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チェリー戦隊ドゥテイメン!!

作者:一路マヤ
 男には、立ち上がらなければならないときがある。
 男には、立ち向かわなければいけない敵だっている。
 そして男には、決して屈することのない純真正義の心を持たねばならぬことさえある。

 そう。この物語は――
 いまだ己の運命に気づかない少年が……
 いや、いまだ己の敵にさえ気づいていなかった少年が……
 毅然、悠然、厳然としてそびえ立つというあのとても硬いメガキャノンを片手に握ってしこしこしこしこしながら、正義のヒーロードゥテイメンとなって、世界を滅せんと企む壮大なる敵へと立ち向かう話である。うん。



   1 

 まずは自己紹介から始めるべきだろうか。
 僕の名前は十和野童貞。十六歳の高校一年生だ。
 彼女はなし。十六年間なし。友人に言わせると、ルックスはそこそこなのに女子に全くモテないのはこの名前のせいらしい。たしかに童貞なんていう名前は恥ずかしいさ。おかげで子供の頃はよくいじめにあったし、人格形成の上でコンプレックスのもとでもあった。けど、両親からもらった大切な名前だから、今ではこの名前を誇りに思うことにしている……
 さてと、そんな僕に変化が訪れたのはつい先日のことだった。
 それは秋風が冷たくなった金曜日の夕方。学校からの帰り道での出来事だ。
 僕がいつもどおりに自転車に乗って、鼻歌まじりに下校していると、その途中の路地でとある女子生徒と出会ったのだ。
 どちらかと言えば、彼女の第一印象は地味で目立たないものだった。
 ビン底メガネをかけ、むっつりと真面目腐った顔つきをしていて、いかにも学級委員長に向いたタイプ――つまり、どこのクラスにも必ず一人はいるといった、とても退屈でつまらなそうな女子に見えたのだ。
 けど道路に夕日が差し込み、その横顔が映えると、まるで野辺に咲く花のような凛とした清々しさがあった。そんな急な印象の変化に僕はついペダルをこぐ足を止めてしまった……
 どうやら彼女は路上に腰を下ろし、その端に捨ててある何かをビニール傘で突いているようだった。目を凝らして見ると、それは紛れもなくエロ本だ。どこかの誰かによって使い込まれた後なのか、紙面がパサパサになっている。
 彼女はそれを一枚、一枚と、傘の先で器用にめくっては「ううん」と悩ましげな声を上げていた。
 そんな魅惑的な声音と真剣な眼差しに、どういう訳か(いまだにこの心のメカニズムをうまく説明することが出来ないのだけど)、僕は恋に落ちてしまったんだ。まさしく一目ぼれと言っていい。
 おかげで僕は無意識のうちに声をかけてしまっていた。
「エロ本、好きなの?」
 彼女はハッとして振り向くと、あまり恥ずかしがりもせず、
「ええ、そうみたい。初めて中身を見たんだけど、嫌いじゃないわ」
 と答えた。
 それはとてもクールな声音だった。だから僕はますます彼女に興味を持たざるを得なかった。
「そうか。実は、僕もエロ本が好きなんだ」
「ふうん、そうなの」
「そして、エロ本をいじっている君も好きだ!」
 気づいたら、出会ってからほんのわずか数十秒――
 僕は告白をしていた。もちろん人生で初めてのことだ。自分でも信じられなかった。
 そして、しまった! とすぐに後悔した。こんなシチュエーションでいったい何てことを言ってしまったんだ。アホすぎるぞ、自分!!
 けど、彼女はそんな僕に対してクスリとだけ微笑むと、
「嫌いじゃないわ。エロ本も。それからあなたのことも」
 そう言ってくれて、ビン底メガネのノーズに指をやった。そんな彼女の知的な仕草に、僕の心はズキューンと撃たれてしまった。
「ねえ。それってもしかしてさ。エロ本と同じぐらいには僕のことが好きだと解釈してもいいのかな?」
「そうね。道端に捨ててあるこのパサパサのエロ本と同じくらいでしかないけど……初対面でいきなり告白してきたあなたには好感を持っているといって、差し支えないわ」
「パサパサのエロ本に例えられるなんて、男としては光栄だよ!」
「なら、いつか、新品のビニ本くらいにはなってよね」
「ありがとう。アイ・ラブ・ユー、ベイビ!」
「どういたしまして。サンキュー・フォー・ユア・オネスティ」
 こうして不思議なことに僕たちはなぜか付き合うことになった。
 あるいは僕が勝手にそう主張したいだけなのかもしれない。というのも、僕たちの交際が果たして一般的な男女の付き合いと呼べるものなのかどうか、いまいち僕にはよく分からないのだ。だって、その後しばらくの間、僕たちはお互いのことを本名で呼ぶことなく、エロ介、エロ子と呼び合ったのだから。たとえば、こんなふうにだ――
「なあ、エロ子、今日は隣町の外れの本屋にデートしに行こうぜ!」
「別に構わないけど。どうして町外れになんかわざわざ行くの?」
「そこにエロ本があるからさ」
「まるでそこに山があるからさと同じような言い草ね」
「何しろ、四千円もするエロ本があるんだぜ。気にならないか?」
「四千円も! いったいどういうジャンルなの?」
「表紙を見る限りではロリ系のSMだったよ。おそらく鬼畜というよりは、アブノーマルな本なんだと思う」
「アブノーマル! 良い響きだわ」
「ふふ、君がアブさんなんじゃないかな、ということは薄々ながらすでに気づいていたよ。けど、残念なお知らせだ。実は、僕はどちらかと言えば、ロリの方に興味があるんだ!」
