。
しかし、レース中に通常の携帯やスマートフォンはエリアによって電波障害が発生し、使用する事は出来ない。
「どう考えても、あの装備で走るのには無理があり過ぎるだろう」
「スタントマン出身やアスリートでも――あれだけの軽装で走るのはあり得ない。別のARゲームであれば、話は別だが」
 周囲の観客だけではなく、スタートラインで準備をしていた選手も心配をしている。
「怪我をしても自己責任だが、それはランニングガジェットを使用しての話。あのような軽装備で走るなんて……ルール変更を知らないのか、あるいはパルクールとサバイバーが違うのを認識していないのか」
 彼女の背後にスタンバイしている重装備ガジェットの男性選手も、彼女を心配している。
しかし、走るのを止めるのはスタッフが決める為、選手が他の選手を止める事は出来ない。
選手が申告をしてチェックをする事も可能だが、それは別のARゲームでのケースであり――パルクール・サバイバーでは対象外となっている。


 午前11時5分、ジャージ姿の男性スタッフが彼女の元にやってきた。どうやら、装備に関する事情を聞くようである。
他の選手も、これに対しては色々な反応をしているのだが、大半がレギュレーション違反で失格の可能性を示唆していた。
余談にはなるのだが、この中の選手で軽装備に関して疑問を持つ選手はいるのだが、通報まで行った選手が疑問を持った全員とは限らない。
だからと言って、通報した人物が0人と言う事はないが――。
「この装備はアンテナショップで購入した物よ。特に違反になっているような物ではないわ」
 女性の方はジャージのスタッフに対して、説明を行う。
スタッフはレギュレーション違反を指摘したのではなく、安全を保障できない事に関して説明をしているようである。
「ガジェットに関しての違反は問題ありません。しかし、その装備で走る事を認める訳には……」
 男性スタッフの一人が説明している途中、別の誰かからの無線連絡が入る。
どうやら、無線の人物は運営と名乗っているようだが――。
「……分かりました。こちらとしては推奨できませんが、そちらが良いというのであれば」
 無線を受けたスタッフが他のチェックを終了したスタッフも呼び出し、何かの打ち合わせを行う。
『58番の選手に関して審議を行いましたが、失格には該当しないという判断となりました』
 この放送を聞いた周囲は歓声に沸く一方、本当に走らせて大丈夫なのかという不安も残る。
『繰り返しお知らせします。58番の選手に関しては、条件付きのレース参加を許可しております――』
「とりあえず、こちらだけでも被っていただきたいと言う事ですので、メットだけでも……」
 男性スタッフは彼女にレンタル用のメットを貸し出し、それを被る事を条件に出場を許可する事になった。
それが、運営からの参加条件でもある。今回貸し出したメットはレンタルと言う触れ込みだが――システムは最新型でもあった。
形状はSFチックだが、バイクの改造メットと言われても――違和感はさほどないだろう。
「さて、始めますか」
 準備運動後、GOサインも出ていない中、彼女は唐突に走り出す。
しかし、フライングの判定をされ、仕切り直しと言う事になった。
「いきなりフライングか」
「これが競艇だったら、フライングの地点でレースに参加できなくなるだろう」
「しかし、あの走り方はアスリートの走り方だ」
「アスリート? だったら、フライングがどういうものか分かるはずじゃないのか?」
「他のスポーツ出身者がサバイバーへ参加する例は、ごく最近になって目撃されているが……感覚を掴めていないのだろう」
 周囲も彼女のフライングに関して疑問視する声がある。
彼女がバイザーに慣れていないだけか、それとも別の理由か?
「原則、ランニングガジェットを扱う際はライセンスが必須となるはずだ。彼女は大丈夫なのか?」
「ランニングガジェットに関してはライセンスが必須。しかし、パルクール・サバイバーでは軽装型ガジェットでも安全性が保障されていれば、特例として認められるらしい」
「禁止されているのはガジェットなしのランニングだけか」
「事実上、そうなるな。ガジェットなしであれば、単純に普通のパルクールであり、サバイバーではないだろう」
 そして、ギャラリーの方もフライングに関して落ち着いた辺りで、再スタート。
その時には、既にスタートの感覚を覚えたようでもあった。


