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パルクール・サバイバーRe:System 作者:桜崎あかり

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幻想の先、アカシックレコードの記録

 5月6日午前10時40分、花江提督の目の前に現れた謎のガジェットを装着した人物、それは自分から正体を明かしたのである。
『貴様は――』
 彼は花江提督の思想に関して危険性を感じていた。だからこそ、この場で花江提督を消そうとも考える。
しかし、この場で大事件を起こした場合、超有名アイドルグループは一気に犯罪者集団というレッテルをネット上で貼られ、最終的には解散となるだろう。
最悪、色々な意味でも黒歴史化する事も避けられない。
「お前の考えは、どの方向を向いている? どう考えても、超有名アイドル商法を駆逐するような阿賀野の考えとは比べ物にならない――」
 花江提督が見破った彼の正体とは、超有名アイドルのブラックファンの一人だった。彼も超有名アイドルコンテンツ以外がヒットする事は考えられないと思い、イリーガル秋元に賛同した人物でもある。
彼の装着していたガジェットは試作型で、5分で稼働限界を迎えて機能を停止する。5分で決着をつけるつもりが、花江提督の予想外とも言える行動のせいで全てを崩された。
このガジェットに関してはガジェットバイヤーが手回しをした物らしいが、真相は今となってはどうでもよいのかもしれない。
「僕が阻止する世界は悲劇を繰り返すシナリオ。ループと言っても差し支えのない――」
「この時代にループだと? 冗談はやめてもらおうか。一カ月でリセットされる世界、あるいは誰か一人が永遠に時間をさまようのか?」
 花江提督は突如として『ループ』と言いだした。これに対し、ブラックファンは冗談ではないと一蹴する。
「そう言ったファンタジーなループではない。現実的なループだ。超有名アイドル商法が恒久的に続く事その物がループだと断言できる」
 そして、花江提督は別のARガジェットを取り出そうとも考えたが、あくまでもランニングガジェットで来ている為に装備の変更はしない。
ランニングガジェットには武器は存在しないが、花江提督は手持ちのハンドガンと脚部のビームブレードで応戦しようと考える。
ハンドガン及びビームブレードは非常用装備として常駐されているのだが、乱闘に流用する事は禁止された装備とされていた。
しかし、軽装備であればサバイバーへの持ち込みに制限がされないのは明白でもある。その証拠は、以前に目撃された別のARゲームで使用される武器を持ち込んだ件。
これは『能力が強すぎる武器』に関しての持ち込みは不可である事を証明させ、軽装備であれば問題ないという事を黙認している証明とネット上では言われている。
ガイドラインには軽装備携帯に関しては記載されておらず、この辺りは模索中とも言えるかもしれないだろう。
「超有名アイドル商法がループだと言うのか? そうなると、10年以上続くコンテンツは全てループ物と――」
「お前は分かっていない。10年以上続くコンテンツには固定ファンやコミュニティが形成されている。しかし、超有名アイドルは株式投資と同然だ。そのようなコンテンツが恒久的に続く事自体、リアルチートと断言しないで何と言う」
「アイドルを株式投資やFX投資等と一緒だと言うのか?」
「そうでなければ、あのようなCDチャートにはならない。あの売れ方は明白的にコンテンツとしての物ではなく、株式投資や海外勢による爆買いと同じ――」
 結局、花江提督はビームブレードを展開し、彼と戦う事になった。結局、交渉で何とか止められれば問題はなかったのだが、彼が聞き入れるような状態ではない。
そして、ブラックファンの方は試作型ガジェットをパージし、別の量産型ロボットタイプのガジェットを呼び出し、そちらへと乗り換える。
「CDチャートがマッチポンプと言うのであれば、好みの音楽はどうやって見つけるつもりだ? ネット上で見つけるにしても、自分好みの曲を探すには苦労するはずだ!」
「音楽ジャンルのゴリ押しを自分達でやっておいて、そう言う流れにしたネット住民の責任にする。やはり、こうした歪んだファンの考えを改めさせない限り、この問題に一定の解決は見いだせない!」
「こちらで決めたルールに従えば、ここまでの事にはならなかったのだ! 何故、お前達は我々のルールに従わない!」
「一部の投資家ファンが金の力で買収して決めたようなルールに従うのは、ごく少数以下。何処かで譲歩をしない限りは―」
 ビームブレードを上手く受け流す相手、それに対して花江提督は防戦一方である。向こうのテンション的な部分もあるのかもしれないが、花江提督の焦りも原因の一つだろうか。
機体の性能は3段階以上の大差、操縦者の技量では花江提督の方が上……しかし、パワー差に押し切られてしまうのは時間の問題だ。
「だからと言って、お前達はこちらで意図しないようなルールを付け加え、更には内容さえも改変し、あたかもそれが公式だと誤認させるような行動を取る!」
「それは夢小説勢やBL勢が勝手に行っている事。今の話には関係ない!」
 続いて背中のロケットランチャーを構え、その直撃を受けた花江提督のガジェットは損傷率が50%を超える。
花江提督は、これ以上の対話は必要ないと考えつつも妥協点を見つけようとする。しかし、相手側に妥協をするような気配は見当たらない。
お互いに考え方のぶつかり合いが予想されたのだが、結局は過去の事例と同じ結果となった。AI事件で上条静菜が影の黒幕と対峙した時と同じように――。
「超有名アイドルを唯一無二のコンテンツと掲げる以上、イリーガルの目的を達成させる訳にはいかない」
「超有名アイドルこそ、日本に重要な存在。それを駆逐しようという考え方は――」
 お互いに譲れない物があり、その為に行うべき事。花江提督が新規にレールガン型ARガジェットを装備したのに対し、ブラックファンはコンテナに格納されている銃型ガジェットやスピア型ガジェットで対抗をする。
「僕は超有名アイドルのせいで大切な物を失った――。その悲劇を繰り返す事は決して許されない事」
 花江提督の言葉に対し、彼は何を失ったのか尋ねようとする。しかし、周囲に人が集まってきた事で話が出来ない状況となって行く。
そして、手に持っていたスピア型ガジェットを投げ、それは花江提督のガジェットの左肩を直撃、損傷率が一気に70%を超えた。