「お願いだから、変な事件は起こさないでね」
「安心してくれ。僕のロリは――正義のロリだからっ!」
「意味がいまいちよく分からないけど。とりあえず納得しておくとするわ。きっとエロ介のロリータコンプレックスは、正しいロリコンだということなのよね」
「うん。愛しているよ、マイ・ベイビ」
「私はロリ体型じゃないけど、どういたしまして。マイ・ディア」
 こんなふうにして、毎日のように僕たち二人は学校から離れた小さな本屋やゴミ捨て場で落ち合っては、そこにあるエロ本の研究に勤しむことになった。それが僕らのデートだった。その結果、一ヶ月が経つ頃には、僕たちの仲は前世からの深い魂の絆があるのだと思えるほどになっていた。つまり、エロ本はとても偉大なのだ。
 けど、僕たちは結局のところ何もしなかった。
 一緒に帰ることは多かったのだけど何もしなかった。
 夜の帳が覆う路上で二人きりになったときも何もしなかった。
 何より、映画館の暗がりの中で、ラブ・ストーリーの主人公とヒロインがうふんあはんいやいやんといった展開になったとしても何もしなかった。
 手すら握らなかった。
 口付けさえ交わさなかった。
 ペッティングなんて言うまでもなかった。
 セックス? ふふ。ナッシング・アト・オールだ!!
 ただ、その間に僕はと言えば――
 じいだけはした。
 部屋の片隅でGだけはした。
 トイレの便座の上でGだけはした。
 お風呂の湯船に激しくこすりつけるようにしてGだけはした。
 もしエロ子と突然、愛のABCといった展開になったとき、早漏だとバレないようにと僕はGによってアソコの持久力を必死になって強化しまくった!
 こうして一日二回、朝と夕の健康的なG・ショックによって、僕たち二人が付き合ってから数ヵ月も経つ頃には、僕のアソコは三十分ほどの激しい右手の垂直ピストン運動にも耐えられるようになっていた!
 重要なことだから繰り返そう。
 つまり、僕はGだけは欠かさずに毎日二回やった!
 ちなみに、ここでとあるエロ本で読んだトリビアを一つだけ披露しよう――
 主に座ってGをやる人は実直な性格。寝ながらやる人は優柔不断な性格。道具を使ってやる人は豪胆な性格。立ちながらやる人は芸術家肌なんだそうだ。僕はベッドで四つん這いになってやる性癖があるんだけど、いったいこれはどこに当てはまるんだろうか?
 まあ、いいや。
 話を元に戻すとしよう。
 そんなふうにしてGばかりしまくっていた僕に新たな変化が訪れたのは、エロ子と付き合い始めて半年ほど経った真冬の頃だった。
 その日も、僕はエロ子とは何もせず、夕方には帰宅を済ませて、素早く家の中をチェックして両親がいないことを確認してから、速攻で部屋へと入ってドアを閉め、すぐにズボンを下ろした。いつものことだ。
 さあ、いざいかん! めくるめくG・ショックによる快楽の世界へ!
 と、僕がベッドで四つん這いになって、そそり立つ皇帝棒へと手をかけた瞬間だった――
《それを激しく上下運動してはいけない!》
 突然、バリトンボイスが聞こえてきたのだ。
 僕は一瞬、父さんがいたのかと驚いて上体を起こした。
 けど、部屋には誰もいなかった。そーっとドアを開けて廊下の様子を窺ってみる。やはり誰もいない。とても静かなものだ。
 たまたま家の外から誰かの大声が聞こえてきたのかな、と僕はいったん結論を下し、万が一のときのためにパンツとズボンを膝のあたりまで上げておく。これでいつ両親が入ってきたとしても、スマートかつスピーディに偽装が出来る。
「さてと――」
 僕は気を取り直して、Gを再開しようとした。
 すると、またもや僕がアソコに手を伸ばしたときだ。
《やめるのだ! 君は――》
 そんな低い声が響いた。
 直後、僕のアソコは当然のようにわなわなと萎えていった。僕はふにゃりと軟らかくなったマイ・サンをぶらぶらと片手でいじりながら、慎重にあたりへと目をやってみた。
 おかしいな。たしかに誰もいない。
 けど、待てよ。もしかして僕は監視されているのか?
 父さんが、あるいは母さんが、秘かにどこかから小型カメラなどでチェックしているのか? それともあれか。隣人とか、友人とか、のぞき趣味の人とか。もしや、公安当局とか、CIAとか、アメリカの国防省が大気圏外の偵察衛星を使って覗いているのか?
 いや、待て。落ち着け。
 半裸でアソコをいじっていると、どうしても誇大妄想しがちになる。
 というわけで、僕はとりあえず半裸のまま、部屋の中の怪しいと思った場所をごそごそと確認してみた。しかし、おかしなものは何一つとして見当たらなかった。仕方なく、僕は三度、ベッドで尻を高く突き出し、枕に顔をうずめるようにして四つん這いとなる。どうにもこうにも不可解だが、今さら変な声がしただけで日課を止めるわけにもいかないのだ。
 僕は我が息子へと手をやりながら、全方位に神経を尖らせてみた。そして、シャキーンとそびえ立ったメガキャノンを一気にこすったとたん、
《なぜ止めないのだ!》
「いったい誰なんだ!」
《今、この時空で君が激しくGをしたら――》
 僕のメガキャノンが萎えるのと、そのバリトン声が聞こえなくなるのが同時だった。
 まさかと思い、僕はしこしことアソコを奮い立たせてみた。すると、まるでアンテナが電波を受信したかのようにクリアな声が聞こえてきた。

