挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
パルクール・サバイバーRe:System 作者:桜崎あかり

System2

12/34

情報戦


 午後3時18分、レース中に最後尾グループが出現したと同時にシステムを起動、周囲に謎の電磁波を拡散した。
この行動を起こした人物に対し、不信感を持った人物が存在する。周辺の観客は気づいていない為、一般には気づかれない特殊な電波と思われる。
「セーフティーカーを出さないのか? 一体、運営は何を考えている――」
 それは、この様子を動画サイトでリアル観戦していた阿賀野菜月あがの・なつきだった。
別の場所へ向かう途中、気になるレースがあったので焼きそばを食べながら観戦をしている。
「あの場合でセーフティーカーを出したとしても、せっかくのレースに水を差す事になる……せっかくのレースを中止にされれば、暴動が起きるだろう」
 阿賀野の隣でラーメンを食べていたのは、ARサバイバルで使用されるようなスーツに眼帯型ARガジェットと言う人物である。
この人物に、阿賀野は見覚えがあった。しかし、若干うろ覚えな部分もある。
「貴方はオロチ……?」
 焼きそばを食べるのを中断した阿賀野は、話しかけていた人物がオロチと言うコードネームで有名な人物だと気付いた。
「野球やサッカー、団体スポーツには乱闘がある。F1等のレースでもクラッシュに代表されるアクシデントは付き物だ。まさか、そう言った物はパルクール・サバイバーでは絶対起きないとでも伝説化するつもりだったのか?」
 オロチの話にも一理ある。しかし、パルクール・サバイバーはカテゴリー的にはスポーツではない。
あくまでもARゲームである。ゲームにはゲームなりのルールが存在し、それが存在するからこそパルクール・サバイバーは成立する。
そう、阿賀野は解釈していた。カードゲームアニメで言う『ルールを守って正しくプレイ』の精神と言えるだろうか。
「確かに、マラソンでも選手がトラブルでリタイヤになるケースがあるのは知っています。しかし、それは生身の人間での話。彼らの場合は生身の人間ではなく……」
「ARガジェットを使用していると言いたいのか? 確かにガジェットの登場によりアクロバットプレイで重傷になるような事故は減った。しかし、それはガジェットを使ったケースだけにすぎない。そして、違法ガジェットは――」
 阿賀野の言いたい事、それに対してオロチの方も対抗をする。
そして、彼は更に何かを言いたそうな表情で、阿賀野に迫っていた。
しかし、彼が阿賀野に何かを聞きだそうとした場面で――。
「――分かった。ラーメンを食べ終えたら、すぐに行く」
 その言葉の後、残り少しだったラーメンを完食してオロチは店を出て行った。
代金は食券制度だったので食べ終わった後に精算をする必要はない。
彼の出て行った後、阿賀野はレースの続きを見ながら焼きそばを食べる。
手元にはコーラの入ったタンブラーを握っており、それを飲みながら何かを考えていた。
「パルクール・サバイバーはスポーツではない。アレをスポーツにするのであれば、国際スポーツの祭典に……?」
 そして、阿賀野は何かを思いついたかのようにレースの動画を視聴中断し、ネット上で情報を探し始めていた。
仮に予想が当たっていたとすると、超有名アイドルの狙いは大変な事になる。
彼女の使っている端末は様々な部分でネット検索を便利にする為の工夫がされているが、それを他のユーザーが実践しようとは思わない。
あくまでも阿賀野独自のカスタマイズ――と言うべきだろうか。
「やっぱり、そう言う事なのね」
 阿賀野は驚きのあまり、焼きそばをのどに詰まらせてしまう所だった。
それ位に自分の予感は的中したのである。それは、アカシックレコードを読み解くような――。
「仮に、この仮説が正しいとして超有名アイドルファンには何の得があるのか……。得があるとすれば、彼らは何を得る?」
 しかし、このような事をしてアイドルファンが何を得ると言うのか。
阿賀野には、そこだけが理解できないでいた。コンテンツ支配をするのであれば、このような回りくどい作戦をとるのか?
「もしかして、バイヤーの正体って――」
 阿賀野が懸念していた事は、この数分後に現実となった。
「大塚提督、ソロモン不在の中で何をしていたのですか?」
 ラーメン屋を出たオロチを待ち構えていたのは、数少ない女性提督でもある遠藤提督だった。
彼女は金髪碧眼なのだが、金髪はウィッグ等の疑いがある。服装は他の提督と同じようだが、独自カスタマイズがされている。
さすがにミニスカート等ではないが、この服装で色気を感じるようなマニアックな人間は多少いるのかもしれない。
「ソロモンが不在とはいえ、こちらのやる事は非常に限られている。その中でサバイバルトーナメントの運営をすれば問題はないだろう?」
 オロチの正体……それは提督となった大塚だった。
彼が提督になったのには色々と理由があるのだが、それを他の提督には話をしていない。
その為、一部提督からはスパイ説が浮上する程である。
「超有名アイドル以外にも脅威の勢力は複数あります。それらの情報も――」
 遠藤提督がタブレット端末に帆損している情報、それは阿賀野が持ってきた情報であり……。


 4月9日、さまざまな所でナイトメアに関するニュースが報道されている。
その半数が超有名アイドルファンと認識している物であり、目新しいようなニュースは特にないように見えるようだ。
「若干の想定外と言える個所もあったが、こちらのスケジュール通りか」
 一連の報道を見て想定内と考えているのはノブナガだ。
そして、彼はスケジュールもあるのでニュースを一通りチェックしてからは別の場所へと向かう。
その一方でナイトメアの行動を邪魔と考える勢力もいた。
ネットでは反超有名アイドルがナイトメアを邪魔だと考えているという認識だったのだが、それとは別に邪魔と思っている勢力がいた。
『ナイトメアの存在、おそらくは潜入スパイの類と考えるが』
 ロケバスでテレビを視聴していたのはソロモンである。
マスコミのやり方は熟知している訳ではないが、今回の報道は何かと似ているように思えてきた。
『この報道方法は、もしかすると――』
 これ以上の発言はイリーガルに探られる可能性を踏まえ、しばらくは沈黙する事にした。
ソロモンが懸念した案件、それは過去に一部のハンター勢力によって解決したと言われているAI事件である。
事件の詳細は不明だが、サバイバルゲームスペースで起きた超有名アイドルグループの自作自演事件という見解が出ていた。
その一方、真相はハンターたちによって黙殺されているとも言われている。
【事件を起こしたのがサマーなんとかに嫉妬していたグループ】
【結局、一部の株式投資的な芸能事務所が生き残り、小規模事務所が事件に関わったとされて潰されていく】
【芸能事務所関係者の大半は、国会議員と言う噂が絶えない】
【超有名アイドルファン=国会議員?】
【そうなると、国会議員の暴走が超有名アイドルコンテンツの唯一神信仰を生み出した事になる】
【それならば投票率の現象にも歯止めがかけられない、若者の選挙離れが加速するのも納得できる】
【これが芸能事務所のする事か!?】
【超有名アイドルは、もはや銀河系だけではなく世界その物に干渉しているのかもしれない】
【他の次元でも超有名アイドルを唯一神にする思想自体は存在するらしい】
【別のアカシックレコードでは、他のコンテンツをかませ犬のように使い捨てるケースも――】
 AI事件に関するつぶやきまとめには、超有名アイドルが政治だけではなく地球征服とも取れるつぶやきも存在する。
これらの発言が検閲削除されずに残っている事には、別の意味でも衝撃を受けるだろう。
しかし、これは超有名アイドルが今まで起こしてきた行動の全てである。
一方で、超有名アイドルと共につぶやきのキーワードとして浮上する単語がある。それは、アカシックレコードだ。
この単語自体は以前から存在はしていた。しかし、AI事件の起こる数年前にも言及されていたのである。
この時はどのような意味で言及されたのかは不明だが、超有名アイドル絡みで言及されていたのには言うまでもない。
【アカシックレコード、サイトには色々な意味で言及されているが、この世界における真理を示した物という意味は何処から出てきたのか?】
【自分は世界線を記したサーバーと言う意味で聞いた事がある】
【アカシックレコードの記述、それは非常に危険な物と言われているのだが――】
 残念ながら、アカシックレコードに関しては情報が乏しい為か具体的な情報は存在しない。
しかし、ソロモンはアカシックレコードには超有名アイドル勢力の末路も予言されていると考えていた。
『アカシックレコード、それが意味する物は未だに分からない。しかし、これが存在する以上は、世界に対して警告を示しているのは―』
 ソロモンが何かの真実に辿り着いたのだが、キーワードが解析できずにブラウザを閉じる。
ソロモンのタブレット端末を覗き見しようとした何かを見つけたからだ。
『監視カメラではないか――』
 警戒するべき人物はイリーガルだけではないという事実を知った瞬間でもあった。
ロケバスの外には監視カメラの様な物が設置されている。どうやら、目的地に付いたようだ。
その場所とは、梅島のラーメン店であるのだが――。
「お前がソロモンか?」
 そこにいたのは、汎用ガジェットを装備して顔を隠したガーディアンの人物だ。
『お前がこちらの指定した人物だと言う証拠が欲しい』
 ソロモンの一言を聞き、目の前の人物は少し驚いて見せた。
「証拠を見せないとまずいのか?」
 目の前の人物は、疑いの深いソロモンを納得させる為にも、とあるデータをソロモンの端末へ送信する。
『把握した。最初から、これを見せればよかったのだ』
 ソロモンは彼が疑り深い行動を見せた事には、ある程度の理解は示した。
一方で、最初から証拠を見せれば周囲からも冷たい視線が……と言う事はなかったはずだ。


 2人が会話をしている場面を見て、何かの不信感を感じていた人物がいた。
それは花江提督である。彼も、ここへは別の目的でやって来たのだが……。
「あのソロモンと言う人物……何かあるように思えるが」
 ソロモンの動きに疑問を抱くのだが、憶測で動けば思わぬ罠が待っているという事は以前にも学習済である。
その為か、現状は泳がせておく事にした。超有名アイドル等に関しては事件の闇が深い為、そうするしかないという事情もあるのだが。
「どちらにしても、無人ガジェット暴走事件の真相を知る為には……」
 花江提督が気にしているのは、現状のパルクール・サバイバーではなく2月の無人ガジェット暴走事件。
この事件自体は既に決着しており、警察の方も動く気配が一切ない。
芸能事務所側も下手に他のグループにも風評被害が出る事を恐れ、協力をしようとは考えていない……と言う位に、一種の黒歴史としても扱われているのが現実だ。
この事件には夕立ゆうだちも関係していたというのだが、そこまでは花江提督も確実な証拠を掴んでいない。
「もう一人、妙な動きを見せている勢力もあるが……」
 花江提督が警戒していたのは、タブレット端末に表示されている人物である。
上条静菜かみじょう・しずな、彼女は過去にAI事件に関係したとしてネット上でも騒がれているのだが、現実には行方不明扱い。
ところが、その行方不明であるという記述が嘘だった事が判明した事件がある。
それはメダル転売事件を表面化させた、例の狙撃事件だ。
あの時に姿を見せたスナイパー、その正体が上条だとする考察がネット上に拡散していたのだ。
この情報の出所は不明だが、周辺住民もライフルの狙撃音を聞いたという証言があった事、駐車場に謎の足跡、スナイパーライフルの弾丸が発見されていない等の証拠を踏まえると――。
「これは――ARガジェットなのか?」
 花江提督が偶然ネット上の広い物画像から発見した物、それは上条の使用したARガジェット『レーヴァテイン』と思われる写真だった。
場所は狙撃事件の物とは大きく異なるが、全身像に近い画像が現存するのは、これ位と言うべきなのだろう。


 4月10日午前11時、蒼空かなでは別のARゲームガジェットを手にしてあるゲームセンターに姿を見せていた。
そして、次々と乱入してくるプレイヤーを撃破していく。
ゲームの種類は対戦型アクションであり、限られた範囲のフィールドでバトルを行うタイプだ。
格闘ゲームと言うよりは、対戦型ガンアクションや格闘専用FPSのARゲーム版と言う雰囲気を持っている。
「さすがに勝てるわけがない」
「あそこまで連勝をしているという事は、かなりの腕前と言う事か」
「既に10連勝、前日でも15勝はしている。別のARゲーム経験者だとすれば、この能力にも納得がいく」
 周囲のギャラリーも蒼空の連勝記録には驚いている様子。
そして、次の人物が乱入してきた。その人物とは、何と上条だったのである。
「あんたと戦っても、ポイントはあまり上昇しない。それに、これがパルクール・サバイバーと何の関係がある?」
 蒼空は上条の呼び出しに応じたわけだが、ARゲームにパルクール・サバイバーのヒントがあると言われてもピンとこない。
