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パルクール・サバイバーRe:System 作者:桜崎あかり

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アカシックレコードの弾きだした未来、その可能性


 5月26日午前10時、プラチナのラインが目立つ特別な提督服を着用していた花澤提督は埼玉内にある太陽光施設に足を運んでいた。
奥の部屋に通された先にあった物、それは大量のオンラインサーバー。そのサーバーから花澤提督は、とある作品を探す事になったのである。
「時は来た! 今こそ、超有名アイドルが裁きを受ける時――」
 花澤提督の目、それは獲物を狙うかのような鋭い物を感じられる。
スタッフからの指示を受けて誘導された部屋に置かれていた物、それは何処のケーブルにも接続されていない複数のサーバーだ。
これらのサーバーはウイルスに感染してしまう事を恐れ、現在はオンライン化されていないのだと言う。
「提督のお探しの物は、こちらになります」
 スタッフの男性が監視カメラのプロテクトを外し、これでようやくサーバーに触れる事が出来る。
そして、花澤提督は自分が持ちだしたサバイバー運営備品とは違う個人所有のタブレット端末にデータの転送を始めた。
「しかし、この中にある情報は数年前に削除されたデータのアーカイブ。それを今更になって必要になるとは――」
 男性スタッフも花澤提督がサーバー内の情報を欲しがる理由は分からない。彼女も「例の厳重警備されたサーバーを見せて欲しい」としか言っていないからだ。
このデータの正体とは、特定作品のBL二次創作と言う事になっている。それが諸事情によって削除され、ファンが密かに保存していた物をアーカイブとして残している。
しかし、花澤提督が求めている物は違っていた。彼女にとって二次創作よりも重要な物、それはアカシックレコードのヒントとなる小説だったのだ。
花澤提督が求めている物、それは違う小説サイトで掲載されていた小説。これが削除されたのは、丁度BL二次創作が魔女狩りの様に大量削除され、そのどさくさにまぎれて出版化という理由で削除されている。
何故に削除されたのかは諸説あるのだが、真相を確かめるにしても出版化されている物では一部の情報が削られている為、参考にできる個所は少ないだろう。
「アカシックレコードは2つ――そう、阿賀野菜月は言っていた。光と闇、表と裏があるように……」
 花澤提督は転送されてくるデータを見て、阿賀野菜月の言及したアカシックレコードが何なのか気になり始めたのだ。


 午前10時20分、ボウリングのピンが特徴的なアミューズメント店に姿を見せたのは、カジュアルな私服姿の阿賀野菜月だった。
キャリーバッグの中にはタブレット端末とARガジェットが入っているが、今回は特にARゲームをプレイする訳ではない。
しかし、足はセンターモニターへと吸い寄せられるように……。
「そう言えば、今日は予備予選メンバーが発表される日だったか」
 そして、モニターの方を見ると予備予選に関してのニュースも流れていた。
最終的には30人以上が集まり、そこから半分位に絞り込むと言う告知がされている。
「どういう事だ……ワイルドカードにいてもいいはずのメンバーが、予備予選に出るのか?」
 阿賀野が驚いたのは、予備予選メンバーに秋月彩とランスロットの名前があった事である。
この2人に関して言えばスコアやポイント、ここ数回の順位を見てもワイルドカードに選ばれてもおかしくない。
「高雄もワイルドカードと思ったら、こちらに入るのか?」
「ネット上のワイルドカード予想はハズレばかりだな。これによって、ネームドランカー以外がふるいにかけられるのは決定的だ」
「最低でも愛宕、ビスマルク、ジャンヌ・ダルク、霧島、榛名辺りはワイルドカードに行って欲しかった」
「ワイルドカードは2名だけだ。既に1名は公式ホームページに候補が出ている」
「蒼空かなでの名前が出てきたのは驚いた。小田原杯の1位、北千住決戦の1位が影響しているかもしれない」
「それ以外にも見ない名前もあるが、佐倉提督って何者なのか?」
 ギャラリーの会話を聞いていた阿賀野は思わずビクッとした。
蒼空がワイルドカード選出は分かるとして、佐倉提督が残っている事に驚きを隠せない。
佐倉提督の名前を阿賀野が知ったのは、ごく最近である。
ガレスの仕切り直しとなった記者会見、その後に行われた小田原杯、そこで2位と言う衝撃デビューを飾った事。
その時になって初めて名前を聞いたのだ。顔を見た時はチート勢力にいた孔明と被ったのだが、おそらくは他人の空似で片づけられてしまうだろう。
「蒼空は北千住の一件で有名になったようだが――」
 阿賀野は気になる事が他にもあったが、本来の用事は別のARゲームの為、今回は必要な情報だけを確認して別エリアへと向かう。
「そう言えば、アカシックレコードの行方はどうなったのか」
 阿賀野はアカシックレコードがどうなったのか、その部分も気になっていた。
ネット上では存在は示唆されていたが、サバイバー運営からは記者会見でも公式見解は出ていない。