《君が激しくGをしたら、地球が滅亡するぞ!》

 なーにーッ!
 と、そんな感嘆の声を上げるはずもなく、僕は白々と言った。
「で、お前はどこから声を出しているんだ? というか、どこにいるんだ?」
《私は、君の脳内に直接刺激を送っている》
 僕はゆっくりと手を上下に動かしながら、ちょっとだけ窓を開けて外を見てみた。けど、そこには誰もいなかった。怪しいと思えるものもない。
「地球が滅亡するってどういうことだ?」
 僕は独り言を呟くような形で改めて問いかけてみた。
《バタフライ効果だ》
 即答だった。強い意志を感じる声音だ。
「いったいお前はどこにいるんだ!」
 僕はその声に怯むまいとして、ゆるゆるとピストン運動を何とか続けながらも、部屋の中で声高に叫んでみせた。
《落ち着くんだ、少年。私は君に危害を与えるつもりはない》
「だったら正体を見せろ!」
《やれることならしているさ。しかし、私がいる現状の界境世界面の位相では君にこうやってメッセージを送ることしかできないのだ》
「ん?」
《端的に言えば、私は君の脳内に通信することしか出来ないのだ》
 僕は頭を抱えた。
 ついにGをしすぎて頭がおかしくなってしまったのか……
 エロ子との万が一のときのために、わざわざ朝と夕の健康的なエクササイズを勤勉にこなしてきたというのに。もしや、やりすぎでアホの子になってしまったというのか……
《いいか、少年。私の話をよく聞いてく――》
 僕の悲嘆によってアソコが萎えていくと、バリトン・ボイスは小さくなっていった。
 やれやれだ。これはいったい何という病気なんだ?
 どこかの総合病院の精神科にでも行けば治るんだろうか?
 というか、それはすげー恥ずかしいな。お医者さんに何と言えばいいんだろう――
「先生。Gをすると、声が聞こえるんですが……」
「安心しなさい。若いころは誰でもそんなものですよ」
 これじゃあ、ダメだ。ただの思春期の妄想だと間違われる。
「先生。Gをすると、なぜか男の低い声が聞こえてくるんですが……」
「安心しなさい。人の趣味はそれぞれですよ」
 これもダメだ。単なるホモだと間違われる。
 うう、どうしよう。まさに人生\(^o^)/オワタって感じだよ。出来れば一時的な症状であってほしいな……思春期特有の邪気眼みたいなもんならまだマシなんだけどな……
 と、僕は盛大に肩を落として項垂れるしかなかった。
 それでも人間にとって習慣というものは恐ろしいもので、僕はあっけなく「ま、いっか」などと呟き、さっさと日課のGを終わらせることにした。
 今度は部屋の中ではなく、わざわざ階下のトイレへと移動して、きちんとドアに鍵をかけ、それからトイレットペーパーを丸めてフィニュッシュいつでもオッケーだぜという万全の状態にしてからアソコを激しく上下した。
《止めろ! 止めるんだ!》
 やはり、例の低い声が聞こえてきた。
 けど、僕は構わずに妄想にとりつかれたまま、それからきっちり三分後――
 ドピュッ、と。
 つい早漏の癖が出てしまい、早めのフィニッシュを向かえていた。
 と、まさにその瞬間だった。
 外から、いきなり大きな爆発音が聞こえてきたのだ。激しく地面が揺れ、トイレの天井からもぱらぱらと塵が落ちてくる。
《ついに、この世界は終わりを向かえた……》
「いったい何が起きたんだ!」
《言っただろう。君がGをしたら地球が滅亡すると》
 僕はやや傾きかけたアソコを何とか奮い立たせながら、その低い声を受信したままでトイレを出て二階の部屋へと向かった。
 窓から外を見ると、隣町が焼け野原となっていた。エロ子の住んでいる町だ。それはとてもおぞましい光景だった。しかも、夕空では、なぜか空間がひどく歪んでいた。何だかまるでブラックホールみたいだ。
「何なんだよ、あれは……」
《多世界管理結社イケメン・ブサメン連合が、君の世界へと転送されてしまったのだ》
「イケメン? ブサメン?」
《そうだ。君が先ほど、激しくGをしたせいでな》
「どういうことなんだよ……」
《いわゆるバタフライ効果だ》
「だから、何なんだよ、それ!」
《中国で蝶々が飛べばどこかで竜巻が起こるという理屈だ。もっと分かりやすく言えば、『風が吹けば桶屋が儲かる』と似たような概念だ。より正確に言うとしたら、物理現象におけるカオス理論を表したものなのだが、つまり君の激しいGは、君のいるこの世界の決定論的な力学系に予測の出来ない複雑かつ不規則な現象を組み込んでしまったというわけだ》
 いまいち意味が分からなかったが、僕は隣町の無残な光景を前にして呆然となった。
 まるで中距離弾道ミサイルが何発も落ちた後の世界のようだ。オンラインゲームや戦争映画でしか見たことのない、そんな悲惨な状況が、僕の眼前にどこまでも広がっていた。真っ黒の影みたいになった人々。跡形もなく崩れた建物――それと廃墟と化したエロ本屋。カケラとなったエロDVD。墨になったエロ本等々。
 それから僕はすぐにエロ子が無事なのかどうか心配した。相変わらず右手でアソコをしこしことこすって低い声を受信しつつも、左手で携帯電話のリダイヤルボタンを器用に押す。
 けど、結局、何度かけても不通音が鳴るだけだった。
「イケメン・ブサメンって何なんだよ……ちくしょう!」
《フム。少しばかり、私たちの歴史について話さなくてはいけないだろうな》
 低い声はそう言うと、僕の脳内にいくつかのイメージを閃いてみせた。
 それは、彼らの長い歴史を瞬時に切り取ったものだった――



   2 

 僕たちとは異なる位相にあり、ほとんど同じような歴史的発展を遂げた平行世界。
 その二十一世紀中盤。ついに第三次世界大戦は起きてしまった。それは列強国によるものではなく、また宗教的対立や文化的対立によるものでもなく、また富者と貧者によるものでもなく、もちろんシュワちゃん演じるコマンドーによるものでもなく――
 イケメンとブサメンという顔立ちの異なる人々の対立によるものだった。
 その結果、ごく一握りのイケメンは世界の頂点に立ち、徹底した社会管理を行った。
 しかし、その途上でイケメンはあることに気づくこととなった。たとえイケメンであろうとも、必ずしもモテではないこと。ブサメンであっても、モテることがあるということ。
 そこで長い時間をかけて、イケメンとブサメンは和解をし、ある線引きを行った。
 それが――男なら童貞かどうかということだった。
 こうしてドゥテイメンという概念が新たに造られ、彼らは古代ギリシア時代の奴隷の如く、社会的に最下層の人々として位置付けられることになったのだ。
 世界はその後、完全な階層管理社会として数世紀ほどの時を経て、人類は宇宙へとフロンティアを拡大させていくと、イケメン・ブサメン連盟(旧称)はとある問題に直面することとなった。それはドゥテイメンによる社会的反攻である。
 特に、科学の進歩で寿命がとても長くなったことで、非常に純度の高いドゥテイメン(三百歳、四百歳以上の童貞)が誕生し、彼らはその純粋無血で強烈な想像力ゆえに様々なテレキネシスが使えるように進化したため、反攻の度合いはますます強まっていった。
 だが、如何せん、多勢に無勢――
 ドゥテイメンだと迫害されてしまう社会にあっては、あえてドゥテイメンであろうとする者は少なく、ほとんどの男子が十代のうちに確実に筆下ろしをするようになった。もちろん、そんな環境では、数少ないドゥテイメンがいかに異能の力を持とうとも、殲滅されるのは時間の問題だった。
 ところが、その迫害から生き残ったドゥテイメンは必死にオナニーを繰り返し、イケメン・ブサメン連盟の魔の手が及ばない別の位相の世界へとテレポートすることに成功する――このオナポートによって、ごく一握りのドゥテイメンは安らかに過ごせることになるはずだった。
 しかし、イケメン・ブサメン連盟はわざわざその平行世界へとドゥテイメンを追ってきたのだ。その後、様々な位相へと干渉する力を得た連盟は、多世界管理結社イケメン・ブサメン連合と組織名を変え、ドゥテイメンといたちごっこを繰り返し――