 そのタイミングを見計らって花江提督は何かのシステムを起動するが、バイザーには特にシステム起動に関するメッセージは表示されていない。
「お前は見てはいけない真相を知っていしまったのだ。超有名アイドルを唯一無二……神コンテンツとして考えているのであれば、それに伴うリスクは、ここで償ってもらう」
【アカシックレコード―アクセス開始】
 花江提督の一言、その直後にオレンジ色の装甲は青へと変化していく。どうやら、オレンジ色自体が偽装だったという事になる。そして、花江提督が起動した物とは、アカシックレコードシステムだったのである。
「アカシックレコード……そんな未来予知で、このARガジェット『ラグナロク』に勝てると思って――!?」
 自分のガジェット『ラグナロク』の性能を語ろうとした途端、目の前から花江提督のガジェットが姿を消した。その場にあるのは、先ほど突き刺さったスピア型ガジェットのみ。
「何処に消えた?」
 センサーなどを駆使して検索を行うが、花江提督の姿は全く見えない。
それどころか、この場には最初からいなかったという雰囲気さえ漂う。
「アカシックレコードに、それだけの能力があるはずがない。きっとトリックだ。レーダーに察知されない、バイザーに映像が表示されないだけという仕掛けに違いない」
 開き直った彼はサブマシンガンを目の前の何もない場所に撃ちまくる。しかし、ヒット反応は表示されず、全てがミスと言う判定になっていた。
「アカシックレコードを知り過ぎた事で、裏を書かれる事になるとは――彼にとってはふさわしい末路か」
 次の瞬間、イリーガルの背後には花江提督のランニングガジェット『スレイプニール』が姿を見せていたが、それに彼が気付く事はない。
「お前の見たアカシックレコードが、この末路――フラグを立てたと言っても過言ではない」
 そして、彼がレールガンの引き金を引き、ゼロ距離で撃たれたレールガンがラグナロクの動力システムを一撃で停止させた。