「数日前のARガジェットを使用した反則に関して知っている?」
「それがパルクール・サバイバーと何の関係がある?」
 上条の質問を聞き、蒼空は質問返しをする。
そう言った反応になるのは上条には分かっていた。
「言葉で説明するより、実際にプレイして説明を―!?」
 プレイして説明をするはずが、上条は予想外のインフォメーションが出てきた事に驚いていた。
上条のバイザーに表示されているメッセージ、それは彼女にとって想定外のメッセージとも言える物である。
【マッチング差に大幅な開きがあります。大幅昇格のチャンスが増加するジャイアントキリングマッチを行いますか?】
【ジャイアントキリングマッチを拒否した場合、このプレイではあなたの装備は相手プレイヤーの装備よりも5段階上の物が支給されます】
 上条のランクは、蒼空のランクよりも5段階と言う開きが存在していた。
その為、ジャイアントキリングマッチが提示されたのである。マッチを設定すると、自分の装備はそのままで相手に挑む。
そして、勝利した場合には大幅なポイントが入るという仕組みだ。
このマッチングを利用して大幅昇格をしたプレイヤーも存在する。
一方で、このシステムを悪用してランキング荒らしを行ったプレイヤーがいるのも事実。
このような一発逆転のシステムはバランスブレイカーになる可能性が多く、ARゲームでも導入している作品は少ない。
【ジャイアントキリングマッチが承認されました。このマッチングはレベルハンデなしで行われます】
 この表示を見た蒼空は少しため息が混ざっているような……そんな呆れ方をしていた。
ハンデなしで挑むなんて無謀すぎる。むしろ、使えるシステムは使うべきなのでは――とも考えていた。
チートや不正ツールを使われるよりは公式チートを使うべきと言うのが彼の考えかもしれない。


 バトルが開始され、上条の遠距離ライフルメインに対し、蒼空はチェーンソーブレードとも言えるような装備を両腕で構えている。
二刀流ではなく大型の物であり、人間の体力で振り回せるか疑問のある大きさだ。
上条の方は遠距離狙撃で蒼空を狙い撃つという作戦を考えていた。
大型剣、それも両手がふさがっている状態では、片手銃をオプション武装で持っていたとしても、それを構えるにはタイムラグがある。
それを踏まえれば、向こうの近距離で戦う必要性は全くない。鉄壁の攻略法だが、これが確実だと上条は思っていた。
しかし、その攻略法は元上級ランカーである蒼空の前には無意味に等しかったのである。
「あのブレードは……中距離ではなく、遠距離にも!?」
 上条が驚くのも無理はない。
蒼空の持っているチェーンソーブレード、それは中距離だけではなく、刃部分が伸びると言う武器でもあったのだ。
「蛇腹剣とは違う、どういった原理で――」
 上条が原理を見極める時間を与えることなく、全ての行動を見きっていたかのように蒼空はブレードを分離、刃は遠隔操作されたビームダガーとなって上条にピンポイントでダメージを与える。
「マジかよ」
「30秒経過していないと言うのに」
「これが、ランカーの力なのか?」
 周囲も驚くのは無理がない。上条は他のARゲームでもランカーと言われており、実力は申し分がない。
しかし、それ以上に蒼空の方が強すぎたのだ。圧倒的なレベル差、それが上条の敗因である。
決着後、上条には斬られたという実感がない。
ARゲームだから実感がないという訳ではなく、そのままの意味である。
何をされたのか気づかない……それが蒼空かなでのトップランカーに近い能力でもあった。
「気が済んだか?」
 蒼空は若干呆れている。上条が違いを教えるはずが、まさかの展開に発展したからだ。
そして、しばらくして上条は口を開く。
「そう言う事ね。あなたがパルクール・サバイバーで即座に適応出来た理由が…」
 上条の言う『即座に適応』とは、ライセンスを発行していない時の非公式記録の事だ。
現在は諸事情があっての非公式記録と言う事で、無免許起動という扱いではなくなっている。
しかし、一部のネット住民等からは運営が情報操作をしていると指摘される等、未だに火種が消える事はない。
一歩間違えれば、再び炎上してもおかしくはない案件なだけに、慎重な取り扱いが求められている事案でもあった。
「その感覚で動かす事は、パルクール・サバイバーでは予想外の落とし穴に落ちる事になる」
 次に口を開いた上条からは、予想外の言葉が飛び出した。落とし穴とはどういう事なのか?
