挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
パルクール・サバイバーRe:System 作者:桜崎あかり

System5

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

29/34

決戦、始まる


 決戦当日、5月28日午前7時30分、その日は晴天であり、視界を遮るような気象も出ていない。絶好のレース日和と言える。
『しばらくおまちください――』
 朝のニュースが放送されている中、男性キャスターとは別のスタッフと思われる人物が原稿を渡す。
どうやら、臨時ニュースがあるらしい。その内容は台風や地震であればテロップが早いだろう。その為、内容としてはテロップを出す必要性のない重要なニュースという見方が強かった。
『つい先ほどの事ですが、与党に所属する政治家が逮捕されたというニュースが入りました。詳しい人数は不明ですが、数人ではなく数十人規模になると言う情報も入っており、現在調査中です。繰り返し――』
 その内容とは与党所属の政治家が逮捕されると言う物で、その数は数十人に及ぶらしい。理由に関しては調査中だが、ネット上では把握している人物が何人かいるようだ。
【真の黒幕が政府与党だったとは】
【最近の投票率の低下が、このような拝金主義を思わせる政治を生み出す土台になったのか】
【おそらく、今後の捜査等が進むにつれて全貌が見えてくるだろうな】
【芸能事務所が何処まで政治に関与していたのかが気になる】
 ニュース速報が出てから15分後、速報段階のつぶやき等が予測していた事は現実となった。
まるで、阿賀野菜月が持つとされる未来予知と同じように―。
『先ほどのニュースの続報です。逮捕された政治家の数は60人程に及び、その中には副大臣や与党の幹部も含まれているとの事です』
【総理大臣の名前が出てきていないという事は、逮捕を免れた説が大きいな】
【ここまでの状況を作ったのは総理大臣だと言うのに、敵前逃亡でもする気か?】
【さすがに別勢力が現れて暗殺――のような展開はないだろう】
【超有名アイドルの拝金主義を巡る事件だけで、そこまでの事になったら周辺諸国の恥さらしになる】
【この状況では野党も下手には動けない。野党でも同じ罪で逮捕されている政治家がいる以上、恥の上塗りになる事だけは避けたいと考えるだろう】
【与野党共に逮捕者を出すような事になるとは……それだけ、パルクール・サバイバー運営が考えていた事は先を読んでいたのか】
【拝金主義化に関してはサバイバーの運営だけではなく、アカシックレコードに関係した人物全てが思っているだろうな】
 逮捕された政治家は60人程、中には重要ポストの人物も含まれており、これによって政治不信は加速する事になった。
実際に考えられる事態はそれだけではない。与党だけではなく野党にも逮捕者が出ている以上、総選挙に影響を及ぼす事は避けられないだろう。
こうした状況をパルクール・サバイバー運営が考慮していたのかは不明だが、少なくとも超有名アイドルのリアルチートとも言えるようなメディア露出を踏まえると、何者かの援助があったと考えるのは不思議ではない。
仮に支援者は超有名アイドルファンだったとしても、百億にちかい大金を即日で出せるのか―という疑問も残る。


 午前7時50分、更なる続報が入った。それは、彼らの捕まった理由である。 
【捕まった理由って、本当?】
【このような事で大量の政治家が逮捕されるのか?】
【これは間違いなく、政治不信と言うレベルを超えている】
【どうしてこうなった】
【誰かが大量の逮捕フラグでも立てたとしか思えない】
 逮捕された理由に関しての反応はさまざまだが、このような理由で逮捕された事に対しては周囲も驚いているのは間違いない。
《逮捕された政治家の一人の携帯電話ログを調査した結果、ネット炎上勢に軍資金を送っていたとするログを発見》
 テレビのテロップには、このような表示がされていた。何と、彼らの捕まった理由はネット炎上勢と繋がっていた事だったのだ。
【自分達の都合に合わせて動かない者は、ネット炎上勢を利用して叩き潰すってことか】
【それって、もしかすると自分達も加担している可能性が―?】
【それこそ与党の手の上で踊らされているのと同じじゃないのか】
【気づかない間に政府の陰謀に加担していたなんて】
【これでは、超有名アイドル勢とやっている事が同じ―】
 ネット炎上勢も政府の軍資金を頼って行動していたという事実、それを知ったネット住民は自分達のつぶやきが政府の都合よく書きかえられていたのではないか、と思うようになった。
そして、つぶやきサイトのアカウントを解約する者、今までの発言に対して謝罪する者、ネット炎上勢に対して自首の署名活動を行う者――わずか数分の間でネット上は大混乱となる。


