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パルクール・サバイバーRe:System 作者:桜崎あかり

Last System

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ランカー王決定戦・中盤


 決戦当日の5月28日午前10時、遂にレースが開始されようとしていたのだが、佐倉提督の出現と彼女の提案により審議に入る。
「結局は20人か」
「夕立の棄権は回避されたが、予想外の展開とも言える」
「定時に始まるレースが珍しいのだが、予想外の理由でレース開始が遅れるとは」
「このレースでランカー王が決まる。それを1つの反則や不正で全てが台無しになる事は避けたいのだろう」
 周囲もレース開始が遅れる事に関しては慣れている為か、あまり苦情等が飛ぶ事はなかった。
その間に、ガレス提督の帰還指示があり、花澤提督と中村提督も草加駅に姿を見せる。


 午前10時1分、周囲の大型モニターに姿を見せたのは覆面バイザーをした提督だった。彼の姿を見た中村提督は別の提督と思っていたが、バイザーのデザインは大きく異なる。
『西新井での開催予定から突然の会場変更に関して各方面への通達が遅れ、皆様には大変なご迷惑をおかけしてしまいました。この場を借りて、お詫びをいたします』
 いきなりの謝罪から始まり、この光景を見たギャラリーも驚きを隠せない。確かにホームページ上では会場は西新井と記載されていたのだが、会場が草加市へと変更されたのは当日の午前9時である。
『このような事になってしまったのには、一連のマスコミ報道、アフィリエイト系のまとめサイト、心ないブラックファンによるつぶやき、不特定多数に送信されたスパムメール――そうした我々の意図しない場所で、ランニングガジェットの安全性を否定する発言があった為です』
 覆面の提督は謝罪の後に話を続け、実況の太田さんも入るタイミングを待っている状況である。
しかし、このまま続けた方が良いと判断し、彼の話が終わるまでは沈黙する事にした。
『確かにランニングガジェットはパルクール・サバイバーを安全にプレイできるように開発された物であり、アクロバット集団による事故を防ぐ為の物でした。しかし、そうした意図が一部の勢力によって目的のすり替えによるネット炎上に利用されるのは我慢できない』
 覆面提督も悔しさを押さえて話をしている。それは、彼が右手に拳を作った状態で話をしている事からも分かるかもしれない。
なお、マイクがなくてもバイザーに搭載された拡声器機能等で音を拾っている為、彼が小声で話そうが草加市全体で中継されている放送には影響がない。
『そこで、ランニングガジェット開発に関係した自分が直接発言する事で、事態の収拾を考えた――』
 しばらくして、彼は左手でバイザーのボタンに手を触れた。ボタンが光り出したのと同時にバイザーが変形し、すぐに外せるような状態になった。
そして、バイザーを脱いだ彼の顔を見て驚きの声を上げたのは――。
「遂に本人が姿を見せたか」
 正体を見て、予測できたような様子でガジェット調整を続けたのは小野伯爵である。彼は何かを知っているようにも思えるが……。。
「遂に……正体を見せたか。小松提督――」
 一方の花江提督は若干落ち着いているように見える。
彼の顔を直接見た事はないが、あまり顔を見せるような人物ではない事は知っていた。
『私の名は小松提督――と言う事にしておいて欲しい。役職はサバイバー運営の技術スタッフで、主にランニングガジェットの開発に関わっていた』
 外見を見る限りでは30代前半に見える黒髪の男性、イケメンとは言えないような科学者的な顔で、左目だけが赤になっているのが気になる。
『しかし、一部の私利私欲を求める政治家や投資家ファンがランニングガジェットの技術に気付き始め、自分達で独占しようと考えた。ARゲームの技術が戦争などの軍事転用を禁止しているのはご存じだろう』
『そして、その禁忌を破ろうとした者に対しては重い制裁が加わる事も……ARガジェット取得の際に何度も聞かされる事になる以上、知らない者はいないはずだ』
『その一方で、一部の政治家はネット上の炎上ブログサイトまとめを発見し、この勢力を味方につけようと考えた。そして、起こった事件が上条静菜の関わったAI事件である』
『AI事件に関しては色々な解釈もあり、考え方によっては与党の無能政治家が招いた失態、超有名アイドル勢による有名グループの魔女狩りという見方もあるだろう』
 小松提督の話を聞いていた一部のブラックファンは「超有名アイドルこそが正義であり、悪はそれを弾圧しようとする勢力」と言う者もいた。しかし、そう言った言葉が小松提督に届いているかと言われると疑問が浮上する。
そして、次に映し出されていたのは西新井だった。ビルの周囲にはマスコミと思われる勢力が、サバイバーのアンテナショップに集まっているのが分かる。
それに加え、彼らがパブリックビューイングに訪れた観客に対し、インタビューを行っているようにも思える。しかし、実際に行われていたのは全く違う物だった。
『自分がいる場所、それは本来であれば会場になる予定だった西新井だ。一連の事件やネット上のつぶやき等の影響でパブリックビューイングを楽しみにしている一般客にも迷惑がかかっている』
『こうした光景を見せて、マスコミに対して過度の取材が超有名アイドル勢の宣伝になると言う事を啓発する為――という目的はない。フジョシ勢力や別の夢小説勢であれば、自分達の活動を告知する為の宣伝に利用するのは明白だが』
『こちらとしても、これ以上話したとしても理解はされない可能性が大きい。したがって、私の話したい事はここで終わりにする』
 話の方は終了の様だが、それとは別の説明をする事を付け加え、太田さんの出番は減りそうな予感がする。
『……ここからは、今回使用される草加市コースについてだ。コースの説明は太田さんが行ったので割愛する。私が行うのは、補足説明だ』
 補足説明と聞いて、周囲は驚きの連続と言う表情をしている。次に表示されたのは、草加市を上から見た地図と正規ルートをたどっている赤い矢印だ。
『赤い矢印はショートカットを使わなかった場合の通常ルートになる。それ以外のルートはナビによる検索も可能だが、基本的には自分達で見つけて欲しい』
 小松提督の一言を聞いた選手が動揺をする。これも提督にとっては狙いの可能性もあるが、同じ提督である佐倉提督もコース取りに関して不安があった。
『コース取りをするにあたって、俗に言う建造物バリアは展開済。ただし、ナビで侵入不可と表示がある建造物へガジェット装備状態で進入するのは禁止となる――』
 この他にも解説を行い、武装に関しては使用可能だが過度なプレイヤー攻撃は禁止、ガジェットの耐久値が0になった場合は強制的に機能停止で失格、ランカー王名物の回復ユニットは配置済などのルールが説明された。