 今から数日前、動画サイトの生放送でガレスの仕切り直し記者会見が行われた。今度は新聞社等の締め出しを行わず、オープンで行われた。
『例え道化と言われようとも、我々がコンテンツの正常化の為にさまざまな策を考えていたのは事実であり、これだけは嘘ではない』
 その会見の席で、ガレスはこのような事を言っていた。そこで、サバイバー運営はコンテンツ流通の正常化を図る為にチート勢力やパルクール・ガーディアンの激突と言う構図を思いつき、それを実行に移した。
一連の道化に関しては順調に進み、大成功かと思われた。しかし、アクロバットを披露する団体が現れた事で事態が急変する。
彼らは一連のネット炎上勢とは無関係――単純にパルクールを披露する団体である事が判明したが、これによってサバイバーの運営に影響が出始める。
その後、ランニングガジェットプランを前倒し、ライセンス制度もこの時に完成、コースの整備も急ピッチで行われ、色々な意味でもスケジュールの前倒しには運営側も悲鳴を上げる程だった。
しかし、道化を演じる事には反対した提督が存在した。それによって一部提督が離反、サバイバー運営は人員的な部分でも危機を迎える事になった。
離脱した提督の名前はプライバシーの関係もあって非公表だったが、その中には花江提督は含まれない事が発表されている。
花江提督はサバイバーのシステムが決まりつつある段階で意見が対立して離脱したのは有名である。花江提督の場合は別の理由として阿賀野のスカウトもあった可能性がネット上で言われているが、阿賀野自身が否定した。
『様々な不正、グレーゾーンを含めた非合法手段、それを用いてコンテンツ業界を制圧しようとしたのが超有名アイドルであるのは――まぎれもない事実です。コンテンツ業界のディストピアを作り上げた元凶を裁く事、それが今の私達の目的です』
 ガレスは過去にソロモンとして潜入調査を行ってきた事も公表し、それが姑息な手段であるとも告白した。結局、自分も超有名アイドルを非難しつつも同じ事をしていたと思い知らされたのだ。
『今度のランカー王決定戦は、そう言った意味でも超有名アイドルに対する恨みや復讐の為に行う物ではなく、コンテンツ流通の新たな可能性を見せる為のレースとして開催します……』
 日本の超有名アイドルによってコンテンツディストピアと言う単語を世界へ配信する事になってしまった事、それを取り消す事は不可能だろう。しかし、それを広めてしまった事に対する罪滅ぼしは出来るはずだ。
『一度失墜してしまった日本のコンテンツを復活させる事……クールジャパンの再生、それをARゲームで実現させる。それが我々、パルクール・サバイバー運営の道化と言う部分に関する罪滅ぼしにもなります』
 その後も落ち着いた口調でガレスは会見を続けた。しばらくして質問の場を設け、そこでも超有名アイドル商法に関する質問が相次いだ。
『私自身もアイドルに憧れて、芸能界へ足を踏み入れました。しかし、現実は甘い物ではない。それは何度もネット上で知っていました。それでも、実際に芸能界を目撃した事でどのような場所だったのか理解できました』
『だからこそ、皆さんもパルクール・サバイバーを一度でも見ていただいて、それから我々の行おうとしている事を見極めて欲しいのです』
 記者会見は1時間ほどで終了し、特に大きな混乱はなかった。
会見後はネット上でネガティブ勢力がネット炎上を狙って姑息な手段を使うのだが、それらは全てガレスにとっても把握済みであり、彼らの作戦は失敗に終わった。
結局、こうしたタダ乗りや悪目立ちを狙う様な勢力は情け無用に裁かれる宿命なのである。最低でも、ARゲームに関係するコンテンツ流通に限定されているようだが。


