第五十四話「“これは私の意志なんかじゃない”」 1
「…………」
――大丈夫、かな……。私、変な目で見られてない、よね??
怖い。いじめはなくなったって、古河さんから連絡あったけど。
そう。
昨日、『あの話』のあと、私と古河さんは連絡先を教えあった。
でも……だけど…――。
「っ…」
――ごめんね、倉本さん。私には…何も出来ない――。
雨音はただただ心の中で謝り続けていた。
『ごめんね。倉本さん。ごめんね、ごめんね』。と。
だけど、直接揺に言うことは出来なかった。
理由は、都子たちに脅されてると言う、雨音も、雨音以外の者を怖がりそうな条件があったから。
ヒュンっっ!! ばっ!!
「!?」
ぼーっとしていると、突然雨音の頭目掛けて腐った生卵が飛んできた。
「ばーかばーか!!」
「裏切り者!!」
「最悪!!」
生卵を投げたかと思われる女子生徒三人は、雨音にそういい捨てると、その場を去った。
雨音は……。
思い出していた。水か何かをぶっかけられた時、同じようなことがあった。
だがしかし、水をぶっかけた者と、さっき腐った生卵を投げた人物は違うものだった。
それでも雨音は油断できない。
「あら、水音さんじゃないっっ!!」
ビクッ!!
雨音は都子の声が聞こえたと同時に体中に寒気を感じ、身体を揺らす。
都子はそんなこと無視して、雨音に近付く。
「遅い登校ね。まあいいわ。
あのさ、今から倉本を教室で水責めしようって話になったんだけど」
「っっ!! え…」
「勿論水音さんもやるわよね…?」
「そ……そんな…水責めって………」
出来るわけないじゃない。
そう言うことを予言するかの様に、都子はニヤリと笑い、雨音に近付く。
そして耳元でこう言った。
「あんたもやんなきゃ、またあの地獄の日々に逆戻りにするから」
耳元から離れ、再びこういう。
「どぉ? いやでしょ?? 地獄日々に戻ること」
「っ!! そ……それは…」
――どうしよう……どうしよう…。したくない。水責め、したくない……。
だけど……。
したくない。したくないよ。嫌。倉本さんを水責めすることなんて嫌っ!!
また地獄の日々に戻るのも嫌!!!
私、どうすればいい??
それに、最近、桜花ちゃんも町で見かけないし、学校にも来てない……。
前に携帯に電話してみたけど、その時は『この電話番号は現在使われておりません』って聞こえたし……。
桜花ちゃんに何があったのかな…。
桜花ちゃんも全然見かけないし、連絡とれない。
倉本さんと喧嘩しちゃって、友情の縁も切れて……。
困ったな…――。
「いいのよ。困っても。あ、言い忘れてたけど飛び込み参加もOKよ♪ やりたくなったらいつでも来てね。水音さんっ」
“水音さん”。その部分だけ強調して言った都子。
捨て台詞を言うと、都子は校舎へと向かう。
「待って! 古河さん」
「なぁにぃ?」
わざとらしい口調で返事をした。
「私、やるっっっ。水責め……するよっ…」
「……あら嬉しい! それじゃ早く集合ねwwじゃあたし先行くから!!」
水責め決定になってしまった雨音。
本当はこんなことしたくない。
それは雨音自身も分かっていることだが、あんな地獄の日々に逆戻りになってしまうのは、嫌だった。
揺が地獄の日々を送る事になるのも嫌だが、雨音にとってこれは仕方のないことだった。
そして、
『これは私の意志なんかじゃない』。
自分のそう言い聞かせていた。
一年一組 教室。
ザパァ!!!!!!!!!
教室中に響く、水の音。+、下品な大きな笑い声。
その場には雨音も居た。
雨音は耳を塞ぎたいところだが、自分もやっている為、耳を塞ぐことは出来なかった。
「っっっ!!」
「ちょっと、何コイツ。全然手ごたえないじゃない!! どうすんのォ? 都子ぉ、聖華ぁ」
奈種 実依は、本来三組だが、『倉本を水責めする』と言う情報を、都子から聞いた為一年一組に居ると言うわけだ。
実依と仲の良い由利も居る。
由利も楽しんでいる。
いや、それだけではない………。クラス中の者皆楽しんでいる。楽しんでいないのは雨音だけだった。
「ちょっとあたしに貸してみなよ」
と聖華。聖華は実依の持っていた水の入っているバケツを手にする。
「これだけじゃぁダメよ」
ニヤリと不気味な笑いをたてながら、聖華は右手に袋を持つ。
その中は、どろどろとした茶色い物が見える。そして少しゴツゴツとしているではないか。
「やだ。まさか聖華入れる気ィ?」
由利は言う。
「ふふ。このくらいじゃないとダメなのよ」
その袋を開け、中身をバケツへと入れる。
雨音はそれを見た時、少々飛んでいた意識はハッと戻る。
何が起こるのか察知した雨音。
「さあこれで終わりよ!!!!」
袋に入った物がバケツに入ると、そのバケツを揺に向かって投げようとした聖華。
――や……水綺羅さん、泥と石入れたっっ……――
何故雨音がそんなこと知っているのか。と聞かれれば簡単だ。
実は雨音。
昨日、聖華が川原で何かしているのを発見し、
『何してるの?』
と聖華に訪ねると、
『ああ。これ? 水責めの準備よ』
と答えたので、雨音は気になり更に聞き出す。
『水責め?』
『やだ。まさか水音さん知らないの?
一人の人物をね、皆で水で攻めるのよ。なんの水かは構わないわ。基本ただの水。
だけどただの水じゃつまらないでしょう?? だから泥と石を入れて投げつけるの!』
『へぇ…』
と、言うわけだった。
そのことを思い出した雨音は再びハッとし
――アレ………“これ”のことだったんだっっ――!
「さ、終わりよ、倉本 揺!!」
――あ、……あれがあたったら、倉本さんまた入院しちゃう…。
傷は完全にふさがってないのに……。
どうしよう。どうしよう。どうしよう……っっ――
「くらいな!!」
「だめぇぇぇぇぇええええええ!!!」 |