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パルクール・サバイバーRe:System 作者:桜崎あかり

System5

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もう一つの分岐点


 ここで時間は5月4日までさかのぼる。この日は孔明がコンテンツガーディアンに拘束された日でもある。その時に様々な情報がガーディアンへ提供され、これによって超有名アイドル勢の違法ガジェット工場等を発見出来た。
その情報を聞き出している最中の事であった。その時は都内某所にある収容施設と言えるかどうかも定かではない場所の一室、そこに孔明はいた。
それから数分後、コンテンツガーディアンの人員は全員が出払った。そのタイミングで他の人員が部屋から離れた頃、部屋を出て行かなかった男性提督が孔明に対して質問を始めた。
「お前がチート勢力ではない事は調査済み……本当のクライアントは誰だ?」
 白い提督服を着た人物が、椅子に座った孔明に対して要求する。孔明の方は拘束と言っても手錠等がされている訳ではない。
「貴様はコンテンツガーディアンではないな。一体、何が目的だ?」
 孔明は彼の正体がコンテンツガーディアンではない事を見破る。コンテンツガーディアンの場合、エムブレムにすかしのようなシステムを組み込んでおり、これをあるシステムで透視する事で偽者かどうかを判別する。
しかし、この人物は偽物のエムブレムを装着しておらず、明らかに変装をする気がないようにも思えた。数分後、この人物は部屋を出ていく準備を始めた。何者かと連絡を取る為と思われるが、話の途中で着信が入った為と言うのが有力だろう。
男性提督が出て行った直後、何者かの足跡がした。これに気付いた男性提督は即座にステルス迷彩のスイッチを入れ、近くにあった未使用の机の下に隠れる。しかし、隠れようとしてもガジェットの大きさ的な都合で完全に潜り込めた訳ではないが。
「今、誰かの声がしたが……面会の時間でもないのに、どういう事だ?」
 部屋に入ってきたのは、見回りと思われる一般兵だった。彼はガーディアンの特注アーマーを装着しており、その外見は機動隊等を思わせる。
「気のせいよ。隣の人がうるさいとか――その辺りじゃない?」
 孔明が言う隣の部屋をチェックする為、見回り兵は孔明の部屋を出ていく。しばらくして、この見張り兵は隣の部屋にいた人物に気絶させられてしまうのだが――。
「お手数をかけて申し訳ない。自分の名前を名乗るよりも、所属を明らかにした方がよさそうですね」
 時間の方もないので、自己紹介を省略して手短に済ませようとする。その為には――と彼が提督服のポケットから取り出した物、それは名刺だった。紙の名刺と言う訳ではなく、プレートタイプの物である。
「なるほど。その提督服を見て納得した」
 孔明は何かに納得したかのように、彼に同行する事にした。それを隣の部屋で盗聴していた人物、それは別勢力の諜報部隊である。彼らは高性能の情報収集能力を持っており、そのスキルは国家機密を持ち出せるほどだ。
ただし、彼らの技術は日本国外では作動しないという仕様の為、システムの輸出等は事実上不可能と言われている。


 同日午後2時、脱出に成功した男性提督と孔明は小菅にあるイベント会場と思わしき場所に到着した。数日後、この会場では超有名アイドルの同人誌即売会が行われる。その為か、色々な人たちが入り乱れる状況となっているのだが――。
「ここで良いでしょう」
 男性提督はイベント会場から少し離れた倉庫の前に立ち、そこで何かのロックを解除する。倉庫のロックが解除されると、そこから姿を見せたのは大型のアンカーをモチーフとしたシールドと各種アーマー、つまりARガジェットである。
「これは――ランニングガジェットではなく、ARウェポン?」
 ARウェポン、ARガジェットと似たような拡張現実を利用した武器であり、ARゲーム専用の装備でもある。この武器にはビーム兵器なども存在するが、それら全てに殺傷能力は一切ない。
本来、ARウェポンとARガジェットは同一技術で開発されている。同じ事はパルクールとパルクール・サバイバーでも例えられるのだが……。
男性提督がARウェポンを隠し持っていた理由も気になるが、これをどうしようと考えているかと言う部分も気になる。それを察知したかのように、男性提督は孔明にビームソード型のガジェットを手渡す。
「その通りです。これはARウェポン――今となってはクラシックと呼ばれる旧式ですが、その威力はあなたが考えている以上の物を発揮するでしょう」
 これを渡して彼は何をさせようとしているのか、孔明にはある程度の察しはついていた。それは、黒幕のあぶりだしである。
「これを使って秋元をあぶりだすのかしら?」
「違います。秋元は既に捕まっているという情報が拡散していると思いますので、別の勢力をあぶり出していただきます」
 男性提督は秋元以外の勢力と言いきった。一体、誰を――と考えた段階で、孔明は何かを察した。
「もしかして、その勢力は……」
「察しが良くて助かります。あなたの元クライアントでもあるBL勢力と言えばお分かりでしょうか」
 男性提督の狙いはBL勢力である。しかも、このイベント会場で行われる予定なのは男性アイドルグループなのだが、彼が狙っているのはそちらではない。
「あなたがあぶり出して欲しいのは、非BL作品をBL化させて自分達のコミュニティとして制圧する一部のブラックファン……と一言で単語を選んで説明するのは難しいでしょう――」
「早い話が、夢小説勢力です。彼らは3次元コンテンツ作品もBL化させてネット炎上を狙っているのは……ネットの大手掲示板を見れば一目瞭然でしょうか」
 その後、孔明は佐倉提督と名乗り、その他の勢力に関して攻撃を仕掛けつつ、BL勢をおびき寄せると言う単独行動を取る事になる。
ネット上で度々流れる単独襲撃、それは間違いなく佐倉提督による物だった。しかし、その姿を正確に伝えられた人物は少ない。ネット上の動画も、別の映像に変化してしまうと言う状態であり、これが発見の遅れにつながった。