   3 

《こうして君の今いる世界へと、彼らは転送してきてしまったのだ》
「…………」
 さすがに脳内でこれだけのイメージを見せつけられると、僕もこの男の言葉に納得するしかなかった。
「一つだけ聞きたい。なぜ、この世界に奴らは来たんだ?」
《君の持つ強力なドゥテイパワーは時空を超えて、私たちも秘かに観測していた。君はまさに超絶天才的な童貞なのだ。その溢れんばかりの白濁液の如く、君の強力なリビドーは全時空、いや全位相にダダ漏れになっていた!》
「それを多世界管理結社イケメン・ブサメン連合に嗅ぎつけられたと?」
《そういうことだ。おそらく彼らの目的は、君のいる世界の滅亡だ》
「どうしてそうなるんだ!」
《君のような強力なドゥテイパワーが将来に現前化する前に、彼らはこの地球ごとブラックホールへと移送してしまうつもりだろう》
 おいおい、何てことだ。
 僕はただGをしただけだというのに。
 たった、それだけのことなのに、隣町は焼け野原になり、エロ子も行方不明になってしまった上に、世界が滅ぼされしまうというのか……
 くそ! ちくしょう!
 と、僕が怒りをぶちまけようとしたときだ。
 僕は隣町の外れに人影を見つけたのだ。以前、四千円のエロ本を探しに行った本屋のあたりだ。
 結局のところ、あのエロ本は、ロリというのもおこがましい年増の女性がロリを装っただけのアブノーマルなエロ本で、僕はげんなりしたんだけど、エロ子はむしろそれを喜んでいた。彼女は生粋のアブさんだったからだ。
 とまあ、そんな他人の性癖についてはともかく、僕はすぐに本屋の影を直視した。
 それはちょうどエロ本の墨の山となっているところだったから、僕はこう直感もしていた――あんな悲惨な状況の中でもエロ本に囲まれているなんて、あれはエロ子に間違いない! と。
 けど、そのエロ本の山を目指すようにして、夕空にぽっかりと空いた歪みから、全身を黒タイツで覆った人たちがなぜか降下しはじめているじゃないか!
《あれは多世界管理結社イケメン・ブサメンの戦闘員たちだ!》
「早く助けにいかなきゃ!」
 僕は慌てて部屋から出て行こうとした。
《今こそ、落ち着いてよく聞いてくれたまえ。少年よ》
 バリトン・ボイスは穏やかにこう続けた。
《私たちはまだ君の世界へと転送するだけの力を貯えていない。だから君を、そして君の世界を直接助けることは出来ない。だが、君に助言することなら出来る》
「助言だと?」
《そうだ。君も私たちと同様――》
 わずかに言葉を切ると、重みをつけるようにして、
《ドゥテイメンになるのだ!》
 その低い声は何重にもエコーがかかっていた。小粋な演出だ。
「そうすれば、僕のいるこの世界を――いや、エロ子を助けられるのか?」
《ああ。少なくとも、君の世界の危機を回避する可能性は高くなる》
「僕のせいで隣町が焼け野原になってしまったというのなら……あいつらがやって来てしまったというのなら……やるしかない……けど」
 僕はそこで少し言葉を濁すと、
「実は、僕はまだぴかぴかの童貞なんだ! だからと言って、何か特別な力があるようには思えない」
《童貞であるだけでは、ドゥテイメンにはなれないのだ》
「どういうことだ?」
《ドゥテイメンとは、幾千もの童貞たちが数百年の進化の末に手に入れた、超上の能力を持った者たちのことだ》
「進化? 数百年? それじゃあ、童貞歴十六年の僕にはどだい無理な話じゃないか!」
《あきらめるな! 童貞を信じろ!》
 その声圧に、僕の体はぶるぶると震えた。
《自分を信じるのではない。私の言うことを信じるのでもない――童貞であることを誇りに思い、童貞であることを強く信じるんだ!》
 何だかどこかの螺旋系アニメで聞いたような台詞だなとは思ったけど、僕はついそれに感化され、熱血モノみたいな感じで、男に対して激しく問い返していた。
「信じれば、なれるというのか? 信じれば、世界を救えるというのか? 強く信じることが出来るなら、今、エロ子も助けられるというのか!」
 僕は部屋の壁をガンッと拳で叩いた。
 いや、答えは否だ! そんな精神論と根性論だけで、目の前の悲惨な状況をどうにかできるというのならとっくに僕以外に根性のある誰かがやっている!
 僕は頭を横に強く振り、男の言葉を否定して外へと飛び出した。
 半裸の上にアソコをぶらぶらさせたままの如何にも変質者的格好だったけど、もうこんな状況ではそんな外見についてはとやかく構っていられなかった。
 だが、外に出たとたん――
 ひどい異臭が僕を襲った。それは人間の皮膚や筋肉が焼けた臭い、血の臭い、何よりあらゆるものが灰へと化してしまった臭いだった。
 僕は手で鼻と口を押さえながら進んだ。何度も吐きそうになった。それでも、瓦礫の山を掻き分け、道なき道を力づくで進んでいくと、遥か遠くにあるエロ本の墨の山へと迫っていく戦闘員たちの背中が見えた。僕は、何度も叫んだ。
「止めろ! 止めてくれ!」
 お前らは僕のドゥテイパワーが目的のはずだったんだろ?
 ならば、なぜ僕を狙わないんだ? エロ子は全く無関係じゃないか!
 僕は途中で足をひねってしまい、情けないことに転倒した。と、そのときだ。遠くのエロ本の山から人が這い出てきた。間違いない! やはり、エロ子だ!
「エロ子、エロ子おおおお!」
 僕の悲痛な叫びは彼女には届かない。
 そして、僕の願いを嘲笑うかのように、戦闘員たちは突進していく。
 間に合わない。エロ子が殺されてしまう。
 と、僕が悲嘆に暮れた瞬間だった――
 僕の脳内で、幾千もの童貞臭のする男たちの呻り声が合わさってこう告げたのだ。

《力がほしいか?》

 僕はギュッと下唇をかみしめた。
 今こそ、彼らに求めるときだったのだから。
「ああ……、ほしいッ!」
 いつの間にか、僕のアソコは武者震いならぬ、武者立ちをしていた。
《ならば、信じろ! 十六年だろうが幾百年だろうが、そんなことは大した違いじゃない。本当に大切なのはお前が童貞かどうかということだ! だから、お前のドゥテイを信じろ! ドゥテイであることを誇れ! そして、宙に向かってアソコを激しく突き立てろ!!》
 僕はすぐにカクカクしゃかしゃかと腰を振った。
「ああ! 信じてやるさ! エロ子を助けるためなら、僕の一生涯を童貞に捧げてやる!」
《ドゥテイ・エボルーション!》
「イエス! ドゥテイ・エボルーション!」
 僕は無数の童貞声と一緒になってそう叫んだ。
 そして、しこしこしこしこと己の毅然としてそびえ立ったキャノン砲を一心不乱でしごきまくった。もとは早漏なので今にも絶頂に達してしまいそうだった。
「エロ子、今、すぐに助けにいくぞ!」
 腰をカクカク、しゃかしゃか。
 しこしこしこ――