 午前7時55分、アカシックレコードが突如として更新され、トップページには一つのメッセージが追加されていた。
『日本政府が全ての情報を掌握――アカシックレコードをも書き変えようと考えた事は我々としては許される事ではない』
『過去に超有名アイドル勢が地球上のありとあらゆる権利を独占しようとした事件、その他の超有名アイドルが黒幕だったネット炎上騒動、AI事件の再現に他ならない』
『これによってアイドルが風評被害を受け、人々から希望が消える事の方が許しがたい行いだと思う』
『超有名アイドルの一部ファンが全てを決めるようなディストピア、それは何度も繰り返されてはいけないのだ』
 これらのメッセージは一定の間隔で分割されており、それはつぶやきまとめサイトを思わせるような構成となっていたのである。
トップページのメッセージは複数に分割され、数個のメッセージの後には続きのリンクが貼られており、そこから続きを見る事が出来るタイプのまとめ方になっていた。
『アカシックレコードも、過去に何度も同じようなテンプレ事件が起こるたびに戦い、ある時はARガジェットを手にする事もあった』
『何度も同じような事が続けば、人々は危機感を失い、それこそ情報を見極める能力にも麻痺症状が起こる』
『そこへネット炎上勢が介入する事で、今回の一連の事件は起きたと言っても間違いはない』
『炎上勢がどういった目的を持っているのかは具体的に不明だが、彼らが混乱に乗じて行動を起こしたのは間違いないだろう』
『その行動原理は不明だが、小説サイトで流行りの作品でBL作品を書き、一部のファンと話題を共有しようと考える夢小説勢―』
『そして、超有名アイドル思想をゴリ押ししようと考え、ライバル勢力を潰す為には手段を選ばないブラックファンと似ている』
 その後のリンクには、ランニングガジェットのプロトタイプと思われる設計図も掲載されている。
この設計図には強化型装甲という名称になっているのだが、プロトタイプの名称なのだろうか?
『我々はアカシックレコードの技術によって、新たな可能性を生み出した。ランニングガジェットも日本にない新技術に見えるが、別の世界ではすでに実用化されている』
『パルクール・サバイバーに関しても、もしかすると――という可能性は否定できない』
『だからこそ、我々は新たな二次利用も可能なフリーデータをアカシックレコードと言う形で残したのだ』
『それに対して権利の独占を考えていたのは、超有名アイドルのプロデューサーである、あの人物』
『我らが望む物、それはアカシックレコードの技術や世界、それらがもたらす可能性と未来である。その技術が日本でどのように使われ、どのような反応が出るのか―』
『それらが悲劇を生み出すのであれば、正しい方向へ向ける為の技術が必要になる。逆も然り。逆を行う勢力があるとするとすれば、それはネット炎上勢であり超有名アイドルファンなのだろう』
『アカシックレコードの技術は自由に提供されるべきであり、それと同時に世界を変える為の使命も背負う事になるだろう』
『この技術によって一攫千金を得る事になっても、アカシックレコードに利益が還元される可能性は無に等しい』
 ここから先のメッセージリンクもあるような形跡だったが、ここから先は削除されていて閲覧できない。しかし、それとは別にメッセージが添えられている。
そのメッセージとは、明らかに誰かと特定できるような文面である事が読み取れる。誰もが阿賀野菜月の文章と錯覚するメッセージ、それは一部にとっては想定内の人物による物だったのだ。
『我々は、アカシックレコードを通じてコンテンツビジネスが抱える負の側面を伝えようと考えた―。しかし、それは闇のアカシックレコードが背負う結果となり、今回の事件へとつながったのかもしれない』
『だからこそ、今回のランカー王決定戦は何としても成功させて――と言うのは私のわがままかもしれない』
『これ以上、超有名アイドルにコンテンツの青田買いをされ、政治利用される位ならば―アカシックレコードにメッセージを刻み続け、その脅威を訴え続ける可能性も否定できないだろう。花澤提督』
 アカシックレコードのメッセージ主の正体、それはサバイバー運営にも所属している花澤提督だったのだ。
これに関しては、一部のメンバーには把握済みであり、花江提督も全てを知っていた。


