第六十三話「桜花の過去 〜“全て”〜」 5
「え……?」
次から、揺がいじめられることになった。
そんなことを聞いた雨音。
出る言葉は……、疑問を持ったような言葉だけだった。
「そうなの…。揺ちゃんはいじめられることになったの。
“なんでいじめて、いじめられていたのに友達になったのか”。それは今から話すわね…」
あの子は…桜花は――。とりまきは居たけど、友達は1人も居なかったのよ。
勿論本人はそんなこと気にしてなかった。
夫の転勤が多くてね、
「友達、作ったってどうしようもないやろ」
なんてこと言ってた。
でも……それは今までのこと。石火山小学校にはしばらく居たの。卒業するくらいまでね…。
だけどそれは…。
このときこそ、転勤が必要だった時だったの。
「……(靴がない)」
「よォ倉本。靴見つけたいんならおとなしくせぇや」
「…」
そんな脅しの言葉をも無視して、揺ちゃんは理科室まで向かった。理科室になくなった揺ちゃんの靴、あったの。
そのことには……桜花は吃驚したみたいだけど、今思えば『凄い』らしいの。
揺ちゃんに対してのいじめは一週間続いた。
一週間も続いたと言うのに、揺ちゃんはなんとも思ってもなかった。無感情で、いじめなんて大したことないって顔をしていたようでね……。
だけどとある日…。
「たぁっ!! 何すんねんっ!!」
「お前もう二度と学校来るなよ!」
「そうだそうだ!!」
何があったか知らないけれども……突然桜花がいじめられることになってしまった。
そのいじめをしていたいじめっ子たちは…
「倉本。アンタ香咲にいじめられてて腹たってない?」
「あたしたちと一緒に仕返ししよーよ!」
揺ちゃんを、『桜花をいじめないか』って、誘ったみたいなの。だけど揺ちゃんは…
「別に…」
って、断ったのよ。
その時いじめっ子はなんで、って聞いた。揺ちゃんの答えは…小四とは思えないくらい大人な答えだった。
「“今までいじめられてたから”って、いじめをやり返すのはどうかと思うけど? 大体、いじめでいじめられてたことをやり返すなんて、“仕返し”になんてならない」
って……。
その言葉には私も感動したわ。
揺ちゃんは本当に大人だった。今も昔も変わらない大人――。
それでね。揺ちゃんは、いじめをすると言うか、桜花を助けてあげていた。
「……っ…うっ……うぅ…」
1人、裏庭で桜花は泣いていた。そんな時…。
「大丈夫か?」
「……っ…倉本…っ……。最悪なとこ見られてもうたな…。アンタには関係ないねん…」
「………」
「っ………うぅっ…ふっ……」
「…関係、あるよ。分かるよ、その気持ち」
「……なんなん。今まで一緒じゃなかった奴にいじめられるのと、一緒だった奴にいじめられるのとじゃ…違うんや。アンタには関係ない。この場から消えてくれへんか…」
桜花にそういわれても、揺ちゃんはその場から消えようとはしなかった。
消えると言うどころか、消えようとはしなかったわ。
「…アンタと、アタシ。友達になろう」
「……嫌や」
「なんで」
「どうせまたいじめられるんや。今までもそうやったから」
「………」
そんな会話が、雨の中数十分続いた。
「………」
「………」
「「いい加減にしろっ!! ……」
途中、そうハモったみたいでね。二人とも大笑いしてたわ。
「「ぷっ……アハハハハ!!!」」
こんな感じに……。
これを話してくれた時の桜花は本当楽しそうだったわ。
本当に…。
「お前、結構面白いんやね」
「アンタもな」
「ウチら。心開きあえるんと違う?」
「だから。さっきから言ってるじゃん」
「ハハッ。そやね。これから宜しゅうしたってな」
「おう」
これがきっかけで桜花と揺ちゃんは、友達になったの。
本当楽しそうでしょう??
桜花は通うのが嫌だった学校に、楽しそうにいくようになった。
私はこのことは揺ちゃんに感謝しなきゃね、って、思ったわ。
三年後、桜花と揺ちゃんは同じ中学に入れた。そして同じクラスになった。
一部のいじめ集団は別のクラスへ。一部のいじめは別の学校へ。
お陰で桜花と揺ちゃんはいじめに会わずに済んだの。
そして………三年後、丁度十ヶ月前のことね。中学を卒業し、高校へ入学した。
最悪のこと、揺ちゃんは別の高校だった。
桜花は、雨音ちゃんが通ってる“虹ノ空色学園 高等部”に入学った。
「あたし……揺のこと忘れないからね!!」
「アタシだって…桜花のこと忘れないから」
桜花は、この頃関西弁ではなかった。中三三学期、あることがきっかけで、やめたらしいの。
そのあることって、『新しい自分になる為』なのよ。
「また、会える時が来るんだからね…揺」
「以上が……桜花の過去。ごめんなさいね、昔話に付き合ってもらえて」
桜花のことを思い出したのか、桜花の母、桜羅は瞳から流れている雫をハンカチで吹きながら言った。
「いえ…いいんです……(知らなかった。そんなことがあったなんて)あ、あのっ」
まだ聞きたいことがあったのか、雨音は勇気を出して声を出してみた。
『何かしら』。優しく桜羅は言った。
「その…“いじめられていた子”って、誰…なんですか?」
「ああ……。そうね、雨音ちゃん。貴方に言っておいたほうがいいわね。『いじめられていた子』のこと…」
雨音はゴクリ…と生唾を飲み込む。
「いじめられていた子は……――雨音ちゃん。貴方よ」
「――…………え…――………?」
一瞬、雨音の中の時間が止まった。桜羅はそんなことには気付かず、話しをそのまま勧めて言った。
「“いじめられてる気持ちは分かるから”。それが理由で、桜花は雨音ちゃんと友達になるって、決心したんですって。
そして桜花は言っていたわ。“揺ちゃんにあえてよかった。雨音ちゃんに会えてよかった”って……。最後の力を…振絞って言った……」
「……最後の…力を…振絞……った…?」
「そうよ。そう言って、桜花は息を引き取ってしまったの」
「………っっ!!!!」
「ごめんなさいね。暗い話しちゃって。しかも長々と…。聞いてくれてありがとう。じゃあ雨音ちゃん、また会いましょう」
「……はい…。あり…がとうござい…ました…」 |