 同日午前10時50分、激闘の末にブラックファンを仕留めた花江提督だが、その顔に達成感はない。
イリーガルが全ての真実を話さない限りは、超有名アイドル商法の全てが明らかにならず、日本経済にとってもマイナス要素を残す事になる。
花江提督がその場を離れた5分後には『脱走した秋元が再逮捕された』という趣旨のニュース速報が流れたのだが、人々の関心は秋元には既になかったと言える。
実際、イリーガルはコンテンツガーディアンに拘束されたままであり、今回のブラックファンは外見が秋元に似ているだけのモノマネ芸人とも言える人物だったのだ。
彼が何を目的に秋元へなり済まそうと考えたのかは問題ではない。それよりも問題だったのは、この後の流れである。
「まだ――終わっていない。後は、一人だけ――」
 若干の息を切らしつつ、花江提督はコンビニで買ってきたペットボトルのスポーツドリンクを口にする。
他には何も買っていないので、半分位まで飲んだ所でキャップを閉めて再びランニングガジェットへ乗り込む。
花江提督は次の目的地へと向かおうと考えていたが、ターゲットとなる人物の目撃情報が見つからない。
仕方がないので、ネット上でそれらしい情報を探す事にした。そこで、花江提督はとあるニュースを目撃する事になる。


 同日午前11時、ニュースで別のヴィジュアル系ファンによる偽装事件が判明、その内容には衝撃の言葉が出ない。
【ヴィジュアル系も超有名アイドルと同じだったのか】
【一部のグループが行った事を、そのジャンルの総意と考えるのはネット住民の悪い癖だ】
【結局、コンテンツ流通の正常化は夢で終わってしまうのか】
【超有名アイドルと言う存在が最初からなければ、悲劇は起こらなかった】
【彼らが手にしたチートは、やがて経済面で世界恐慌を起こすレベルの事件を起こす事になる。だからこそ、日本で超有名アイドルの悲劇を断ち切らなくてはいけない】
 このニュースを見たネット住民が、早速つぶやきサイトで色々と書きこみ始める。その中には、ヴィジュアル系ファンが全て超有名アイドルファンと同じ扱いをされる事を懸念する声もある。
「そう言う事だったのか。何処まで周囲を混乱させ、悲劇の連鎖を何度繰り返せば気が済む――」
 花江提督はつぶやきサイトのタイムラインを眺め、かなりの衝撃を受けていた。その悔しさはガジェットのモニターを殴ろうと拳を握っていた程。
「この最大の悲劇は終わらせないといけない。ランカー王が始まる前までには」
 今の憤りを何処にぶつけるべきなのか。ネット上に掲載したとしても、炎上勢やアフィリエイト系まとめサイトの管理人に目をつけられれば、取り返しのつかない事になるだろう。
そう言った事を考慮した結果、これはレースに持ち込むべきではないと結論を出した。
『サバイバー外のもめ事をサバイバーへ持ち込めば、無用な混乱やトラブルを生み出す。それらは次第に大きくなり、炎上勢等の資金稼ぎへ流用される。最近の振り込め詐欺も超有名アイドルのCD購入に利用されている噂だが―』
 以前、自分がサバイバーのライセンスを取った際、ある人物に言われた事である。サバイバー外のもめ事を持ちこむ事はサバイバーファンだけではなく、それ以外のファンにも迷惑をかけ、コンテンツ同士の潰しあいとなってしまう。
それらの潰しあいが悪化する事で、ブラックファンやアイドル投資家と呼ばれる勢力が莫大な資金を得るシステム―それはAI事件でも噂されていた事だ。
今でも同じようなブラックファンによるマナー問題がネット炎上を呼び、超有名アイドル勢等にとって宣伝材料に利用される悪の連鎖は続いている。
アカシックレコードにも、こうした事例は何度も掲載されており、この事件の積み重ねが流血のシナリオを生み出すとも言及していた。
「阿賀野菜月――やはり彼女を問いたださなければ、真相は見えてこないという事か」
 花江提督が探していた人物、それは阿賀野菜月だったのだ。しかし、阿賀野の目撃情報はネット上には見つからず、このまま発見できずに午前12時になると思われていた。
【阿賀野菜月がホーリー記念にエントリーしました】
 それは、パルクール・サバイバーの選手情報を知らせるフィードと呼ばれる物だった。このシステムで選手のキーワードをチェックしておくことで、該当選手の情報がリアルタイムで得られる物である。
「ホーリー記念は秋葉原か――」
 目的地は決まった。場所は秋葉原。ホーリー記念は秋葉原駅近くのショッピングモールで行われる。


