闇守護業 4《黒刃》(29/31)PDFで表示縦書き表示RDF


闇守護業 4《黒刃》
作:祐太



第五章『贖罪のために』(5)


「友里依っ」


 真は倒れたままの体勢になっている友里依まで急いで駆けつける。手足を拘束している縄を阿修羅で断ち切ると、友里依は真が倒れるほどの勢いで抱きついてきた。
「真ーっ、真ー!」
「ごめんな、ワイのせいで怖い想いさせて……」
 真の腕の中の友里依が、今まで溜め続けていた涙を堪えることなく流す。彼女を、左腕でただ抱いてやる事しかできない。
「ほんとに怖かったの、真が殺されるかと思ったらっ」
「怪我は無いか? どこか傷は……」
 首もとにスタンガンの痕が見えて、真も泣きたくなる。

「自分の心配してよっ! 傷だらけじゃない!」

「ごめんな……ごめんな」

「謝らないでよ……っ」

「でも、ワイが……ワイのせいで……」

 どんなに謝っても謝りきれない。十年前のあの日に死んでいれば。生き続けなければ。愛さなければ……。
 自分が生き続ける限り、罪はついてまわるのだと。そんな事はわかっていたはずだった。このまま存在していたら、周囲の者に迷惑が及ぶ。


 一時の感情で数多の命を奪った、そんな自分の手が、身体が、心が大嫌いで。
 己を《嫌う》などというレベルでは、許されるはずがなかったのだ、あの大罪は。己を《殺す》こと、被害者に味わわせた苦痛の数倍以上の痛みをもって《この世から消す》ことで、誰か一人でも、自分を許してくれるだろうか?

 この紅にまみれた身体を、この罪深い魂を、我が手によって《消す》ことでしか、もう手段が無いと。



 そんな暗愚な答えしか見つけられぬ、自分がやはり嫌いで――――。




「……お別れや、友里依。ワイ、もう逝かなきゃならん……」





 女の身体を突き放し、男は再び刀を抜く。この刃が最後に殺めるのは……最も多くの命を奪った使用者にして、武士の末裔。
 これで阿修羅が紅く染まるのも最後だと、そう刀に願って、詫びて。
 断罪のために、黒刃は命を絶つ!



























「真―――――っっ!!」









 止まった刃先を伝う、紅い雫。



 確かに男の腹部を目掛けた黒刃は、女の両手に掴まれて動かなくなる。左手一本で柄を握っていた真の力が負けたのは、もうそこまで余力が残っていなかったのか、それとも友里依の手を傷つけたくなかったからか。

「友里依……離して……」

「嫌っ! 手が斬れたって離さないから!!」

「なァ……これが最善なんよ……わかってくれ……」

「何が最善!? 真が死んで、それが最善だって言うの!? 私を残すのが、最善なのっ?」

「だって……こうすればもう友里依が危なくなることも無いから……」




「ふざけないでっ!!!」


 あまりの気迫に、真が怯む。初めて友里依から浴びせられた怒声……憤りの形相……見たこともなかったほどの、涙。

「私は真と一緒に居たいの! 絶対、真と生きるから! 私ワガママなのっ!!」

「友里依……ホンマに、我が儘やで……? ワイが困るがな……」

 友里依が阿修羅をより強く握って、その細い手が斬れていくのを見て、真はつい刀を落としてしまう。
 地に当たる刃の金属音、屋根を叩いて雫を垂らす雨音だけの、世界。


 友里依の潤んだ瞳は、真が本気で愛おしいと思ったその瞳は、ふっと柔らかな笑みを浮かべて。
 真を見上げながら、首に手をまわしてゆっくり抱きつく。


「ねぇ真、私ね、本当に真を愛してるの。だから、真にも、《真自身》を好きになってほしいの。私は自己中だから……真がどんなに嫌がっても、絶対、自分を大切にさせてやるから」

「なんで、なん……? なんで友里依はそこまで――――」



「見たいの、貴方の本当の笑顔を」



 それは出逢った時と未だに変わらない、愛する根拠。離れたくない理由。大好きな、目標。


「夫婦なんだから、独りで重荷を背負わないで。私、そんなに弱くない。だって、真の妻なんだもの」

 愛妻の、優しく温かい言葉。もう涙を堪えることが出来なくて、嗚咽と共に、押し殺していた心の声が漏れる。


「つ、らかった……苦しかったっ、《自分》に否定され続けて、それでしか《自分》を保てなくて。誰にも認めてもらえないモンやと思ってた……!」

「私も、支部のみんなも、真を認めてるの。気付かなかったのも、認めなかったのも、真だけ。……ね、一緒に居てくれる?」

 心が己を許すには……自分を認めるにはしばらく時間が要りそうだけれど。



「ワイもっと強くなるから。友里依を護れるくらい、強くなってみせるから。……ずっと、隣りに居るから」
「うんっ」

 雨の冷たさも、右腕の痛みももう感じなくなっていた。全身から力が抜けていく……抱きしめた友里依の体温さえ遠のいていく。



 もっと早く気付けばよかった。もう独りではないのだと。最後に友里依を強く抱いて、真は流れる雨に意識を委ねた。
 友里依は見えなかったが、気配でわかっていただろう。



 彼が、十年ぶりに本当の笑顔を取り戻せたことを――――。












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう