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パルクール・サバイバーRe:System 作者:桜崎あかり

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限界なんて打ち破れ(後編)


 蒼空かなで、彼はパルクール・サバイバーとパルクールはレースのルールが違う事を、アマチュアパルクールチームから参戦した衣笠に証明したいと考えた。
その時にランニングガジェットのブラックボックスが反応、青い閃光と共にアカシックレコードの扉を開いたのである。
『これはどうした事でしょうか。突如として、閃光を放った蒼空選手のガジェットですが、動きを止めてしまったようです』
 実況の太田氏もこの状況には驚きを隠せなかった。それ位に衝撃度合いは大きい。観客からは心配そうな表情を浮かべる等の表情が見て取れるが、提督や一部のランカーは全く別の反応をする。
「迂闊だった。アカシックレコードのシステムを持ちこんでいる人物がいたとは―」
 右手で顔を押さえるのは白い服を着た男性提督の一人。アカシックレコードと言う物が存在し、それを巡る争いになっている可能性は週刊誌でも触れられていたが、現実にあの場面を見ると信じざるを得ない。
「他の提督は既に出払っている。この状況をどうするべきか」
 男性スタッフも頭を抱える中、指令室に入ってきたのは白衣姿で何かのトランクを持ち歩いている小松提督だった。本来であれば、ガレスの指示で色々な物を調べていたのだが――。
「他の提督がいないとは。まさか、ガレスも不在だと言うのか?」
「ガレス提督は不在ではありません。特設モニタールーム辺りにいると思いますが」
 小松提督の質問に対し、対応した男性提督はあっさりと答える。今は、それ所ではないという独自判断だろうか?
そして、小松提督は、提督の発言を若干疑いつつもモニタールームへと向かう。


 1分くらい経過しただろうか、小松提督が姿を消して白い提督が何やらコンピュータからデータを吸い出しているようにも見える。
この様子を周囲のスタッフは無反応、何処かへ通報する気配もない。逆に言えば、既に把握済みで泳がせている可能性も高い。
抵抗してくる気配のない様子を都合がいいと考えた偽提督は、必要なデータのダウンロード終了を確認し、その場を去った。そして、彼は非常口からデータを持ち去ろうと考えたのだが、開けようと思った目の前の非常口ゲートが開いた事に驚きの表情を見せた。
ゆっくりと開くシャッターから見えたのは、蒼いARブレード系ガジェット。背中にはブレードシールド、それ以外にもエッジの展開されたアーマーが装着されている。これは明らかにランニングガジェットではなく、戦闘ARゲーム用のガジェットだった。
「こちらでフェイクのデータを用意したのが的中したようだ。まさか、外へ逃走したと見せかけ、内部に残っていたとは―」
 メットを装着した状態で右腕のロングブレードを構え、この人物は戦闘態勢に入る。相手も逃げられないと判断し、提督服の懐に隠していた短刀型ガジェットを構えた。どうやら、向こうも観念したらしい。
「我々の邪魔をすれば、国会が黙ってはいない! 日本経済を救えるのは超有名アイドル商法しかない――!?」
 白い提督が何かを言い終わる前にランスロットはスタンブレードで無力化、わずか10秒にも満たない早業である。この手の人物に関する対応に慣れていたというのもあるかもしれないが、あまりの的確さに駆けつけた提督も驚きを隠せない。
そして、ランスロットが提督の正体を確かめようとガジェットのデータを確認しようとするが、データの方は消されている。どうやら、このような事態を想定して自動削除されるプログラムが仕込まれていたようだ。
それでも何かの手がかりを見つけようと辺りを探索し、彼が落としたと思われる謎の小型プレートを拾った。これは、名刺サイズのプレートで何かの文字が書かれていた。
「まさか、日本政府が潜り込んでいたのか」
 ランスロットは拾ったプレートを握りつぶそうとも考えた。しかし、そのような事をしても知ってしまった情報は隠し通せる規模ではない。
その為、ランスロットはガレスに通信を入れて、その判断にゆだねる事にした。