 そのスピードは100メートルを8秒切れるのではないか――という速度。
そのスピードに周囲が驚くような物だった。ガジェットの方でも時速30キロ辺りならば標準で出せる。
 しかし、生身でスピードに耐えられるかと言うと別の話になるだろう。
その為のランニングガジェットという見方がネット上の意見だ。ARガジェットの中には、ミサイルの爆風にも耐えられるというガジェットもネット上の噂では存在している。
コースに関してはストレートコースと呼ばれるもので、1キロのハードル走という例えがされるようなレースだった。
「ハードル走と言っても、何処にハードルが?」
 男性ギャラリーの一人、新聞記者と思わしき人物が疑問に思う。
確かにコース上で障害物が設置されているような事はなく、見えない罠――ステルスと言う訳でもない。
「ハードルの代わりになっている物、それはアレですよ」
 ギャラリーに姿を見せた小野伯爵が指を指す方向、そこには3階建ての中規模スーパーだった。
それを見た新聞記者は驚きのあまりに言葉が出ない。
「パルクールでビルを登るようなプレイは……協会でも疑問視しているようですが」
 新聞記者の問いもあったのだが、小野伯爵は別の場所へと向かう為に記者の前からは姿を消す。


 数分後、この様子はネット上に動画でもアップされるようになり、パルクールニュースでも取り上げられた。
【謎の女性ランナーがパルクールコースを走る!】
【非公認の装備? マラソンランナーの様な格好のパルクールプレイヤーを発見】
【違法ガジェットの可能性? 女性ランナーの無謀な挑戦】
 どの一行ニュースでも、同じような事を書いているように見える。
彼女は強化ゴムのスーツは着用していたが、パルクール・サバイバーで使用するような装備は使用していない。
これに対し、ネット上では炎上を誘うような発言を含めて、さまざまな意見が相次いだ。
【ガジェット未使用でパルクールのコースを走ってもいいのか?】
 つぶやきサイトでも、このようなつぶやきが目立ち始める。
パルクール・サバイバーで本場のパルクールに近い装備でコースを走る事は問題ないのか、という内容が大半だった。
【練習コースならば問題ないだろう】
【しかし、彼女は公式のコースで走っていた。ネット上の動画でもコースの特定がされている】
【これは違法行為を助長させる可能性があるだろうな】
【一昔に問題視されていたアクロバットか】
【違法ガジェットを使っていないだけ、若干の特例が認められそうだが―超有名アイドル勢が黙っているとは思えない】
【今回は特例として運営が認めたという現地の話もある。おそらく、ガジェットのテストも兼ねていた可能性は否定できないだろうな】
 その他にも、彼女が超有名アイドル勢に狙われる――。
運営もチートだけではなくアクロバットにも厳重なペナルティを入れてくる可能性がある等が言及された。
【あの人物、見覚えがある。確か、陸上競技でもトップランナーと言われていた可能性がある人物だ】
 ある人物が流したつぶやき、それはコースを走った人物を知っているような素振りを見せる物だった。


 午前11時30分頃、ノブナガの一件やランニングガジェットなしの生身サバイバーもネット上で話題になっている中、蒼空あおぞらかなでは最短ルート等を利用して北千住駅近辺に到着した。
ARバイザーの時計は午前11時30分辺りを表示している。
周囲が蒼空の姿を見て驚くような気配はなく、これが日常なのかと思わせる位にはパルクール・サバイバーに慣れてしまっている可能性も高い。
ARゲームは非日常とも言える光景であり、WEB小説で言う所の『新日常系』と類似する程の世界観の違いがあった。


