第五十八話「“これは私の意志なんかじゃない”」 5
雨音は、行きたくないが仕方なく、放課後、都子たちと一緒にアクセサリーショップまで行くことになってしまった。
行きたくない理由――。
別に、「お金がない」だとか、「おしゃれに興味がない」とかではない。
雨音は夜バイトをしていて、そのお金は生活に必要なものくらいしか買わない。だからまだまだそのバイト代はアクセを何個か買える程あった。
「おしゃれに興味がない」。
と言うわけでもない。雨音が学校で何故地味にしているかといえば、簡単だ。
目立つと。いじめが広がる。
ただ、それだけの理由で、大好きなおしゃれもあまり出来てないとのことだった。
『行きたくない。断りたい。
だけど、断ったら?
断ったら、無理矢理連れてかれる、か。またいじめの日々に逆戻りだよね。
だけど、断らないで、行ったら?
もうやり戻しは出来なくなる、きかなくなる。
だけど、断らないで、行って、買ったら?
お金、使ってしまうよね。アクセって小さくても一つ千円とかするもの……。それに、買ったら私……お金無くなっちゃう。
だけど、断らないで、行って、買って、もし身につけて学校行ったら?
倉本さんに、嫌われちゃうよね……。こんなチャラチャラした子、好きじゃなさそうだし』。
事実。雨音は確実に迷っていた。
『断る』か、『断らない』か。『行く』か、『行かない』か。『買う』か、『買わない』か。
色々と、悩み、迷っていた。
しかし、迷っているうちに気付けばアクセショップの目の前だった。
「あ、やばーい。あたしお小遣いなかったんだっ…」
今更になって、都子がそんなことを言ってきた。その声は雨音と他の四人にしか聞こえない程の小声。
勿論、皆「えー?」となっている。
『どうすんの。都子』、と亜木。
『あたしごめんだけどおごれないよ』、と麻子。
『あたしも麻子と同じ。自分の分しか持ってきてないの…』、と由利。
『本当、どうするー?』、と実依。
雨音は何も言い返せなかった。
お金のこと――皆と同じく、持っているのは自分の分だけ。
それに、学校帰りにやってきたのだから、そこまで持っていなかった。
都子ただ一人アクセを買えないと言うこと。
雨音はどうでもいいとおもったが、もし『お金貸して』など言われたら、断ろうにも断れなかった。
「ふっふっふ。大丈夫よー」
平気だと言う顔をし始めた。
「万引きするから」
都子が“万引き”と言う言葉を出した瞬間、雨音を含む皆が驚いた。
その声はさっきと同じ小声で、まわりの者には聞こえていない。
「万引きー?」
「そうよ。万引き。みんなもやんない?」
「「「「やる!!」」」」
雨音以外の者が賛成してしまった。雨音の意見は勿論完全無視だ。
と、言うより雨音は何も言えなかった。
そんな勇気もなく。そんな自身もなく。あるのは“恐怖”だけ。
「で、どうすんの?」
「しっ! まず、自分の身体でほしいものを隠して。まわりに誰か見てないことを確認する」
「うんうん」
都子は当たり前の様に万引きの説明をし始めた。さっきより小声で、だ。
雨音は、何も言えずに、ただ黙ってみてるだけだった。
「そして……。あたし事前に鞄のチャックあけておいたから…。そこに向かって…」
さっ…。
「こうやってね…」
およそ一分くらいで終わったであろう、都子の万引きのやり方。
皆「へー、なるほど」と言う顔で見ていた。
止める者は誰一人居なく……。
最悪のこと。この場所は人が少なかった上に、都子のほしいものが置いてあった。
防犯カメラは勿論設置してあるのだろうが……かなり最悪なことに、都子たちの姿が映らなかった。
“カメラが都子たちをうつさない”と言うより、“都子たちがカメラに自分の姿をうつさない”様になっていると言うべき。
「みんなもやったらー?」
「「「「うん!」」」」
万引きするのが当たり前――。
そんな平気な顔で、都子に続き、亜木、麻子、由利、実依の順番で、次々と万引きをしていった。
残ったのはあと雨音だけだった。
「どーぉ? 水音さん、あんたもやるんでしょ」
と都子。
「やらなきゃまた地獄日々だからね」
と実依。
「っ……(地獄の日々は嫌だけど…万引きするのだって嫌!!)あ…あの…私………」
「買わないつもりね。てかこれ“倉本さん”がつけてたアクセじゃない」
と都子。
「倉本さんの真似してみれば? ついでに髪型もねー」
と亜木。
「髪型はもともと似てるけど、完全一緒じゃないでしょ。あ、色はかえなくていいんじゃない?」
と麻子。
「倉本さんの真似すれば、水音さん、もっと友達出来るかもね」
と実依。
“あこがれなんでしょ?”。同時に皆にそういわれた雨音。
勿論全ての者意見が違うが、ほぼ同じだった。
だけど友達はほしい。
だけどまねをするのはよくないし、したくもない。
だけど、それで友達が増えるっていうなら…。
雨音の中に居る二人の雨音が言い合いをし始めそうだった。
その前に雨音“自身”がそう言った。
「あの…私、倉本さんの真似する!」
「そう。じゃあこれ、買えば? 他のアクセもここにあるみたいだけど、水音さん、ぼちぼち買えばいいじゃない」
「ていうか都子の言ってたあのアクセも倉本さんと同じのなんでしょー?」
「そうよ。あたしみたもん」
雨音は、これもいじめなんだろうと、薄々感付いてきた。
だけど、ついていかなければ、もっと酷い目にあってしまう。
こんなとき、またまた出てしまう“あのクセ”。
『これは、私の意志なんかじゃない』――。 |