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勝ち組サハラ
作:雛祭パペ彦


 朝、いつものように登校すると、2年C組には誰もいなかった。
 そろそろ1限目が始まる時間なのに、両隣のクラスを覗いても誰もいない。
 というか、2年生は今日から修学旅行なので、誰もいないのは当たり前だった。
 僕は、留守番だ。
 だからといって、僕の家が旅行費用を払えないほど貧しいわけではない。
 言っておくけど、僕のお父さんは「勝ち組」だ。
 5年前まで、一流企業に勤めていたし、今は退社して、自宅で年1億ほど稼ぐ「勝ち組ネットトレーダー」をしている。
 そんな「勝ち組」高校生の僕が、なぜ楽しい修学旅行に参加しないのかといえば、もちろん理由がある。

 僕は、溶けてしまうのだ。

 あ、省略しすぎた。
 つまり、僕は気温が40度以上のところでは、人間の形を保っていられない体質なのだ。
 修学旅行の行き先は「サハラ砂漠」だった。
 あんなに暑いところに行けば、僕は一瞬で溶けてしまう。
 ワクワク旅行ガイドによると、サハラの5月の日中の気温は50度前後。日陰でも40度を越えるらしく、そんなところで「5泊6日」もするというのだから、僕が行くのは、どう考えても自殺行為だった。
 僕の体質のことは、クラスのみんなは知らない。
 知っているのは担任の水山先生だけだった。
 はじめ、僕が「参加できません」と告げても、先生はなかなか納得してくれなかったので、結局、目の前で溶けて見せた。
 右腕にドライヤーの温風をかけて見せたのだ。溶けた腕は、氷で冷して元通りにしたので、問題ない。
 ところで、勝ち組家庭に生まれた僕としては、旅行にいけないことなどは、すこしも残念じゃない。
 年収が1億以上あるお父さんに頼めば、サハラどころか、世界中のどこへだって連れて行ってもらえるからだ。
 そんなことよりも、僕は、自分の溶けちゃう体質が憎い。
 この体質のせいで、僕は小さいころから憧れていた「消防士さん」になることができないからだ。
 火災が起これば一刻も早く現場に駆けつけ、逃げ遅れた美少女や美少女や美少女などを救い出して、その出会いをきっかけにして、その美少女と結婚するのが僕の夢だった。
 ああ、溶けなかったら。火災現場に飛びこんでも溶けなかったならば、将来は美少女と……。














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