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パルクール・サバイバーRe:System 作者:桜崎あかり

System3

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動き出す影と一つの区切り、新たなる試練へ


 午後2時37分、テレビ局が慌てて速報テロップを用意する一方、ネット上では予想外の速度で情報が拡散していく。
その内容とは『超有名アイドル大手、廃業へ』である。
【超有名アイドル大手○○事務所のスタッフが業務妨害容疑で緊急逮捕】
 ネット上とテレビ局のテロップでは180度違う対応だった。
実際、廃業確定と言及された訳ではなく、サマーなんとかのファンが意図的にネタを書き加えた物である可能性が高い。
具体的なニュースの内容に関しては、営業妨害で複数人が逮捕された、とだけ伝えられた。
どうやら、パルクール・サバイバルトーナメントに関しては触れたくないという事だろうか?
どちらにしても、今回の事件を受けて芸能事務所側の強制捜査は待ったなしという状態となり、その状況を感心しないのがイリーガルである。
彼は別アイドルの新曲制作で都内のスタジオにいたのだが、途中でニュースの存在を知って事務所へ電話連絡をしていた。
しかし、特に強制捜査は入っていないとスタッフが言うのだが――。
「ライバル会社のスタッフが逮捕された事で、芸能事務所に警察の捜査が入るらしい。何か変わった事はなかったか?」
『特に警察の様な人物は来ていません。ネット上では既に数か所の芸能事務所で強制捜査が入っているという話もありますが、ニュースでは特に―』
「数か所が強制捜査を受けているのにマスコミが来ない事がおかしい。何か裏があるのかもしれない」
『裏と言っても、何があると言うのですか?』
「警察でなければ、防衛隊が来ると言うのか? コンテンツガーディアンが情報の操作をしている可能性もある」
 コンテンツガーディアンとは、コンテンツ流通の正常化を妨害している海賊版等を取り締まる組織なのだが、この延長線でパルクール・ガーディアンが出来たとも言われている。その真相を知る者は存在しないのだが…。
『コンテンツガーディアンだとしたら、もっとないですよ。あちらは既に違法ガジェットの工場を差し押さえしているはず――』
「今、何と言った? 違法ガジェットの工場と言ったか?」
 スタッフの方も若干慌てているような気配があり、そこで口が滑ったようだ。
イリーガルには伝える必要のない事を間違って伝えてしまったのだ。
『ええ。ネット上では既にコンテンツガーディアンが違法ガジェット工場を数件押さえたと。それに加えて、違法ガジェットに関わったスタッフに逮捕状が――』
「分かった。今からそっちへ向かう」
 イリーガルの方も慌てている。まさか、ガジェット工場まで押さえられるとは。
誰かが情報を外部へ漏らしたとは考えにくいだろう。
この工場はスタッフでも知らない場所にあり、それらは巧妙に偽装されていて一般人では確認不可能である。
そう言った偽装をピンポイントで見破れた事には、イリーガルも言葉を失っていた。
下手をすれば、ガジェットの実験台となっている被験者を発見される可能性もあり、そこから自分の正体も見破られてしまうだろう。
それらを踏まえ、イリーガルは芸能事務所のある秋葉原へと戻る事にしたのだが、そこへ何者かの電話が入ってきた。電話の主はソロモンと出ている。