 午前10時10分、小松提督の説明も終了し、遂にレースが始まる。
『大変長らくお待たせしました! これよりランカー王を目指す出場選手の紹介を行います』
 そして、最初に入場したのは軽装のアンカーガジェット、黒マント、更には海賊を思わせる提督服の女性、佐倉提督だった。彼女の使用するのはバイザー等の大型ユニットは使用しないタイプである。
『サバイバー運営には所属しない謎の提督、ワイルドカードでランカー王出場を決めた――佐倉提督!』
 太田さんの煽りは格闘技中継で鍛えられている影響か、ある意味でも風物詩となっている。紹介された方は誇りに思っている人もいれば、あまりの恥ずかしさに赤面する人もいる。佐倉提督の場合は前者のようだ。
「このレースは、コンテンツ流通の未来を変える――そう信じている」
 佐倉提督は笑みを浮かべ、1番と書かれたラインに立つ。1番だからと言って、順位的な意味やポールポジションと言う意味はない。
先頭のグループに配置されたのだが、パルクール・サバイバーでは先頭グループでも特にアドバンテージが取れる位置ではないからだ。
『続きましては……箱根の新生山の神、まさかの滑り込みで出場――神城ユウマ!』
 次に登場したのは、秋月彩と同じような軽装ガジェットにホバーボードと言う装備で挑む神城ユウマ。当初は走る事も踏まえ、ホバーボードや大型ガジェットは使わない予定だったのだが……。
「サバイバーにはサバイバーの流儀がある。剛に入れば剛に従え……と」
 神城はペース配分を考えてのホバーボード装備だった。ペースを間違えてスタミナを使いきって順位を落とした事は、ランカー王への滑り込みを決める前に何度があったからだ。
『こちらも滑り込み枠。プロフィールは非公開、その実力は未知数ながらも10強に到達したジャイアントキリング――小野伯爵』
 3番目に姿を見せたのはエクスカリバーというコードネームのランニングガジェットに搭乗する小野伯爵。彼も滑り込み枠なのだが、それ以上に実力も兼ね備えるジャイアントキリングでもあった。
エクスカリバーはワンオフ系統ではなく、俗に言う試作型ガジェットの一種だった。ソード系ガジェットの分離に位置し、その能力はランカー王に出場しているガジェットの中ではトップクラスだろう。
「コンテンツビジネスを守る為にも――」
 そして、言葉少なげに小野伯爵はスタートラインへと向かう。
『佐倉提督の提案により、特別枠の参加になったのは――ランカー王本命とも言える人物、夕立!』
 5番目に入場したのは、おなじみのパワードスーツベースのガジェットを装着した女性ランカー、夕立である。一時は出場が危うい状況だったが、何とか出場出来るようになった。
彼女のパワードスーツはランニングガジェットの原点となった物であり、その能力は公式PV等でも実証済みだ。
「佐倉提督の狙いは分からないが、これはチャンスなのかもしれない。他のネームド提督が出場しない以上、ライバルランカーはいないも同然」
 夕立は今回の出場出来たチャンスを生かし、何とかランカー王になろうと考えている。それが、自分の今まで戦ってきた理由の一つだから。
『こちらも陸上出身者の登場です。軽装ガジェットでのデビューは衝撃的……秋月彩!』
 10番目に呼ばれたのは、軽装ガジェット+ホバーバイクというガジェットで挑む事になった秋月だった。この装備には今までの装備が装備だっただけに周囲も驚く。
「他のアスリート出身者もガジェットを使っている以上―体力の温存は必須ね」
 秋月は神城ユウマもガジェットを運用している点を踏まえ、別のレースで使用したホバーバイクに乗ってスタートラインへ。
『オレンジ色のガジェット、スレイプニールはスコアキラーの異名を持つ――花江提督!』
 11番目に呼ばれたのは、スレイプニール改に搭乗する花江提督。装備に関しては持ち込みフリーだが、あまりに重装備でもスタートダッシュを決める事が出来ない為か、持ち込みは控えめだ。
「黒幕の方は考えるべきではない。今は、レースに集中しないと」
 花江提督の次に姿を見せた人物、それは予想外とも言える人物だった。
『今回、別の選手が棄権した為、推薦枠として特別エントリー……と言うよりも、辞退予定を取り消しての参戦、加賀!』
 花江提督以上の歓声である。当初は辞退予定だったのだが、ある人物が参加に関して説得した為、急きょ参加する事になったのである。
「これも宿命と言うべきなのか……」
 加賀は弓主体のガジェットではなく、今回に限って言えばガンビット型のユニットをバックパックに装備した重装甲型である。
ガンビットのシステムは、ドローンを脳波で操作出来るようにしたというSFに片足を突っ込んだような物だが……。
『このレースの本命が登場です。彼女に多くの言葉は不要! 阿賀野菜月!』
 17番目に呼ばれた阿賀野菜月は、超高速タイプのガジェット+パワードスーツと言う重装備で現れる。これには周囲も驚いているが――。
『最後に紹介するのは…前代未聞のニュージェネレーションが姿を見せる。その名は、蒼空かなで!! 2枚目のワイルドカード枠での出場ですが、最終的には11位まで上り詰めると言うランキング的にも油断が出来ません!』
 太田さんのテンションも最高潮、そこへ姿を見せたのはアカシックレコード搭載型のランニングガジェットで姿を見せる蒼空かなで。
「ここまで到達した以上、出来る限りの事はするまで」
 そして、かなでが5番のスタートラインに立つと、レースの方が間もなく始まるようなオーラが放たれているような展開となった。