 午前8時、アニメの放送局は通常番組を放送する一方、一部の放送局は政治家逮捕を受けて緊急特番を組んでいた。
【朝ドラは休止なのか?】
【それは聞いていない】
【逮捕された理由を考えれば、特番にしなくても問題がないはずだ】
 国営放送は政治家が大量に逮捕された事を踏まえ、特番を放送しており、朝ドラは休止と言う状態になっていた。他の放送局も緊急特番だが、放送されている内容は前時間の速報以上は出てこない。
【まるでネット上のまとめサイトで報告された事をそのまま放送しているようだ】
【テレビ局がまとめサイトの管理人だとでも言うのか? それは冗談でも言ってはいけないだろう。炎上は避けられない】
 あるユーザーのやり取りが、そのままテレビで流れた事により該当ユーザーが炎上する事に。しかし、アニメの放送局は速報テロップで事件を伝えるような事はせず、そのままアニメを放送。
この時の視聴率は特番を組んだテレビ局が惨敗、国営放送の特番が20%弱に対し、アニメの方は50%近い視聴率を記録したと言う。ただし、この視聴率速報が出たのは、日曜の事である。
「コレを自滅と言っていいのか、単純に目立とうとしているだけの人物なのか……」
 テレビで流れたつぶやきを見て、ため息をこぼすのはメガネをかける所だった種田提督である。既に会場入りしており、後はガジェットメンテナンスを残すのみだった。
「どちらにしても、炎上勢力はマイナスイメージしか生み出さない。議論の類とは全く異なる存在だ――」
 種田提督は議論が白熱する分には問題ないと考えているのだが、炎上勢力の行う活動はマイナスイメージしか残さない物であり、種田提督の考えるコンテンツ流通とは程遠い存在だ。
「炎上勢力を全く生み出さないというのは、理想論でしか過ぎないのは百も承知している……」


 午前8時30分、マスコミが集中したのは北千住である。目的はパルクール・サバイバー運営へのインタビューだろうか。
「一連の政治家逮捕の件でお話を伺いたいのですが……」
 複数のマスコミが取り囲んだ人物、それはかつてチート勢力を率いていたとされた人物、ヒデヨシだった。
今の彼はパルクール・サバイバーからは離れ、ブラウザゲーム及びオンラインゲームにおける不正ツール及びマクロプログラム等を検出する為のシステムを開発している。
その会社が北千住にある為、それがマスコミに囲まれる結果となった。
「政治家逮捕? それは初耳です。朝のニュースをチェックせずに出勤してきた物で――」
 こう答えた背広姿のヒデヨシに対し、新聞社の記者が一連のニュース記事の載っているサイトを見せる。
それを見たヒデヨシは、何とか状況を把握したようだ。何を把握したのかは、マスコミには分からない。
「こうした勢力が取り上げられるのは今に始まった事ではないと思います。そして、このような事はこれからも続くでしょう。あなた方が都合のいい部分だけを切り抜きして報道し続ける限り……」
 ヒデヨシは一言だけを残し、仕事場であるビルの方へと向かってしまった。
下手に追いかけるのも違うと思ったのか、一部の取材陣はこの辺りで引き揚げた。
この一言はマスコミに対する皮肉でもあるのだが、それを認識している記者はこの場にはいないだろう。


 同刻、マスコミの動きに対して不信感を抱いていた勢力は他にもあった。それは、上条静菜に指示を出していたハンター組織。
彼らは自分達の正体がマスコミに知られてしまったのでは……と懸念している。
「我々の正体が知られてしまったら、それこそ日本のコンテンツ業界は滅ぶ」
 テナントビル内の会議室では、複数人の会議参加者が円卓会議を行っている。しかし、彼らは背広に動物の覆面と言う恰好で会議を行っており、シュールな光景を感じさせるのは間違いないだろう。
「しかし、マスコミも所詮は超有名アイドルに買収されている新聞社やテレビ局が多い。あてにできるのは、SNSを活用したゲリラ的活動だけだ」
 マスコミが何を使用が関係ない口調でシマウマの覆面をした人物は強気の姿勢を崩さない。他の幹部は強気に訴えるべきと同調する者は少ないのがきになるが―。
「別の世界ではつぶやきサイトの運営が逮捕されたというニュースがあったと聞く。我々の世界でも炎上を誘うようなつぶやきその物が規制されるかもしれない」
 強行姿勢に反対するのは、ライオンの覆面をした人物だ。彼は今回の事件を受けて、つぶやきサイトだけでなくSNSその物が規制され、情報発信の場が激減、その結果として超有名アイドル以外は宣伝不可能と言うディストピアが現実化する事を懸念する。
『それでも、守るべき物を守るためには――強硬手段も必要となってくるだろう』
 周囲の声を聞き、何かの決断をしたのは黒豹の人物、ハンター組織のリーダーである。
「ですが、それによって戦争にでもなったとしたら、どう責任を取るつもりですか?」
「我々は流血のシナリオは求めない。しかし、超有名アイドル勢は我々がその流れになるのを待ち、ネット炎上させる準備を仕掛けているでしょう」
「噂によると、BL勢も海外の法律改正等によって自然壊滅するとか。我々としてはBL勢の駆逐は歓迎すべきだが、一歩間違えれば魔女狩りにも見えてしまう」
「一次創作作品から気になる事を噛み砕き、自分の考え等を込めて一次創作として小説等にする方法が流行るとは思えません。やはり、我々としても海外の方法は単純に自分達が分かりやすいようにする為だけの押しつけにも――」
 会議の方は自分の意見の押し付け合いに近い状態になっていく。
その中で、異論を唱えた人物はドラゴンの覆面をした人物だった。
「我々が一つの情報で混乱し、それに便乗して勢力を潰していく。それは超有名アイドル勢や目立つ為に無関係の勢力を炎上させようと言う個人による常とう手段。それに引っ掛かった事で、炎上した企業も数知れない。その場の勢いで動くのは自滅行為同然だ!」
 ドラゴンの覆面は冷静に情報を調べ、それに基づいて行動をすべきと周囲に対して勢いだけの行動に関して自重を求める。
「それでも、目立つのが目的と言う個人を取り締まるだけの法律は存在しない。いっそのこと、先ほどの話ではないがつぶやきサイトその物を潰すべきなのでは――」
 パンダの覆面をした人物の一言を聞き、ドラゴンの覆面は思わず覆面を脱いだ。どうやら、我慢の限界だったのかもしれない。
「そう言った行為をすれば、即座に言論弾圧や表現の自由を侵害していると超有名アイドル勢以外からも言及される。そして、最終的には――」
 ドラゴンの覆面の正体はパルクール・サバイバー運営諜報部所属の提督だった。それを見た複数の覆面達はARガジェットを提督に突きつける。どうやら、ハンター側の目的は情報を流出させた人物を割り出す事だったようだ。
『まさか、サバイバー運営が潜り込んでいるとは予想外だった。最近のハンティング情報にこちらがマークしていない勢力が狩られているという通報があって、まさかと思ったら――案の定だったか』
 黒豹の人物はサバイバー運営にも訪れた事があるが、その時の目的はスパイを発見する事が目的ではなく、単純な謝罪と交渉だった。
しかし、その帰り際にスパイの情報を部下から聞かされ、そこからスパイを調べ始めていたのである。
黒豹の人物が動きだしたタイミングで、赤羽根提督は別の端末を操作し始め、何かの信号を発信し始めた。
この行動は周囲には気づかれていない。当然、黒豹の人物にも。
「何処から気付いていた。まさか、ソロモンが秋元に協力し始めた辺りからと言う冗談は――」
 提督は右手に転送されて来たグレートソード型ARガジェットを装備する。しかし、黒豹の人物には剣を突きつけはしない。
『仮にレーヴァ――上条が最初に有名アイドルの芸能事務所マネージャーを狙撃した地点から……と言ったら、どうする?』
「そうなると、事件の発端から全てお見通しでアカシックレコードに付き合っていたと言う事になるが――」
『そうだな。誰が考えてもマッチポンプと気づくだろう』
「アカシックレコード、それも自作自演だとしたら――」
 黒豹の発言が本当ならば、全てを承知で提督を利用していた計算になる。
しかし、それならばどの段階で正体に気付いたのか? それも提督に関しては疑問だった。
『アカシックレコードの未来予知に関して疑問を持ったのは、今に始まった事ではない。2年前の音楽ゲーム絡みの事件で、世界に何らかの歪みが生じているのを把握していた』
 そして、黒豹は手に持っている銃型のARガジェットを赤羽根提督に突きつけていたのだが――突如として銃を下ろす。
「何故に銃を下した?」
『この辺りが潮時か――』
 提督の疑問に対し、黒豹の人物は覆面を外す。そして、その顔には提督も見覚えがあった。
「遠藤提督だと――!」
「なんて事だ!? この組織もサバイバー運営のマッチポンプ組織なのか?」
「信じられない! 一体、どういう事ですか」
 周囲の覆面からは悲鳴にも似たような声が聞こえる。更には、その正体が提督だという事実もショックを受けていた。
「遠藤提督……どういう風の吹きまわしで?」
 黒豹の正体、それは遠藤提督だった。コレに関しては驚く人物の方が多い。どうやら、本来の意味での黒豹の人物はコンテンツガーディアンが拘束しているようだ。
「既にハンター組織は、我々、パルクール・ガーディアンが抑えた! ハンター組織の名を使い、なりすましで形勢逆転を狙った夢小説勢力には相応の報いを受けてもらう」
 遠藤提督が指を鳴らすと、会議室内に姿を見せたのはコンテンツ&アキバガーディアンの連合軍である。どうやら、夢小説勢やフーリガン化したBL炎上勢を駆逐する為に共闘しているようだ。
逮捕された覆面の人物は、その半数近くがフジョシである事が後の調査で判明、更に言えばフジョシによるコンテンツを狙ったピンポイント襲撃も計画されていたらしいが、その真相はテレビで報道される事はなかった。
一説によると、男性有名アイドルグループ絡みで今回の不祥事が明らかになると人気が下降する――という事が言われているが、これはフジョシが都合よく解釈しているのみだろう。
「それにしても……この情報をどこで?」
 大量のフジョシを連行する途中、提督の一人が遠藤提督に尋ねるが彼女が真相を話す事はなかった。


 午前8時50分、ビルを出た遠藤提督は時計を気にしているようでもあった。
ランカー王の開催有無に関しては午前9時に告知される。
万が一に延期と言う事があれば、それだけでも数億の損害が出るともネット上では言われていた。
「様々な所で暗躍しているという話を聞いていますが、何処まで?」
 提督は遠藤提督に話せる範囲で裏側の行動を聞きだそうとする。
しかし、表情が変化する事は全くない。どうやら、機密事項扱いなのだろうか?
「佐倉提督の件、上条には話してあるのか?」
 遠藤提督の口から、まさかの人物の名前が出てきた。それには提督も驚きを隠せない。
「彼女に話す必要性はないでしょう。おそらく、薄々と気づいているかもしれませんが……」
 予想外の一言が遠藤提督の口から出た事に、提督は少し沈黙する。
上条静菜も把握していたという事は、この事を知らないのは実働部隊に該当する提督、それに運営を離れた花江提督、種田提督辺りか。


 午前9時、ニュース番組では続報として夢小説勢が大量に摘発されたという報道がされた。表向きは肖像権侵害と言う事で報道されている。
しかし、真相は他コンテンツのピンポイント襲撃での逮捕と思われる。事件の真相に関して――この地点でそれを掴んでいるマスコミは皆無だった。
【やはり訴えられたか】
【そうなる事は分かっていた。ただし、何処に引っ掛かるかで夢小説勢がどのように壊滅するか……という部分が見どころだった】
【肖像権となると、海外の規制関係とは無縁の可能性もあるな。フジョシが海外へ輸出されない事を祈っていただけに、水際で何とか出来たのは大きい】
【この事件を受けて、ランカー王が延期にならなければいいが―】
【サバイバー運営としては、フジョシの存在や夢小説勢の行動は営業妨害に近いからな】
 つぶやきではサバイバー運営が一連のニュースを受けてランカー王を延期にするのではないか、と言う動きだった。
『ランカー王決定戦に関してはコースに不審物の設置が確認されていない事を踏まえ、予定通り実施いたします』
 スピーカーから聞こえる声、それは誰もが聞き覚えのある実況の太田さんである。
その声で予定通りの実施が告知されると、その情報は瞬く間に拡散され、ファンからは一安心等の声が聞かれた。


 同時刻、草加駅近辺の運営本部へ向かおうとしていた大塚提督だが、その目の前に姿を見せたのは……花澤提督だった。彼女もレースに出るようだが、準備の方は完了済みらしい。
「花澤提督。今はサバイバーの方針に関して議論している暇はない」
 大塚提督はサプレッサー装備のハンドガンを構え、下手な動きをすれば撃つ気だった。しかし、花澤提督は丸腰状態であり、コンテナからクラシックガジェットを呼ぶような動作も見せていない。
「こちらも議論を長引かせてエントリーに遅延を発生させる訳にはいかない。それを踏まえて、手短に用件を伝える――」
 そして、花澤提督は大塚提督のARガジェットに何かの添付ファイルを送った。そこには、ある人物の画像が同封されていたのだが、その人物には大塚提督は見覚えがない。
「この人物が、噂の黒幕か?」
「黒幕ではないが、重要参考人である事は言っておこう」
「重要参考人? 花澤提督、何を知っている?」
 花澤提督の様子を見て、大塚提督がハンドガンの引き金を引こうとしたが……。
「彼の名前は小野伯爵。彼が持つペンデュラム、それが光と闇とも違う……第3のアカシックレコードだ」
 花澤提督の一言を聞き、大塚提督は少し動揺した。
第3のアカシックレコードが存在する事に対してではなく、彼の名前について聞き覚えがあったからだ。
「小野伯爵――加賀が何かを知っているかもしれん」
 大塚提督は、加賀の電話番号を検索したのだが、電話番号を発見できなかった。
仕方がないので、ARサバイバルゲームで使用した別のガジェットを背中のバックパックから取り出し、そのライバルデータから加賀のアドレスを発見する。



 午前9時、予選終了後はランカー王決定戦の会場を西新井と予定していたが、一連の騒動もあって草加駅東口をスタートラインに設定したトラック3周に変更された。
コースとしては稲荷三丁目の信号を右折後に直線コース、八幡小前信号を右折して直線、吉町五の信号を右折、その後に駅入口の信号でチェックポイントとなるトラック形式である。
トラックコースを大幅にはみ出すようなエリアオーバーと判断されるコース以外は自由だが、飛行能力によるショートカットは禁止。3周後は駅入口信号を右折せず、草加駅に入ってゴールという仕組みである。
ゴール方法は別のハウスルール等で採用されていたが、今回のランカー王では正式採用されている事に周囲は驚いているようでもあった。
「コースの変更は一部勢力の不正対策も兼ねていると聞いていたが、場所その物を変えるとは」
「警察も色々と動いている以上、それを妨害する訳にもいかないだろう」
「しかし、他の会場ではパブリックビューイングが行われるようだ。これならば、大規模移動をしなくて済むだろうな」
「ランカー王は色々な意味でも神の様な扱いを受けるケースもある。経済効果も期待でき、その規模は1回のレースで1億以上と言われている」
「まるで、イースポーツだな。最近になって、格闘ゲーム等でも賞金が出る大会が行われるようになったという」
「パルクール・サバイバーも将来的には、イースポーツの様になって行くと?」
 前日が西新井だっただけに当日のコース変更の反応はさまざまである。
それでも、選手たちには前日の内に告知されており、実際に知らされていなかったのは観客だけらしい。