 午前11時10分、レースの方はラストスパートに突入している頃、ガレスはランスロットの電話に出る。用件は、拾ったプレートに書かれていた情報に関して。
ガレスの方は特設モニタールームにいた。そこで、彼女は提督服からカジュアルショップで購入した私服に着替え、ある勢力が来るのを想定して準備をしていた。
「――そうか、やはり我々を潰そうとしているのは国会の超有名アイドルに買収された側か」
『買収? そこまで事態はひどくなっているのですか』
「そう言う訳ではない。これは事件が表面化していなかっただけ。表面化させて、海外から非難されるのを回避する狙いがあったのだろう」
『確かに、超有名アイドルのゴリ押し商法は時代錯誤と炎上していましたからね。特に海外の方では』
「それを踏まえると、ランカー王が大変な事になりそうだ」
『やはり、今回のレースでも超有名アイドル勢が潜り込んでいると?』
「事実、既にレースで走っていたようだが――」
『走っていた?』
 2人の電話は続く。ガレスがランカー王に関して言及すると、ランスロットは逆に超有名アイドルと関連があるのか尋ねる。それ程に、パルクール・サバイバーに超有名アイドル勢が参戦する事を禁止にしているのだ。
「既にリタイヤにはなっているが、緑色の機体だそうだ。別のプレイヤーになり済まししたのだが、本物に倒されたというオチだ」
『皮肉な物ですね。有名人のなりきりをした所、本物に叩き潰されるとは――』
「正直に言うと、笑えないオチだぞ。奴の能力をコピーしきれなかったのが偽者の敗因だが」
 ガレスは笑えないという部分で一気に釘をさすかのようなテンションでランスロットに言う。彼にスパイ疑惑がかかっている訳でもないのに……だ。
「とりあえず、名刺の件はこちらでも調べておく。お前は引き続き警備の方を頼む」
 そして、ガレスは若干不満げに通信を切った。本来ならば聞きたくない報告を聞いたからではなく、あの情報に対する信用度が上がってしまったからだ。
「影で動きまわっていると言われている小野伯爵と言う人物。彼の持つ謎の物体……あれは別世界のアカシックレコードと言う可能性が否定できない。まずは、彼を捜し出すべきか」
 ガレスが注視している人物、それは既に拘束された秋元やチート勢力を解体したノブナガではなく、この状況を見極めようとしている小野伯爵と言う謎の人物にターゲットを絞り込もうとしていた。


 午前11時7分、アカシックレコードの片鱗を蒼空は目撃していた。表示されるメッセージ、CG、何かを思わせる3Dモデル―。それらはランニングガジェットのモチーフとも考えたが、武器類は明らかに他のARゲームで使用されている物と異なる。
「アカシックレコード、これがAI事件でも言われていた禁断のバイブルなのか――」
 ひとつひとつをチェックしている暇はない。そんな事をしていれば、他の選手に抜かされてしまい、最下位転落もあり得る。その為、走りつつデータを確かめ、使える物をリストアップしていくしかないだろう……と。
『蒼空かなで、お前が見ているアカシックレコード、それは簡単に説明すれば【別世界の技術】その物だ』
 突然、男性の声で通信が入った。しかも、この人物はいたって冷静に会話をしていた。どうやら、アカシックレコードには驚きを感じない人物かもしれない。
「何処から通信が――? あのオレンジ色か」
 蒼空は周囲を見回すと、コースとは別に置かれた通行止めの看板裏、そこに隠れているオレンジ色のランニングガジェットがある。通信は、あそこから行われているようだ。
『その技術の片鱗を見た以上、君は超有名アイドルに対抗できる力を得たと言っても過言ではない。その力を行使すれば、連中を駆逐する事も可能になる』
「駆逐って、本気でそう言う事を言うのか? お前は阿賀野菜月なのか?」
『阿賀野菜月と言う人物は名前だけは知っている。しかし、それは自分ではない。自分の名前は花江――』
「ノイズ? 花江、何を伝える為に連絡をした?」
 突如としてノイズが入り、通信が途絶えそうになる。そして、彼は花江と言う名前だけを残して通信を強制終了する。
その後、オレンジ色の機体がホバー移動で走り去ったので、おそらくはあの機体に花江と言う人物が乗っているのだろう。