 午前10時5分、大方の予想通りとも言える展開が谷塚駅近辺で展開されていた。
【ARバトルロイヤル――モードスタンバイ】
 そこにはジャンヌ・ダルクと呼ばれる人物のつぶやきに呼応したブラックファン200人近くが、歩行者天国状態になっていた通りを占拠していた。
理由は人それぞれだろうが、アカシックレコードで言う所の悪目立ち勢力やアイドル投資家の様な目的で集まった連中なのは間違いない。
「我々の目的は――」
 アイドルグループの応援法被を着た男性ファンに対し、問答無用でシールドビットで攻撃を加えるのはランスロットである。
「これがボットアカウントの置き土産と言う事か――」
 事前にバトルロイヤルの申請を行ってバトルフィールドを形成、今回の騒動を『ARゲーム内でのバトル』という扱いにした事で、ARゲームが犯罪等に悪用されると言う風評被害を封じる狙いが彼にはあった。
おそらく、こうした考えもご都合主義等でネット上のまとめサイトで言及される可能性があるのは避けられない。しかし、そうした周囲の雑音よりも先にランスロットには守るべき物がある。
「自分が守るべき物、それはアイドルと言う単語に対する風評被害を広げない事だ!」
 ランスロットの発言を聞き、周囲のブラックファンは動揺する。中には「お前が言うな!」とランスロットに直接襲いかかる者もいる。
「お前が言うな……と言ったな? これを見て、同じ事が言えるのであれば言ってみろ!」
 ランスロットがバイザーを開き、その素顔をブラックファンに見せる。
彼の正体、それは有名アイドルグループに所属していたアイドルだったのだ。
「馬鹿な――信じられない!」
「お前のいたグループは解散したはず」
「元アイドルがアイドルファンを物理で押さえつけると言うのか?」
「アイドルと言う単語は超有名アイドル以外が使うと、商標権侵害に――」
「超有名アイドルこそ神だ! それ以外はアイドルを騙るなりすまし―偽者だ!」
 やはりというか、予想通りの反応である。
中には「お前達のせいで男性アイドルと夢小説勢が切っても切れない関係になった」というネットのつぶやきを鵜呑みにしたような発言もあった。
「やはり、これ以上の対話は不要と言う事か」
 連携の取れていないブラックファンを確認したランスロットは、上空に向けてビームライフルを撃つ。
その後、ビームライフルは途中に配置されていたリフレクターに反射し、拡散ビームとなって周囲のブラックファンに対して次々と命中してく。
「リフレクタービットの原理だと?」
 周囲のブラックファンは回避するのがやっとで、直撃は免れたものの大ダメージを受けた者が多い。
中には、一撃だけで機能停止したガジェットも存在する。おそらくは、そのガジェットはチートガジェットである可能性が高いだろう。