 同日午後3時、佐倉提督は託された提督服とガジェットを装備し、夢小説勢力をおびき寄せるという作戦を展開していた。
「なるほど――特殊な粒子がコーティングされた提督服か」
 佐倉提督の着ている物、それはサバイバー運営やガーディアンにも流れていないルートで開発された服であり、この装備を実験する為という理由もあったようだ。
更に言えば、両肩にマウントされたアンカー型シールド、それは通常のビームアンカーとしてパルクール・サバイバーでも使用出来るだけでなく、その他のARゲームでもアンカーアーム等の利用法がある。
「それに加えて、パルクール・サバイバーと他のARゲームで共用可能なレベルのガジェットとは。これほどの装備が開発途中なんて――」
 強大な出力を得たビームアンカーの一撃は、相手が重装備ガジェットでもロボットタイプでも一発で気絶可能だ。それに加えて、リミッター解除すれば軍事転用可能なクラスの出力になるだろう。
「あの提督、どういう意図でガジェットを横流ししたのか――調べてみる必要があるみたいね」
 ARガジェットの類は軍事転用禁止と言う事が言われており、過去にも表向きにはなっていない逮捕者は存在する。これほどの装備を開発する以上、リスクは向こうも承知の上だろう。
軍事転用禁止というルール自体は、アカシックレコードに古くから存在する。実際に動画サイトにはアカシックレコードを知り、その技術を再現しようと言うガジェットの試作型等も存在している。
何故、人は危険を承知の上でアカシックレコードの技術を得ようとしているのか? 佐倉提督は一つの結論に辿り着いた。
「BL勢力もアカシックレコードを探していた以上、そこから何かの利益になるような物が存在するのは間違いない」
 そして、佐倉提督はアカシックレコードを探っていると思われる花江提督を探る事になった。
「これだけの技術が特許権もない状態で放置されている方が問題とみるべきか、夢物語であると放置した結果を問題とみるべきか……」
 これだけの技術であれば、それを独占しようと言う企業が出てもおかしくない。しかし、それでも挙手して実現化しようと考える大手企業はどこもいなかった。
仮に技術を利用して商品化しても売れないと考えて切り捨てたのか、あるいは一部のユーザーにしか受け入れられない物を商品化して大丈夫なのか…という問題もあるのかもしれない。


 5月6日午後1時30分、ホーリー記念のスレイプニールが勝利したというニュースとは別に、あるニュースがネット上で話題となっている。
《超有名アイドル大手、マッチポンプ容疑で家宅捜索へ》
 ここで言う超有名アイドル大手とは、秋元のサマーカーニバル及びサマーフェスティバルではない。もう一つの超有名アイドル大手、午前のニュースで薄い本騒動が報道された方の事務所である。
こちらの芸能事務所に関しても週刊誌報道を含めた黒い噂は多いのだが、政治家を抱え込んで黙殺しているというデマにも近いような噂がネット上でも絶えない。
【何故、今更この事務所が家宅捜索を?】
【午前中のニュースを見なかったのか? ヴィジュアル系ファンによる自作自演騒動を】
【あの事件は超有名アイドルのCD売り上げを伸ばす為の物じゃないのか?】
【そこまで単純だったら、この事務所が家宅捜索を受けるはずがない】
【お家騒動が昔あったようだが、そっちとも違うのか?】
【結局、それを含めてマッチポンプ疑惑があると言う事だろう】
【遂に2大コンテンツ改革必須案件に踏み込む時が来たのか――もう片方の夢小説とブラックファンは自滅寸前だが】
 一連のタイムラインを見て、笑みを浮かべているのは黒髪のショートカット、貧乳と言う女性である。
現在は白い改造提督服に右目には眼帯――正確には眼帯型の高性能ガジェットとも言える――を身につけている。
「どうやら、もう一人の元凶が姿を見せたようだな」
 佐倉提督は何かを確信したような表情を見せた。
『司法取引』と言う名の条件を受け入れ、彼女はBL勢力へ刃を向けるガーディアン勢とへと寝返った事になる。


 午後2時、秋元の芸能事務所が家宅捜索を受けたというニュースが流れていた。家宅捜索自体はコンテンツガーディアンに拘束される前、パルクール・サバイバーの始まる前から数回ほど行われている。
【何故、このタイミングで家宅捜索が注目キーワードに?】
【どうやら、サマーカーニバルを日本全国に展開しようとしていたらしい】
【西暦2020年―つまり、海外スポーツの祭典までに間に合わせようとしていたらしいな】
【パルクールを正式種目に入れようとしている動きも?】
【おそらく、そうかもしれない】
【超有名アイドルコンテンツ以外は全て排除しようと言う世界―まるでディストピアだ】
【このような動きは以前からも察知されていた。それを放置していたのは、芸能事務所が裏で政治家と手を組んで穏便していたという噂がある】
【日本全国へアイドルを展開と言うのは、以前にもあったな】
【実現したかどうかまでは明言されていないが、そうした動きはあったらしい】
【炎上ビジネスに利用されている感じがある。やはり、これは一種の無料で宣伝に利用されている類か?】
 他にもさまざまなつぶやきが目撃され、それ程に家宅捜索というキーワードが独り歩きしている感じがある。
日本全国へ超有名アイドルの劇場を置き、そこの利用者限定で税金の免除等を受けられるという冗談にも近いつぶやきも存在するが――。


 午後2時10分、白い改造提督服にアンカーガジェットを装着した佐倉提督は、あるアイドルグループの劇場前までたどり着いた。
そして、その場で何故かコンテンツガーディアンと戦っている。おそらく、偽者のコンテンツガーディアンである説も大きいが……。
「貴様は――脱走犯だな!」
「こちらガーディアン。脱走した孔明を発見。ただちに――」
 無線連絡をされる寸前で佐倉提督はアンカーシールドを分離、そこから拡散される粒子でガーディアンの無線を妨害する。
「無線が切れた? あの粒子が原因か」
 重装備専用の移動砲台を持ちだしているガーディアンの一人がアンカーに気付き、それを迎撃しようとするのだが…照準を合わせようにもノイズが混ざって上手く合わせる事が出来ない。
そして、迎撃をしようと発射態勢に移行する頃には佐倉提督がビームサーベルで砲台を無力化する。それも、1台ではなく複数台を瞬時に――。
無力化された砲台は2つに斬られたりはせず、メインコアをビームサーベルの突きで一撃という具合だ。それ以外にはビームライフルで無力化された砲台もある。
佐倉提督の狙いはコンテンツガーディアンではない。ガーディアンに関しては、孔明の脱走が確認された為に彼女を追跡しているだけ。コンテンツガーディアンの出現は、現状の佐倉提督にとっては邪魔者という気配がするのだが――。
「司法取引自体が嘘だったか、あるいは下の連中に伝達されていない――。どちらにしても、この邪魔者を何とかしなければ……」
 通信が途切れた事で不審に思ったガーディアン本部が、次々と増援を送りこんでくる。この調子で送り込まれると、単独で行動している佐倉提督には勝ち目がないだろう。
増援の対処に手詰まりを起こしていた佐倉提督の前に姿を見せたのは、オレンジ色のランニングガジェット【スレイプニール】だった。
向こうはコンテンツガーディアンが出現していたのを察知し、様子を見に来たものと思われる。
「コンテンツガーディアンの狙っている人物―見かけない提督か。何処かのコスプレか、それとも違う勢力が提督を利用してネット炎上を狙っている可能性も否定できない」
 レースの方は順調だったが他の収穫がなく、帰還を考えていた花江提督。しかし、佐倉提督の出現は彼にとっても収穫と言える物だった。
花江提督もアサルトライフル型ARガジェットとレールガンを装備し、周囲のコンテンツガーディアンに奇襲を仕掛ける。
ガーディアンの方は花江提督の出現に関しては想定外だったようで、彼が出現しただけで陣形を一斉に乱していた。
「どうやら、ネームド司令官は不在のようだ」
 バイザーに表示される簡易マップから敵の数を割り出し、即座にアサルトライフルを撃つ。ライフルの銃弾はピンポイントに動力炉に命中し、ガーディアンのガジェットは機能停止する。それを見た佐倉提督は驚くしかなかった。
「あれだけの数を、簡単に沈められるのか? まるで、リアルチートじゃないか――」
 佐倉提督は、花江提督の能力を見てリアルチートと考えているようだ。しかし、花江提督自体はチートと言われるような部類ではない。


