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孤独を模した記憶の隅にて
作:椎名さかな


 終礼と同時に学校を飛び出した。
 別に目的も何も無かったが、とにかく、何処か遠くへと、歩き回りたい気分でいっぱいだった。
 携帯電話の待受画面。薄い液晶に表示されるアナログ時計もどきは3時半を指す。
 何時のバスで帰ろうか。
 6時か、7時か……まぁそんな事どっちだっていい。
 北関東の田舎を抜けてこのまま東京に遊びに行ってしまう手もある。
 それとも何処かの漫画喫茶で一日潰しても構わない。
 何をしたいか解らないまま学校を出た足は無意識に、市街地の方へと向いていた。
 私の名前は小関ひな。高校三年生になる。




 店内は薄暗い。古いインクと埃が溶けた独特の生暖かい空気が、一歩足を踏み出す度に床から舞い上がり気管支を犯していく。
 小さな街の裏路地にある小さな小さな古本屋だ。
 バスターミナルからさほど遠くもないその場所は、もう暫くすると学校帰りの学生で狭い店内が更に狭さを増す事だろう。
 目的の本は無いのだが、ぶらりぶらりと店内を歩き回る。
 此処にいる間は、いつも時間の流れが早い。
 それがいくら錯覚だとしたって、今日の様な漠然とした虚無感塗れの私にはもってこいの空間だ。
 狭い通路を歩き回って、気に入った場所で足を止め、手にした一冊一頁めくり流し読む。
 そんな時間の垂れ流し、ふとポケットの中に入ってる無温度の機械を握り締めた。
 フリップを開く。4時15分。その時間に私は愕然とした。
 学校からここまで30分かかる。つまり、まだ15分そこらしか、経っていなかったという事になる。
 このままでは、いけない。
 欲しい本も特に無いので、さっさと此処を出ようとした。
 その際、店番の老人と一瞬視線が重なった気がして慌てて顔を背ける。
 手元にあった、作者もタイトルも知らない文庫本、一冊105円。三冊で250円。
なかでも鮮やかオレンジの表紙の文庫本。たった一冊握り締め、私は緩慢な足取りでレジに行く。
 天窓からは淡い色い雲と、飲み込まれそうな青空が見えた。





 古本入ったビニール袋、片手にぶらぶらとまるで小学生の様に揺らして歩いていた。
 これから何処に行こう。
 うちに帰って眠ってもいい。
 このままぶらぶらしていでもいいが。

『今日は負けねーかんな!』
『バーカ、太鼓でテメェに負けるか!』

 小さな少年二人組。
 明るい笑い声と共に、大型ショッピングセンターへと消えていく。
 その後ろ姿が消える迄見送った。
 何処と無く微笑ましいような気がした。
 彼等は私が無くした気力と好奇心にとても生き生きと見えた。
 私は彼等の後を追う様に、ショッピングセンターへと足を向けていた。
 私の名前は小関ひな。将来の希望はニートか引きこもりかパラサイト、夢も希望も特に無い。
 空っぽのまま私は平日の人も疎らな店内に足を踏み入れ取り敢えず一歩前に進んだ。














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