 午前10時6分、リフレクタービットが朝飯前と言わんばかりの武装をランスロットは用意していた。
それは、複数のブレードを合体させたランスロットの必殺技とも言える武器である。
「エネルギー供給の関係で、連続では使用できない――ならば!」
 ランスロットが剣を構え、突撃のモーションに入る。そして、周囲はざわつき始めた。
「そのポーズは―!?」
「まずいぞ! 何としても、あの技を阻止しろ!」
「あのポーズで周囲からBGMでも流れ出したら――」
 ある人物の余計な一言で、突如としてスーパーロボット物で定番の必殺剣のテーマが流れ出す。
これを流したのは誰なのかは不明だが、ランスロットは「余計な事」と考えていた。
「アイドルと言う単語の風評被害を解消する為には、このような手を使っても意味はないという事か」
 これで自分の考えが甘かった事を確信、先ほどのシールドビットを戻し、別ガジェットのガンビットも背中のバックパックに戻る。それと同時に突撃を開始――この一撃は無数のブラックファンを3分も絶たない内に片づけた。


 午前10時8分、集まっていたブラックファンを全て沈黙させたが、引き渡すにしてもコンテンツガーディアンの活動範囲外らしく、ガーディアンの姿は確認できない。
「これは――派手にやった物だな」
 再びバイザーを閉じて素顔を隠すランスロットだったが、目の前に現れた男性はランスロットに用があるような気配だった。
「まさか?」
 ランスロットは、目の前にいたブラウンベースのコートを着た人物が誰か分からなかった。しかし、その正体は意外な人物でもあった。
「力による制圧――それはいつの時代でも、どのような形に変わっても繰り返されるべきではない」
 その人物の正体は、何と霧島だったのである。
コートの下はガジェット用のインナースーツを着ているのだが……ここでガジェットを使う気はないようだ。