 午前9時5分、パルクール・ガーディアンとは別の人物がフィールドに該当するエリアへの車両進入がないように、迂回指示を出している。
初日の出暴走の様な事例に加え、警察にも許可申請を出していない無謀とも言えるレースの実施……それによって起こる事故の影響もあって、パルクール・サバイバーにも風評被害とも言える書き込みが存在したのも事実だった。
こうした事故がサバイバーで起きないように、警察だけではなく空からはドローンやGPSを利用しての車両進入を防ぐと対策が行われている。
仮に許可なくエリアに車両が進入した場合、該当車両の運転手に警告なしの免許停止という重いペナルティが科せられる。
自動車に関しては、このような暴走事故を防ぐ為にもセーフティーシステムを多数導入している経緯があるのだが、それでも100%防ぐ事は不可能な為、人の力も必要になってくるようだ。
ランニングガジェットでもセーフティーシステムは導入されているが、こちらも絶対に事故が起こらないと断言できない為、安全対策を万全にする必要性がある。
「ここまでの事をする必要性があるのか……疑問が残る警備だ」
 厳重警備に関して周囲を見た上でため息をこぼしたのは暁である。
今回はパーカーも着ているのだが、顔を隠すと警察がうるさいので隠してはいない。


 午前9時10分、草加駅近くのアンテナショップ、そこで損傷の激しいオレンジ色のランニングガジェットを奥のエリアで発見した。
「このガジェットは、もしかして――」
 調整完了したガジェットを受け取る予定だった蒼空かなで、既にノーマルスーツを装着した状態で準備を行う。その合間にオレンジ色を発見したのだ。
「察しの通りだ。あのガジェットは昨日になって運ばれて来たもの」
 この損傷では修復が絶望的な事に加え、パーツを変えたとしても本来の機動力を得られるか怪しい所。修復率は70%程で何とか動かせる範囲までだろう。
精密な挙動を含め、安全装置の正常起動的な意味でもレースを行うには無謀という言葉しか見当たらない。
このガジェットに関しては、発見したのは別の提督、それを途中まで運んできたのも使用者本人ではなく、更に別の提督だったのだ。


 5月27日午後8時、アンテナショップに1本の電話が入る。
『大至急、見てもらいたい物がある。スタッフを何人か、こちらへ――』
 電話の主は男性提督なのだが、何故に彼が草加市へ来ていたのかは不明である。


 午後8時5分、現場へ到着したスタッフが見た物、それは花江提督の使用していたスレイプニール。しかも、その損傷レベルは大破と言っても過言ではない程である。
「これは見事に――」
 現場を見た男性スタッフもさじを投げる程の損傷レベル、それは火を見るよりも明らかだった。
しかし、電話をかけてきたと思われる人物の姿はない。
これを直して欲しいという訳でもないのだが、放置しておくには危険すぎるシロモノなのは間違いないだろう。
「花江提督も乗っていないまま乗り捨てられ、報告をしていた提督もいない」
「もしかして、これは罠?」
 男性スタッフも何かの罠と言う事を疑う。しかし、罠であれば道中で襲撃する可能性、ガジェットを爆破と言う路線もある。
ガジェットの履歴を調べた結果、このガジェットの持ち主は花江提督だと言う事が分かったのだが……それが逆に不安要素になっていた。
それを踏まえて、ガジェットの調査を行うのだが――予想外の事態を呼ぶ事になる。
「機体の損傷は激しいですが、内部ジェネレーター等は生きています。修理を行えば使用できます」
 この報告には驚きを隠せなかったが、損傷したガジェットをクレーンでコンテナへ移動、載せ終わった後にアンテナショップへと戻る。
その後、何処かの勢力に襲撃されなかったのは運が良いと言うべきだろうか。時間帯的に未成年がプレイしているような様子がないのも大きいかもしれない。