 5月26日午前10時30分、データの転送及びコピーも完了し、花澤提督は再びシステムのセキュリティを起動して、サーバールームからは出ていく。
「ここに記されているのは闇のアカシックレコード。超有名アイドル商法の闇を記し、表舞台からは抹消されたデータでもある」
 花澤提督には闇のアカシックレコードに関して思う所があるのだが、なりふり構っていられない事情もある。
ここに記されている記述、それが一連のパルクール・サバイバーのフィールドで行われた事件の全貌を知る上でも、非常に重要な役割を持っているからだ。
そして、自分が過去に書いていた小説である光のアカシックレコード――ARガジェットやランニングガジェット、パルクール・サバイバーの元となったシステム、それと組み合わせることで分裂したデータは完成する。
「世界線とも言われた物語、それが分離したアカシックレコードを読み解く事で完成する」
 花澤提督は、超有名アイドル勢がどのようにしてアカシックレコードに触れたのかどうかは二の次、優先するべきは2つのアカシックレコードを解読する事だった。
「どれが正義で、どれが悪なのか決める事は出来ない。それは、見る人間によって価値観が違うからだ」
 花澤提督は、当たり前のことだが自分のアカシックレコードがすべて正しいとは全く思っていなかった。


 同日午前11時、さまざまなニュース番組がパルクール・サバイバーによって取り上げるようになり、この光景にはパルクール協会の方も困惑している。
「サバイバーは実際のパルクールとは全く違う。ガジェットを使用するという地点で本来の趣旨とはかけ離れている」
 協会スタッフは、以前からの主張を繰り返す。彼らは、サバイバーのようなARゲームもパルクールでまとめられてしまう事に拒否反応を示しているのだ。
【まるで、超有名アイドル商法は3次元アイドルだけ……と断言していた時代と似ているな】
【新しい物が出てくると、大体がこうなるだろうな】
【ネットを炎上させようという勢力は、自分達が目立ちたいだけと言う理由が大半だが、もっと別の理由があるのだろうか?】
【ああいう勢力が日本に存在する限り、コンテンツ市場を変えるのは難しいだろうな】
【ブラックファンの存在か。やはり、ああいったファンを排除する事が最善の道なのか?】
【光だけ、闇だけと言う事は不可能だろう。朝と夜、表と裏……こうした関係がある限り、ブラックファンの問題は何度も繰り返されるだろう】
【悲劇が繰り返されれば、いずれはARガジェットが大量破壊兵器へ転用されるような可能性も――】
【そうした発想だけはしてはいけない。現実の世界にデスゲームは必要ない】
 ネット上のつぶやきでは、パルクール協会がサバイバーを認めない事情には色々な大人の事情が関係しているとも指摘している。
そして、それらを解決する手段は存在するが、実行に移すのも難しいとも言われている。
【意見の統合をするのは簡単だろう。しかし、それを強大な力で従わせるのはディストピア化した超有名アイドルと一緒だ。そうした力を使うのではなく、対話と言う手段を利用する事が求められているのかもしれない】


 決戦前日の5月27日午前9時、予備予選に集まったのは40名以上の選手。ランニングガジェットは重量級や軽量級等と種類は豊富である。
「まさか、これだけの強豪がそろうとは予想外だった」
「棄権した選手も複数人いるが、それでも40人はいるだろう」
「ランカー王の称号が得られれば、何か特典でも?」
「特典はないだろうが、ランカー王の称号はパルクールランカーとしては欲しい称号だろう」
「アマチュアの選手もサバイバーに参加する位に価値がある……と言う事ですか」
「ネット上では箱根の山の神と言われた人物を破り、新たな山の神になった神城ユウマの例もある。神城は、山の神に関しては返上したが」
「勿体ない事を……つまり、箱根で言う山の神クラスに価値のある称号が、ランカー王と」
「大まかに説明すれば、そう言う事になる。ランカー王自体は4月にも行われたが――」
 2人の新聞記者と思われる男性がランニングガジェットや会場の様子を撮影しつつ、何か様子を見ているようにも思える。


 同日午前9時10分、エントリー受付がスタートし、それぞれの選手が電子データ化されたゼッケンを肩や胸等の分かりやすい場所へ設定し、それに合わせてカスタマイズを行う。
「マラソンだと、ゼッケンの布等が使われた事もあったが、ここでは電子データ化されているとは」
「しかも、カスタマイズ画面でステッカーを貼るような感覚で肩に設定すれば―」
 別の選手がタブレット端末でゼッケンを指でタッチし、それを自分のガジェットが表示されている所までスライド、最後に肩の部分にゼッケンを固定して設定許可を行えば終了である。
設定が終了したゼッケンは、数秒後にはカラーカスタマイズと一緒に表示される。こうした電子データ化ゼッケンには賛否両論はあったが、布のゼッケン、ステッカーの様な物では貼り替え等でなりすましが行われる可能性もあっての判断らしい。
念には念を入れると言う事で、電子化ゼッケンには選手の写真データも登録し、二重の意味でなりすまし防止を強化しているのだ。
「これは便利だな。しかし、自分でタブレット端末やスマートフォンの操作を出来ない人間はどうするのか?」
「それは問題ないだろう。設定が出来なくても、スタッフが代わりにやってくれる。それ位のアフターケアはレースには影響しないと考えているが」
 選手の一人が指さす方向には、提督服を着ている女性スタッフが別の選手にカスタマイズ方法を聞きながら作業している姿がある。
大体は自分で作業を行うケースが多いのだが、こうしたケースも実際にあるらしい。