 午前10時12分、道路を通り過ぎるヴェールヌイをランスロットが目撃する。
しかし、彼はヴェールヌイことガレス提督を止めるような事はしなかった。
「レースに間に合えばいいが――」
 運営に直接連絡を行えば早いのだが、今回に限っては直接の方が早い。
そう考えたガレスはヴェールヌイのハイスピードモードで草加市へと急ぐ。
これだけのスピードを出せば、周囲への被害も半端ではない程の衝撃もあるはずだが――それでも衝撃波等が出ないように設計されているのが、ランニングガジェットだ。
科学検証を丸投げしたようなコンセプトで生み出されたガジェットは、一見すると魔法等と見間違う可能性がある。
しかし、この日本には魔法と言う概念は存在しない。
あるとしても、それは爆発的に進歩したゲーム開発技術。発電に関しても太陽光を含めた自然エネルギーを使用した物で、賢者の石などを利用した発電ではない。
災害救助という目的で開発されて放置された技術をアレンジ、体感型ゲームをスポーツと見間違うほどの段階まで進化させた物……それが、パルクール・サバイバーの真相である。


 午前10時15分、草加駅のスタートラインに突如として姿を見せたガジェット、それは迷彩色が目立つ砲台を改造したようなガンビットを2つ、提督服に何処かの司令官を思わせるような帽子を被った金髪の人物――遠藤提督である。
「レースを始める前に、あなた達に一つだけ言っておきたい事があるわ」
 それを聞いた他の選手は身構える。この期に及んでレースの遅延なのか――。
しかし、遠藤提督が口に出した一言はレースの延期等とは全く違う物だった。
「ここに来ている観客、他の提督も聞いて欲しい。先ほど、パルクール・サバイバーに対して買収を持ちかけてきた投資家がいる」
 まさかの買収話に空気が重くなる。
もしかして、スポンサー制度が強化されるのか、それとも――?
「パルクール・サバイバーの運営には資金が欠かせないのは事実だが、今回の買収案に関しては賛同できる物ではないと判断した。パルクール・サバイバーは個別スポンサー制度を続けるが、今まで通りに実施されるので安心して欲しい」
 一時は買収によって自由度が奪われると考えていた周囲だったが、遠藤提督の話を聞いて周囲は再び歓喜に包まれる。
その歓喜の声を聞いて、安心をしていたのは花江提督、中村提督、花澤提督を初めとしたメンバーと……。
遠藤提督の話が終わった後、超高速で飛ばしてきた白銀のガジェットであるヴェールヌイが姿を見せる。
デザインを見て、誰もが他の勢力に所属する刺客と勘違いした位だ。
『どうやら、間に合ったようだな』
 その声を聞き、一番驚いたのは遠藤提督と、もう一人は――。
『ここで、まさかの乱入エントリーです。新型ガジェットのお披露目と同時に、ガレス提督ことヴェールヌイ選手がシード枠で特別参戦します!』
 太田さんの実況を聞き、周囲が急に騒がしくなる。
まさかの飛び入り参戦をした人物、それはサバイバー運営総責任者であるガレス提督だったからだ。
『総責任者が飛び入り参戦と言う形は、異例だが――私の参戦は、ある意味でも隠しボス扱いと言う事で理解をして欲しい』
 今回の草加市へのコース変更は別の含みもあったという事が、ガレス提督の飛び入り参加で確信に変わった瞬間でもあった。
「我々は問題ない。総責任者は過去にランカー上位にいたという実力を持っていると聞く」
 花江提督はガレスの参戦を逆に歓迎する。そして、他のメンバーも問題ないという判断らしい。
「この手の震えは、一体何を意味しているのだろうか――」
 蒼空の右手はかすかに震えていた。武者震いと言う類とは違うようだが、ガレス提督と戦ってみたいと言う思いかもしれないと考える。
「ランカー王と言う称号の重み、自分に受け止められるか分からない。それでも、あの高みへと進みたい」
 そして、蒼空は決心をする。ランカー王の称号を得る事、それが意味する事を含めて怖がってはいけないと。