   4 

 それは一瞬の出来事だった。
 気づいたら、僕はエロ子のもとにたどり着いていたのだ。
 アソコを約二十二m/s平均ピストンスピードでしごいたときだった――F1エンジンの最高出力をも超えるスピードで右手を激しく上下運動していたら、なぜか僕の体は一気に隣町の南の端から北の外れへと移動していた。もちろん、その理由を問うのは野暮というものだ。男ってのは――いや、ヒーローってのは、アソコがいきり立つと何でも出来るのだから!
 しかも、僕が出現したことによって生じた突風で、多世界管理結社イケメン・ブサメン連合の黒タイツたち(=下っぱ戦闘員)は「おうふ!」と情けない声を上げて吹っ飛んでいた。
「大丈夫か?」
 僕はすぐ、エロ子に声をかける。だが、彼女は小さく首を傾げるだけだ。
 すると、さっきまで僕に直接通信をしていたバリトン・ボイスがこう言ってきた。
《ドゥテイメンになると、テレパシーでしか物事を伝えることはできないのだ》
「なぜだ?」
《とりあえず、今の君の外見を脳内にイメージしてみせようか》
 そのとたん、僕の頭の中に映像がクリアに伝わってきた――
 目にはハート形のサングラス。
 頭部は真っ赤なほっかむりのようなもので覆われている。
 口は白マスク。花粉症対策で装着するような耳もとまでカバーする大きなタイプだ。
 そして、上半身はほぼ裸。首からはいかにも百均で買ったミジンコの絵柄みたいなネクタイがぶら下がっていて、体には筋肉の谷のところにマジックペンで書いたような黒い跡があり、乳首から一本だけ長い縮れ毛が生えているのはご愛嬌。
 あと、下半身はと言えば、まさに益荒男に相応しい赤ふんどし一丁のスタイルだ。しかも、どういう訳か、そのふんどしには前掛けしかなく、事実上のフリチン状態になっている。これでいつでもシコシコ出来るってわけか……なかなかやるな、ふ……
「って、ちょっと待て! いくらなんでもこの格好はないだろ」
《二十七世紀の第百八十一境界世界面では最先端のファッションだ!》
「いやだなあ。そんな未来……」
《いずれにしても、マスクで口がしっかりとガードされているので、彼女と直接言葉を交わすことは出来ないのだ》
「そもそも、こんな格好じゃ、今の僕には名乗りを上げる勇気さえないよ……」
 と、そのときだ。
 黒タイツの変人ども(=くどいようだけど戦闘員)が僕に向かって攻撃をしかけてきたのだ。だから、僕はそれを難なくかわし、ちょいと背中を押すと、
「ぎええええええええええええええええええええあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
 そんなふうにすんごく絶叫して、戦闘員は宇宙の果てへと飛んでいってしまった。
「ちょ! これがドゥテイメンのパワーなのか! ありえない!」
《戦闘員相手なら絶対に負けることなどない》
「よし、一気にこのまま片付けるぞ!」
 僕はエロ子を背にして、群がる黒タイツ野郎どもを千切っては投げ、投げては蹴り飛ばし、あっという間に敵を全滅させた。
「意外とあっけないな。イケメン・ブサメン連合というのも」
《言っただろう。それは君が天才的な童貞だからだ。これほどのドゥテイパワーを誇る者は一万年と二先年に一人出てくるかどうか。まさしく天性の逸材、いや童貞超人だと言っていい》
「それは喜んでいいことなんだろうか……」
《ああ、喜びたまえ。君はそれだけの童貞力を得たのだ》
「だからこそ、この世界が奴らに狙われたということでもあるのか……クソッ!」
 僕の胸が急に痛くなった。
 僕が童貞だったから……いや天才的な童貞野郎だったからこそ、今、この世界は崩壊の危機に立たされている。
 あまりにも理不尽で、意味不明で、正直なところそんなことで天才とか言われてもちっともうれしくない状況を前にして、僕は悔し紛れに舌打ちすることしか出来なかった。僕のせいで多くの人が消え去り、さらにエロ子が襲われるなんてありえない。けど、これは妄想なんかじゃない。本当に眼前で起こっている現実なのだ。
 すると、僕の戸惑いなんかお構いなしに、隣町の空がさらに歪んでいった。
《さあ、心構えをしておくんだ。敵が来るぞ。イケメンか、それともブサメンか。どちらなのかは分からないが、いずれにしても奴らの主力の登場だ!》
 その直後、唐突に音楽が流れはじめた。
 それは例えるなら、八十年代アイドル系の歌謡曲――ガラスハートの十代的な感じだ。
 そして、夜空の特異点から現れ出てきたのは、ローラースケートを履き、空中で華麗に旋回しているソース顔のベタなイケメン・アイドルだった。
「ふふ。俺が出てくることになるとはな。それ、ちょっと、ごいすー」
 ん、ごいすー?
《すごい、の意味だ。たとえば、「いと」が「とても」となったように、二十七世紀後半では「すごい」は「ごいすー」へと変化したのだ》
 そ、そうなのか。
 まあ、何だか業界用語のように聞こえるのは気のせいなんだと思いたい。
「で、強いのか、あのアイドルみたいな奴は?」
《多世界管理結社イケメン・ブサメン連合、太陽系宇宙軍第二三四時空位相平面部隊統括最高指揮官――ディック・チコ・ジャージピヌ・ポコチンスキー・カラリオ・ティンコヴィッチ。連合の懐刀と言われるほどの大物だ》
「とりあえず無駄に長い名前だな。あと、気のせいだろうか?」
《どうした》
「僕は別に外国語に堪能という訳じゃないんだけど、色んな国の男性器という言葉が入り混じっているだけの名前に不思議と聞こえてくるんだ……」
《おそらく気のせいだ》
「そうか。うん、まあそうしておこう。いずれにしても、名前だけでほぼ一行というのはさすがに舌を噛みそうだから、とりあえずティンコと略すことにするよ」
《うむ。了解だ》
 そのティンコはと言えば、ストンと地面に着地すると、腰に巻いていたセーターをほどいて肩にかけた――その身にはラメの入ったピンク色の柄シャツを纏い、ブルージーンズにはスリータックも入っている。しかもローラースケートを着用しているのに、なぜか底が十センチほどもあるバスケットシューズを履き、さらに額にはバンダナを鉢巻のように捩じって巻いていた。何だかすごく大時代的な格好だ。流行はきっと何千回とサイクルしたに違いない。
 そんないかにもバブル全盛期の若者ファッションで着飾ったティンコは僕を見下すと、
「オレ、くるでって、おきなに? ことゆー?」
「分からない。頼む、訳してくれ」
《オレが・出てくるって・いったい何が起きたんだ? どういうことだ? ――と彼は言っている。こんなことも分からないのか?》
「ああ、さっぱり分からない。そもそも、僕は今時の普通の高校生であって、おっさんでもないし、どこぞの業界人でもないんだ」
「フン。ちゃうおわー!」
「今度は何だって?」
《終わらせちゃうよ! ――という意味だ》
 と、その直後だった。
「うおッ!」