 午後2時40分、ソロモンは足立区のパルクール・サバイバルトーナメントの施設からイリーガルへと電話をかける。メットに通話機能がある為、スマートフォン等を用意する必要性はない。しかし、周囲の目もある為に雰囲気としてのスマートフォンを用意して、電話はメットの方で行う。
「一体、これはどうなっている? 違法ガジェットの工場が押さえられているという報告もスタッフからあった。一体、誰がスパイをしていたのか…」
『こちらでも大手芸能事務所のスタッフを取り押さえました。彼らが粗悪なガジェットを拡散していたので、黙らせる意味でも晒したまで』
「粗悪ガジェットだと? コンテンツガーディアンは違法ガジェットの工場を押さえているという話を聞く」
『コンテンツガーディアンが動いたのは、こちらの計算外。パルクール・ガーディアンの中に出向組でもいたのかもしれません』
「私が聞いているのは工場の場所を拡散した人物が誰なのか、だ。あの場所を知っているのはごく数人―」
『工場の周囲を探っていた新聞記者も何人かいるのは確認しています。おそらく、彼らが情報の価値があるのか見極める為にSNSへ流したという事でしょう』
「ソロモン、お前が情報を流したのではないのか?」
『まさか……それを自分が実行していたら、このような電話はかけないでしょう? 違いますか』
「確かに、この電話番号は緊急回線を意味している。ここに電話をする必要性もないだろうな」
『とりあえず、こちらも別の大掃除を行わなくてはいけないので、この辺りで失礼します』
 イリーガルの方は、まだ何かを聞こうとしているような気配だったが、ソロモンは適当な部分で切り上げて電話を切る。そして、彼は再び笑みを浮かべた。
『正体は既に調査済み。まさか、この人物だとはこちらも想定外だったが』
 スマートフォンに映し出されたのは、ある音楽雑誌の電子書籍版であり、該当ページには【イリーガル秋元】と書かれている。
『世界線が超有名アイドルを引き寄せてしまったのか、それともアカシックレコードが歴史を繰り返させるように仕組んだのか』
 しばらくすると、ソロモンの目の前にランスロットが姿を見せる。どうやら、話があるようだ。
「何故にお前があの事実を知っていた? ガーディアン内でも違法ガジェット工場は存在を確認していたが…」
 それを聞いたソロモンは『その事か』というような感じで話を流し聞く。決して他人事と言う訳ではないのだが、彼にとっては些細な出来事である。
『違法と言うよりは質の低下が叫ばれていたガジェットを排除する為に動いたにすぎない。使用者が怪我をするような物が流通すれば、それだけでも一大事となる。商品を輸出するというのは、そう言う事だ』
「ARガジェットの輸出話は聞いた事がない。そして、自分が……」
『パルクールを国際スポーツ大会に追加しようという話を聞き、ARガジェットを含めたガジェットの輸出される可能性を考えた。あれを海外へ流す事、それは戦争の引き金になる事を意味する』
「国際スポーツ大会の話も初耳だ。お前は、何を何処まで知っている? お前もアカシックレコードにアクセスできると言うのか」
 ランスロットのアカシックレコードと言う単語を耳にして、ソロモンは何かに気付き、レースの行われている会場の方へと向かう。これが本来の目的でもあったからだ。
ランスロットの方は他にも聞きたい事があったのだが、逃げられた格好となってしまう。
「アカシックレコード……世界線……また、繰り返すと言うのか」
 彼は悩む。ソロモンが阻止しようとしている事に関して……。


 午後2時45分、レースも前半が終了し、トップを走っているのは黄金のガジェットを装備した背番号1番の選手である。その後を追いかけるのは蒼空かなでを含めた第2グループ、更に別の選手が2名という具合だ。
「雨天でコースが変わっていると言っていたが―」
 蒼空は周囲を確認し、何処か使えそうなコースを確認する。しばらくして、次の分岐を右に進めばショートカットが出来ると言う事が分かるのだが、今の速度的に右のコースへ入る事が出来るのか不安があった。
背後の集団は右のコースへ入るような動きを見せ、1番の選手は左のコースをそのまま進む。コースルートを見る限りでは、右コースの方がショートカットに近いのだが、色分けがされている事が気になる。それに加えて、途中からコースラインがグレーになっている。
「もしかすると、そう言う事なのかもしれない」
 結局、蒼空は1番の選手を追跡するような形で左のコースへと入る。他のメンバーは右へ向かうのだが、何か不審に思った12番のホバーボートを使う選手も左のコースへ入って行く。
1番の選手は背後の選手が大量にいなくなっている事に不信感を抱いたが、しばらくして蒼空と12番の選手も来たので逆にほっとしていた。
「功を焦ると、どうなるか……素の目で思い知るといいだろう」
 1番の選手がつぶやく。これは蒼空と12番の選手に向けた物ではなく、右ルートを選んだ選手に対してだった。
その頃、右ルートを選んだ選手は行き止まりを示す通行止めのシャッターで立ち尽くしていた。しかし、それに気付いて一部の選手は途中で左ルートへ向かっていたのだが、気付かなかった選手は立ち往生となっていた。
「まさか行き止まりとは」
「このままでは、1番の選手に全て持って行かれてしまう」
 そんな声が聞かれる中、11番の選手はバイザーを外すことなくコースを引き返す。どうやら、先ほどの分岐まで戻る気でいるらしい。
「やめておけ。チートガジェットなら話は別だが、市販のガジェットで黄金のガジェットの速度に追いつけるわけがない」
「あの黄金ガジェットもチート勢だったと言う事か」
「あいつも超有名アイドルの宣伝目的だったのか―」
 周囲のテンションが低い事に対し、11番の選手は遂に重い口を開いた。そして、立ち止まって何もしない選手に対して叫ぶ。
『あなた達のパルクール・サバイバーに対する熱意はその程度だったの!? 苦労して得たライセンスは飾りだと言うの!』
 これに対して他の選手も反論するが、その声は11番の選手には届いていない。おそらく、声は届いている。しかし、感情が届いていないのだ。
『コース取りは自由。引き返しが反則なんて言及はされていない。自分はまだ走り続けられる!』
 それでも周囲からは反論の声がある。確かにコース逆走は反則と認定されていない。反則とされているのは、逆走して他の選手を妨害する目的であると認められたときだけだ。
『逆にシャッターを突き破って、雨天の中でコースを走る方が反則に近い。シャッターを破る行為はサバイバーで禁止されている周辺環境の破壊に該当する!』
 シャッターを破壊しようと考えている選手も存在し、それを止める意味でも彼女は叫ぶ。最終的には、この言葉を聞きいれてシャッターの破壊は止められた。そして、他の選手も来た道を引き返す事にする。
「すまなかった」
 シャッターを破ろうとしていた選手は11番の選手へ謝り、そのまま来た道を戻って行った。その後、11番の選手はもっと別のコースを探索し始めるが、結局はシャッターの先にあると言う事で引き返すという選択しかなくなっていた。