 あの場所から15分で到着した事に蒼空は驚くが、それだけレンタルしたガジェットの性能が凄い事の証拠なのかもしれない。
このガジェットに関してはレンタルでも一般的なものではなく、特定人物用のカスタマイズがされていた事も短時間で到着できた可能性の一つ……なのだろうか。
「この辺りで間違いはないが、それらしい姿は全く見えない」
 周囲の様子を見ていた蒼空だったが、バイザーには別のアラートが点灯している。
彼自身が放置していた訳ではなく、マニュアルのチェックし忘れが有力だった。
そして、バイザーに表示されたメッセージを見て蒼空は別の意味でも驚く。
表示されていたのは今ではなく、数分前からの表示と言う可能性もあったからだ。
《エネルギー残量低下中―アンテナショップ等で補給をして下さい》
「エネルギー切れ? このタイミングで」
 蒼空が周囲にアンテナショップがあるか、慌ててナビで調べ始める。
しかし、ナビを使用するにもエネルギーを消費する為、確実に残量が減っているのが現状だ。
サイトの情報ではARガジェットで使う電力は、基本的に太陽光を利用して補助電源に使用するエネルギーを常時充電していると書かれていたが、太陽光システムの故障だろうか?
「あの看板か?」
 ギリギリのタイミングでアンテナショップを発見した蒼空は、早速ショップへ駈け込んでエネルギーの補給をしようと店員に話しかけようとする。
しかし、大型ガジェットを装着していると言う事もある為、ガジェットをパージしてから店内へ入る。さすがに駆け込みは店内の混雑具合から、出来そうにないが。
パージしたガジェットは車で言う駐車場スペースに配置する。盗難防止と言う部分は、ARガジェット的な部分でも問題はないのだろう。
仮に道路へ放置していると、放置ガジェットと判定されてレッカー移動される可能性もあったからだ。
実際にはレッカー移動はされる事はないようだが、放置ガジェットに関してはショップから警告が来る事もあるらしい。
「すみません。ガジェットの充電をお願いしたいのですが――」
 蒼空の一言を聞いた男性店員からは意外な答えが返ってきた。
何と、基本的には晴天であればエラー表示が出る事はまずないという。
雨天であってもわずかな光で電力を生み出せる事もあって、その辺りは問題がないらしい。
しかし、問題は別の所――レンタルガジェットと言う箇所にあった。
「ランニングガジェットを含めたARガジェットのエネルギー補給は、太陽光システムによって自動的に行われます。このエラー表示はレンタルガジェット特有の物ですね」
「レンタル特有ですか?」
「レンタルの場合、自動補給はされるのですが消費量が高い場合、補給が追いつかずにエネルギー切れを起こす事が稀にあります。こちらでガジェットの調整をしておきますので、別のガジェットをご使用ください」
 店員の説明を聞き、使用していた残りのアーマー類を分離、その後にガジェットを含めた一式を店員に渡し、用意してくれた別の汎用型ブースターとガジェットを装着する。
大型ガジェットに関しては、汎用のパワードスーツを使って店員が充電専用のスペースへと持ち運ぶようだ。
まるで、レッカー移動を思わせる光景だが――。
「延長料金は特に発生しませんので、その辺りの問題はありません。このガジェット自体、ショップカスタマイズによる物なので―」
 店員も延長料金は発生しないと言っているので、用意してくれたガジェットの方は遠慮なく使用する事が出来る。
しかし、前のガジェットと比べると機能的な部分では数段劣る可能性は否定できない。
実際、先ほどまでのガジェットがワンオフ系に対し、こちらは市販タイプとも言える量産型だ。
量産型ガジェットは致命的な不具合が発生しないという利点もある一方、ハンドメイドやワンオフと言ったガジェットには機能的な部分や出力等で難点が多い。
ワンオフガジェットが強いのは、どのゲームも一緒だが……廃課金が全てというゲームバランスが組まれている作品は、ごく一部にすぎないだろう。
それを踏まえると、パルクール・サバイバーは課金という点でバランスは取れている。
課金と言っても、アーケードゲームで言う所のクレジットを消費するタイプなので――アイテム課金の様なタイプとは違うかもしれない。


 アーマー装着後、先ほどのナビがリセットされているか心配だったので、現在のナビを立ち上げなおす。
メモリーに関しては別扱いで受け取ったプレートの方に保存されているので問題はないらしく、再び設定すると言う事はないようだ。
「引き続き追跡を―?」
 蒼空がナビを再チェックしようとした際、画面にはニュース速報が表示されていた。
そこには有名ランカーの速報も出てくるのだが、その中でも注目度が大きいニュースは全く別の物である。
《ノブナガ、1週間以上の沈黙を破ってパルクール・サバイバルトーナメントへ参戦か?》
 ニュースの閲覧数が多かったのは、ノブナガがパルクール・サバイバルトーナメントへ参戦したニュース。
その関連付けがされている記事には予想外とも言える物もあった。
「この人物は、あの時の―」
 蒼空が驚いたのは、別の記事に載っている写真の女性が先ほど遭遇した人物とそっくりだった事だった。
《パルクールプレイヤーか? 謎の女性ランナー出現》
 それとは別に話題だったのは、パルクール・サバイバー用のコースに現れた謎の女性ランナーの記事である。
「この装備で、パルクール・サバイバーに挑むと言うのか?」
 蒼空も自分の装備と比較して、彼女が写真で装備しているガジェットは尋常ではないと驚く。
全裸で走れば警察に逮捕されるが、それとは別の意味でも危険であるのは間違いない。
おそらく、この装備はパルクールであれば相当な事がない限りは協会でも大きく取り上げないのだろう。
しかし、サバイバーであれば話は別となるが――ARゲームで軽装備プレイが懸念されている時期なだけに、反応は賛否両論だ。
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