 午後2時30分、各地の状況を北千住の本部指令室で確認しているのは白銀の提督服姿のガレスだった。
彼女は超有名アイドル事務所の一斉家宅捜索のニュースを見極めてから動く予定だったのだが、予定は思わぬ方向で変更される。
「これ以上の泥沼化はネット炎上ビジネスに利用され、最終的には超有名アイドルのタダ乗り宣伝にも利用される。こうなったら――」
 ガレスは駆け足で、本部指令室から提督室へと向かう。それに加えて放送の準備をするように他の提督にも指示を出した。
『ガレスがいよいよ動き出すらしい。君を送り込んだ理由……それを考えて欲しい』
 一方で別室のアカシックレコードを解析していた遠藤提督に謎の連絡が入った。声は男性のように聞こえたが、ボイスチェンジャーが使われている節がある。
「コンテンツガーディアンも騒がしくなり、こちらも得られる情報は尽きている。そろそろ、潮時か」
 先ほどの連絡を受けた訳ではないが、遠藤提督は別室を出て何処かへと向かおうとしていた。しかし、出口直前で大塚提督が正面口をふさぐ
「大塚提督……あなたもアカシックレコードの正体に気付いたのね」
 遠藤提督は武器を構える気配はなく、ほぼ丸腰状態である。一方の大塚提督はアサルトライフルにショットガンも携帯していた。
「そうだとしても、そちらへ話す義理はない」
 平行線になると考えた大塚提督はショットガンを構えるのだが、ここで彼女を捕まえたとしても自体が急変する訳ではない。
結局は、彼女を素通りさせる事になった。


 午後2時40分、北千住のアンテナショップでは蒼空かなでがアカシックレコードの情報を整理していた。
途中で昼食を取る為にコンビニでのり弁当と飲み物を買いに行った位で、ほぼアンテナショップで情報整理をしている状態である。
情報整理は単独ではなく、途中から協力を要請してきた2人の女性、赤城と加賀も一緒にデータ整理を行う。赤城の方は、アンテナショップ内でピザを3枚ほど食べていたようだが……。
「赤城さん、ピザを3枚も食べておいて作業の放置はなしですよ」
 加賀の目線が赤城に重く刺さる。それだけではない。赤城の方は作業もするが、それ以上に燃費が大変なのである。体型の割には大食いと言う事だろうか?
「ちゃんと仕事をしています! 放置していません」
 赤城が胸を張って宣言したとしても、作業量は加賀だけではなく蒼空の量よりも少ない。これでは言い訳はできないだろう。
【アカシックレコード理論】
 蒼空がチェックしていた作品、それは別世界におけるアカシックレコードを巡る事件を描いた小説である。ショートストーリーと言う区別がされる可能性もあるが、書き方としては小説と言えるだろう。
「この作品に書かれているガジェットですが、いくつかが実現していますね」
 音楽ゲームで使用されるコントローラー型の銃、ギター型ロングソード等と言ったような物が実際に商品化されているのは蒼空もアンテナショップで見覚えがある。
花澤提督も、この辺りは把握しているのにパクリ等と主張する気配がない。あくまでも向こうの技術は向こうが権利を持っているという考え方なのだろうか?
こうした流れは『アカシックレコードではよくある事』として特に言及される事はない。
逆に、アカシックレコードから現実化した物や事件は無数にあると言われている。超有名アイドル絡みだけに絞ったとしても、100以上は出てくるだろうか。
その為、アカシックレコードはいつからか予言の書とも呼ばれるようになった。実際は予言が書かれている訳ではないので、こうも都合よく事件が起こる現状では予言の書と言われるのも無理はない。
「でも、アカシックレコード自体は架空の単語ではないわ。実際に使われている」
 赤城が発見した有名な百科事典サイト、そこにはアカシックレコードの記述は確かにあった。
しかし、花澤提督の言うような意味ではなく別の意味としてサイトには記述されている。
「アカシックレコード、元々は魂の記録と言われている。一方で、別の人物がアクセスした事で別の意味が浸透。花澤提督がアカシックレコードと言う単語を使った事で……後は、さっき話した通りね」
 加賀の方は説明も丁寧で落ち着いている気配もするのだが、少し略すような癖もある。それでも蒼空は何とか理解をしているつもりだ。