蒼空が考える時間もないまま、上条は自分の思いを彼にぶつける。
「他のARゲームとシステムが酷似している事を理由にして、パルクール・サバイバーへ他ARゲームのガジェットを持ち込むプレイヤーがいる。しかし、その行為は一歩間違えれば自分が……」
 上条は話が若干長くなる為、一度離脱をする事にした。
そして、蒼空がプレイを終えるまで待つ事にするのだが、次々と相手を倒していく内に昼の時間になっていたのである。


 午前12時15分、2人はゲーセンを一時離脱してファストフード店へと足を運ぶ。
その後、ドリンクとハンバーガーを購入して適当な席へと付く。
適当と言っても、パルクール・サバイバー用のモニターがある所を選んだのだが……。
「あなた、格闘ゲームはやった事ある?」
 上条の唐突な質問に対し、蒼空は少しと答えた。
そして、上条は自分のタブレット端末を取り出して、それを蒼空に見せる。
「格闘ゲームの場合、一部の例外を除いてシステムが似通った物を使用している。実際、Aというタイトルの格闘ゲームをプレイした人間が、今度はシステムが酷似したBというタイトルのゲームをプレイすれば……どうなると思う?」
 上条は話を続け、格闘ゲームの例えをベースにして説明を行った。
簡単に言えば、Aという格闘ゲームをプレイした人間が、Bという格闘ゲームをプレイすれば、若干のアドバンテージがあると言う。
2Dと3Dではシステムの違いはあるのだが、ある程度慣れてくれば差異は減ってくるのだと言う。
「一方で音楽ゲーム、こちらは格闘ゲームとは話が違ってくる。大型筺体の形状も違うから、格闘ゲームの様にデバイスが似たり寄ったりと言う話ではなくなる。しかし、システムは同じ…」
 続いて、音楽ゲームの例えで説明を続けた。
その中で、大型筺体の形状とシステムが似ているという部分から、ある結論に辿り着いた。
「もしかして、ARゲームのシステムは音楽ゲームから来ている?」
「厳密には違うけど、大体あっている。音楽ゲームの入力デバイスとARゲームのガジェットは関係が似ている。太鼓を使うゲームでドラムの入力装置を持ちだすのは不可能。それと同じ事が、パルクール・サバイバーでも起きている」
「つまり、違法ガジェット以外にも非対応のガジェットを持ちこむ案件が起きている、と」
「そう言う事よ。確かに一部のARゲームでは対応している物もあるのは事実。しかし、パルクール・サバイバーのシステムはアカシックレコードの―」
 話を続けていく途中で、上条は何かの単語を口に出した。
彼女も口が滑ったような表情で、今の話を忘れて欲しいと謝っていた。
「本来話そうとしていたのは、もうひとつあるの。超有名アイドルの芸能事務所が、違法ガジェットを横流ししてARゲーム業界を混乱させようとしている。これが実現すれば、コンテンツ業界は超有名アイドル一強時代に突入するのは避けられない」
 聞かれていないと上条は思いつつ、本来の話題を切り出した。
それは、一部週刊誌でも報道している違法ガジェットバイヤーの一件でもある。
数日前には、スナイパーが狙撃をしていた事でも有名だが、その話をしても彼女は何も答えないだろう。
「超有名アイドルの目的って、やはり一強時代を作り上げる事……ですか?」
 蒼空は覚悟を決めて質問をした。そして、上条から返って来た答えは予想外の物だった。
「一強時代は……少し前だったら正解だったかもしれないけど、今は違うかもしれない。全ては時代と共に変わっていく物。唯一神思想は過去の物になって行くと思う」
 唯一神思想、それは一昔前の超有名アイドルグループが掲げた思想であり、他のコンテンツは超有名アイドル勢が一番人気である事を引き立てるだけに存在するとネット上で炎上した思想でもある。
しかし、そうした事はネット上に置かれている考察記事等のみで、テレビで取り上げられた事は一度もない。
おそらくは芸能事務所側が、唯一神思想の様な事を発信したくないという意向があった可能性が高いだろう。
しかし、こうした思想はマスコミの想定外とも言える流れで拡散していく事になった。
その中心に存在している人物、それが阿賀野菜月あがの・なつきなのである。
彼女は超有名アイドルの唯一神思想だけではなく、更には利益至上主義、拝金主義を超有名アイドルが続けた結果、日本のコンテンツ力は海外勢よりも弱体化しているとまで言い出した。