 同日午前12時、ホーリー記念はメンテナンス終了後の午後1時から行われるらしい。
他のエリアは未だにメンテナンス中の場所もあるが、秋葉原は深夜辺りからメンテナンスを行っていた事もあり、作業は予定よりも1時間早く終わるようだ。
【ホーリー記念は阿賀野が出るらしい。既にポイントはランカー王のボーダーを越えているのに】
【ハードルを上げて出場者をある程度絞ると言うのか?】
【阿賀野はランキング1位のはず。むしろ、ボーダーを上げるとしたら20位の選手じゃないのか?】
【今、20位が厳しい事になっている。昨日に順位の入れ替わりが激しかっただろ?】
【午前中だけでも3回変わったアレか】
【その影響で蒼空かなでも現在は22位。不正ポイントが検出と言う状況にならない限りは、入れ替わりが激しいのは変わらない】
 上位よりも下位の順位が激しく変動し、こうした展開もあって最終的に上位20名が確定するのは直前まで分からないのだと言う。
【レース開催は末日ではない。5月28日になっている】
【つまり、タイムリミットは5月25日か。26日には上位メンバーの選出、27日は予備予選、28日が本レースか】
【予備予選は本レースとはコースが異なるらしいが、どちらにしても厳しいレースなのは間違いない】
【そう言えば、予備予選のボーダーラインは分かるか?】
【おそらく、25位から50位辺り+ワイルドカードだろうな。仮に蒼空が上位メンバー選出されなくても、ワイルドカードは確定だろう】
【蒼空の知名度は、あのレースでうなぎ昇り。人気投票を取ったとしても、不正票なしで1位を取れるのは間違いない】
【ワイルドカードは投票で決まる物ではない。投票で決めたら、不正票を無効にしても有効な組織票で超有名アイドルが選ばれるだろうな】
 その後もつぶやきはホーリー記念の話題等で持ちきりとなった。


 同日午前12時10分、赤いインナースーツ姿で登場したのは秋月彩だった。
彼女のガジェットは調整中なのだが、何とかレースに出てポイントを稼ぐ為にも強行出場している。
「パルクール・サバイバーとパルクールは違う――」
 秋月は、昨日遭遇した神城ユウマの言葉を思い出していた。
「しかし、VRとARが似ているようで違うのと同じように――」
 その一方で、秋月はVRとARが同義であるというネットの言葉を信じていない。
ネットの発言が全て真実であるかのような風潮を、彼女は拒絶している可能性もあるのだが――。