 僕はとてつもない衝撃を受けていた。そして、気がつけば僕の体は宙を飛んでいた。東京タワーよりも高く、成田の空をあっという間に超えると、そのまま太平洋を一直線――次に陸地を見たのは、ハワイ諸島の一角であり、それからさらに地球を半回転ほどして、ブラジルのリオデジャネイロにあるキリスト像にぶつかって、そこでやっと僕は地に落ちたのだ。
「くそ! 何ていうパワーだ」
《大丈夫か? ダメージは?》
「ん……思っていたほどじゃないな。けど、あんな化け物に本当に勝てるのか?」
《ドゥテイパワーのチャージが不十分だったのだ》
「どうすればいい?」
《さらにアソコをシコシコとしごけ!》
「よし、分かった!」
 僕は大型グライダーを飛ばすほどの勢いで、シコシコシコシコとアソコをしごきまくった。
 すると、再び一瞬の出来事だった。エロ子へと魔の手を伸ばそうとしていたティンコの前へと、僕は出現していたのだ。つまり、僕はブラジルから日本へと一秒もかからずに戻ってきたことになる。光速じゃねーかとつっこむのは野暮ってものだ。本物のヒーローはアソコを奮いたたせれば――(略)
 さて、ティンコはといえば、僕の再出現によって生じた衝撃波を受けたせいか、百メートルほど後ずさりした。
「戻ってきたのはいいけど、敵にダメージを与えるにはどうすればいいんだ?」
《いいか、落ち着いてよく聞くんだ。私がこれから指示を出す。君の選択肢としては――『こうげき』、『ぼうぎょ』、『かくす』、『おとなのどうぐ』、『えっちなまほう』の五つがある》
「…………」
 何だよ、その明らさまにRPGのような選択肢は。あと、『かくす』ってのは何だ。まあ、どうせ下半身のことだとは容易に想像がつくけどさ。それと、『おとなのどうぐ』と『えっちなまほう』ってのも何となくイメージ出来るから選択しないでおこう。うん。
 とにもかくにも、今はこのティンコを倒すのが先決だ。
「よし、じゃあ、僕は『こうげき』を選択するぞ」
《了解した。コマンド――『こうげき』。さて、どうする? 『ドゥテイパンチ』、『ドゥテイキック』、『ドゥテイメガンテ』の三つだ》
「また選択肢かよ! それとメガンテって何だ? 明らかに自爆じゃねーか!」
《早く選ぶんだ、敵はもう近付いてきている》
 見ると、たしかにティンコは残り十メートルのところまで来ていた。
「ちくしょう。それぞれどう違うんだよ!」
《うむ。ドゥテイパンチは攻撃力が二十、火属性だ。ドゥテイキックは攻撃力が三十、こちらは雷属性だ。ドゥテイメガンテはご存じのとおり、無属性の最強自爆攻撃だ。よく知っていたな!》
 ふつーの日本男児は知っているよ! というツッコミを喉もとあたりでグッと堪え、僕はティンコが繰り出してきたパンチを華麗にかわしながら聞いた。
「属性というのがちょっと気になるんだけど、攻撃力ってどういうことだ? 二十もあれば、奴を倒せるのか?」
《なかなかのグッドクエスチョン。さすが、選ばれしドゥテイメンだ》
「いいから、早く教えてくれ」
《よかろう。攻撃力の単位は『ドピュ!』だ》
「…………(もうそろそろ止めたい、こんな茶番)」
《聞こえなかったのか? 単位は、『ドピュ!』だ》
「大事なことだからって二度も言うな! ちゃんと聞いているよ」
《オーケー、じゃあ、一緒に言ってみようじゃないか。ほら、ドピュ! だ》
「お前、そろそろ僕を使って遊んでいるだろ」
《おやおや、ずいぶんとお冠のようだな。しかし、誤解をしてはいけないぞ。『ドピュ!』というのは、君のいる世界の物理学的な単位でいうところのパスカル秒にあたる。つまり、一ドピュ! がだいたい一万パスカル秒相当だということなのだ》
「ちょっと待て! 僕はこれでも高校で物理選択なんだ。何だか難しいことを言って誤魔化そうとしているようだが、決して騙されないぞ。そもそもパスカル秒っていったら、粘度の単位じゃねーか! 何で攻撃が粘り気に換算されなきゃいけないんだよ!」
《そりゃドピュ! だからな。もしや気に入らなかったか?》
「ふ ざ け る な!」
《だが、今、君があのティンコに有効打を与えるとしたら、『こうげき』ではこの三つの選択肢だけしかないのだ。残念ながら、君は天才的ドゥテイメンであっても、まだ戦闘のキャリアがほとんどないからな。RPGで言うところの経験値不足のレベル一勇者みたいなものだ》
 なぜ僕のいる世界のRPGの事情にそんなに詳しいんだよとツッコミを入れたかったが、これもまた面倒臭かったので止めておくとしよう。
「仕方がない。じゃあ――『ドゥテイパンチ』だ!」
《ファイナルアンサー?》
「……イ、イエス、ファイナルアンサー」
 僕はティンコの攻撃を上体だけでひらりとかわすと、足と腰に力をギュッと入れて、ひねるような形で拳を繰り出した。その拳はティンコのボディにめり込むと、奴の体を空までぶっ飛ばし、そして僕も一緒に宙へと跳び上がると、奴を地上へと叩きつけた。
「よし! やったか」
 だが、ティンコすぐに立ち上がると、白い歯を浮かべながら強気にこう返した。
「ユー。強いね。マジでやっちゃうヨ」
「まさか、ノーダメージなのか」
《そんなことはない。彼のことをよく観察しろ。若干、足にきている》
 見ると、たしかに奴の足腰がわずかにぶるぶる震えている。
「なるほど、ダメージは蓄積されているというわけか」
《それとおそらく彼は多少の精神的ダメージも受けるはずだ》
「どういうことだ?」
《さらによく彼を見るんだ》
 そう言われてティンコをじっくりと観察すると、奴はいきなり項垂れた。
 どうやらドゥテイパンチと同時にドピュと僕のアソコから出された火照った白濁液が、奴の衣服についたらしい。あれは洗濯しても、染みがわりと残るんだよな。
「そうか。あれが火属性という意味だったのか……」
「ドゥテイメンめ! 許すまじ!」
「やっと、標準語で喋ったな。僕こそ、お前たちを許さないぞ」
《今なら、出せるぞ。必殺技のドゥテイかめはめアソコからビームだ!》
「ちょっと待て。それは色々とパクリすぎだろ!」
《かめはもちろん、亀頭のかめ!》
「いや、その解釈はやはり色々とまずいぞ!」
《はめはもちろん、ハメまくりのはめ!》
「というかカメハメ大王に怒られても知らないぞ!」
《そして、目からビームではなく、アソコからビームだ!》
「さっきからノリノリだな、おい……」
 と、そんなくだらないコントを僕たちがしている間にも、ティンコは怒り心頭で我を忘れ、僕へと突進してきていた。
「どうすればいいんだ?」
《アソコを徹底的にしごいて、かー、めー、はー、めー、アソコからビームッと叫ぶんだ》
「くそう、もうどうにでもなれ!」
 僕がアソコに手を伸ばすと、全宇宙、全位相世界にいるドゥテイメンの同志たちから何だか元気が分け与えられるような感覚があった。
 仲間よ! 正義よ! そして、童貞たる純粋な妄想よ! 僕は一心不乱にシコシコ、シコシコ、シコシコと一気にアソコを刺激した。