「阿賀野がそう言った思考に至った理由、それが――」
「アカシックレコードですか」
「さっきは口を滑らせてしまったけど、この単語自体がパルクール・サバイバーの運営からも非常に警戒されているから」
「そこまで警戒する理由はあるのですか?」
「警戒するのは当たり前よ。ランニングガジェットのベースは、アカシックレコード内にあったとされる設計図。それもARゲームとは違う物をベースにしていると言われている」
「ARゲームとは違う物って、もしかして軍事用ですか?」
 話を続けていく内に、とんでもない単語を蒼空が口にした事について、上条はさらりと流していた。
ここは流しておかないと、運営に聞かれた際に大変な事になる。
「どうやったら、ゲームで使う物を軍事兵器に転用するの? ロボットアニメに出てくるような機体、美少女ミリタリー物で出てくるユニットも実物が出ていないような、この世界で―」
 上条も若干白熱してしまい、色々と爆弾発言に近い事を口に出す。
蒼空もこれには若干ドン引きしているようだ。
そんな話をしていたら、時計は既に午前12時45分である。
追加注文で春雨サンドイッチ、フライドポテト、おにぎりセット等も注文したが、さすがに雑談するにも限界が近いだろう。
「私は、そろそろゲーセンに戻らないと。音楽ゲームの方もプレイしないといけないし」
 そう言い残して、上条は店を出て行った。
お昼に関しては彼女のおごりと言う事で何とかなったが、これからどうするか蒼空は悩んでいた。
「あの店舗へ行ってみるか」
 その一言と共に蒼空が向かった場所、それは梅島駅近くのアンテナショップである。
ここはラーメン店とのコラボを行っており、優秀プレイヤーにはラーメンの無料券がプレゼントされる。
数には限りがあり、1名に付き1日1回という限定プレゼントだが。
蒼空が到着したのは午前12時55分、徒歩でも5分弱で行ける距離なのだが今回はランニングガジェットを装備して、目的地へと向かった為に若干の時間がかかった。
「噂のプレイヤー様が、わざわざここまで―」
 店員の男性は蒼空の顔を見るなり、珍しい客がやってきたというような表情を浮かべる。周囲のギャラリーの中には、蒼空を知っている人物もいた。
「こいつは確か、デビュー戦20位だった奴か。あのアクシデントでリタイヤしなかったのは褒めてやるが、お前にはパルクールは―」
 口の悪い男性が蒼空の方へ近寄ってきたが、話の途中に割り込んできたのは黄色のランニングガジェットを装着した女性だった。
「そこまでよ。初心者プレイヤーに対しての精神攻撃、放置できるような物じゃないわ」
 彼女は軽装のインナースーツとカスタム化されたランニングガジェットを既に装着している。
バイザーも装着しており、素顔を確認する事は出来ない。しかし、彼女の身長や体格を見て蒼空は誰かが即座に判断出来た。
「もしかして――」
 蒼空の一言を聞き、彼女がメットを外すと、衝撃的な人物だった事に周囲は動揺をしていた。
「そんな馬鹿な―」
「奴が本格的にパルクール・サバイバーをはじめたのか?」
「あの時は確か、更に軽装な装備だったのに」
 ある意味でもハプニング、アクシデント、サプライズと判断する者もいる。
その人物の正体、それは秋月彩あきづき・さいだった。これには、蒼空も改めて驚く。
「ここはあくまでもパルクール・サバイバー。陸上競技やパルクールとは違ったフィールド……ランニングガジェット装備のどこがいけないの?」
 秋月の言う事も正論だが、周囲の選手やギャラリーには納得していない人物もいる。
これでは反則負けにならないという風に思っている人物も少数いた。
「そうだ……ここは、あくまでもパルクール・サバイバー。パルクールでもなければ、他のARゲームとも違うフィールドだ」
 蒼空の方も何かの決意を持ってレースへと挑む。
ガジェットの調整はアンテナショップで事前に済ませており、今度は自分にフィットしたチューニングなのは間違いない。
「このレースが、新たなスタートになる―」
 蒼空はレースにエントリー後、パチンコ店の前に用意されたスタートラインに立つ。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