 同日午後3時、新宿の大型ビジョンに映し出されたのは提督服を着用し、それらしい椅子に座り、腕組みをしているガレスの姿だった。
さすがに足を組んではいないようだが、パンチラに考慮した物ではないようだ。実際にガレスが穿いているのはズボン系であり、ミニスカ等ではない。
この映像が始まった際、何かのCMが始まると思った通行人は足を止める。しかし、自動車の方は映像が流れても止まる気配はない。信号と言う例外はある一方で、スルーしてしまう車が多いようにも思える。
テレビ局の方はガレスの記者会見がある事自体全く掴んでおらず、テレビスタッフは先手を取られたような表情をしている。
新聞社の方も夕刊の差し替えが聞くような状況ではなく、号外を発行しようとネットの中継サイトを発見して視聴しようとしたのだが―。
「ネットの方は満席で入る事が出来ない!」
「全てのネットが我々やテレビのマスコミをNG指定しているようだ。あの映像を確認出来るのは―」
 新聞記者は映像の方を確認しようとするのだが、動画サイトの方は満席、その他の動画を流しているサイトでもマスコミ関係者が弾かれる為に視聴できない。
『私はパルクール・サバイバーの運営総責任者であるガレス――今回は、皆様にご報告をしておきたい事があり、大型モニター及びARゲームセンターモニターで放送枠をお借りしています』
 ガレスの声を聞いたギャラリー、レースを終えた選手、スタッフ等もモニターの方を注目する。モニターがない所でも、パソコンでのネット配信等でも確認出来るため、スマートフォンを片手に見ているという通行人も多い。
『ご報告の前に、皆様へ謝りたい事があります。私は本来のパルクール・サバイバーで行われるべき事に反し、ある勢力が行った悪行を公表する為に利用していました。これは、ロケテスト当時及び一部提督が掲げていた目的に反します』
 この発言を聞いて驚いたのは、別所でモニターを見ていた種田提督、スレイプニールに乗った状態で映像を確認している花江提督、更には現在某所で拘束中の秋元である。
『この件に関しては、アンテナショップの店長を初め、ユーザーから多数の意見がありました。その為、今回の記者会見という形を取る事で、皆様にお伝えする事に――』
 ガレスの記者会見は続くのだが、それを偶然見ていた新聞記者の一人はスマートフォンで新聞社へと連絡を入れようとする。しかし、電波の方は圏外表示で連絡する事は出来ない。一体、何が起こっているのか?
新聞記者の電話が圏外なのに対し、周囲の携帯電話は通話できる状態。場所によって電波の届き具合が違うのか――と考えたのだが、実際は違っていた。
何と、第3者の何者かがジャミングを展開して意図的に連絡不能な状態を作っていたのである。何故、このような事をするのかには理由があった。
『私は、その昔にサマーフェスティバルの候補生をやっていました。そして、色々な事情で事務所を辞めることとなりました』
 サバイバーの総責任者が元超有名アイドル候補生だった事は周囲に衝撃を与えるには十分な内容だった。それに加えて、サバイバーの反超有名アイドルを掲げているメンバーにとっては寝耳に水である。
『そして、私はイリーガルこと秋元が薦めようとしている禁断の計画を知ったのです。超有名アイドルの劇場を日本全国へ展開し、2020年までに超有名アイドル大国としてコンテンツ流通の神として降臨する。それが、日本――』
 途中を言おうとしていた場面でノイズが入り、次第にガレスの画像は別の画像へと変化する。音声が完全に消えたタイミングで、黒豹にも似たようなマスクをした黒い背広の男性が映し出された。
この人物は椅子にも座らずに立った状態、周囲の場所はギャラリーにも見覚えがある場所――お台場である。
しかも、テレビ局のスタジオのような場所にも感じられるが、正確な場所は不明。サバイバー運営も映像が変わったタイミングで場所の割り出しを行ったが、お台場までしか確認出来ていない。
『彼女の言う事に騙されてはいけません……超有名アイドルが今までも日本経済に多大な影響を与えたのは、ご存知でしょう』
『我々は超有名アイドル優遇が日本経済を救うと訴え――それを実現してきました。それは2020年も同じ事。ただし、秋元が掲げるようなやり方はクールではない。あれは炎上ビジネス+タダ乗り便乗宣伝が生み出した――ブラックファンによる負の財産と言っても過言ではない物』
『超有名アイドルは我々――サイ――だけで十分なのです。総理大臣も超有名アイドル――クールジャパン戦略を――認めています。だからこそ―我々の手でコンテンツ流通を守るのです――』
 映像は黒豹の人物が立っているだけ、口が動くような演出もない。音声は合成とも言えるような物で、所々が下手なつなぎ方であり、素人による合成を思わせる。
しかし、黒豹の人物の声を聞いた周囲の人々は、その声を聞いて希望を持ったような表情をしている。
「あのグループは解散していなかった!」
「AI事件で消滅に追い込まれたと思っていたのに、復活したのか」
「彼らがいれば、サマーカーニバルはいらない! 今こそ、彼らの復活を祝おう!」
 様々な声が聞こえるが、声を上げるのは一部の女性だけのように思える。
それもネット上でブラックファンと例えられる勢力、あるいは【フジョシ】と特定されるような人物ばかりなのも気になるが――。
「図られた。全ては第3勢力に筒抜けだったのか」
 途中で会見が打ち切りとなったガレスは思わず悔しがる。机があったら、思いっきり叩き壊すような勢いで拳を振り上げそうになる位に。
「炎上ビジネスを展開している勢力が潰しにかかったのは容易に想像できるが、一体誰が何のために――」
 ガレスはどの勢力が潰しにかかっていたのかが想像出来ないでいた。
ここまで混乱させておいて、彼らは何を企んでいるのか。


 午後3時10分、日暮里駅を出た電車は秋葉原へと向かっている最中だった。混雑の具合は帰宅ラッシュではないので大きくはないが、それなりに乗客は乗っている気配でもある。
「敵は国会か、あるいはそれを隠れ蓑にしている勢力か―」
 電車で移動中なのは、私服姿の中村提督。カバンを持って何処かへと急いでいるようでもあった。しかし、それを阻止するかのように電車は停止したのである。
『大変申し訳ありませんが、線路に不審者が侵入してきたため、電車はこの場で緊急停止をさせていただきます』
 車掌のアナウンスを聞き、混乱する乗客、中にはつぶやきサイトで実況する者、写真を投稿して拡散する者もいる。おそらく、この電車が遅れた事を周囲に伝えてネット炎上を図ろうと言う勢力だろうか。
「あれは――?」
 中村提督が電車の窓から見た物、それはコンテンツガーディアンの警備兵とARガジェットロボだったのである。


 午後3時10分、ガレスの記者会見放送が途中で中断した辺りの事。秋葉原へ向かう電車が突如として停止したのだ。しかも、この模様は中継されている。
これに関して、完全な誤算と考えているのは上条静菜だった。コンテンツガーディアンのなりすまし自体は午前中の事件で表面化したのだが、ここまでの事を行うとは正直に言うと予想外だったからだ。
それに加え、ARガジェットをゲームフィールド外で運用している勢力がいる事も懸念事項の一つである。ARガジェットの軍事転用が禁止されている事実はネットの掲示板等では常識として認識されているはずだ。
「どの勢力がなりすましを行っているのか分からないが、放置するのは危険か――」
 コンビニ前で淹れたてコーヒーを飲んでいた上条だが、事件に関しては記者会見放送の中断から別のニュースチャンネルを回した所で気が付く。
コーヒーはタンブラーに入れているので、ガジェット運用時にこぼれる心配はない。
それを踏まえ、上条は即座にレーヴァテインへ乗り込む。目的地は仲御徒町と秋葉原の中間地点である。
《未確認機 急速接近中》
 モニターに表示された未確認機情報、上条が背後を振り向くと、そこにはロボット型のARガジェットが複数立ちふさがった。
《モード移行……ARバトルフィールド形成中》
「待って! バトルフィールド形成って――?」
 上条が周囲にバトルフィールドの形成が行われている事に驚く。何と、上条に対して格闘ゲームで言う乱入を仕掛けてきたのである。
これによって、上条は全てのロボット型ARガジェットを片づけないとフィールドからの脱出は不能、目的地へ向かう事も出来なくなった。
『上条静菜……AI事件の恨み、ここで晴らさせてもらうぞ!』
 どうやら、相手は過去にAI事件で上条へ因縁を持っている連中らしい。一部で残党が存在し、それらが超有名アイドルやBL勢に手を貸している事も把握していたが―ある意味で想定外の行動を取り始めたと言える。
しかし、彼らは名前を名乗っていないので便乗犯の可能性は否定できない。それでも、AI事件の単語を出されて黙っている彼女ではなかった。
「どうやら、ランキング荒らしの正体を含めて、操っている元凶を確かめる必要があるみたいね」
 上条の方も目的を変更し、目の前にいるAI事件の残党を片づける事を最優先事項とした。
レーヴァテインはスナイパー仕様ではなくフルアーマー仕様へとチェンジし、重装甲、ガトリング、十連装レーザー爆雷、ガンランス等の武装も充実している。
「邪魔をするのであれば、どの勢力であっても容赦はしない。私はスナイパー。依頼に従うだけの―」
 そして、上条は目の前に迫ってくるARガジェットの大群を次々と装備している重火器で撃ち落とす。迫ってくる敵はガンランスで串刺しにするのだが、ランス部分はビームで展開されている為に実際は貫かれた《演出》だけで、搭乗者には全く影響を及ぼさない。