 午後2時47分、コースの方は終盤戦に突入する。
大型の壁等が行く手をさえぎる事はないが、ピンポイントで水路が配置されているエリアを発見した。
このコースの先に最終チェックポイントがあるらしい。
「全力を出させてもらう!」
 黄金のガジェットが分離、各種アーマーがホバーボートへ変形し、水路をサーフィンの感覚で通過していく。これもサバイバーとしては認められている行為だ。この様子を一部の選手は足を止めて確かめ、驚きの声を上げる者も存在した位である。
「飛行しなければいいという事か。ならば…!」
 蒼空は左右のブースター出力をアップさせ、ホバリング状態で水路を突破する。水上走りと言う事も可能だが、ガジェットに負荷がかかる危険もある。それを踏まえてのホバリングでもあった。
「あの選手、やってくれるな」
 黄金のガジェットは、何かを確かめると再びコース内へと戻り走り始めた。何故、途中で止まったのかは不明だが、コース外で一時的な休憩、周辺のルート検索で止まる事は反則ではない。


 午後2時50分、最終チェックポイントの直前、黄金のガジェットがコース外で破損した状態で発見されていたのを蒼空が見つける。
「ガジェット大破で失格?」
 蒼空はその状況に驚くが、今は完走をするのが先と考えて足を止める事はなかった。
そして、蒼空は最終チェックポイントを通過、見事に1着でゴールする。
【不自然な事案だ】
【だからと言って、不正と言う証拠を即座に提示して審議するには――】
【証拠不十分では、逆に大会運営妨害と言う認識をされかねないか】
 あるつぶやきのやりとり、そこでは黄金のガジェット使いがリタイヤした件に関して疑問に思う声があった。
ただし、実際にガジェット事故の可能性もある為――下手に審議を求めて、時間稼ぎと認識されるのも印象を悪くする可能性が高い。
そういった事情もあってか、審議を提案するのは中止になったようだ。


 午後2時53分、最後の走者がゴールし、スコアの集計などが行われた。集計に関しては若干の時間がかかるとの事だが、ギャラリーの中には1位の選手は分かっていると言わんばかりの雰囲気に包まれていた。
『完走数は16、4名が失格の模様です』
 アナウンスでも触れられていたが、失格は4名、その中には黄金のガジェットを使用していた1番の選手も含まれる。それ以外は棄権ではなく、進路妨害等で失格を取られたようだ。
【黄金のガジェット使い、どう思う?】
【あの状態でガジェットトラブルと言うのは、何かあると考えたほうがよさそうだ】
【あの人物、選手名も偽名らしい。パルクール・サバイバーではよくあることだが】
【意図的にトラブルを起こして失格と言う説は?】
【違法ガジェットならまだしも、意図的な失格はないだろう。そんな事をして何の得がある】
【一体、黄金のガジェット使いは何が目的なのか】
 ネット上では黄金のガジェット使いの方に注目が集まっていた。あの故障は意図的な物ではないか―と。
「11番の選手、あれはハンドルネームの様なものか。黄金のガジェットも気になるが……」
 レースを直接観戦していたのは、花江提督である。彼は今回のレースが気になっており、その予想は見事に的中したと言える。
「黄金のガジェット、あの使用者は松岡提督ではないのか……」
 かつて、黄金のガジェットを使用していた提督に花江提督は見覚えがあった。彼の名は松岡提督。その実力はリアルチートと言っても過言ではないだろう。
「意図的な失格をすれば、自分の名前に傷を付けるだけではすまされない。自作自演をすれば、それは自らの破滅を意味する」
 花江提督に言わせれば意図的な行為による失格……八百長の類は選手生命を自ら終わらせる事と同じ。その様な選択をして、得をするような人間はいないだろう。