 同日午前9時20分、会場となる西新井近辺、そこではランニングガジェットの撤去作業が行われていた。
不法占拠と言う理由ではなく、これは当日のアクシデントによる物。これによって1名の選手が棄権――となるはずだったが、何とかガジェットを確保出来た為に参加可能となっている。
撤去作業はランニングガジェットではなく作業用のガジェットが使用されている。
こちらに関してはARガジェットとは別の技術を応用しており、別のライセンスが必要となるようだ。
ガジェットの撤去作業と言ってもガジェット自体が大破している訳ではなく、単純な事を言えば『燃料切れ』である。しかし、曇り空と言う訳でもない上空、太陽光も特に問題はないはずなのだが……。
「これは違法ガジェットの疑いがある。どうやら、新手の違法システムが開発されたらしい――」
 調査をしていたスタッフの一人が撤収したガジェットを調査施設へ移動するように指示、その後は道路の舗装や整備等が行われる。
『レース開始予定は10時だが、間に合うのか?』
 新聞記者と言うには疑わしいような人物が、撤収作業の一部始終を見届けている。それもそのはず、この人物は黒豹の覆面をしていたからだ。下手に声をかけるわけにもいかない為か、通行人は目を合わせようとせずにスルーと言う行動が多い。
黒豹の覆面と言えばガレスの記者会見を妨害した人物として有名だった。しかし、この人物は黒豹の人物の知名度を利用しただけの偽物である事が判明する。
『話はノブナガから聞いた。どうやら、私の名前を騙る偽者が現れたようだな――』


 8日の午前中に彼はサバイバーの運営本部へ直接姿を見せた。彼がこのような場に姿を見せるのは異例であり、サバイバー運営としても予想外だった。
「偽者? あれは貴様の声だというネット上の意見もある」
 他の白服の提督が黒豹の人物を問い詰めるが、彼が怯むような気配は全くない。それを見たガレスも提督たちに下手に煽らないように指示をする。
彼の声はボイスチェンジャーを使ったような物であり、一種の合成とは別物だ。
『確かに、そう言った意見があるのは承知している。だからこそ、今回は直接出向く事で誤解を解こうと考えた』
 これにはガレスも驚いた。その後の説明では、一連の映像を確認した後に意図的に仕組まれたトラップを確認し、それを伝える為にやってきたのだと言う。
『我々も超有名アイドル商法に関しては懐疑的で、それを日本の一大産業にしようと言う動きも存在している』
 この後も黒豹の人物は超有名アイドル商法を広めようと考える勢力を発見し、報告を行う事を約束、その後は姿を消した。


 5月27日午前9時40分、準備の方は完了した事もあって、西新井駅方面は混雑している。それでも大きな騒動にならないのは、サバイバー運営が様々な対策をしている為だと容易に想像できるだろう。
「現在、西新井駅をご利用するお客様が優先となります! 怪我の原因になるので、駅構内では走らないでください」
「サバイバー会場の入場には制限がかかっております! スタッフの指示に従って移動をお願いします」
 拡声器を片手に観客の誘導を行うスタッフの服装も白い提督服である。一種のコスプレと言う考え方もされているが、これが定着してしまった為に観客の中で疑問に持つ人物はいなくなっている。
パルクール・サバイバーが初めての人物は疑問に持つ可能性があるのかもしれないが、慣れてくると提督服が一種の制服と同じように感じるようになるのが現実だ。


 同刻、サバイバーの観戦施設では駐車場が満車と言う状態になり、観戦する際は電車移動かバス、自転車等を利用する人物が多くなっている。
「予想以上の反響は怖いな」
 その状況を提督控室で見ていたのは、特殊なバイザーを装着した内山提督である。
彼は一足先に観戦施設入りをしており、そこで色々な調査を行っている。
「どちらにしても、サバイバー運営の手腕が問われるのは間違いない」
 内山提督の隣で中継映像を確認しているのは、白衣姿のオーディン。彼だけは提督服を着ていない。