「いくぞ! ドゥテイかめはめアソコからビームだ!」

 ティンコが一メートルまで迫ったとき――
 僕はふんどしの前垂れを上げ、その溢れるリビドーを解放した。
 直後、白熱光がアソコの先から発射された。まるでカウパー液のようにちょろりとだけ発されたそれは、チンコの顔を嬲り、次いで出された大量の白濁ビームがその体に照射されると、
「ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
 ウンコ、じゃなかったティンコは雄叫びを残して消滅した。
 僕の圧倒的な勝利だった。
「よし、やったか!」
《うむ。見事だ。さすがスーパードゥテイメン》
「スーパードゥテイメン?」
《そうだ。穏やかな心、種の絶滅の危機、強い怒りや悲しみなどを条件にして、一万と二千年の間に一度現れるかどうかという童貞の中の童貞。まさに童貞の天才たる超戦士――それが君だったのだ》
「そ、そ、そうなのか……それは喜んでいいことなのか?」
《頼む。宇宙を、いや、全位相世界で苦しむ童貞たちを救ってくれ!》
 その必死な思いがバリトン・ボイスを通じて脳内に伝わり、この地球とエロ子だけを守り抜きたいという僕の考えがぐらりと揺れた。
 と、そのときだ。
「エロ介なんでしょ?」
 背後から、やさしい声音が聞こえた。
《どうして分かった?》
 僕はきちんとエロ子にテレパシーでそう伝えた。
「だって、背格好が同じだもの。私が好きな男の子のに気づかないと思う? それに何より、エロ本のために戦ってくれた」
《そうか。それでバレたか。さすがエロ子だな》
「助けてくれたのね」
《当たり前だ。君が辛いとき、僕は必ず駆けつける。そばにいる。力になる。それが愛するってことだろ?》
「エロ介、いいえ、十和野童貞くん――今のあなたは最高にかっこいいわ」
《新品のビニ本ぐらいにはかっこいいか?》
「DVD付属の最近のエロ本くらいにかっこいいわ」
《それって男にとっては、ベリー・ベストな褒め言葉だ》
 僕は胸を張った。
 そうか。そうなのか。僕は大好きな女の子からそれだけのことを言われるような戦いを出来たというのか。傍目から見たら、変態同士のコントにしか見えないと思っていたんだけど……
「でもね。私、一つだけ、言いそびれたことがあったの」
《何だい、マイ・ハニー》
「実はね――」
 と、エロ子は少しだけ間を置くと、
「私、本当は女の子が好きなのよ」
 そして、「てへ」と舌をちょっぴり出した。
《そうか。何となく、そんな気はしたよ。結局、一発もやらせてくれなかったもんな。それにエロ本を見ている君の横顔は、何となく百合的な雰囲気が出ていた。それでも、僕のラブは変わらないのさ。何しろ、僕も――》
 同じくらい時間をかけて、僕は言葉に重みをつけた。
《この一生を童貞に捧げると、さっき決めたばかりなんだから》
「あなた、やっぱり最高にかっこいいわ」
《君も最高に可愛らしいよ》
 僕たち二人はついに抱き合った。
 けど、それ以上のことはやはり何もしなかった。
 ハリウッド映画みたく、キスぐらいしても許されるんじゃないかと思ったけど、残念なことに僕の口は大きなマスクで覆われているのだ。こんちくしょう!
《さあ、エロ子。僕たちはここでお別れだ。僕はさっきの奴らを叩きのめすために、別の位相次元へと向かわなければならない。男には――いつだって倒すべき敵、そして立ち向かわなければならないときがあるんだ。それに向こうには、僕に元気を分けてくれた仲間たちもたくさん待っている》
「なら、私もここであなたのことを待っているわ」
《地球時間で幾千年かかるか、分からないんだ》
「それでも構わない。私の魂はいつまでもエロ介のことを思っている」
《帰ってきたら、またエロ本屋を回ろうぜ》
 僕はゆっくりと背を向けた。
 そして、片手を上げて、ひらりと振った。
《エロ子。しばらくの間、グッドバイだ》
「ええ、分かったわ」
 一歩、一歩――、僕は前進した。それから、小さくなりかけているイケメン・ブサメン連合が作った空間の歪みのところまでやって来ると、
《そうそう、僕も一つだけ、君に言い忘れたことがある》
「何?」
《アブノーマルなレズビアンってひどいよな》
 僕がそう言うと、エロ子はからかうように微笑んだ。
「ロリコンの童貞よりはマシよ」
《そうか》
「そうよ」
《さようなら、マイ・ベイビ》
「ええ、マイ・ラブ」