 午後3時、スコア集計が終了し、蒼空が1位になった事が正式にアナウンスされる。それを聞いた観客は沸き上がった。遂に1位を取ったか、という意味もあるのだが……。
「1位おめでとう。これによって、君は運営主催のランクが高いレースにもエントリーできるようになった」
 受付の男性から話を聞く蒼空には実感が未だにない。1位を取っただけでも金星に匹敵するのだが、蓄積ポイントの累計でランクの高いレースへのエントリーも可能になったのである。
「これで、ランカー勢とも戦えるのですか?」
「上位ランカーは無理だろう。ランカー勢は最上級か上級に該当する。今の状態だと中級が限界だろう。ポイントを積み上げていけば、いずれは上位ランカーとも戦えるようになるだろう」
 夕立がいると思われる最上級クラスへの挑戦は現状では不可能と言われたのだが、上位ランカーへの挑戦はポイントによっては実現可能であるとも説明した。


 午後3時30分、動画サイトにアップされた黄金のガジェット使いが出場した他のレース動画をチェックしていたのは阿賀野菜月だった。
「この動きは、もしかして―」
 阿賀野は何かの違和感に気付く。狙撃等であれば他の観客が気づいてもおかしくはない。しかし、ガジェットには狙撃されたような形跡はなかったのだと言う。
そこで、ガジェットの動きに注目した結果、ハッキング等の類でガジェットの挙動が変化していた事に気付いた。ハッキングだとしても誰が何の目的で仕掛けたのか、真相は不明である。
「どのタイミングでハッキングを仕掛けたのか……」
 阿賀野は疑問を抱きつつも、一連のつぶやきタイムラインをタブレット端末で確かめた。
【あの蒼空という選手、どう思う?】
【動きは悪くない。しかし、彼を超有名アイドル側へ引き込むのは難しい】
【例の計画を発動させるか?】
【そうだな。あの計画を始めよう】
【我々以外のコンテンツが存在する事は許されない】
【既に国会では超有名アイドル商法に対する優遇処置を議論中だ。これが通る事になれば、超有名アイドルで世界中にあるコンテンツを全て塗りつぶせる】
【今こそ、超有名アイドルが世界を統一して―】
 つぶやきサイトでは、超有名アイドルに関しての議論も展開されていたが、それ以上に青空に対して警戒すべきと言う声もあった。