 午前11時8分、先頭グループは3周目に突入。事実上のファイナルラップであるのだが、突如として6番のランニングガジェットが突撃をしてくる。
「馬鹿な、あの機体は本気か!?」
 2位を走っていた種田提督も、彼の行動には常軌を逸していると思う。しかし、彼の目的は別の所にあったのだ。すかさず、緑の機体は右腕のアームを展開、先頭を走っていた機体の肩アーマーを掴む。
「このまま3周を走り切れば―我々の時代が来る! バスケ勢やバレー勢に天下は渡さない。我々、超有名アイドルファンの――」
 何かを確信していた6番の機体そっくりだったランニングガジェットは、その場でバランスを崩す。しかも、顔面から激突である。これは一体、どういう事なのか?
6番の機体は、目標の機体以外には興味を示さず、種田提督のガジェットもノータッチと言う状態だ。これに関しては種田提督も頭をひねるような状態だったが……。
「これでいいか、阿賀野菜月」
 6番の機体から出てきた人物、ガジェットから降りてメットを唐突に脱ぐ。そして、その素顔は周囲の観客も衝撃を受けた。その人物の正体、それは上条静菜だったのだ。実際、上条自身もレースにエントリーしていた関係があって、特にペナルティを取られる訳ではない。
しかし、これに関して納得していないのはレースを妨害された選手の方であった。即座に上条へ対してペナルティの判定を求めるのだが、その判定を運営が受け入れる気配はない。
『何と、先頭の選手を取り押さえた人物の正体は、あのAI事件に関係していると噂された上条静菜選手だった! これは驚きです』
 思わず、太田の持っているマイクを持つ手にも汗が目立つ。それ程、上条が参戦していた事には驚いているようだった。
その後、6番の選手を名乗っていた偽者選手を上条が拘束し、その人物はパルクール・ガーディアンへ引き渡された。個別案件として阿賀野へ引き渡すとばかり思っていたが、予想外の行動に種田提督が驚く。
「上条静菜、何が狙いだ?」
 足を止めない種田提督は上条に尋ねる。しかし、彼女は含み笑いをするだけで何も答えない。話す気がないという訳ではなく、今はレースに集中するべきと言うメッセージかもしれない。
「こちらも時間をロスしてしまったが――」
 上条はガジェットに乗り込もうとしたが、システムの方に若干のエラーが出ていて再起動が難しい。
初期化をすれば何とかなると思うが、そのような余裕はないだろうか。
「ここは、提督に任せるしか方法はないという事か」
 悔しいようだが、ガジェットが動かない以上はリタイヤと言う事になる。上条のリタイヤは決定事項と思われていた矢先、誰かからの着信が入る。
『上条静菜、君が考えていた事は理解したよ――』
 突如として女性の声が聞こえる。どうやら、ガジェットの通信機能は生きているようだが、こちらから応答は出来ない。どうやら、一方通行らしい。
『私の名前は暁――。花澤提督にも、君にも借りがあると言えば分かるか』
 暁と名乗った人物は、黒いメットにスタンダード装備のガジェットと言う物で、トップランカーの装備とは思えない。新人選手なのだろうか?
しかし、上条には彼女が偽者と判断出来るような材料が存在しないのだが、ネット上でもデータが少なく、謎の人物とされている事が多かった。
2周目終盤から3周目の前半、残り選手は8人。トップは入れ替わりで種田提督、それに続くのは蒼空、背後に複数の選手、最後は衣笠と言う順位である。
「種田提督、あなたの狙いは?」
 蒼空は種田提督がレース前に起こした事を踏まえて質問をする。しかし、答えるような気配はない。
「今はレースに集中した方がいい。下手に話を聞かれれば、今度は順位工作を疑われる」
 この回答を聞き、蒼空は下手に言及する事は止めた。おそらく、花江との会話は把握していないが、アカシックレコードに関しては若干把握しているようにも見える。
「そうですね。今はレースに集中するべきですね」
 そして、蒼空も種田提督同様に足を止めることなく走り続ける。スタミナの方は問題がないが、メカニック的部分で蒼空はピンチだ。このまま、走り続けられるかどうか――。