 午後3時12分、中村提督は電車の中に閉じ込められた状態になっており、脱出する事も出来なくなっていた。
一般乗車客が混乱している訳ではないのだが、この状況を実況し始めているのも原因の一つである。
それに加えて、電車のドアも手動で開けられないという事があった。
下手にドアを開けて、コンテンツガーディアンの攻撃を受けてしまった場合にどうなるか。
「このままでは、電車に閉じ込められた状態でガーディアンに―」
 中村提督も万事休すとなっていた所、そこへ姿を見せたのはブレードタイプのガジェットを装着したランスロットだった。
ランスロットの装備はランニングガジェットとは大きく異なる。その理由の一つは、彼がパルクール・サバイバーへは参戦していないというのもあるが―。
更に付け加えれば、彼が持ちだした装備は通常時に使用するシールドブレードを含め、それ以外にも脚部にソードブースター、両肩にもソードビット、胸部にはソードアーマーという具合に全身が刃と言う装備となっている。
「これ以上、好き勝手にはさせない!」
 その一言と同時に、脚部のソードブースターを射出、その一撃は複数のダミーガーディアンを一撃で消滅させた。どうやら、一部のガーディアンはCGで出来たダミーのようだ。
ダミーの存在を確認したランスロットは、両肩のソードビットを展開、分離した無数の剣がダミーガーディアンを消滅させていく。残るダミー以外は2人、どうやらダミーを操っているのはこの人物達らしい。
「あれだけのガーディアンを、たった1人に倒されるとは―」
「ここで撤退をすれば作戦失敗は避けられない。もう少し時間を稼がないと」
 2人は時間稼ぎの為に足止めを指示されたらしい。誰の足止めなのかは明らかではないが、ランスロットが電車の方を振り向いて、何かを察した。
「隙あり!」
 突撃装備のガーディアンがグレネード弾を発射、その爆風でランスロットは僅かに怯んだ。
それを見たもう一方のスピアを構えたガーディアンがランスロットに向かって突撃、見事にバイザーへ直撃する。
【システムエラー発生】
「こんな時にシステムエラーか―」
 ランスロットはメットを外し、その素顔を見せる。
それを見たガーディアンは言葉が出ず、後ろ姿しか見えなかった中村提督もガーディアンの驚き具合から、何かを感じた。


 午後3時13分、上条は未だに電車の止まったエリアへ向かう事が出来ず、別のエリアで足止めされる。距離としては、あと100メートルと迫っているのだが―。
「馬鹿な! ランスロットの正体が、奴だと言うのか?」
 何処かのカメラが拾ったと思われる画像を確認した上条は、ランスロットの正体が自分の想定外とも言える人物だった事に驚きを隠せない。
黒髪のセミロング、黒い瞳の人物、顔の形等からして男性なのは明白だろう。彼の正体を直接見たガーディアンのメンバーは、石化でもしたかのように動きを止めている。
「信じられない」
「こんな現実があっていいはずがない!! 嘘だと言って下さい」
 沈黙の後、2人はランスロットの説得という―別の意味でも考えられないような行動を取る。
それに加え、電車内の乗客にもガーディアンと同じような反応をする人物が数人確認できた。
「俺を知っているのか?」
 ランスロットも頭に衝撃を受けたかのような状態で、一種の錯乱状態に陥っている。
これが向こうにとっては攻撃のチャンスなのに、攻撃してくるような気配は全くない。
「知っているも何も、貴方は伝説のアイドルグループに所属していた――」
 スピア装備のガーディアンが何者かの狙撃を受けたかのように前のめりに倒れる。
倒れたガーディアンの表情は『どうして?』と言ったような疑問を持っているようでもあった。
「アイドルグループ……超有名アイドルは敵、ネット炎上勢力は根絶するべき存在」
 ランスロットの方は錯乱状態が続き、まるで何者かのコントロールを受けていたかのような表情をしている。
あるいは、記憶が戻った可能性もあるのかもしれない。
「超有名アイドルはコンテンツ流通の為にも斬っても切れない存在! 根絶をするべき存在ではありません」
 突撃装備のガーディアンは、彼を知っているかのような口調で説得を続ける。
しかし、錯乱状態のランスロットにはその言葉も聞こえていない。
「俺の敵は超有名アイドルではないのか?」
「違います! 倒すべき勢力はパルクール・サバイバー運営。彼らの本当の目的は―」
 号砲が響く。正確にはサプレッサーを外したと言うべきか。突撃装備のガーディアンもその場に倒れた。倒れたガーディアンには血の跡等はない事から、ARウェポンの狙撃である事は分かる。
しかし、ランスロットが周囲を確認する頃には狙撃した人物の気配は消え、周囲に展開されていたARフィールドも解除されていった。
フィールドの解除に伴い、ランスロットもそのまま居続ける事は線路への不法侵入に当たる。その為、少しふらつきながらもオートパイロットシステムを起動させ、安全なエリアまで避難する。
『お待たせをいたしまして申し訳ありません。まもなく、発車いたします』
 車掌のアナウンスが流れると、乗客の方もほっと一息といった具合になる。中村提督の方も何とか侵入者を排除してくれた事で、目的地へと向かう事が出来る事に安心していた。
「それにしても、あのランスロットの正体――ガレスに尋ねる必要があるかもしれない」