 午後4時、ガーディアンが複数の違法ガジェット工場を調査、そこで違法ガジェットが開発されている事実が判明する。
この事実は即座に判明はせず、しばらくは事実確認が出来るまで黙秘とされた。
「これに関しては、さすがに公表するタイミングを間違えれば大変な事になる」
「違法改造だけではなく、それを海外へ輸出しているとしたら一大事だ」
「海外で違法コンテンツと言う意味でARガジェットゲームが作られる現状は避けたい。それに、兵器化されるのも―」
 北千住の運営本部、提督の服装を着ているスタッフが会議で議論を繰り広げている。運営と言ってもパルクール・ガーディアンではなく、パルクール・サバイバルトーナメントの運営本部だ。
「ガーディアンからの報告では、違法ガジェットはあの秋元が開発に関わっているという情報もある」
「それは事実と言う訳ではないだろう。あくまで憶測の範囲内、違うか?」
「しかし、超有名アイドルのマネージャー等が違法ガジェットのバイヤーをやっている現場も目撃され、更には狙撃事件も起こった。無関係とは言えないだろう」
 提督たちの議論は白熱する。その中で冷静に話を聞いていたのは、会議室に置かれたタブレット端末で会議へ参加しているガレスと名乗る人物。顔の方は表示されず、サウンドオンリーという文字のみが表示されている。
『違法ガジェットの件は、事実と言わざるを得ない程に証拠が揃いつつある。更にはアイドル候補生を使った実験という物が行われていたというネタも存在しているが』
「人体実験? それこそ軍事目的への転用を意味する物。認められるわけがない」
「これ以上の超有名アイドルによる行動は、ARガジェットを使った戦争を生みかねない」
「与党の政治家の中には超有名アイドルへ資金提供をしている……という噂もある」
「全ての巨悪は断罪すべきだ。そして、それらを操っているのはイリーガル秋元」
 ガレスの発言を聞き、一部の提督の中には超有名アイドルを法律で活動禁止にしようと言う動きも見られた。しかし、それに対してもガレスは異論を唱えた。
『イリーガルが行っている事はコンテンツ流通的にも阻止すべき物。しかし、それを力でねじ伏せるやり方は超有名アイドルファンがやっている事と同じ――毒を以て毒を制すという方法を、我々は望まない』
 この話を聞いた提督勢は急に沈黙をする。ガレスにはカリスマがあると言う訳ではないのだが、初期スタッフであるという事も理由の一つかもしれない。
『本来のパルクール・サバイバルトーナメントが生まれた意味、ARゲームの新たな世界を見せる事に関しては変わりありません。それを提督の方々にはお忘れなく』
 そして、会議の方は終了となった。最終的にはイリーガルの行動に関して警戒する事、ランキング荒らしや自分が目立つ為だけにサバイバルトーナメントを利用しない――と言う事を強化していく事が決定された。
「夢小説勢はどうしますか?」
 ある提督が会議終了直前、ガレスに対して質問を投げかける。数秒の沈黙後、ガレスは即答をする。
『現段階では様子見をする。こちらが仕掛けない限り、向こうも超有名アイドル勢に利用されて自滅の道をたどる事を……知っているだろう』


 午後4時30分、自宅で音楽ゲームをプレイしているのは上条静菜。彼女は超有名アイドルに関して、どうでもよくなってきたという訳ではないのだが―。
「AI事件の繰り返し、アカシックレコードの存在、超有名アイドル絡みの事件は何処でも起こるのか?」
 彼女は悩みつつもインスタントのコーヒーを淹れ、それとは別にカレーライスの盛り付けも行う。もちろん、自分が食べる専用だ。
「超有名アイドル商法が根絶される事も、超有名アイドルのブラックファンが消える事も夢物語になるかもしれない。それでも、私が行う事は―」
 テーブルにコーヒーとカレーライスを置き、テレビのリモコンを手に取ってニュースを確認する。
『先ほど入ったニュースです。人気アイドルグループの新曲でランキング不正が確認され、ウィークリーランキング1位が取り消されました』
 このニュースを見た上条の表情は歪む。同じようなニュースはAI事件の時にもあった。しかし、今回は少し様子が違う。
『ランキングの取り消し理由として、複数のARゲームでCDの宣伝と取れる行動を行い、更にはCD購入を強要したという―』
 ニュースでは詳細が語られなかったが、宣伝に関してはパルクール・サバイバーでのランキング制圧、CD購入の強要は別のARゲームで運営の及ぶ範囲外で罰ゲームにCD購入を条件にしたという事らしい。
これらの話はネット上に流れている物なのだが、真実かどうかは分からない。しかし、ランキング制圧に関しては以前からも問題視されていた物であり、ようやく重い腰を上げたという格好だ。
「全てはこれから始まるかもしれない」
 そう考えつつも、上条はカレーを口にした。
一口食べた直後、上条はすぐにコーヒーを口にする。どうやら、激辛カレーだったらしい。