 その頃、喫茶店で昼食を取っている赤城と加賀は、コーヒーを飲みながらタブレット端末の放送を視聴する。その表情には余裕と言う物がない。決して、赤城の財布の中身や食べたカレーの量についてではないが。
「あの光はアカシックレコードね」
 赤城は冷静に光の正体を判断する。慢心した事によって何度かレースに敗北している為か、分析は欠かさない。
「でも、アカシックレコードにアクセス出来るのは阿賀野一人だけってネット上でも噂になっている」
 加賀はアカシックレコードの未来予知を行えるのが阿賀野だけと信じている。実際、阿賀野の未来予知の正体がアカシックレコードによる物と言うのはつぶやきサイト上でも話題となってしまっていた。
「どちらにしても、今月のランカー王決定戦、レースが荒れるのは間違いない」
 そして、赤城はメニューを見ながらランカー王決定戦に付いて語る。その姿を見た加賀は頭を抱えて呆れかえっていた。


 3周目直線、最初のカーブでドリフトにも似たようなアクションでスピードを保持したのは種田提督である。蒼空かなでは同様のアクションを行う気配がなく、他の選手も危険回避という意味で普通に曲がる。
ドリフト自体はレースゲーム等でも使われるスキルの一つだが、サバイバーでは下手をすると怪我では済まないという事で上級スキル的な位置になっている。
「こちらも以前に使用していたガジェットとは異なる! ガジェットの進化は日進月歩、それこそ――」
 種田提督はドリフト後に差を引き離す為にもバーニアを展開するのだが、思った以上に2位との差は離れない事に違和感を持つ。
「悪いけど、こっちも負けられない理由がある」
 別の選手も、ここぞとばかりにブーストを使用し、スコアを稼ぐ準備に入る。ランニングガジェットの基本時速は30キロが限界とされているのだが、これはガジェット的な意味ではなく人間が速度に耐えられない事を意味していた。
種田提督と他の選手によるトップ争いが続いている頃、3位をキープしているのは蒼空かなでだった。アカシックレコードの起動によって、激しい閃光が包み込んだ。その後には損傷していたはずのガジェットも瞬間的に修復、常識では考えられない事が起こっているに違いない。
発動して直後には驚いていた様子だったが、途中からは状況を把握し始め、莫大なデータから必要な物をダウンロードしているのが現状だった。
「花江の言っていた事、阿賀野のネット上における噂、AI事件、それを結び付けるのは間違いなくアカシックレコード――」
 考えていても自分に有利な状況になるとは思えない。今の状況を冷静に把握し、そこから自分が出来る限りの行動を取る事、それがパルクール・サバイバーでの生き残る手段でもある。
「今はレースを勝ち抜く事を考える――!?」
 直線エリアの右手側を確認した蒼空は、ショートカットでビルとビルを飛び越える衣笠の姿を目撃する。