 午後3時15分、上条はメットをしていないランスロットを目的地へ向かう最中に発見する。しかし、目的地の騒動は既に終わっており、自警団による現場検証が行われているだけだ。
「やはり、そう言う事か」
 上条は、ふと気になる事があってレーヴァテインから降りる。降りた後にはコクピット内に置いてある黒いコートを取り出し、それを上に着用する。
「桜坂玲、どうして超有名アイドルを駆逐する側に?」
「その話はしないでくれ! 今の自分は桜坂ではない……ランスロットだ」
 桜坂玲さくらざか・れい、元有名男性アイドルグループのボーカル担当。
人気の方も決して低い方ではなく、ネット上ではサマーカーニバルよりも実力があるとも言われていた。
しかし、AI事件で彼の所属していたアイドルメンバーがマッチポンプに加担していた事が原因となり、グループは解散、メンバーは行方不明となってしまった。
その後の足取りは不明だったが、パルクール・サバイバーが始まった辺りで噂になっていたランスロットと呼ばれるランカー、彼が桜坂にそっくりとも言われている。
「それに、貴様はレーヴァテイン……上条静菜だな!」
 そして、ランスロットは右手では顔を押さえつつ、逃げる態勢に入っている。
上条に対し、AI事件におけるトラウマでも思い出したのだろうか?
「そうだとしても、今のお前をどうしようと言う意思はない」
 上条は単に話を聞きたいだけであり、抵抗の意思はないとアピールをする。しかし、ランスロットの疑いは消える事がなかった。
その後、交渉を続けても無駄なやり取りの繰り返しになると判断した上条は、今日の所は諦める事にした。


 午後3時20分、秋葉原のアンテナショップに姿を見せたのは中村提督だった。本来であれば、もう少し早いタイミングで到着するはずだった。
「ガレスに伝えるのも考え物か。まずは、任務を終わらせてからに…」
 そして、中村提督がアンテナショップに入ろうとした矢先、その目の前に姿を見せたのは見かけないガジェットを装着した提督だった。
その正体は佐倉提督なのだが、中村提督はあった事が一度もない為に誰かは気付かない。一方で佐倉提督は中村提督の顔には見覚えがある。
そうした観点から、佐倉提督が取った行動とは中村提督も予想していない物だった。
「中村提督、許せ――」
 目の前から提督が姿を消したと思ったが、気のせいだと中村提督は判断する。
そして、手に持ったカバンを再確認してアンテナショップへ入店する。


 午後3時25分、アンテナショップのカウンターに事情を説明し、奥のエリアへと入った中村提督の前には、意外な事にオーディンの姿があった。
「何のために秋葉原に来た? こちらは色々と大変だったと言うのに―」
 中村提督が遅れた理由をオーディンに説明しようとしたが、向こうは何故か把握済みらしい。
「実はカバンの中身が入れ替えられているという話を聞いて、わざわざ駆けつけたのだ」
 オーディンの話を聞き、慌てて中村提督はカバンの中身を確認する。
中身を確認すると、そこにはUSBメモリが1個入っているだけだった。
「これで合っているのか?」
 中村提督も中身に関しては知らされていない為、オーディンに確認を取る。
そして、特に問題はないとお墨付きをもらった。


 午後3時30分、オーディンがUSBメモリをダミーパソコンに接続すると、画面に表示されたのは黒豹の人物―ガレスの放送を妨害した張本人が現れた。
『これをここに持ってきたという事は、真の黒幕に気付いたという事ね―』
 パソコンからは女性の声、妨害放送の時とは全く違う声に中村提督は驚く。オーディンの方は提督たちとは対照的に驚く表情すら見せない。
『ここまでの事をしなければ、第3者に見破られる可能性もあった。それ程に切迫していると言ってもいいわね』
 そして、黒豹の人物はマスクを外す。そのマスクを外した姿を見て中村提督は驚きを隠せないようだった。
「加賀だと? これは、一体どういう事だ!」
 中村提督が驚くのも無理はない。画面に映っている人物、ロングヘアーに近い髪形、紫色の提督服、懐中時計のペンダント、それら全ては彼にとっても印象に残る人物である事は間違いない。
『私の名前は加賀……といっても、これを見ているメンバーに自己紹介は不要かもしれないわね――』


