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ハヤンの憂鬱
作:愁華錬我



第45話 向かうは総統府


 
 三者に分かれての戦い。
 プルシコフとガイツの戦いはとりあえずの休戦を申し出ての休戦、他の闘いが終わってから考えるという結論になった。
 ダルマとパンチェッタの戦いは、ダルマがパンチェッタを倒し、気絶させた。
 クァルゴとキャオ・ティンクの双子の戦いは、双子の戦意喪失によりクァルゴの勝利となった。

 客観的に見れば、ガイツの不利は否めない。
 ファエイルを数から外しても、戦力的な人数的にはまだ三対三であり、パンチェッタも特に外傷は無い状態のようなので、意識さえ取り戻せば戦いに参加できるだろう、そうなるとまた振り出しに戻りかねない。
 だが、いつ意識を取り戻すのか分からない上に、まだパンチェッタはダルマに抱えられている状況である、ダルマがその気になれば一呼吸の間に命を奪える状態のままである。
 双子も、その能力がクァルゴにはまるで歯が立たなかった状況、どう考えても有利なのはプルシコフ達三人である。
 もちろん不確定要素も有る。
 一つは、ガイツの能力である。
 英雄連でもトップクラスと言われる実力者であるこの男が、どういう力を持っているのか、それをまだプルシコフ達は判断できていない。
 もう一つは、ハヤンの存在である。
 ここで、戦いになる場合、ガイツがエクの場所まで案内すると言っている以上、ハヤンがガイツの味方につく可能性は充分に有る。
 今のハヤンの能力には、以前の強い事は強いが暴れるだけの恐ろしさ以外の、未知数の物が感じられる、迂闊には敵に回したくない存在である。

 そういう事情を省いても、不思議な事にこの事態の中心、主導権はいつの間にか天真爛漫てんしんらんまんな笑みを浮かべる、このガイツという男が握っているように感じられる。
 そういう不思議な才覚がこの男には有る。
 ただ、何もしなくても人が寄ってくる不思議な魅力とでもいうのか。
 プルシコフが放つのは闇の魅力、どこか恐ろしいが人を惹きつける魅力である、だがガイツの持つ魅力はそれとは性質が異なる、どんな存在をも照らし出す太陽の魅力である。
 その太陽がこの場にいる全ての人間の中心に位置していた。
 ダルマでさえ、異論を挟む機会タイミングを逃していた。

 「な、一緒に行こうぜ」
 ハヤンに対し、ちょっとそこまで散歩に誘うような口調でガイツは言うが、目的地である総統府は、プルシコフ達の国の中枢であり、プルシコフほどの階級の男でも入るには厳重な身体検査ボディチェックを行われるほどの場所である、強引に警備を突破するのはあまりにも非現実的すぎる考えだろう。
 ましてや、英雄連所属のガイツにとっては敵地と呼んでも良い場所である、そこに行くというのに、この男はそういう緊張を微塵みじんも感じさせなかった。
 
 「とりあえず、そこのファエイルを起こしてくれないかな? 話が聞きたい、たぶん今の総統府の事情を一番詳しいのはその男だぜ」
 「……しかし、応急処置こそしたが、すぐに口が利けるような傷ではないぞ」
 ダルマが言うと、ガイツはすぐに、
 「あー、その傷なら一応もう治したからよ、それにそんなに柔な男じゃないよ」
 と、言った。ダルマは一瞬意味が把握できなかった。
 治した?
 傷を治したと言ったのかこの男。
 そう思いながら、視線を足元に引き摺ってきたファエイルに向けると、そこには右手首を失ったはずのファエイルの右手がしっかりと生えていた。
 手首に血こそこびり付いているが、傷自体は完全に閉じて、手首がくっ付いているのだ。
 (これは……、一体いつの間に!?)

 「あー、言っとくけど、新しい手首を生やしたわけじゃないぜ? いくらなんでもそこまでは出来ないぜ、そいつの手首っぽいのが転がってたから、くっ付けといただけだよ」
 簡単な口調で言うが、もちろんそれほど簡単な事ではない。
 まず、腕をくっつける能力、つまり癒しの力だが、そういう魔法は一般的に対象に触れて行う、今の所ファエイルにガイツは触るどころか近付いてさえいない。
 それに手首を見つけたというが、それも一体いつどうやって見つけたというのか。
 そしてそれらの作業を、誰にも気付かれずにどうやってやるというのか。
 ガイツの能力の底知れなさを感じさせられた。

 だが、ダルマもプロである、動揺は見せない。
 命令に従うようでしゃくに障るが、とりあえずファエイルを地面に座らせるようにして、背中に気を当てた、いわゆる気付け、喝を入れるとでもいうのか、びくんとファエイルの体が動くと、その目がゆっくりと開き始めた。
 「う……、う……」
 何かに怯えるように、ファエイルはその場にいる全員を視線で追った。
 その視線が、プルシコフ、ダルマ、そしてガイツを捉えると、わずかばかりホッとした表情を浮かべた。
 だが、それでも混乱というか、錯乱というか、そういう症状がファエイルを襲っているようだ。

 「手……、私の手が……」
 うわ言のように、先ほど生えたばかりの右手首を何度もさすっている。
 ガイツは、そのファエイルの傍に近付き、肩に手を置きながら
 「大丈夫だ、無事だよ」
 聞く者を落ち着かせる不思議な抑揚の声でそう言うと、ようやくその目に正気の色が戻ってきていた。