 彼女のアーマーはエントリーした時、間違いなくスタンダードだった。しかし、いつの間にかアーマーを途中でパージしたような気配を感じる。
ガジェットの途中パージに関しては相当な理由でない限り認められていない。その理由も大破やガジェット使用不能と言った非常時に限られ、予備ガジェットが支給されるのだが……。
『衣笠選手、何とランニングガジェットをキャストオフし、軽装ガジェットでビルとビルの間を飛び越えていきます。まるで、ハードル競技の選手を思わせます!』
 太田氏の実況を聞き、ようやく蒼空もどのような状況か把握した。どうやら、衣笠は途中で一部ガジェットをキャストオフしたらしい。
「その手があるのか――と言いたい所だが、果たして、その選択は正しい物かな?」
 蒼空の後続を走るのは、夜戦を連想するような黒ベースのカラーリングで構成されたランニングガジェットである。彼は、今回のレースに勝利すればランカー王に出られるという位置にまで到達していた。
 しかし、他のレースでは夕立や阿賀野菜月を初めとした強豪ランカーが参加している。レースの選手エントリー状況を確認し、それから彼はレースエントリーを行った。簡単に言えば後出しジャンケンと同じである。
「どういう事なの? ジャンプ力が落ちている?」
 衣笠が最後のビルを飛び越えようとした時、その違和感に気付いた。エネルギー切れと言う訳ではないが、思った以上のパワーが出なくなっていたのである。
その原因はガジェットのキャストオフ、それがエネルギーの供給等も絶ってしまう諸刃の剣だと言う事に気付いた時には、もう手遅れだった。
「ガジェット自体は安全性を高める外部装甲という意味もあるが、それと同時に太陽光パネルに代表される発電の効果もある――タイムロスは避けられないだろう」
 結局、衣笠はビルへの飛び移りを断念し、非常階段から1階へと降りるという手段に出た。軽装ガジェットの場合、こうした小回りも利くのは利点の一つだが、高出力を必要とするアクションが出来ない事を彼女は思い知った。
衣笠がビルを降りてコースへ復帰する頃には最下位となっていた。しかし、それでも彼女が棄権をする事はない。パルクール・サバイバーはガジェットが完全停止するまではレースに参加する事が認められているからだ。
「まだ、諦めたくない!」
 コース復帰後、衣笠は別エリアに置かれていたレンタルガジェットを装着してレース復帰する事になった。
「だからと言って、こちらが手を抜く事は一切しない。我々の悲願の為に――」
 一方で、突如として黒いガジェットが機能を停止した。
カーブを曲がろうとした直前、ウイルスの混入、システムエラー等は特に発生した気配はなく、本当の意味でも停止理由は不明である。
この状況に陥った男性は悔しがり、思わずガジェットを叩く。一体、彼の身に何が起こったのか?
「何故だ! 超有名アイドルの利益等で動くような連中と我々は違うはずなのに……ここでリタイヤになる訳にはいかない!」
 結局、彼のガジェットは再起動することなく、衣笠が通過した地点でリタイヤと言う事になった。これで残るは7人となる。
その後、この選手は別の大手芸能事務所に所属したアイドルだと言う事が判明したのは、ランカー王が始まる直前の出来事だった。
ここまで判明しなかった理由としては、テレビのドキュメント番組として放送する予定があり、それを隠してレースにエントリーしていたからである。
しかも、この番組はサプライズ的な放送にする為に一部以外には知らされていないという事だった。
視聴者を驚かす的な意味合いもあり、現状のアイドルが超有名アイドル商法に例えられるグループばかりではない事を証明する為の番組だったのだが……。
しかし、パルクール・サバイバーで超有名アイドルを含めた芸能事務所絡みの芸能人参加者を一切認めていない。これに関しては一切の特例も認めていない。
これで特例を認めると、会場に超有名アイドルファンが押しかける事になり、それによって町は大フィーバーになるかもしれないが、その一方でトラブルが続出するのは避けられないだろう。
その項目を見落としていた芸能事務所は、致命的とも言えるペナルティを受ける事になった。
別の意味でも、彼らはガイドラインをチェックしなかった事でファンに失望を与え、グループは解散に追い込まれるような状態を生み出してしまい、これをきっかけに超有名アイドルに対する信用失墜を加速させてしまった。


 その頃、南千住近辺にあるゲームセンター、そこに設置されたセンターモニターをチェックしていた阿賀野菜月は考えていた。あの7人ならばランカー王に出ても問題はないのではないか、と。
このセンターモニターはパルクール・サバイバー専用と言う訳ではなく、他のARゲームの情報も閲覧する事が出来るのだが、現状では阿賀野以外では数人のギャラリーが足を止めている程度だ。
モニターに表示されている映像はレースの中継映像だが、その下には中継されていないレースの結果や昇格情報、連勝情報、新記録情報が流れている。
「今月のランカー王は激戦区か。ここで勝利すれば、間違いなくスポットライトを浴びる事になるだろうな」
 阿賀野はガジェット用のインナーではなく、カジュアルな私服に着替えており、しばらくはレース観戦をしようと言う気配である。
レースは中盤コースに突入する。トップは種田提督だが、2位以下が大幅に引き離されており、蒼空はその位置にいる。メートル換算で100メートル以上だ。
「普通の陸上競技であれば、大差とも言えるが――」
 観客の一人がレースを観戦して、ある疑問を持った。駅伝やマラソンで100メートルと言うのは大差以上に該当する。しかし、パルクール・サバイバーでは100メートルでも大差とは表現しない。
「ランニングガジェットが出せる最大スピードを考えれば、100メートルでも僅差にすぎない。大差という言葉を使うとすれば、それはトラック競技で半周位の差が出ている時だけ」
 観客の隣に姿を見せたのは、カジュアルとは無縁なミリタリーチックの服を着た黒髪ショートヘアの男性だった。彼は観客よりも身長がある訳ではないが、観客と比べると低く見える。165~170の間だろうか。
「あれで大差ではない? それはさすがに冗談だろう」
 別の男性が彼の発言を否定するわけではないが、疑問に思う。あの距離をあっさりと縮める事が可能だと、彼は断言しているのだ。周囲の観客も別の男性の意見には賛成している。
その発言を受けた訳ではないが、突如としてイエローに近いインナースーツを着た女性が姿を見せる。彼女の顔を見て、驚く観客もいるのだが―ミリタリー服の男性は驚きどころか、表情を変える事もない。
「あれで大差と言うのであれば……最大時速50キロ何て言う物は必要ない」
 突如として彼の隣に現れたのは上条だった。レースの方はリタイヤとなった為、早めに切り上げたとも言えるかもしれない。
「上条静菜――AI事件に関係する重要参考人か」
 彼の冷静な発言を聞き、上条は即座にARウェポンのレーザーブレードを取り出そうとした。しかし、ここはARゲーム専用フィールドではない事もあって、ブレードの展開はしない。
「スレイプニルをベースにしたエムブレム、あなたが花江提督ね」
 上着のエムブレムに見覚えがあった上条は提督の名前を口にした。そして、花江提督と呼ばれた人物は右腕のARガジェットを使って遠隔操作を行おうとしていたが、上条と同じような理由で止める。
ここで余計なトラブルを起こしてレースを中止にした場合、確実に何か別の疑いをかけられるからだ。その疑いとは、ガレスが今回のレースを特別なものにした理由でもある。
「僕も元々は途中離脱組。君に関係するような情報を持ちあわせてはいない」
 これ以上の発言は向こうに何かを悟られると判断した花江提督は、この場を去ろうとするのだが――。