 午前10時、草加市でレースの熱狂ぶりがネット上でも伝えられる中、報道番組ではこのようなニュースが流れていた。
『先ほど国会へ入る警察官の姿が目撃されました。おそらく、一連の不祥事で何らかの動きがあった模様です』
 朝のニュース関連で警察が遂に国会議事堂へ足を踏み入れたのである。強制捜査の類ではないが、おそらくは任意での事情聴取等と思われる。
このニュースに関しては報道番組1番組でしか報道されていない為、他は全て様子見と思われる。
特に超有名アイドルが出演している番組を多く抱えているテレビ局は、状況によってはネット上で炎上する事が避けられないからだ。
『次のニュースです。バラエティー番組でやらせが発覚し――』
 一連の不祥事が何かを伝える前に警察の入って行く姿の映像は終了し、次のニュースを淡々と伝える。
【この番組がやらせで謝罪するのは何度目だったか】
【最終的に、このバラエティー番組は打ち切りになりそうだな】
【いっそのこと、フィクションバラエティーを放送するのであれば、アニメや特撮を放送した方が良いと考える動きがある】
【視聴率ありきの番組作りは終焉を迎えたと判断すべきだ】
【実況者の番組をテレビのレギュラーにすればいい】
【そこまで単純ではないだろう。その考えは下手をすれば超有名アイドルと一緒だ】
【どれが一緒?】
【有名実況者をテレビに出すという事だ。失敗すれば切り捨てを行い、結局は超有名アイドルの番組にするつもりだろう】
【そういう状況が目に見えている以上、動画サイトで有名な歌い手や踊り手を起用する番組は火に油を注ぐだけだ】
【そうなってくると、結局は格闘技やスポーツの中継、トーク番組辺りに落ち着きそうな気配が―】
【昔のバラエティー番組は、それだけテンプレを確立させるのに大変だったという事だ。ヒットの法則が出来れば、それになぞるだけでいい―そう考えるテレビ局が増えたことで、視聴率至上主義が誕生したと言ってもいいだろう】
【やらせや意図的な演出を組み込むようなドキュメント番組やバラエティー番組が増える位ならば、元々フィクションを前面に押し出した特撮やアニメ、映画等を放送すればいい。そして、報道とスポーツを専門チャンネル化すれば完了する】
 最初に報道されたニュースよりも、2番目に報道されたバラエティー番組のやらせ報道が盛り上がる位には、つぶやきサイト上は平和なのかもしれない。


 午前10時10分、バラエティー番組のやらせに関してはサバイバー運営にも飛び火しようとしていた。
【パルクールを国際スポーツ大会の公式種目にしようという流れもあった。企業も動きを見せているのを見ると、もしかして?】
【サバイバー運営は利益を得たいが為にパルクール・サバイバーを行っている訳ではない】
【しかし、スポンサー収益だけでサバイバーの大型施設等を支えられるかどうかは未知数だ。こうした金の行方を透明化する方が先ではないのか?】
【ふるさと納税を使うと言う案もあったらしいが、そちらの方が色々と炎上すると懸念しているらしい】
【それでも、税金を使ってゲームを運営すると言うのは――頭がおかしいとしか思えないだろう】
 つぶやきの意見も賛否両論であり、サバイバー運営がパルクールを国際スポーツ大会等で公式種目にする為に宣伝していると考える書き込みまで出てきた。
「小松提督が懸念していたのは、この事か――」
 会社のデスクで一連のかきこみやつぶやきまとめをパソコンから見ていたのは、現在は仕事中の南雲提督である。
「チート勢力として動いていた頃には、このような事になるとは予想していなかったが――」
 理想と現実は違うと考えていても、このまま超有名アイドルが再び無限の利益を得る為の賢者の石を手にさせる訳にはいかない。
それを踏まえ、ある提督に連絡を取る事にした。
「大塚提督、私だ」
『お前は……どういう風の吹きまわしだ?』
 急な連絡に対し、大塚提督は驚きを隠せずにいた。
「今のサバイバー運営に有力な情報が出来た。テレビのニュース番組を見てみろ」
 大塚提督が南雲提督の言う通りにテレビをニュース番組に合わせると、バラエティー番組のやらせに関してのニュースが流れている場面だった。
『このバラエティー番組は、確か例の芸能事務所がゴリ押しで放送していた報道バラエティーだったか』
「その通りだ。このバラエティー番組の不祥事が発覚するきっかけとなったのは、第3のアカシックレコードだ」
『第3のアカシックレコード……ペンデュラムの事か?』
「ペンデュラム? そちらは全く知らないが、イレギュラーの情報は知っている」
 その後、大塚提督は南雲提督からイレギュラーの情報を得たのだが……。


