第五十六話「“これは私の意志なんかじゃない”」 3
「きゃぁっ!! やめてっ!!」
今日から、聖華がいじめられることになった。そうする様、皆に命令したのは雨音と都子。
このことを雨音は、『私の意志なんかじゃない』と言い聞かせてやっている。
どうも……雨音は『私の意志なんかじゃない』と言うことが、クセになっている様だ。
そのことは勿論誰も気付いてない。
何故聖華がいじめられることになったかと言うと――。
昨日、聖華は雨音の“あの言葉”を聞いてしまった。
聖華は勿論、怒り切れた。
現在、この公園には雨音、聖華、可南子の三人が居る。
「何よっ!! 水音のクセにっっ!!!!」
パァン!!
「聖華お嬢様! 落ち着いてください!!」
「可南子は黙ってて!! さっさと帰りなさいよ!!」
「いいえ!! 私可南子は……代々“水綺羅”の使いとしていた“阪坂”として、今の貴方の命令を訊くことは出来ません!!」
可南子のその言葉にカァッと怒り狂った聖華。
暴言かの様にこう言った。
「『代々“水綺羅”の使いとしていた“阪坂”として』、ですって!? だったら尚更!! あたしの命令聞きなさいよ!!! 帰って!! 今すぐここから消えて!! 早く家に戻りなさいっっっ!!!!!!!」
「聖華お嬢様っ……」
「早くっ!!!!」
ギン!! と鋭い目付きで、聖華は可南子を睨んだ。
「…はい。申し訳ありませんでした。大変失礼しました」
そう言うと、学校の駐車場まで向かった。そこには可南子が乗ってきた車があるからだ。
雨音と聖華。二人っきりになり、気まずい空気になる。
「まあ、あんたが言ってることのほうが正しいかもね。あたしとあんた、友達なわけないでしょ。でもね!! あたしを誰だと思っているの!? あたしは水綺羅のたった一人のご令嬢! その上イジメリーダー都子の友達!! あんたみたいなカスがあたしに勝てるわけないでしょ?」
「そうだね。でも私だって、貴方に勝つことは出来るわ」
その言葉は聖華をグっと黙らせた。
「何よ。言って見なさいよ!!」
「いいわ。言ってあげる。昨日、貴方の言う“イジメリーダー都子”が、あんたのことなんて言ってたか、知ってる?」
「えっ……?」
「『あんな奴と友達になるんじゃなかった』。『何時も人を見下したかの様にウザい』。『消えてなくなれ』って、私に直接言ってきたのよ」
『私に直接言ってきた』。その部分だけ強調して雨音は言った。
「……によ。都子があたしにそんなこと言うわけない!! 嘘もたいがいになさい!!」
「嘘じゃない。そう思うなら本人に聞いてみたらいいんじゃない?」
「……っ」
雨音に言われたとおり、都子にそのことを聞きに言った聖華。
聖華は一年一組の教室をあけた瞬間……。
「都子!! 聞きたいことが…」
ヒュッ!!
「………なに、コレ…」
「あーら、クズお嬢様のお帰りよ」
「なっ…」
「ほら、言ったでしょ」
聖華のあとを追いかけていた雨音は言った。
「!! 水音!!」
『あれ。もしかして水音さんあのこと言っちゃった?』。
にっこり不気味な笑い顔で都子は言う。雨音はコクリと首を縦に振った。
涙交じりの瞳で聖華は都子を見上げる。
すると、その都子の口からは、こんな言葉が出て来たのだった。
「あんたと友達? ハッ、笑わせないでよ!! やっぱり倉本さんをいじめるのはどうもしっくりこないわ!! 今日からあんたをどっぷりたっぷりいじめてあげる!!」
「……あ…嘘…………」
「嘘に決まってる。あんたと友達なんて嘘に決まってるわ!! キャハハハハ!! 皆!! 今日からこの腐ったお嬢様をいじめてあげましょう!! 名づけてコイツは“地獄のお嬢様”よ!!」
「いいねそれ!!! あたし賛成!!」
「あたしも!!」
「わたしも!!」
「うちも!!」
「やるやる!!!」
「前々から思ってたのよ!! コイツ凄い生意気って!!」
「「「「「キャハハハハ!!!」」」」」
――と、言うことがあった。
かなり多くの者が聖華をいじめるということに賛成し、かなりの者が聖華を裏切った。
変わりに、揺は短かったがこのいじめからなんとか解放された。
今は……、仲が悪いと言うか、いじめられていた雨音と、雨音をいじめていた都子は、“いじめ”が嘘の様に仲良く聖華をいじめていると言うこと。
このことによって、雨音をジロジロと嫌な目線で見る者も居なくなり。
雨音の下駄箱に押しピンを入れたり、机を汚したり、雨音がトイレに居る間上から水が入ったバケツを投げられることも、校門で水をぶっ掛けられた後に、悪口を言われたりすることがなくなった。
逆に、このことによって、雨音と揺の友情にヒビが入り、距離が出来てしまった。
つまり、雨音と揺。今までの友情関係が嘘の様になくなってしまったということ。
そして雨音は、今まで桜花が学校に居ないということも、気付けばどうでもよくなっていた。 |