 次の瞬間、謎の自警団と思わしきパワードスーツを装着したピンクのガジェット集団が姿を見せる。既に他の選手は走った後なので選手妨害とはならないが、狙いは選手ではなく上条と言う風にも感じ取れる。
「こちらにジョーカーを切らせる気――みたいね」
 指をパチンと鳴らす上条、その直後には瞬時でガジェット集団を蹴散らすレーヴァテインの姿があった。どうやら、ステルス迷彩を起動して姿を消していたらしい。これを見た観客は、急いで安全な場所へ退避しようと非難を考える。
「安心しなさい。パルクール・サバイバーが何故に安全を求め続けたのか―それが、この答えよ!」
 上条の一言、その直後にレーヴァテインはセキュリティを解除したかのように重火器を連射し始める。ガジェット集団はハチの巣、次々と歩兵集団も倒れていくのだが―何かがおかしい。
倒れる歩兵には血が流れるような気配は全くなく、ハチの巣になったはずのガジェットも数秒後には機能停止するが、機能停止後は銃弾の跡は残っていなかった。これは、ARゲームの特徴である『ゲーム終了後は、争いごとを周囲に持ち込まない』というお約束による物。
「一時期に流行したMMORPGのデスゲーム物―ゲームオーバーが死に直結する世界。それを完全否定してクリーン化した物がARゲーム、それに代理戦争という概念を持ちこませないようなルール作りを模索したのが……パルクール・サバイバーよ」
 上条のネタばらしとも言えるような発言だが、それを周囲が受け入れるとは到底思っていない。ARゲーム自体が怪我人を出さないようにする事と犯罪への悪用を防止する事に重点を置いたのに対し、パルクール・サバイバーは代理戦争すら認めないというシステムを構築しようとしていた。
このような話を『作り話』や『Web小説』という例えで終わらせるギャラリーは数知れない。しかし、それがアカシックレコードを知っている人物の場合は話が違ってくる。
「しかし、運営はこの構築に一度失敗した。それは、運営責任者のガレスの正体が―」
 その話を聞いた時、花江提督は顔には出さなかったが信じられないような衝撃を受けた。これが本当の話であれば、元々のパルクール・サバイバーが出来た理由は『超有名アイドルへの復讐』と言う事になる。
気が付くとレースは終盤戦、残るはカーブ1つと直線エリアのみ。この段階で松岡提督と時雨の一騎打ちと言う状態だが、その背後にいるはずの蒼空の姿はない。逆に、別の選手が3位に浮上していた。
「蒼空が途中でコースを変更したかのように、移動したのが気になるが」
 松岡提督は途中まで蒼空が追いかけていたのを把握している。しかし、ラストカーブに入る前の直線段階で姿は消えている。レーダーには表示されているのだが、所在不明という状況に困惑していた。
「この段階でショートカットは自爆行為―」
 一方の時雨はショートカットを行おうと考えているのを見破っていた。そのうえで、彼の行動が自爆行為に等しいとも結論を出している。


