第五話「学園祭の準備」 2
「先生……あの…私は特に何も……」
うじうじした声で雨音は言う。
期待していた人達はテンションが下がり、雨音を睨む。
その目線に雨音は怖がったが皆気付かず担任の方を向く。
「先生ぇ、水音さんの変わりにあたし、古河 都子が提案してもいいですかぁ?」
可愛子ぶる様な態度で都子は担任に尋ねる。
ちなみに一年一組の担任の名は秋原 涼 二十歳。
生徒からは「涼先生」とよく呼ばれている。「秋原先生」と呼ぶと怖いのだ。
何故なら名前の後に「先生」とつけらる方が秋原 涼は嬉しいらしい。
「じゃ、古河! お前が提案してみな! ありきたり物は却下だからな!」
興味心身に涼は都子を期待する。都子は影では雨音を目立たないようにしよう、と言う事で提案しようとしている。
雨音はなんだか気分が悪くなった。元気が無くなった雨音に揺は小声で
「水音…気にするな。誰が提案してもみんなでやることに変わりはないぞ!」
と雨音を元気付ける。雨音はその言葉に感動して「うん、そうだね」と言う。
続けて揺は「だから水音、お前がムリに提案しなくてもいいんだぞ?」と呟く。雨音は揺に励まされた気がした。
「は〜い皆静かにしろー! 一組が学園祭でやる事が決まった!! 内容は…――」
昼休み。
雨音と揺は外で二人で会話しながら弁当を食べている。
「……まさか……あんな事やるとはなぁ……」
弁当を食べながら揺がぼやく。
「古河さんって……なんだか……」
提案したのは都子だから、雨音は「趣味がなんか悪い」、と雨音は思った。それは言わないでおく。もしかしたらいじめ三人組が見てるかもしれないから。
「ねえ、アレって自分の好きな服とは正反対の服着る……んだよね、倉本さん…」
「らしいよ……」
気まずい顔と気まずい空気の中、二人は会話し続けた。まさか学園祭であんな事をやるとは思ってもいなかったから。
「えっと…学園祭ってたしか十日後だよね」
雨音が言う。続けて揺が
「ああ、十日後」
と言った。
二人は学園祭の話しかしていない。他の話もしているがあまり話さない、学園祭の事だけだ。
「そういえば水音、体育祭、なんの競技に出るんだ? アタシは100m走って、他にも色々出る」
「私…? ……期待しないほうがいいかも……。騎馬戦は出てもすぐ落ちると思うし…」
「女子は騎馬戦、ないぞ」
揺は雨音にきっぱりと言った。
きっぱりといわれた雨音は「う……」とぼやく。
たしかに“騎馬戦”に女子は出ない。男子だけ。
「倉本さん」「水音」
雨音と揺は同時に声を出す。同時に言ってしまった二人はその後だんまりになった。
「水音から言いなよ」、と揺は呟く。「じゃあ言うね」と雨音は言う。
少し間を空けて
「あ……でも別に大した事じゃないから、倉本さんから言って……」
言う事を少しもったいぶった感じだ。「水音から言えよ。アタシもくだらないことだし…」と揺ももったいぶった感じ。
何度も「水音から言え」と揺は言うのだが雨音は「倉本さんから言ってよ」との言い合い。
仕方なく揺は自分から言う事にした。
「……水音ってさ……、“学校”、楽しいと思う…?」
「え?」
「学校は楽しいか」と突然訊かれた雨音は少し驚いた。
こんなことを向こうから言われた事は雨音、一度もない。なんせ“いじめ生活”を送っているのだから。
揺がそう言ってから二人は話さなくなってしまった。
普通の学校生活を送る生徒ならば即答で「楽しい」と答えるが、雨音はいじめられているのだから答えようにもちょっと答えられない。
きっと“怖い”のだ。
「楽しくないしキライだ」なんて言ったら言われた相手は少しでも悲しむ。自分も悲しむ。
だから雨音は言えない。
揺も目線を反対に向けて黙ったまま。雨音もその逆に目線を向けて黙ったまま。お互い黙ったまま。
「水音は……さ…、アタシの事どう思ってるわけ?」
「え?!」
揺が訊いた事に雨音は驚いて手に持っていた箸を落としてしまう。
箸を落とした事に気付き雨音は「あっ」と言いながら箸を拾う。そして揺の質問に答えた。
「うん、友達として好きだよ。だって始めての友達だから」
「“初めての友達”――?」
「だって始めての友達だから」、と言う雨音の台詞を聞いた揺は少し変わった表情をする。
少しだけ揺は笑顔になった。その揺の“笑顔”を見た雨音も笑顔になる。
「アンタは、この学校に転校してきてまだあんまり経ってないんだろ?」
「そうだよ。まだ転校して四日間。てか、なんで倉本さんそんな事知ってんの!?」
「……(あ、ヤバい事言ったかな…?)勘…かな、勘」
誤魔化す様な顔で揺は雨音に「勘だよ」と言う。
勘だと言う事を知った雨音は「なんだ、勘かぁ」と言い返した。揺は少し安心した顔になる。雨音はそれに気付いてない。
「そろそろ…昼休み終わっちゃうね。教室、戻ろうか」
弁当を片付けながら雨音は呟く。
「ああ、そうだな」
と、揺も弁当を片付けながら言った。
弁当箱を片付け終わった二人は教室へ戻り、次の授業の準備をし、席に着く。
次の授業は理科だ。雨音は理科が嫌いだが揺は嫌いでも好きでもないらしい。
――ガラガラ!!
涼先生が教室へ入ってきた。
「さあ皆!! “理科”の時間!!――と言いたいとこだが変更だ! 理科から学園祭についての事になった!! ちゃ〜んと聞いておけよ! 二度言うのは御免だからな!」
大声で涼先生は生徒全員に言った。
生徒は「はぁい」と言い返す。雨音と揺も言い返していた。
「で、先生色々となやんだんだけど、一組が文化祭でやる主役が決まった!!」
涼先生はまたまた大声で言った。
「主役が決まった」――、そういうと生徒は一斉にざわざわし始める。興奮しているに違いない。
「じゃ、言うぞ……」
教室の空気は気まずくなった。雨音と揺以外が緊張している。
緊張感で雰囲気がさっきまでとは違う、一組の教室。
「主役は……――水音と倉本だ! 転校生二人組!! 期待してるぞ!!」 |