 4月18日、晴天の中で行われたレース中、蒼空はトップを独走していた中で順位を落とした。結果は3位と何とかしてポイントを得る事が出来たのだが、このレースは複数の選手がガジェットトラブルを申告していたのである。
「恐れていた事が現実となったか」
 阿賀野は複数の選手が一斉にトラブルを申告するのは、どう考えてもおかしいと考えた。そして、運営へ緊急連絡を取る。
『言いたい事は分かっている。こちらでも、複数のコースやサーキットで報告が出ているのがおかしいと思って、電波等を調査している所だ』
「電波? ハッキングじゃなくて」
『ハッキングだったら、経由する必要のある場所がある以上、そこから足が付く。電波でも似たような物だが、今までも電波妨害は何度かあった。そこから犯人を捕まえているのだが―』
「何か気になる所が?」
『そうだ。彼らは口をそろえて単独犯と断言している事だ。おそらく、ネット上にあったプログラムソースを利用した可能性が大きい』
「プログラムソース? ランニングガジェットは機密保持がされているはずでは―」
 電話に出た小松提督と話す阿賀野は、何か不審な個所がある事に気付いた。
本来であれば、ランニングガジェットには機密保持のシステムが搭載されており、情報が流れるような事があれば自動的にデータの流出を遮断できる。
それが出来なくなっている事が意味する物、それは何者かによってサーバーその物がハッキングされたという事。それは、機密保持システムの弱点を突かれた事を意味していた。
『あのシステムを突破された以上、運営は本格的に動き出すだろう。システムの突破は軍事兵器へ転用される事を意味している』
 小松提督が深刻そうな表情で阿賀野に伝えた。アニメやゲーム作品でもシステムがジャックされ、一斉に操られるという事例はあるのだが……。


 同日午後1時、センターモニターには緊急メッセージが放送された。これはライブ映像で全てのモニターに配信されている。
その一方で、テレビには流れないように細工も施されているのだが、それに気付いたのは画像を録画しようとしたネット炎上勢が撮影に失敗し、その様子が別の炎上勢によって撮影された事からだった。
『今回の一連のトラブルは、異常事態としか表現出来ません。しかし、トップシークレットが破られた以上、我々としても動く必要があると判断しました』
『そこで、真相が判明するまでの間、全てのランニングガジェットを無期限停止、パルクール・サバイバルトーナメントも一時的に開催を中止いたします』
『これによってランニングガジェットを愛している皆様にご迷惑をおかけするかもしれません。しかし、これはある種の挑戦でもあります』
『全てのARゲームが稼働停止する事が意味する物、それは皆様もご存知かと思います。それが、目の前にある危機として現実化しようとしている事――』
『それだけは絶対に避けなくてはいけないのです。その為の休止である事を、皆様にもご理解とご協力を頂きたいと思います』
 テレビに映し出された人物、それはシルバーにも似たような提督服を着た人物だった。その外見をモニターで見ていたランスロットは非常に驚いていた。
「彼女が、パルクール・サバイバーの全責任者とでもいうのか?」
 この声には聞き覚えがあるのだが、何処で聞いたのかは思い出せない。それ程に驚きの方が大きかった。過去に竹ノ塚で遭遇した人物、それが実はパルクール・サバイバーのスタッフであり、総責任者だったのである。
「そうなると、彼女が考えている事はもしかして――」
 彼女の目的、それはアカシックレコードのオープン化なのかとランスロットは考える。
しかし、アカシックレコードの所在を掴んでいる人物は非常に少ない。
それに加えて、アカシックレコードの正体を知っている人物も少ない。知っていたとしても、それは……。
【アカシックレコードとは何か? それはARゲームの全てを記したサイトじゃないのか】
【あれもアカシックレコードだが、噂によるとパルクール・サバイバーが求めている物は違うらしい】
【噂では、超有名アイドルの全てを記したとも言われている。特定のアイドルグループを網羅したデータベースとも】
【実在、架空問わずに全てが記されている。サマーなんとかも書かれているが、それ以上に大手グループについても書かれていた】
【アカシックレコードは何処にあるのか? 超有名アイドルの芸能事務所でも発見できていないと言うが】
【真相はアカシックレコードにあるとは限らない。超有名アイドル商法に関してはさまざまなサイトでも言及されている】
【このつぶやき自体もアカシックレコードに記載されるのか?】
【炎上目的のサイトでさえ、所在を確認できない程に厳重なプロテクトがされている。一流ハッカーでも見つけられないだろう】
 つぶやきでもアカシックレコードに関しては言及されている。
しかし、一流ハッカーでも場所の特定は出来ていないらしい。
それを知っている数少ない人物、それは未来予知も出来ると言われている阿賀野菜月である。