 同刻、サバイバーのライセンス施設の方は臨時休業せずに営業を続けている。
今回の予選を含め、色々な特需を狙っているとネット上で叩かれるのは百も承知で休業にはしていない。
「サバイバー運営も、ここまで準備をするとは予定外と言うか―」
「免許に関しては更新や切り替え、免許停止の手続きもあるから年中無休とは言わないが、受付できる方が便利だろう」
「そう言う物ですか?」
「将来的には24時間営業は不可能でも、夜間対応等も視野に足立区及び草加市と交渉中らしい」
「そう言えばロケテストが草加市で行われていたのは、こうした事情もあってですか?」
「その可能性はゼロではない。それを確かめる為の取材でもある」
 2人の男性新聞記者が何かを話しているのだが、それに提督たちが目を向ける事はない。
それ程、提督側の方が忙しいという事か、あるいは産業スパイなのか。


 同日午前9時45分、スタート地点となる西新井大師近辺では提督やパルクール・ガーディアンの動きも慌ただしくなっている。
「超有名アイドルの一件は解決した――と言う事か」
 この件に関して疑問を持っているのは提督勢だけではなく新聞記者達も同じ考えだろう。しかし、松岡提督は納得がいかない様子だ。
既に種田提督はスタート地点で準備を行っており、ランニングガジェットの微調整で忙しい。
その中で、一連の超有名アイドル騒動があっけなく幕引きされるのはおかしいと考えている。
「予選が始まる前に全ての決着を付け、その後に予選と言う流れを作ったのは運営と言う事か」
 種田提督が手を下すまでもなく自滅したヴィジュアルバンドの夢小説勢、それ以外にも政治家とのパイプを持っていたアイドルファン勢等もコンテンツガーディアンが先手を打ったという。


 同刻、阿賀野菜月はアミューズメント施設の新ARゲームのロケテストを見学していた。
阿賀野を含めたギャラリーの目の前には大型モニターが用意されており、そこからロケテストの様子を見る事が出来る。
このゲームのジャンルは、どちらかと言うと音楽ゲームに該当する。しかし、システム的にはアクション系のARゲームにも似たシステムが実装されていた。
「音楽の演奏を疑似体験できるゲームは既に数個存在し、ARゲームでも存在する。このARゲームは、どのようなカテゴリーに属するのか―」
 阿賀野は目の前で行われている光景を見て、呆気に取られていた。
筺体の形状はガンシューティングに近く、それのコントローラーをARガジェットに変えただけと言う単純な物。


 しかし、阿賀野が呆気に取られていたのは筺体の形状ではなく、プレイスタイルにあった。プレイヤーはARシステムによって現実化しているコスプレを身にまとい、ゲーム画面のプレイヤーを操っているのだ。
それに加えて、ガンシューティングの的に該当するのが音ゲーで言う所のノーツやパネルだったのだ。つまり、ガンシューティングの要領でリズムよく演奏すると言う物だが、これは過去にも似たようなゲームを見た事がある。
ゲーム画面のプレイヤーのコスプレは実際のプレイヤーにも装着されるが、男性プレイヤーは男性キャラ、女性プレイヤーは女性キャラしか選択できない。逆の性別を選ぶ場合はARシステムをオフにしなくてはいけないという不便な個所も存在していた。
「これは確か、光のアカシックレコードで見覚えが――」
 ここで阿賀野は何かに気付く。2つのアカシックレコード、花澤提督にある事件から目をそらさせる為に言った事である。
しかし、それは口から出まかせではなく本当になってしまったのだ。


 同日午前9時55分、自宅待機で情報を収集していた花澤提督は光のアカシックレコードと闇のアカシックレコードの解読を続けている。
「光のアカシックレコードと同じように、超有名アイドルグループの裏には大物政治家との関係があった。しかし、闇のアカシックレコードには超有名アイドルとは別にCDランキングによるコンテンツ制圧作戦等も書かれていた」
 更にミュージックカードの存在がCDランキングにも大きな影響を与えていた事が記されており、これもランキングから除外された。その他にも色々な案件が闇のアカシックレコードに書かれている。
闇のアカシックレコードに書かれている不正手段や示唆されている件も、予選前に解決したのが妙な話だ。ここまでハイスピードに事件が解決へ近づくのも都合がよすぎるのだ。
「光と闇、それ以外の第3のアカシックレコードでもあるかのような……その気配さえ感じる記述が闇のアカシックレコードには存在した」
 花澤提督は第3のアカシックレコードが何かを予言しているような気配さえ感じている。
一体、この世界を動かしているのは何なのか?
やはり、この世界は超有名アイドルコンテンツが支配し続けていたディストピアだったのか?