 5月5日午前11時40分、北千住駅を出てレースの行われていた会場付近へ向かっていた所、何処かへと向かう途中の神城に遭遇した。
「あなたが秋月彩さんですか――」
 神城の方は私服にサングラスと言う事で、これから帰るような流れでもあった。その状況で秋月と遭遇する。
神城の方も、秋月に会えるとは予想していない。会えた事は別の意味で奇跡とも言える瞬間でもあったからだ。
「確か、箱根の山の神……」
「今は山の神とは名乗っていません。それは、あくまでもネット上での話です」
 秋月も山の神で覚えていたので、そちらの方が先に出た。しかし、テンプレではあるが山の神に関しては名乗っていない事を秋月にも説明する。
その後、本来であれば神城は帰る予定だったが秋月に付き合って喫茶店へ立ち寄る。
テーブル席に置かれているのは、コーヒーとパンケーキ、カツサンドである。パンケーキは神城が注文した物だ。
「所で、話と言うのは?」
 最初に切りだしたのは神城だった。秋月の方も、本来であれば別の目的があって北千住へやってきた経緯がある。
「あなたもパルクールの選手みたいだけど、どうしてアマチュアチームには所属しなかったの?」
 秋月は神城が駅伝の選手ではなくパルクールの選手である事を把握しており、それを踏まえてアマチュアチーム等に所属しなかった理由を聞こうとした。
「箱根の知名度などもあって実業団からは声がかかりましたが、そちらの方があまりにも独り歩きしてしまって……」
 神城は少しさみしそうに語る。パルクールの団体からも声はかかったのだが、大手とは程遠い小規模グループだった。
仮に所属したとしても、自分の力を発揮できない場合があると考え、誘いを断った経緯もある。
「それから、パルクール・サバイバルトーナメントを知りました。後は、雑誌インタビュー等に載っている通りです」
 神城から話す事は、この位らしい。駅伝の経緯は秋月も知っているし、後の事は雑誌で確認済みと言うのもある。話は聞けたが特に目新しい話題はないようだ。
「私も話した方がいい?」
 秋月の方も何か話したいような気配だった。神城に対してのお礼のつもりだろうか。
「敢えて聞きたいとすれば陸上の選手を辞めた後に、パルクールを始めた経緯ですね」
 神城がこういう事を切りだしてきたので、秋月が困惑してしまう。しかし、せっかくなので話す事にした。これで楽になるかどうかは別として。
「私がパルクールを始めたのは、ある日にサバイバーとは違うパルクールを動画で知ったから―」
「パルクール動画と言うと、アクロバット時代の?」
「そっちとは違う。海外での撮影ではなく、国内で撮影された物。アクロバット規制が入る前のエクストリーム―」
「エクストリームって、パルクール・サバイバーが参考にしたとされる…究極のフリーランニング動画の事ですか?」
「そのエクストリームよ。アレを見て魅了され、次第に陸上よりもパルクールの技術を求めた。その結果、ネット上でアップされたパルクール動画を…」
 秋月の話を聞き、神城は何かを確信した。動画を見てパルクールに興味を持つという人物は見た事があるのだが、ここまでの事をするのは自分でも初めて目撃したと言える。
「まさか、あなたがパルクールを始めたきっかけって……動画からですか?」
「その通りよ。それから、ネット上で珍しいスポーツとして立ち上がったパルクール・サバイバルトーナメントを発見した。テレビで放送されているようなアトラクション番組よりも、自分が探していた競技だと――」
 秋月の目つきは普通の人間とは違っていた。これは間違いなく、沼にはまると判断し、神城はアドバイスする事に。
「秋月さん、パルクールとパルクール・サバイバーは違います。同じと考えていると思わぬ所で怪我をする事になるかもしれません」
 コーヒーとカツサンドを平らげ、神城はこの一言を残す。秋月の方は少しの間考え事をする。
「同じ事は蒼空かなでと阿賀野菜月にも言われた。サバイバーはパルクールとは全く別物と」
 本来であれば、パルクール・サバイバーは別の名称になる予定だったのは有名な話である。パルクールとはかけ離れ過ぎている事にパルクールの団体も苦言していた事も有名だ。
「――サバイバーとパルクールを同じと考え、何のマニュアルもチェックせずにトライするのは危険と言う事です」
 神城が言いたかったのは、格闘ゲームが一部要素で操作方法が同じだからと言って、技コマンドをチェックしないで挑むのは危険と言う事と似ている。
つまり、フォーマットは似ていたとしても実際の動作関係は、実際に触ってみないと分からないという事だ。