   5 

 それからさらに幾数世紀もの時を経た、とある平面位相世界における宇宙空間――
「ついに終わるんだな。この長かった戦いが」
《ああ。君と出会ったときには、まさかこれほど長い付き合いになるとは露ほどにも思っていなかったぞ》
「たしかにね。今では信じられないよ。僕が一万年以上も童貞を貫いてきたということ……」
《君はすでに仙人の域を超え、童貞神に達したといっていい》
「ゴッド・ドゥテイメンか。そうだな。それも良い響きさ」
 僕はしこしこと右手でマスをかきながら、宇宙を駆け抜け、イケメン・ブサメン連合のいる最後の牙城――宇宙空間上にある特異点の前で静止した。
「ここからの戦いは、まさしく最終決戦だな」
《本当に一人きりでやるのだな?》
「いまや戦えるドゥテイメンは僕くらいしか残っていないだろ?」
《それもそうだな。私も肉体を失って久しい。今では、その精神を仮想平面位相に乗せ、君と通話が出来るのみだ。力になれず、本当にすまない》
「いや、いいさ。貴方がいたからこそ、僕はずっと戦えたんだ」
《それだけではあるまい》
「うん。そうだな――」
 僕は後ろを振り返った。宇宙の暗闇――
 それを彩る幾千の星々の輝きの中には、僕のいた地球の美しい煌めきもある。
 そして、地球から届く光の中には、エロ子が存在したという意味が、いや、エロ子が僕に向けて祈ってくれたという思いが、しっかりと込められているのだ。
 たとえ、もう地球上にエロ子がいなくても。
 一万年と二千年以上のときがすでに経っていたとしても。
 僕はたしかにエロ子とわずかな大切な時間を過ごすことが出来た。
 それはかけがえのない愛に満ちた日々(だと思いたい)――
「それだけで十分さ」
《行くのか。敵の本丸へ》
「ああ、イクぜ」
《む、ちょっと待てくれ。どこかからか通信が聞こえてくる》
「どういうことだ?」
《気をつけろ! 急速にこの平面位相世界へとコンタクトしてくる存在があるぞ》
「もしや新たな敵か? それとも――」
 そのとき、僕の前に別の特異点が現れた。
 そこから出てきたのは、僕とほとんど同じ格好をした、胸にだけさらしを巻いたピンク色のドゥテイメンだった。
「まだ戦える戦士が残っていたというのか?」
《私も未確認だ。おそらく、別の時間位相からやって来たのかもしれない》
 すると、そのピンクのドゥテイメンは笑みを浮かべた。
 不思議なことに、それはとても懐かしくて温かい微笑だった。
「忘れてしまったの?」
 その声音に、僕はあまりに驚いてしまい、何も返すことが出来なかった。
「あなたを一人でイカせるわけにはいかないじゃない」
「その声……まさか、エロ子なのか?」
「久しぶりね、エロ介。一万年以上ぶりかしら」
「どうして君が――」
「忘れていたの?」
「何のことだ?」
「この作品のタイトルをよく見て」
「ん? 『チェリー戦隊ドゥテイメン!!』とあるけど」
「そうよ。この作品、実は戦隊モノだったの」
「なーにーッ!」
「あなたがドゥテイレッドなのだから、わたしはさしずめショジョピンクってところね」
「何だか……とっても淫靡な響きが込められているような気がするよ」
《ちなみに私はドゥテイイエローだ。これは譲れない》
「そうか。貴方は実はカレー好きだったんだな。一万年以上も付き合ってきて、初めてその事実を知ったよ、イエロー」
《待て。それはイエローにまつわる偏見だ!》
「あと、太っていそうだわ」
「で、おっちょこちょいなんだよね」
《おいおい、君たちはイエローにどんなイメージを持っているんだ!》
 すると、ピンクことエロ子はくすりとだけ笑った。
「あと、伝えたいことがもう一つだけあるわ」
「もう一つ?」
「ええ。わたし、そろそろあなたとやってもいいわ。何だかムラムラするの!」
「何だっててててえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」
《というか、この作品の根幹を揺るがす発言だな》
 僕は一気に叫んだ後、エロ子へと向き直り、それから強大な敵の残党がいる宇宙上の特異点を指差した。
「ならば! 絶対に負けるわけにはいかない! イクぜ、相棒。そしてマイ・ラバー!!」
「ええ、イキましょう。マイ・ディア!!」
《まあ、とりあえずいいか。よし、行くぞ、チェリー戦隊ドゥテイメン!!》
 こうして僕たちは最後の戦いへと向かったのだった――





※色々と誤解されないための作中用語解説

1.メガキャノン(=キャノン砲)……日本男児の持つ志のこと。
2.G……重力加速度(もしくはその質量あたりにかかる力)。あるいはその単位。
3.エロ本……日本男児の宝物。ひとつなぎのピースと言っても良いかもしれない。
4.G・ショック……Gによってかかる負荷のこと。決して時計のブランドではない。
5.皇帝棒……中国に伝わる玉璽のこと。天子の印。御名御璽。みしるし。
6.アソコ……サムライ・スピリッツのこと。メガキャノンより広い領域を差すらしい。
7.ロリ……十八歳以上のちょっと小さな妖精さんたちのこと。
8.SM……『スナイパー&マシンガン』誌のことだと信じたい。
9.ドピュ……魂の遠吠えのこと。遠吠えをしすぎると廃人になるそうだ。
10.ふんどし……精巣にも安心。心地よい肌さわりが特徴。履くと男気もアップ!
11.八十年代アイドル……ここでは言うまでもなく「光り輝くように美しい源氏」のこと。
12.かめはめ……もちろんあちら様の原作には作中のような解釈は決してない。
13.DVD付属のエロ本……最近はBDが付いていることもあって何がなんだか。
14.レズビアン……【Lez vianca 2010~2077】(米国)歴史上の人物だ。
15.ティンコ……本作では人物名。本来は男の最大の武器のこと。類語はメガキャノンなど。
16.マスをかく……一点突破。気合いを集中させること。発展させるとマスゲームになる。





※ついでに全くと言っていいほど参照していない参考文献
 大野晋、『日本語練習帳』(岩波新書)
 筒井康隆、「郵性省」(『日本列島七曲り』所収、角川文庫)
 アレフレッド・ベスター、『虎よ、虎よ、虎よ』(ハヤカワ文庫)
 グレアム・ザイルス、「週五回のオナニーは前立腺がんの予防になる」(ビクトリアがん研究所研究報告所収)
 デュシェ=ディディエ・ジャック、『オナニズムの歴史』(白水社クセジュ)





 ここまで、このひどく阿呆な作品を読んでくださった方に心の底から感謝を――

 (了)

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