 決戦前日の5月27日午前10時、遂に予備予選が始まろうとしていた。
西新井大師付近に設置されたスタートライン、それぞれのポジションには40人程の強豪ランカーがレース開始を待ち望んでいる。
『それでは皆様に、簡単なルール説明をいたします―』
 スタートラインに選手がそろった所で、周囲に設置されたスピーカーからはおなじみの口調とも言うべき実況担当の太田さんの声が聞こえる。
やはり、彼の姿を目撃する事は不可能らしく、どうやって1万人以上は集まっていると思われる西新井から実況席へ向かえたのか……謎は深まるばかりだ。
今回のコースは西新井大師の周囲を外回りに……と言う訳ではなく、一般道を一回りするコースのようだ。周回は3周、コース取りに制限はないが西新井大師を含めた一部建造物には特殊フィールドは展開できない為、損害が出た場合は傷つけた本人が失格となる。
それに加えて、今回はバトル可能ルールとなっており、バトルによって相手を倒しても問題はない。ただし、撃破されたからと言って失格にはならず、10秒のリスポーンタイムの後にレース復帰、撃破による減点はない。
ガジェットの交換に関しては所定のピットエリアで行う分とレース前にランニングガジェットに装備している分は問題なし、それ以外ではペナルティを取られるとの事。
『今回のレースでは、特定選手を限定した集中攻撃、談合や八百長と判断されるようなプレイが確認された場合、該当選手の失格及び次回のランカー王への出場権利を失います。これは、2次予選、本選と共通になる模様です』
 実況から語られた新ルール、それは談合や八百長と特定される行為、特定選手限定のピンポイント攻撃は禁止されるようだ。これによってレースの面白みが半減すると言う事で追加されたルールだが、周囲からは困惑の声も聞こえる。
ルール紹介後は各メンバーが発走準備を行い、午前10時10分にレースはスタートした。
フライングや違法ガジェットによる仕切り直しもなく、順調な出だしとも言えるだろう。
【誰が勝ったとしても、最終的にはスコアを集計して上位に入らないと予選通過にはならないようだが――】
【本命はビスマルク、ジャンヌ・ダルク、秋月彩と言う気配がする】
【アマチュア出身の選手はどうだ? 彼らならばパルクールだけではなく……】
【サバイバーは、あくまでもサバイバー。そう言う認識だ。パルクールとルールが似ていると言って勝てるほど甘くはない】
【しかし、ARゲーム出身者は夕立を初めとした上位ランカーも存在する以上、何らかの優位はありそうだな】
【ARゲームとは根本的な個所が違う。確かにARゲーム出身者が適応しやすいのは認めるが、全ての上位ランカーが当てはまる訳ではない】
【蒼空かなでの事例もある。ARゲームのブランクがあったりすると、事例からは外れるだろう】
 さまざまなつぶやきが流れるのだが、レースの実況に関する物は流れてこない。
これは、サーバー負荷を考慮して別のサーバーで行われている為、こちらではレース内容に関しての言及は自動的に仕分けられるようだ。


 レースは前半コースの地点でリタイヤが続出するような事はなく、正常に進んでいるのが分かる。ネット上の実況でも、特に混乱した様子はない。観客の方でトラブルがあったという報告も入ってはいないのだが……。
「万が一という事もあるが、こちらで何か手を打っておくか?」
 各チェックポイントの様子を監視カメラで確認する小松提督は、隣でデータの整理を行っている提督に対して尋ねる。
「その必要性はないと思います。既に運営で手を打っていますので」
 提督の方は、データ整理の片手間で淡々と答える。策を考えているのであれば、と小松提督は部屋を出て行き、自動販売機のある場所まで移動をする。
【超有名アイドルに莫大な投資をしたアイドルファンが不正投資の疑いで逮捕】
 移動の途中でセンターモニターがあったので、そこで足を止めるとニュース速報が流れていたのである。そこでは超有名アイドルに投資をしたファンが逮捕されたというニュースが報じられている。
「大物政治家が芸能事務所からの不正献金を認めた事で、超有名アイドル投資規制法案が時限式として可決されたが……」
 国会を超有名アイドルが支配していた現実を直視し、小松提督は改めて超有名アイドルのブラックファンに対する敵意をむき出しにしていた。これ以上放置すれば、風評被害は避けられない。