 同日午後2時、運営本部に阿賀野名義であるデータが送られてきた。
それは、一連の事件が超有名アイドルファン及びBL勢による物である事を示した物である。
これはガレスが想定していた証拠とは程遠いが、近い物であるのは間違いない。
一部の提督が、そのデータを確認しようとする物の、それを閲覧する事はかなわなかった。
「指定人物は銀の提督? 総責任者向けなのか」
 指名された人物、それは銀の提督……ガレスである。何故、ガレスが指定されていたのかは分からない。
数分後、大塚提督は阿賀野から送られてきたデータをガレスの端末へと転送する。
そして、ガレスはデータを確認して何かを確信していた。
「そう言う事か。全てのARゲームは炎上ビジネスに利用されていた。そして、それを操っている黒幕の正体――」
 大塚提督は自分がこの場所へ呼ばれたのには、何かあると考えていたのである。
「別のアカシックレコードに新規で書きこまれた文章――それにも関係あるのか?」
 大塚提督は思う。自分が見てきたアカシックレコードとは違う記述を――ここ最近で見かけるようになった。
アカシックレコードは予言書ではないのは間違いないだろうが、ここまで新記述が発見されるのも異例である。
まるで、歴史の教科書とは違う歴史を新発見したような――そんな感じが近いのだろう。
「しかし、炎上ビジネスに利用される点は変わらない。やはり、週刊誌が炎上した時代から変わらないと言うのか」
 彼は懸念をしていた。週刊誌報道で炎上し、芸能人が引退に追い込まれる――。
こうした悲劇は繰り返されるような物ではない。下手をすれば海外で起きているデモ活動のレベルにまで発展しかねないからだ。
大手芸能事務所が日本の全てを影で操っているような印象を海外に与えるのは――得策ではないと。


 その後、ガレスは一連の事件に関しての鎮静化を指示した。
犯人を探す方ではなく、逆に犯人捜しをすればサイト炎上屋等に利用されると考えていたのだ。
ネット炎上代行の様な人物もいれば、週刊誌のマスコミもいる。鎮静化とは、こうした勢力に悟られないようにする事も意味している。
【向こうが目的に気付いたようだ】
【それでは逆に、こちらの意図がマスコミに報道される危険性もあるな】
【結局、何処の世界でも超有名アイドルは駆逐されるのか】
【アイドル自体は消滅しない。しかし、超有名アイドルはファンの質にも問題がある。そこにパルクール・サバイバーの運営は気づいている】
【だからこその超有名アイドル排除と言う事か。だとしても、やり方が――】
【彼らの場合は排除と言う手段は取っていない。ブラックファンが排除と文面を見て判断し、炎上させているだけにすぎない】
【しかし、我々は違う。あのような浅知恵しか持たないファンとは違うのだ】
【マスコミも真実に気づいた物はないだろう。だからこそ、無限の財力で覆す事も可能だ】
【ARゲームの方はどうする? 向こうは、向こうで対策をしているようだが】
【ARゲームは放置する。ここで行うべきはARゲーム勢全てに対して戦争を仕掛ける事ではない】
【パルクール・サバイバーに対して、徹底抗戦を仕掛ける事だ】
 つぶやきサイトでは、このようなやり取りも行われていた。しかし、これを見て即座に通報しようという勢力はいなかったという。
「全ては夢小説勢の自己満足等の為にあるのではない。そして、それを正義の首長として利用しようとするネット炎上勢も放置出来ないだろう」
 つぶやきサイトの動向を北千住駅で確認していた人物、それは黒の提督服を着た小野伯爵だった。
「こうした勢力の存在がコンテンツ業界を炎上させ、超有名アイドルを唯一神とする思考を生み出すという考えを生み出すきっかけをつくりだした」
 そして、小野伯爵は例のペンデュラム端末を再び取り出し、起動させる。
「コンテンツ業界を盛り上げる為に炎上を必要不可欠と考えるのは――歪んだブラックファンだけだ。純粋に作品を楽しもうとするキッズ層には――」
 起動させたペンデュラム、それは闇の方向へとわずかに動いているようにも見えた。
「その作品を愛しているのであれば、何故に炎上マーケティングと言う週刊誌連中や芸能事務所の様な事を行うのか?」
 小野伯爵も変化していくアカシックレコードに関しては、ある種の懸念を持っていた。
本来はこの世界では触れられてはいけないような禁忌――それをアカシックレコードが記してしまうのでは、という懸念である。
その禁忌が解放されれば、日本でも間違いなく戦火が広がるだろう。
超有名アイドル商法の賛否という海外からは冷たい視線で見られそうな事案で、血が流れるような悲劇が起こると考えているのだ。
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