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星詠みの巫女と幸運の星 作者:青柳朔
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intermission5: 帰る場所

 塔へ帰りながら、シャートはふと夜空を見上げた。暇な時、空を見上げるのはすっかりシャートの癖になっている。ミラさんの話を聞いていたのはそう長くなかったのだが、月はだいぶ高いところまで移動していた。
 星を届けることまでが星拾い人の仕事。今回のように、込み入った話を聞くことはほとんど――というか基本的にはありえない。けれどシャートは、ただ話を聞くだけでも、あの人に必要だと感じたのだろう。

「……おかえりなさい、なんだね」

 夜の空気に溶けてしまいそうなほどに小さく、シャートが呟いた。空に輝く星を見つめたままのシャートの青い瞳は、きらきらと輝きを映してとても綺麗だった。
「何が?」
 突然の言葉に僕は首を傾げた。するとシャートは言葉を探すように俯いて、地面に転がっている石ころを蹴る。
「……ミラさんが、言いたかった言葉。イザルさんの星を届けてから、ずっと何か言いたそうにしていたの。それが、おかえりなさいだったんだなって」
 シャートが蹴った石は少し遠くに着地して、勢いあまったのかころころと転がっていく。シャートは人のことをよく見ているなぁ、と僕は感心するだけだ。僕は他人なんてどうでもよくて、ミラさんの話をぼんやりと聞いているだけだった。ミラさんも、ただ人に話して気持ちを整理したいだけなのだろうと思ったから。
 他人に関心を持つという行為は、とても疲れる。僕には、シャート一人で精一杯だ。
「帰ってきてほしかったんだね」
 相槌を打つように、僕は呟いた。
 ミラさんの言った「おかえりなさい」に含められているそれ以上の想いを僕が汲み取ることはできない。けれど、長い親子喧嘩を、どちらも終わらせたかったんだろう。ただきっかけがなかっただけで。
「うん、だから、帰ってきてくれてうれしかったんだよね」
 僕の声に応えて、シャートは言う。するりと手が伸びてきて、シャートの小さな手が僕の手を握り締める。シャートの手は冷たかった。夜になり、冷えてきたからだろうか。僕はあたためるように強く手を握り返した。いつもなら「あたたかいね」と笑ってくれるのに、シャートは僕を見なかった。ただやんわりと遠くに転がった石ころを見ている。

「星になっても帰る場所があるのって、幸せなことだよね」

 いいなぁ、という呟きに、僕は「そうだね」と答えるだけで深くは考えなかった。この時シャートは何を思っているのだろうなんて、そんなことを考えるほど僕の頭は優秀じゃなくて、それは星詠みの巫女だからこその呟きだったのだと、後で知ることになる。
「早く帰ろう。ナシラにまた怒られるよ」
「……ナシラは怒ると怖いからやだ」
 それに、ごはん抜きにされちゃう。子どものように頬を膨らませるシャートに、僕はくすくすと笑みを零した。だいじょうぶ、それなら僕が何か作ってあげるよ。そうやってシャートを甘やかすのは僕の仕事。そしてシャートは、とても甘え上手だった。
 ふふ、とシャートは笑う。それが、いつもよりも大人びていた。


 そう、僕はシャートの些細な変化にも気づけないほど、愚かで鈍感な人間だった。


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