 一方で、予備予選が行われている中、自宅でデータの整理を行っている花澤提督は、闇のアカシックレコードで『ある記述』を発見した。
【秋元率いる超有名アイドル勢力が駆逐されたとしても、第2、第3の超有名アイドル勢力が再び日本のコンテンツ産業を闇に覆うだろう】
 いわゆるテンプレ文章である。確かにイリーガルを逮捕する事に成功し、アイドルへ投資していた一部のブラックファン、政治家なども一掃できた。
しかし、これで本当に幕引きがされたのか、花技提督は疑問を持つ。他にもモラルの低下が指摘されるファンの存在、フジョシと言った勢力も見過ごせない。
「結局、何処までのラインを認めるべきか……それが超有名アイドルやヴィジュアル系の夢小説勢の暴走を生み出した。サバイバーの動画にしても迫力のある物を視聴者が求めた結果、あのアクロバット事件が起きたと言っても過言ではない」
 アクロバット事件、それはランニングガジェットが採用される前、夕立がコースを通過している途中、無理なアクションを披露しようとした事で事故になったという物である。
幸いな事に夕立自身は軽傷だったのだが、それでも運営に与えた影響は非情に大きい。大事故につながる前にアクロバットに関して規制を行い、更にはランニングガジェットの実装も同時発表、現在のパルクール・サバイバーの原型は一連の事件から生まれたと言っていい。
これに対し、アマチュアのパルクールチームからは様々な意見が続出した。ランニングガジェットが採用される事で、こちらのパルクールでもガジェットが必須になるのでは――と言う物だった。
実際、当時のサバイバーはARゲームと言うジャンルにはなっておらず、スポーツと言うカテゴリーだったのもパルクールチームの意見が続出する理由だったのかもしれない。
「ホワイトファンとブラックファンと言う風に仕分けるわけにもいかないが、このような事が何度も起こるようであれば……と考えていたのかもしれないだろう」
 ファンの暴走やモラルハザード、そう言った流れを断ち切るにはどうするべきか。サバイバー運営だけではなく、全てのコンテンツ分野で考え直すタイミングなのかもしれない。
闇のアカシックレコード、その正体はコンテンツ産業の弱点やコンテンツの可能性等を記した啓発本だったのである。それがWEBに掲載はされたが、大多数の目に触れる事のないまま姿を消しかけていた。


 しかし、それは出版と言う展開によって日の目を見る事になった。
これは作者にとってもチャンスである……と思ったのは、一部の勢力だけだったのかもしれない。
「その後は10万部以上のベストセラーになるが、それが仇となって大手芸能事務所から訴えられる結果に?」
 闇のアカシックレコードには書かれていないが、一緒に開いていたウィキには芸能事務所に訴えられるニュースも書かれていた。
その後、芸能事務所側が勝訴する物かと思われていた。
それは複数の新聞記事等でも明らかであり、作者にとっても絶体絶命――その時だった。


 その時に流れた臨時ニュース、それはAI事件だった。事件の発生によって裁判のニュースへの関心がそがれたのである。作者にとっては不安材料が減ったが、裁判を起こした芸能事務所は不利になって行く。
裁判当日、AI事件が解決した事を知らせるニュース記事が一面を飾る。長期化すると思われた事件は、潜入した1人のチートハンターによって解決した。
解決後、事件は思わぬ方向へ発展、AI事件は超有名アイドルのCD宣伝の為に仕掛けられたマッチポンプである事が判明、芸能事務所は破産、所属アイドルは解散になったと言われている。
AI事件の真相に関しては、新聞社にも真実が伝えられていないという物であり、表向きは『CD宣伝を目的としたPR活動が暴走し、大事件へ発展した』という事として扱われる事が決まった。
「AI事件の真相には一説としてアカシックレコードの技術を実験するためと言われている。実際に、パルクール・サバイバーも同様のケースかもしれない」
 そして、花澤提督は何かを考えていた。今回の予選には何か隠された目的があるのではないか、と。