 午前11時11分、蒼空かなでは最後のチャンスに賭けていた。2周目の途中で気付いたショートカット、それを試してみる価値はあると。
「この直線距離を上手く進む事が出来れば、出口はゴール付近の直線コースに出るはず―」
 バイザーのナビゲーションでも単純な直線距離であれば、ゴール付近に出ると表示されている。これが直線であればだが。
そして、予想通りだが目の前には立体駐車場が見えてきた。青葉がショートカットで使った駐車場は入り口が存在したのだが、こちらは入り口が見当たらない。壁と言う訳ではなく、視線には車が見えるので、ある程度の窓とも言えるスペースは存在する。
「このパターンは以前にもあったような」
 蒼空が思い出した物、それは阿賀野専用カスタマイズを施されたガジェットでビルの屋上まで飛び越えた事である。そして、それを思い出すかのように両腕に搭載されたアンカーを展開しようとしたのだが―。
【その装備は搭載されていません】
 エラーメッセージがバイザーに表示された。どうやら、アンカーの類は今回のガジェットにはないらしい。だからと言って飛行機能はレースでは反則と判定される為に使えない。
「そう言えば、あの機能は使えるはず」
 飛べないのであれば、ホバリングは使える。即興で蒼空はホバリングの動作を把握し、周囲に人影がない事を確認。一か八か、加速なしのハイジャンプを試してみる。
『これは物凄い事になりました。ショートカットルートを進んでいる蒼空選手、何とホバリングを応用した連続ジャンプを披露しています。まるで、空中に透明のブロックがあるかのようなステップを見せるその姿は、まるでアクションゲームの主人公を思わせます!』
 実況の太田も別のドローンによる移動カメラが捉えた蒼空の場面を目撃し、思わず実況をせずにはいられなかった。これには種田提督も声に出来ない驚きをしている。


 午前11時12分、大幅なショートカットに成功した蒼空はホバリングで駐車場の屋上から急降下、ゴール地点が目の前に見えるエリアまで到達した。この地点で、左手の方角に種田提督と3位の選手が見えたのだ。
つまり、トップに追い付く為にはギリギリの時間だったのだ。
「どうやら、大幅ショートカットでも短縮できたのは数秒だったみたいだね」
 3位の選手は勝ち誇る。さすがにグッとポーズを決める余裕はないが、心の中では決めているのかもしれない。
「一瞬ヒヤリとしたが、まだ逆転のチャンスは残って――」
 種田提督はラスト直線で勝負をかけ、ブーストを起動しようとしたのだが、肝心のブーストが作動しなかった。どうやら、ブーストの回数制限がかけられている事に気付かなかったようだ。
「ここまで来て……タイミングを見誤ったと言うのか。これが、無自覚の慢心と言う事か」
 思わずガジェットを叩きたくなった。しかし、下手に叩けばガジェットの機能停止を招く。そう考えた種田提督は、ブーストなしで何とか蒼空を捉えようと走り続ける。
「ブーストに回数制限があるのはパルクール・サバイバーでも同じ事。それを無制限に認めれば、それは外部ツール並のチートにもなる――」
 レースの外から冷静に分析していたのは、花江提督だったのである。そして、レースの方は先頭の選手がゴールまで数メートルの距離となっていた。