 午前10時15分、特殊な連装砲を思わせるガジェットを装備した遠藤提督の出現、それは選手だけではなく観客も驚いていた。
レースの中止と考えていた人物もいる位に――下手をすれば、ネット炎上のきっかけになる事も否定できない。
しかし、彼女が発表したのはパルクール・サバイバー運営の買収が回避された事である。
そして、サバイバーは今まで通りにある程度のガイドラインが存在しつつも、それを守る限りは自由である事も発表した。
『どうやら、間に合ったようだな――』
 遠藤提督も驚くような突然の乱入者、それはガレス提督ことヴェールヌイ。周囲も彼女の出現には驚くのだが、これを想定内と思っている人物もいる。
「冗談がキツイ」
「伝説のランカー相手じゃ、松岡提督不在でも勝てる見込みがあるかどうか―」
「加賀が棄権したというのも納得の展開か?」
 周囲の飛び入りを考えていた選手も、この状況ではさすがに出てこられないだろう。
飛び入りに関しては運営が認めたケースでのみ歓迎されるが、それ以外では許可されていないのが現状だ。


 同刻、花澤提督は秘密裏に得た者を含めた情報を元にアカシックレコードのイレギュラーをランニングガジェットに乗っている状態で確認する。
実は花澤提督もランカー王に勝ち残っており、真後ろにはヴェールヌイのガジェットをチェックする為のスタッフが配置されていた。
「そう言う事ね」
 花澤提督は色々と腑に落ちない部分はあるが、提供された情報を解析する。
『ここで言うイレギュラーは、超有名アイドルやBL勢の様な物とは違う。向こうは既に警察やコンテンツガーディアンに一任している』
『それよりも問題があるのはサバイバー運営に新人として参戦している一部提督だ』
『上条静菜とAI事件はすでに把握しているな。上条は別の提督の指示で動いていたと言っても過言ではない。そして、一部提督を操っている人物が―』
 情報はここで途切れている。肝心の部分が塗りつぶしと同じ状態では阿賀野菜月の未来予知でも、全てを知るのは不可能だろう。
「光のアカシックレコードを執筆したのが自分。そして、闇のアカシックレコードを執筆したのが彼女と言う事ね――忘れようとしているようなリアクションをしても、私には分かる」
 解析の結果、それは阿賀野菜月が全ての黒幕であるという事だったのだが、そうだとすると矛盾点が無数に出てくる。
「未来予知をアカシックレコードのアクセスと同類―そう考えると、闇のアカシックレコードと共通しない点も……!?」
 闇のアカシックレコードと光のアカシックレコード、それはふとしたニュースや事件でも大きく書き変わる可能性がある存在だった。
これが意味する物とは「ネット炎上の火種を利用して、それらをパズルのピースに組みこみ続け、無限に広がって行く未来への可能性」である。
「簡単に言えば、ネット炎上をネタに、一次創作の小説として展開し、それらを閲覧する読者に訴えかけ、そこから未来の可能性を変えていく。それがアカシックレコードの正体―」
 花澤提督が結論に気付いた頃、レースのスタートは目前に迫っていた。


 午前10時20分、ヴェールヌイは最後のラインに立ち、これで合計21人が出そろった。なお、遠藤提督は買収の一件に関して報告する役だけの為に参加はしない。
『20分の遅れが発生しましたが、これよりランカー王決定戦5月期を開始します!』
 実況の太田さんも今まで喋る事が出来なかったので、それを踏まえてもテンションが最大になっていた。
「カウントダウンを始めるよ! みんな、準備はいい!?」
 遠藤提督が周囲の観客にカウントダウンを開始するとアナウンス、遂にレースは始まろうとしている。
「5、4、3、2、1――レディーゴー!」
 遠藤提督のカウントに合わせ、周囲もカウントダウンを初め、ゴーの合図と共に選手が一斉に走り出した。
厳密には、一部でホバーを使っているメンバーもいる為、走ると言う表現が正しいかは不明だが。


 同刻、最初のチェックポイントで選手を待っているのは、ステルス迷彩装備のレーヴァテイン、上条静菜である。
彼女はレースには参加していないのだが、ある目的の為にレースの行われるエリアへ足を運んだ。
「私はレースには出ないが、今まで自分を操っていた元凶は叩く――」
 どうやら、佐倉提督の件を含め、さまざまなイレギュラー要素が上条にとっては想定外の物だった。
自分はAI事件の延長上で動いていたと思っていただけに、ここまで道化にされた事に対して――。
「全ては小野伯爵が一度リセットをかけた世界……とでもいうべきなのか、あるいは強くてニューゲームなのか」
 上条は小野伯爵の持つペンデュラムに関してネット上で知り、その能力の一部を見て焦っていた。
+注意+
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