 午後3時30分、秋葉原にあるアンテナショップへ到着した私服姿の中村提督だったが、カバンの中身は突如として現れた佐倉提督によってすり替えられていた。
カバンに入っていたUSBメモリの中に入っていた動画、それは黒豹の人物に変装した加賀が映し出されていた。
『私の名前は加賀……といっても、これを見ているメンバーに自己紹介は不要かもしれないわね。私は花江提督を含めたメンバーとは別の可能性からアカシックレコードを変えようとしているから』
「彼女が阿賀野菜月とも違う勢力に所属する人物、加賀――」
 白衣姿の小松提督は落ち着いているようにも見える。周囲の提督、中村提督も驚いている中で彼だけ落ち着いているのが逆に不自然にも見えた。
花江提督等が元サバイバー運営なのは有名な話になっている。その一方で、加賀に関しては一部の人物しか知らないというマニアックな話題となる。
加賀と言えば、その相方として赤城もいるはずなのだが―彼女の姿は道がないでは確認できない。
「こうなる事は既に織り込み済みとでも言いたそうな――」
「そこまではこちらも予測はできない。例え、アカシックレコードの予知があったとしても万能な力でもなければ、ましてや超能力ではない。そこまで便利な能力とは違うだろう」
『――今回、少し強引な手を使って運営へ接触を試みているけど、それだけ事態は切羽詰まっている証拠よ』
「ならば、あの時に姿を見せた提督は誰だ? 向こうは自分を知っているように思えたが、運営側の提督ではないのか」
「こちらでは、アンテナショップに集まっている数人以外はいないはずだが―コスプレイヤーと見間違ったのではないか?」
『その為に、本来であれば協力関係を組まないような人物に条件を提示……それを向こうが同意する形で協力してもらった』
「あの時の提督が、加賀の協力者? だとすれば、赤城か?」
「赤城は元運営ではない。今でも運営の協力者……阿賀野のような勢力と組む等は考えられないだろう」
 中村提督とオーディンの議論が続く中、映像の方は再生が始まっていた。
『本来、運営に持ち込まれる予定だったUSBメモリ、あれにはある勢力の機密データが入っていた――』
「ある勢力だと?」
 小松提督が何かに反応したかのように、初めて驚いた。
おそらく、彼は本来送られてくるデータに関して何かを知っている可能性がある。
『アカシックレコードではネット炎上勢、要するに大手まとめサイト管理人と言えば分かるか。ネット上で見かけるアフィリエイトが貼られている系統のサイト、あれが全ての元凶と言っても過言ではない』
「ネット炎上勢、それが真の敵だと言うのか?」
 中村提督は加賀の話す事に対して半信半疑という状態になっている。
一方で、その他の提督は話がついていけない状態であり、それぞれの作業を始めている人間もいた。
『彼らはタダ同然の情報を意図的に改ざんし、ネットを炎上させる事で自分の存在感をアピールしようと言う勢力。それによって二次被害が出ようとお構いなし……こうした勢力の存在を懸念した蒼空かなでは、ある決断をした』
 一方の加賀は淡々と用件だけを説明し、感情的になる事を避ける。しかし、中村提督には加賀も若干だが感情的に話している事が映像からも把握できた。
『炎上ビジネスが世界中に展開し、それに超有名アイドルが便乗して無尽蔵の利益を得る前に……炎上ビジネスその物を根絶する、と』
 この話を聞いた一部の提督勢、小松提督は不可能だと思い始める。
超有名アイドルファンと政治家が手を組んでいると思われる話自体はネット上にもあるのだが、それが事実だと証明できたケースは出てきていない。
それだけではなく、超有名アイドル勢が無尽蔵の利益を得る為に炎上ビジネスに便乗するという話も飛躍しすぎている。自分達にとっても不利益な可能性のあるネット炎上、それにタダ乗り同然で便乗出来る物なのか、と。
「ただでさえ、超有名アイドルはここ最近のニュースで大きく取り上げられ、タダ同然でCDの宣伝が出来るとファンも便乗してネットに情報拡散をしている。しかし、こうしたやり方に異論を唱え始めているメディアも、一部で存在する事は事実だ」
 この件に口を開いたのは、中村提督だった。小松提督が口を開いてもおかしくない話題だが、何故か彼は沈黙を守っているままだ。
「こうしたブラックファンの存在は、いずれ日本にとっても不利な状況を生み出すのは避けられない。2020年に行われるスポーツの祭典でも、開会式に超有名アイドルを投入すると言う話が議論され、国会でも承認されようとしている」
「待ってくれ、その話は初耳だ。もしかして、それはブラックファンが流した偽ニュースではないのか?」
 中村提督の話に横槍を入れたのは小松提督である。
彼は、今の話が超有名アイドルのブラックファンが作った偽情報ではないか、と疑問に思っていた。
「このニュースだ――」
 中村提督は加賀のメッセージ動画を途中でストップし、別のブラウザを立ち上げて該当ページを小松提督に見せる。
それによると、超有名アイドルが日本政府の行う公式祭典等で無料出演可能という法案が審議されている――という趣旨のニュース記事が掲載されている。
「この新聞社は……まさか!?」
 小松提督もネットの記事を確認し、大手の新聞社が取り上げている事に驚く。これがスポーツ誌経由やゴシップ同然の中堅会社だったら利益を稼ぐ為のゴシップとピンハネする事は可能だろう。
しかし、記事に書かれていた新聞社の名前は大手新聞社。なりすましや偽物も考えたが、他の提督がテレビを付けた所、これに関連したニュースが取り上げられているので、ニュース自体が真っ赤なウソと言うのはあり得ないだろう。
仮にニュースがでっちあげだった場合、新聞社の信頼を失い、それこそ超有名アイドルに買収されている事実を海外へ配信するだけだ。
アイドル総選挙の一件も、投票数や順位予想等に目が行くような物だが、それよりも投票券が同封されたCDがどれだけ売り上げを伸ばし、CDチャートを炎上させたか……そうした話題には触れようとしない勢力が多い。
「この記事は確かにネット上でも話題になっている。しかし、この映像が合成過ぎる。例の演説に割り込んだ人物の映像、あれも切り張りが雑過ぎる印象だ。まるで、事態の急変に対応しきれていない」
 小松提督が冷静に判断し、この映像はガレスの会見に横槍を入れてきた黒豹の人物と同じ、雑な仕上がりでも信じる人間が拡散してくれると狙った物だろう。


 午後3時40分、中村提督は改めて止めていた動画を再生する。そこには超有名アイドル商法に対する不満、彼らが今までファンを投資家としか見ていなかった事、その他にもさまざまな不満をぶつけている。
「茶番だな。これ以上は有力情報も得られな―?」
 これ以上は加賀の一方的な話に付き合う必要性はない―そう考えていた中村提督だったが、ある一言を聞いて何かを感じずには居られなかった。
『超有名アイドルが日本限定だからこそ、リアルチートに近い売り上げを記録している。これを単純に超有名アイドル商法やお布施と言う言葉にまとめられるのか? おそらくは、全く違う。我々は阿賀野菜月とは違う結論に至った』
 彼女の発言内容に、何と阿賀野菜月の名前が出てきたのである。しかも、彼女とは違う結論に至ったとも語っている。
『阿賀野菜月は超有名アイドル商法と利益至上主義、そこに問題があると考えている。しかし、花澤提督は超有名アイドルの存在そのものが世界線を歪め、第4の壁に存在する超有名アイドルの事件に影響したとアカシックレコードで書き記している』
「第4の壁――そんな物は存在しないと思っているが」
 中村提督は加賀の話に出てきた第4の壁と言う単語を気にしていた。そして、花澤提督がアカシックレコードに関係していた事も加賀の発言で初めて知った。つまり、全ての鍵を握っているのはアカシックレコードの所在を知っている花澤提督になる。
「第4の壁、ネット炎上勢力、超有名アイドル商法―まさか、あの国会で議論されている話は別世界の国会と言う事か」
 小松提督は右手で口を押さえながら、ある結論を発見する。確かに、偽物の記事だったとしても他の世界で起きた出来事とすれば、嘘とは言えなくなる可能性はある。


 午後3時50分、北千住で情報収集を続行していた加賀は佐倉提督から例の作戦は成功したと報告を受け取る。
「――そうか。アレは入手できたのか」
『まもなく北千住に到着する。アンテナショップで落ち合おう』
 用件のみを手短に報告した佐倉提督は、南千住駅で敢えて降りてアンテナショップへと向かう。北千住駅からの方が目的地に向かうには都合が良いのだが、南千住の方がさりげなく近いというのがある。
それとは別に、他の勢力が例の物を狙ってくるとは限らない。そうした経緯もあって、南千住駅で佐倉提督は降りた。電話に関しては電車を降りてからなので、マナー違反ではない。
南千住駅を降りた佐倉提督はカバンを大事そうに抱え、目的地へと向かう。その時だった。何と、超有名アイドルのブラックファンが襲撃してきたのだ。しかも、持っているガジェットは新機種のゲームで使用されるソード型、佐倉提督のガジェットと比べると性能は一段下回る。
「そのかばんの中身を渡してもらおう。それに入っている物を、我々は把握している」
 黒魔術師を連想させるコスプレの男性が、佐倉提督のカバンを要求してきた。彼らの言う『把握』とは、おそらくはすり替えた方の中身だろう。
「そう簡単に物事が運ぶかな?」
 佐倉提督は、笑みをこぼしながら全速力で走り出した。彼女のブーツはパルクール・サバイバーでも近日解禁予定のホバーブーツで、スピードよりもスリップ等を防ぐ意味で用いられる。
このブーツはホバリングで移動可能なシステムだが、一方で飛行可能なガジェットをパルクールで扱うのは反則だという意見もあった。その為、ホバリング可能な時間は1回の発動に付き30秒、最大3回と言うリミッター付き。
しかし、そのリミッターはあくまでもサバイバーのルール内、他のARゲームやガジェットの使用許可が出ているエリアでは制限がない。
「何て奴だ! 追いつける気配がしない」
「あれは浮遊能力が追加されたブーツだ。迂闊だった――」
 増援を呼ぼうとも考えたが、あのスピードでは追跡できないだろう。
しかも、ここは商店街付近と言う事もあって大型ガジェットは使用できない。