 午前11時13分、レースは予想外とも言える結末を迎えた。勝利したのは蒼空かなで。勝因はショートカットもあるが、それ以上に失敗を恐れずにホバリングに挑戦し、見事に成功させた事にあるだろう。
『1位は大逆転とも言えるショートカットを披露した、蒼空かなで選手です!』
 実況の声が響く中、種田提督も完走を果たす。種田提督は2位と言う結果に終わったのだが、ランカー王という点では逆転のチャンスは残されている。
他にも今回のレースでは、蒼空以外にも大番狂わせがあったという話がある。
「蒼空かなで、あの運動センスは脅威となりますね」
 他の選手がゴールしている光景を見ながら、手にはたこ焼きによく似たスイーツを口にしているのはインナーの上にジャケットを着ている赤城だ。
「パルクール・サバイバーはパルクールとは違う。そこで何かを踏み間違え、挫折する者が多いのも……」
 一方の加賀は冷静だったのだが、赤城の持っているたこ焼きを見て「また、買い食い?」と言うような表情を浮かべる。
「これはチョコ焼き。たこ焼きの具がチョコレートになったスイーツよ。一つ食べる?」
 赤城が1つ差し出しているので、一口だけなら……と加賀はチョコ焼きを口にする。すると、加賀の表情が変化したのである。先ほどの深刻そうな顔はどこへ行ったのか。
「悪くないわね」
 チョコ以外にはクッキー等も入っており、ソースではなくチョコを混ぜたホイップクリームが塗られているのもポイントだろうか。
かなでの勝利を確かめた後、別所で様子を見ていた上条はゲームセンターの方面へと姿を消し、種田提督もエントリー可能な別レースを求めて移動を開始している。
「さて、こちらも動きますか」
 暁を初めとしたメンバーは全員がインナースーツに着替え、上野公園で行われるレースの方へと移動を始める。
ノブナガの方は他の勢力が暴走する事に対して懸念を抱く。その一方で、暁は強敵出現に嫌そうな表情を浮かべた。
「蒼空かなで、彼以外にも脅威が現れない事を祈るばかりです」
 黒をベースとしたインナースーツを着ていた霧島は身体のラインがハッキリと分かる。
しかし、その直後にガジェットを装着したので、その辺りを詳細に拝む事は出来ないようだ。
周辺のギャラリーからはため息が漏れる。
「さて、これを阿賀野と秋月はどう見るのか?」
 ノブナガはスマートフォンでランキングを確認し、その順位を見ながらつぶやいた。阿賀野は3位、秋月は2位であるのだが――。


 午前11時20分、北千住駅に置かれているセンターモニターでレースの結果を確認していたのは秋月彩だった。
レース前と言う事もあり、インナースーツは着ておらず、ランニングをするような軽めの服を着ている。そして、スパッツが目立つ。
「蒼空が勝ったのね――」
 秋月はレースの結果を確認し、そのまま駅のバス乗り場へと移動する。乗り場に到着していたバスは、パルクール・サバイバーのアンテナショップへの送迎バスに近い。
 無料バスではないが利用者は比較的に多い為、50近い席は満席となっており、秋月はバスのつり革を掴む。
「ランカー王、そこならば更なる強豪が待っているかも」
 現状の秋月ならば、慢心をしなければランカー王は余裕だろう。そう言った書き込みがネット上で多かったが、そう言った発言には細かく言及しない事にしている。


 午前11時30分、本部でニュースを確認していたのは特別ルームで今までの中継をチェックしていた私服のガレス。
彼女としてはレースの結果は納得だが、もう一方の方で不満があった。
「……してやられた。芸能事務所と政治家が関係している証拠を、別の所に横取りされたみたい」
 ガレスは拳を震わせながらニュースを見ている。結局、提督たちを向かわせたのだが間に合わなかったというべきなのだろうか。
『先ほど、○○芸能事務所に何者かが襲撃し、書類等が盗難されたとの情報が入りました』
 このニュースはさまざまな関係勢力に伝わり、状況はますます悪化の一途をたどろうとしていた。


 午前11時50分、本部に帰還した中村提督を初めとした提督勢はガレスの話を聞いて驚く。あくまで普通に驚くだけで、それ以外の反応は普通だった。
「先を越されただけで済めば、良かったが――」
 ある提督は、偶然撮影した画像のひとつをガレス達に見せる。そこに映っていたのは、何と花江提督の乗っているARガジェットらしきオレンジ色のランニングガジェットだった。
「種田提督がいた段階で気付くべきだった。寄りによって、阿賀野菜月に先手を打たれるとは」
 中村提督は嫌な予感が的中したと考えている。それも、種田提督がレースに出ていた段階で気づいていれば阻止はできなくても、彼らの目的の一端は見えたかもしれない、と。
「全ては、これからだ。アカシックレコードが危惧する未来を止める為にも」
 花江提督は再びオレンジ色のARガジェットに乗り込み、何処かへと向かう。既に阿賀野も向かっているという事だが…。
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