 ファエイルからしっかりとした話を聞けたのは、それでも五分ほど経ってからであった。
 「襲われたんです、確かデモニムとか名乗る妙な奴に、そこから何も覚えていない……」
 「そいつならもう死んだ」
 プルシコフが言うと、心底安心したような声でファエイルは、
 「助かりましたよ……、多分、後少しで私は狂ってしまっていたでしょう、妙な確信が有ります、何も意識も何も無いのに不安だけは有ったから……」
 
 「礼は良い、それより何が有ったかだ、それを教えてもらいたい」
 「分かりました」
 ファエイルは神妙な面持ちで、それを語り始めた。

 「今更、隠しても仕方ないんで正直に言いますが、私はつい最近、総統補佐官として任命されましたが、その時にそこのガイツさんに話を持ちかけられました」
 「スパイか」
 聞いたのはダルマである。
 「ええ。もちろん断りました、いえ正確に言えば保留というところでしょうか、私の正直な気持ちを言えば、愛国心云々よりも国で出世して権力者になりたいのに、その国そのものを滅ぼしかねない英雄連は敵です、ですが、何事にも保険と言う物が必要だと考えました、最近は妙な事件が続発していましたからね、それも総統の近辺で立て続けに、何か分からないが何かが起こっている、そういう確信がありました、恐らくそれは総統が起因している……。私の最終的な目標はぶっちゃけて言えば総統の地位です、だから、その為に総統を監視する必要が有りました、総統の身近のポストを得られればその動向が探れるのではないか、そう考えたのです。ですがそれが裏目に出たようですね」
 賢明な男だ。
 自分の考えをしっかりと持ち、そしてその為に保険をかけておく事を忘れない。
 もしかしたらこの男、最終的に総統が暴走した時は、英雄連に総統の暗殺をしてもらいそこの地位に自分が納まると、そういう計画すらも考えていたのではないかと思えてしまう。 
 
 「どうやら私が探っているのが総統に気付かれ、デモニムとかいう始末屋を差し向けられたのでしょう、とりあえずその前にガイツさんに報告は出来ましたけどね――」
 「なるほど、我々がここにいるという情報をこいつらに教えたのはお前か、ファエイルよ」
 ダルマが問い詰めるように言うと、ファエイルは頭を下げた。
 「すいません……。総統の話を聞いた時、総統は意味不明の事を言っていましたが、意味が分かる部分だけを思い出すと、総統はどうやら幻闘獣ファレイの力を使って何かの封印を解こうとしているようなのです。恐らくそれは推測ですが幻闘獣を生み出す力を持つ『箱』に関係しているのではないかと……」
 「箱だと? プルシコフが言っていた物か」
 ダルマが声をあげた。
 「その封印を解くと、人類の大半が死滅するかもしれない――、そう言っていました、だから私はガイツさんに連絡して、その……、対処してもらおうと」
 対処とはつまり『処分』の事だ。
 どれだけの力だろうと、制御できない物は排除した方が良いという考えなのだろう。
 「なるほどな」
 
 話についていけず双子は退屈そうに座り込んでいた。
 ハヤンも双子と同じように、興味が有るのか無いのか分からない視線を送っている、早く目的地に行きたいという気配が伝わってくる。
 だが、話の中心は間違いなくハヤンであり、その見に宿るファレイであるのは間違いない。
 
 「となると、総統府にこの男を連れて行くのは危険ではないか?」
 ダルマの、その言葉にはハヤンが敏感に反応した。
 「何!? 俺を連れて行かない気か!?」
 掴みかかりそうな勢いで言ったが、うまくガイツが間に入った。
 「いや、連れて行くって、まぁ落ち着けよ。総統府に行かなければならないのは変わらないだろう、そうしなければ何の解決にもならない」

 「だが、実際問題、どうやって総統府に進入するつもりかの? 英雄殿」
 ダルマがからかうような口調でガイツに言ったが、ガイツは特に気にせずにファエイルに視線を送りながら。
 「どうだい? あんたほどの地位の者なら、総統府に通じる隠し通路の一つ二つは知っているんじゃないんか? もしくはあんたの付き添いって事で俺達を中に案内するってのはどうだい?」
 「隠し通路ですか……、緊急脱出用の非常通路を逆から辿ればあるいは……」
 「しかし、そこに英雄連を連れて行く必要が有るかの?」
 ダルマが、もっともな事を言った。
 だが、それに対して、親しげな笑みをガイツは浮かべながら。
 「な〜に、俺達の事は気にすんなよ、使えるぜ俺達は、そっちはそっちの都合で俺達を使えば良いのさ」
 「しかし、切れすぎる刀は、その身をも滅ぼしかねん」
 ダルマが、ガイツの真意を探るような視線を送りながら答える。
 「それは、そちらさんの力量次第だろうぜ、どちらにせよ、俺達を連れて行かないってなると戦いになる訳だが、強いぜ俺は、それにそんな暇は有るのかな?」
 「俺はそいつに付いていく……、だから邪魔をするなら俺も敵に回る」
 そう言ったのはハヤンである。
 そなるとかなり厄介な事になる、プルシコフ側が勝ったとしても無傷ではありえない、そして時間も掛かるだろう。

 「どうする? プルシコフよ」
 「今は、戦力が欲しい、何が起こるか分からないからな……」
 これから始まるであろう戦いを見据えたようにプルシコフが言うと、ガイツは満足そうな笑みを浮かべた。

 「話が分かるぜ、それじゃあ向かおう、総統府へ」
 
 そしていよいよ、舞台は最終局面へ向かおうとしているのだった。
 












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