 午後3時55分、佐倉提督がアンテナショップの前に到着、その前で待ち構えていた加賀は佐倉提督の持っていたカバンを受け取る。
「ご苦労だった。例の件に関しては、こちらでも調査しておく」
「あの提督は、どう考えてもサバイバー運営や他のガーディアンと雰囲気が違う。第3勢力の変装とは信じたくないが」
 佐倉提督は他にも言いたい事があったが、周囲を見回した後で別の場所へ向かってしまった。
そして、加賀の方もカバンを開いて中身を確認する。中に入っているのはUSBメモリが複数個である。それに対し、すり替え先のカバンのメモリは1個だけ。どう考えても重量で気づかれる可能性はあった。
「赤城、これをサバイバー運営本部に運んでくれ。大至急だ」
 加賀はUSBメモリの1個だけを引き抜き、それ以外を全て運営本部へ運ぶように赤城へと指示する。
「輸送任務ですか? 全く、人使いの――」
「そんな事を言うと、近くの春雨サンドのお店、教えないが――」
「行きます! 行かせてください!」
 赤城を釣る餌は単純明快すぎる。それを承知の上で、加賀は赤城とコンビを組んで今までもやっていた。
しかし、花江提督が離脱した段階で、加賀は思う所があってサバイバー運営を離脱、その後はフリーとしてアカシックレコードを独自に調べている。


 午後4時、加賀は抜き取ったUSBメモリのデータをタブレット端末に表示、それを蒼空かなでに見せる。それを見た蒼空は衝撃のあまりに言葉を失う。
「これが、あなたが最も嫌っていた存在――リアルチートよ」
 リアルチート、それは人類を超越した存在とされている。別のアニメやゲームでは新人類等と呼称されているだろうか。
超有名アイドルが無尽蔵とも言える金の力で無双するアイドル……それを証明する証拠、それこそが加賀が手に入れたデータその物である。
「3年前の幻影……」
 蒼空には思う所があった。超有名アイドルは作られたリアルチートである事は既に分かっている。
そして、ガンシューティングで初心者狩りを繰り返していた人物も――。
「リアルチートなんて、超有名アイドルが名を連ねていいものではない。無尽蔵とも言える金の力も、投資家ファンによる資産運用同然よ」
 加賀は超有名アイドルが一部政治家の政治資金を運用する為に作りだした存在である……そう断言してもいいような証拠を手に入れた事に、何かの核心を抱いていた。
それからさまざまな勢力が動き出し、ランカー王決定戦の出場権を巡る争いは激戦区と化していた。
数日の間は強豪が様子を見る事もあれば、超有名アイドルのブラックファンがレース妨害を仕掛けるような事もあった。
「超有名アイドル勢を駆逐する為の切り札、まさか赤城が持ってくるとは予想外だったが―」
 緑髪のツインテールに白銀の提督服姿というガレス、彼女がタブレット端末に表示していたのはブラックファンのリスト、更にはネット炎上勢力の活動しているブログ、つぶやきサイトのアカウント各種、なりすましが疑われる各種情報である。
「これらも全て、アカシックレコードにあったのが驚きだが―第4の壁という噂、これで実証されたな」
 赤城がもたらした情報、それは個人情報保護が叫ばれる中で集められたのだが、それらは特定のサーバーに保管されていた物だという話である。にわかには信じられないが。


 5月26日、花澤提督は県内某所にある太陽光施設に足を運んでいた。奥の部屋に通された先にあった物、それは大量のオンラインサーバーである。
このサーバーは大手イラストサイトの物であり、特別な許可をもらってサーバールームを調べていた。調べるサーバーの見当は付いており、ヤマ勘で調べようと言う事ではないようである。
「アカシックレコード、その全貌は――」
 プラチナのラインが目立つ提督服、これは花澤提督の特注であり、この服を着るケースはめったにない。
「時は来た! 今こそ、超有名アイドルが裁きを受ける時――」
 花澤提督の目、それは獲物を狙うかのような鋭い物を感じられる。花澤提督の真の狙い、それはアカシックレコードなのか?
『大塚提督、引き返すのならば今の内だ』
 都内某所にいる大塚提督のスマートフォンの通話、それは謎の男性からの連絡だった。着信者名は不明となっていて、誰からの連絡かは分からない。
「引き返す? 既に引き返す事は出来ないだろう」
『アイドル総選挙の件は君も知っているだろう。あの炎上具合とランカー王に忍び寄る影は同じ存在だ』
「だからと言って、何もせずに超有名アイドルのやりたい放題にする気か?」
『その通りだ。その様子を全世界へ配信する事で、超有名アイドルを絶対悪としてアピールする事も出来る……絶対悪という表現が適切かは分からないが』
「逆に放置すれば、別の勢力がサバイバー運営を無能と叩くだろう。それを考えていない訳ではないはずだが」
『確かに、サバイバー運営が放置する事でザル警備をアピールし、パルクールの流行に終止符を打つ事も可能だろう。しかし、国際スポーツの祭典で対象種目に入れる競技を、ここで叩くのは筋違いとも言える』
「国際スポーツの祭典? まさか……」
『そのまさか、だ。パルクール協会等は競技種目に入れる事を反対しているようだが、芸能事務所側としてはアピールのチャンスと狙っているらしい』
 2人の会話は続く。しかし、途中からボイスチェンジャーが不調となり……。
「その声は!?」
『既に察しが良いと思うが、この事は他言無用で願いたい。こちらとしては、本当の意味での黒幕を暴くまでは伏せておきたい』
 大塚提督と会話していた人物の正体、それは小野伯爵だったのである。何故、彼は複数の提督とパイプラインを持っていたのか……謎は深まるばかりだ。
+注意+
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