 午前11時、第2次予選が幕を開けようとしていた。1次予選の結果は集計待ちとなっており、そのメンバーは決まっていない。
【秋月が2位だったのは不完全燃焼と言う訳ではないが、何かあったのか?】
【ルール的には試行錯誤が行われているようにも見える。本来は本選で使うはずの】
【最近では、イースポーツでも八百長が……と言う話を聞く。もしかすると、パルクール・サバイバーも八百長を仕掛けている可能性がありそうだ】
【八百長等を防ぐ為の違法ガジェット禁止やルール改正ではないのか?】
【どちらにしても、超有名アイドル勢との決着を付ける的な話があったのに――】
【決着は既に別の場所で付けているだろう。既にアイドル投資詐欺等の新手の犯罪にも悪用されている以上、超有名アイドルは終わりだろう】
【オワタと言う言葉は使わないのか? 超有名アイドルは……】
【その言葉を今の超有名アイドルに使うのは不適切だろう。使うとすれば、阿賀野菜月が定義しているような悪質コンテンツ及びファンの根絶。そこで初めて終止符を打ったという意味で使うべきだ】
【仮に実現したとしても、それがいつになるかは分からない】
 つぶやきサイトには色々な発言が飛び出す。超有名アイドルとの争いは表向きには幕引きされたように見えるのだが、本当に全てが解決したのかと言うと一般市民にとっても疑問が残る。
その状況下でパルクール・サバイバーを楽しんでも良いのだろうか……という疑問は参加者の中にも存在する。


 午後1時、ランカー王の予選も終了し、集計の方は完了している物と思ったら予想外の展開で延期になっていた。
『ランカー王決定戦の本選進出者ですが、ワイルドカード2名とベスト10までは確定しています。その一方で予選勝者枠に関してはスコアの僅差等を踏まえ、もう少しお時間を頂きたいと思います』
 実況の太田さんが状況説明を行う。どうやら、ランカー王に進出する12人は決まったようだが、予選勝者枠10人はスコア的な部分で集計困難となっているらしい。
『それでは、一足先にワイルドカード2名の発表を行います!』
 太田さんに変わり、遠藤提督がワイルドカード2名の発表を行う。彼女の右手にはワイルドカードの選手データが入ったICカードがある。これを彼女の左手に持っているタブレット端末に接続する事で……。
『ワイルドカードは、この2人です』
 そして、各自のタブレット端末、メインスクリーンの字幕部分、各所に置かれたメインモニターのインフォメーション枠でワイルドカードの告知が一気に行われた。公式ホームページは予選勝者枠も含める為、後ほど更新のようだ。
【ワイルドカード1:蒼空かなで】
 一人目は順当に蒼空だった。北千住決戦の優勝でもあり、他のレースでも1位を獲得している。初期の頃は最下位が多いレースが続いた事もあって、ある意味でブラックホースと言われていた。
【ワイルドカード2:佐倉提督】
 二人目のワイルドカードは、ホームページ上に名前のあった佐倉提督だった。これには驚きの声が多いものの、南千住のレースで一位を獲得、他の大きなレースでも順位を残し、アクションの華麗さも評価に含まれたようだ。


 それから1時間以上経過した午後2時、スコア集計が終了し、本選へ進むランカーの名前が公式ホームページ等で発表された。
【このメンバーは予想外だ】
【まさか、あの提督が予選落ちとは】
【4月期ランカーが予選落ちだと?】
【それ以外にも花江提督が残っている】
【ビスマルク、ジャンヌ・ダルク、ランスロットも予選落ちか……】
【予選落ちメンバーは残念だが、神城ユウマを初めとした新鋭にも期待したい】
 つぶやきサイトではランカー王に勝ち残ったメンバーに関しての考察も行われている。
それによると、前回のランカー王である提督は予選落ちをしたらしい。


 同日午後5時、花澤提督は頃合いとばかりにサバイバーの公式ホームページでランカー王のメンバーを確認する。
「こうなったか。それも、良いだろう」
 花澤提督は自分の名前と中村提督の名前を見つけ、ニヤリと笑みを浮かべる。
「アカシックレコードの見せる未来がどうなろうと、このレースには関係はない。レースの結果まで予言されたら、それは出来レースと言われる可能性も否定できないからな」
 そして、花澤提督は自分のARガジェットを壁紙にしているプライベート用の端末を見つめる。
機体デザインは白銀の騎士、過去にホーリーと呼ばれていた伝説の機体を連想し、その装備は上条静菜の使用していたレーヴァタイプや花江提督のガジェットにも酷似している部分があった。
「このデザインになったのも、過去のアカシックレコードがそうさせるのか?」
 花澤提督と中村提督は過去の世界線を巡る事件に関係しており、その存在は伝説とも言われた事がある。
しかし、神城が山の神を返上したように、花澤提督も伝説と呼ばれる事を意図的に拒否していた。
「名前が似ているからと言って、別世界線の人物に重ねるのは――ネット住民の悪い癖とは思わない物か」
 ため息交じりに、端末を見つめる花澤提督の目には、わずかな涙が流れた。
繰り返される悲劇――複数のパラレルワールドの存在――ARゲームを題材とした類似イベント。
これらが何を意味するのかは、今の花澤提督には分かっているのかもしれない。
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