第79話〜殺人鬼は…〜
部屋にはいたるところに紅い血が飛び散っていた。
部屋にある大きな白い石柱、白い壁、白い床……………
それはもう、純粋な白ではなく黒く、そして紅く変色していた。
………吐き気を誘う鉄の臭い。人間を興奮させる紅い色。
以上が地獄絵図となろうとしている部屋の説明だ。
「てやッ!」
剣を一閃させるルシア。
だが、タイガは口元を緩ませるとそれを容易くかわす。
ルシアは続けざまにタイガが逃げた方向に向かって風と同様の疾さの突き。
「ふ。」
それも気づかれていたのか横にずれてかわす。
そしてルシアの背後へと移動するタイガ。
「はああああああぁぁぁぁぁッッ!!!!!」
ルシアは振り向きざまに剣を一閃する。
―――――が、タイガの剣に受け止められてしまう。
どれだけ攻撃してもこの調子だった。
流れるように攻撃してもタイガはすべてをよんでいるかのように次から次へと、繰り出す技をすべて避ける。
「ぬるいな。」
一言タイガはそう発するとルシアの腹部に痛烈な蹴りを一撃。そのままルシアは飛ばされた。
「がはッ。」
そのままつっ立っている石柱に直撃する。
直撃した振動で一時的に肺に酸素が行き届かなくなる。が、すぐに立て直す―――――
ドゴッ
―――――いや、立て直そうとしたがタイガがすかさずルシアの腹にもう一撃蹴りを入れる。
「ぐ……うぅ……………。」
倒れこんだルシアの顔を鷲掴みにするとそのままルシアの身体を持ち上げる。
「どうした?せっかく相手をしているのだ。あまり僕を失望させるな。」
「……っ………。」
「もっと本気を出せ。そして僕に一撃くらい入れてみせろ。これでは戦いにすらなっていない。ただの虐殺になってしまうだろう?」
―――そう。戦いが始まってからルシアはタイガに一撃すら入れる事ができていなかった。
ルシア自身本気を出している。だが、タイガの………いや、殺人鬼の実力がそれをはるかに上回っているのだ。
「―――――くだらんな。」
そう言うと殺人鬼はルシアを投げ捨てる。それこそ、ゴミを捨てるような乱雑さで……。
すでにルシアは虫の息。一撃受ければほぼ確実に殺されるだろう。
「せっかく楽しめると思ったんだがなぁ。英雄と謳われている者がこの程度の実力とは。」
ゆっくりと歩み寄る殺人鬼。一歩一歩歩むごとにルシアの死期は近づいてくる。
「これで終わりだ。安心しろ。死なんて所詮一瞬の痛みだ。後は適当に生まれ変わって終わりだ。」
振り上げられる殺人鬼の一撃―――――
「―――――まったく。邪魔をしてくれる。僕の最高の至福のときを。」
「邪魔はあまり好きじゃないんだが、仕方ないな。今回ばかりは。」
剣と槍。互いに交差する。
扉の近くにはたくさんの人間がいた。
その人間たちに、瀕死状態のルシアがまざっていた。
やがて、得物の交差が終わり殺人鬼はティレクと距離をとる。
「おや。誰かと思えばティレクじゃないか。久しぶりだねぇ。―――もしかして、僕を助けに来てくれたの?」
「……………生憎だが俺様はおまえを助けに来たんじゃない。おまえの中にいる、善人のタイガ・ウナバラを助けに来たんだ!」
「ああ……僕の中の善人の僕ね。殺人鬼の僕じゃなくて…。」
「わかったなら、大人しくしてくれ。そして、俺様と旅をしたあの善人のタイガに戻ってくれないか。」
「……………ティレク。」
「なんだ?」
「……………。」
しばらく黙り込む殺人鬼。そして………
「殺人鬼の家庭で生まれた人間は、所詮殺人鬼なんだよ。」 |