 同日午前12時30分、秋月は秋葉原のアンテナショップで特殊なガジェットを発注していた。
「軽装から一気に重装備にシフトするのは危険とも言える。重量の変化は、運動性能等にも確実に影響するだろう」
 アンテナショップの男性店員も、秋月のガジェット変更には驚いている様子だった。
重装備と言ってもスタンダードに若干の装甲を足した程度である。それでも、軽装よりも20キロ以上は変化すると言う話も存在した。
「このガジェットは可変タイプ。ホバーボードからロボットタイプへと変形可能……それ位の事をしないと、あの人物には勝てない」
 パルクール・サバイバーはパルクールとは違う性質を持っている。それは以前からも気づいていたのだが、神城の発言が彼女にランニングガジェットの重要性を再認識させる事にもなった。


 同日午後1時、ホーリー記念が開始、このレースの模様はランカー王決定戦に撮っても重要なレースになると思われていた。
【一体、何が起こった?】
【ジャイアントキリングを超越する】
【ある意味でワイルドカードは決まったかもしれない】
【むしろ、あの人物はノーマークか?】
【これが、上位ランカーなのか】
 15分後に1位となった人物、彼の使うガジェットはオレンジ色に量産機を意識した物、まるで花江提督を連想させるガジェットだった。
『ホーリー記念、トップでゴールしたのは――スレイプニールです』
 実況では確かにスレイプニールと言った。
これを聞いたネット住民は、衝撃のあまりに放心状態になったとも言える。


 午後1時15分、爆音の激しいゲームセンターにいた上条静菜はレースの結果を見て驚きしかない。
どう転んでも花江提督としか思えないガジェットが姿を見せた事も驚きだが、それ以上に阿賀野菜月や秋月彩と言ったランカーが出ているレースで、あっさり1位が取れるのか、と。
「あのガジェット、本当に花江提督なのか疑問に残る。スレイプニールは確か教習所限定の機体。アレを持ち出せるとは……到底思えない」
『上条静菜か?』
 突如として上条のスマートフォンに通話が入った。その声は大塚提督である。上条と大塚は過去にAI事件より前にARサバゲ―でコンビを組んでいた時代もあった・
「あのスレイプニール、誰が乗っているか知っているの?」
『あれは別のスパイから聞きだした所によると、別の提督と名乗る人物らしい』
「また提督?」
『そうだ。サバイバー運営が提督を名乗っているのは知っているだろう。それ以外にも提督の肩書を使うゲームは多数存在する』
「別の提督が潜り込んでいても問題はない……と」
『その通りだ。ARサバゲ―でも提督を名乗る人物はいただろう』
 大塚提督との話が続くにつれて、上条は何かが引っ掛かるような気配を感じた。確かに、提督という肩書は別のゲームでも使われている。それは、ARサバゲ―も例外ではない。
『佐倉提督は知っているだろう? 彼女はサバゲ―がエコとは無縁と言う事で、BB弾による環境破壊も起きないARサバゲ―に参戦した。そして……』
 大塚提督が他にも話そうと思ったのだが、途中で上条の通話にノイズが入り、強制遮断となった。
「アカシックレコードは、何を妨害しようと……」
 上条は超有名アイドルとフジョシ勢を敵に見立てたサバゲ―という構図だったAI事件を思い出し、再びアカシックレコードが何かを書きかえるようなデジャブを通信切断から連想した。

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