 5月28日午前7時、ガジェットの修復は深夜にまで及んだ。致命的な損傷までは修復し、予備パーツで何とかできる部分は対応したが、メインフレーム等は破損したままだ。
「やっぱり、この機体の誕生経緯もあってかこれが限界か」
「誕生経緯って?」
 スレイプニールに関しては他のガジェットと異なり、誕生した経緯が他のガジェットとは異なる。
元々が教習用ガジェットとして開発されていたからだ。俗に言う練習専用のARガジェットと言っても過言ではない。
後に花江提督が修理に出す予定だったガジェットを引き取り、一部の試作型パーツを装着、それにオレンジ色でカラーリングした物が現在のスレイプニールである。
名称自体はアニメでも見かけるような物だった為、特にツッコミを入れるような気配はなかった。オレンジ色と言うカラーリングも、タクシーに近いようなカラーリングをしていた為、こちらもツッコミを入れる気配はない。
「この機体を修理しようと考えたのが無謀だったという事か」
「しかし、この機体を修復出来れば――他のガジェットに技術転用が可能になる。あの機体能力さえ得られれば」
 スレイプニールの修復、それは他のARガジェット等に技術を応用、あるいは技術転用する為という目的があった。しかし、それでも完全修復には至っていない。
「お困りの様ですね」
 そこに姿を見せたのは白服の提督である。
彼の持ってきたコンテナには、スレイプニールと同型のガジェットが積まれていた。
これがあれば、何とかスレイプニールを修復出来るだろう。
「これを一体どこから――?」
 男性スタッフは提督に尋ねようとするが、彼の姿は既になかった。どうやら、彼は別の場所に向かったらしい。


 午前9時15分、ガジェット修復は80%にまで到達している。他のガジェットの調整を行いつつ、手の空いているスタッフはスレイプニールの修復を行う。
しかし、その形状はスレイプニールとは頭部や一部パーツ以外は完全に別物と化している。それでも、先ほどの大破状態よりもまともに動かせるまでになっているのは大きい。
「これに乗るべき人物は、どうするべきか」
 男性スタッフが悩んでいる中、姿を見せたのは白い提督服を着用した女性だった。しかも、この人物はある人物に似たような特徴を持っている事に蒼空は何か不信感を抱いている。
「私でよければ、そのガジェットを使ってもいい」
 そして、彼女はインナースーツなしでガジェットに乗り込むと、認証システムとなるタブレット端末をモニター中央の指定スペースに置く。
【NATSUKI AGANO】
 名前認証で表示されたのは、何と阿賀野菜月だったのである。これに関しては男性スタッフも確認済なのだが、彼らが彼女の行動を止めるような行動は起こさない。
「あの機体は、まさか――?」
 遠目で一連の動きを見ていたのは、ランカー王には出場できない男性提督だった。今回はレースの様子だけでも見極めようと考えていたのだが、そこへ思わぬガジェットが出現した事で驚きを隠せないでいた。
「スレイプニール。やはり、あの時の機体を回収していた提督がいたのか」
 既に別のアンテナショップでスレイプニール・セカンドの調整を行っていたのは、花江提督である。スレイプニールは前日にある勢力と交戦した事で機体は大破、乗り捨て同然で草加市内の廃工場へ隠していたのだが――。
「回収した提督は予測出来ないが、スレイプニールの修復依頼を頼む提督には心当たりがある」
 そして、花江提督はアカシックレコードから修復依頼をした提督のリストアップを行おうとするが、途中でエラーが発生してリストアップを行えない。
原因はアカシックレコードへの過剰アクセス等ではなく、別の理由だ。どうやら、リストアップを行えないようにアカシックレコードへダミープログラムを仕込み、それを花江提督が掴んだ物と思われる。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