第四十九話「揺の退院」
「ほ、本当ですか?!!」
政樹が『明日退院するそうですよ』。そう言うと、雨音はソファから勢いよく立ち上がる。
同時に。暗かった顔が、みるみる明るくなってきている。
そんな雨音の顔を見た政樹は、嬉しそうににっこり笑顔で雨音を見つめた。
「そ、それで……倉本さんは今…」
「彼女は今、退院の準備中な筈ですよ。水音さん」
水音さん。君は凄い。
小声でそう付け足すと、政樹は『それじゃあ僕はこれで』、と校長室を出た。
「え……?」
「(クスッ。ただでさえ大事な友達を一人失ったと言うのに……)」
ニコニコと笑顔で廊下を歩く政樹。
そんな様子を、見ていた生徒たちが居るとは知らずに……。
勿論雨音も政樹も知らない。
雨音はそのままソファに座り込んだままで居た。
「ちょっと…。何アレ」
「ねー、都子。アイツ最悪じゃん」
「理事長にまでコビ売ってやがる」
「……っ。水音 雨音め…………!!」
“それ”を覗いていたのは、都子、亜来、麻子のいじめ三人組。
プラス、聖華も居た。
「どうするよ?」
と麻子。
「どうするもこうするも」
都子が言い
「あんな奴、罰受けて当然よ!!」
聖華が都子の言葉に付け足す。
その後、この場ではなんとも下品な笑い声で盛り上がっていた。
その頃病院は……。
ドサッ!!
「ふう、このくらいだな。準備は。もう、手術は、諦めるしかないよな……。」
退院の為に、荷物を纏めながら揺はそう言った。
退院は、明日。
明日になれば、雨音に会える。学校へ行ける。
桜花と言う友を失ってしまったが、今ここでがっくりしている暇などない。
雨音だって、桜花だって。
雨音が日々受けているいじめ。
雨音程ではないがいじめを少々受けていて、最後には死んでしまった桜花。
自分は、そんな二人より、まだまだ軽い辛さだというのに。
こんなところで負けているわけにはいかないのだ。
「さて…次は…」
コンコン。
ノックの音がし、揺は『はい』と返事をすると、扉はゆっくりと開いた。
「失礼します♪ こんにちは、揺さん」
「! ナトド」
入ってきたのは、ナトド……。名届 来守だった。
虹ノ空色病院に入院している、来守の実の兄の妹のお見舞いに来ている兄を、探す為にここへとやってきた、あの来守。
来守と会うのは久しぶりだった。
久しぶりの出会いだったのか、揺は嬉しそうになった。勿論来守も。
「退院おめでとう。揺さん」
「知ってたのか?」
「うん。君と看護士さんの話し、聞いてた。あ、立ち聞きじゃないよ」
何はともあれ退院おめでとう!!
来守はそう付け足した。
揺は『ありがとう』とお礼をする。これからも宜しくと言うことになった。
そして、しばらく来守と話をし終わると、来守は帰って行った。
会話をしている途中。
よくよく聞けば、来守は今、
兄を探すこと、会うことは諦めたらしい。
今は、新しい家族とがんばっているとのこと。
それだけではない。
今年、母親が妊娠したらしく、その子は今年の秋に生まれる。つまり来守は『お兄ちゃん』になる。
その為来守は元々一人でやっていたことから全てを頑張るそうだ。
「……これで、いいんだ。こうすれば、アタシだって自由になれる。
雨音に余計な心配かかるからな」
ぶつぶつ独り言を言いながら、揺は他の荷物を纏める。
あと一日。
あと一日耐えれば、揺は自由になれる。退院出来る。そして、学校へ戻れるのだ。
ポーン!
すると、突然揺の携帯がなった。メール着信音。
「メール?」
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From 水音雨音
件名 倉本さんへ!!
倉本さん、退院おめでとう!
私、凄く嬉しい。
明日、楽しみにしてるね。
P.S.
私、倉本さんに会えて物凄くよかったって思う。
変なこと言うかもしれないけど、
きっと私、倉本さんに会ってなかったら、
こんなに勇気は持てなかったと思う。
桜花ちゃんに会えなかったと思う。
いじめに耐え切れなかったと思う……。
そして、ちっとも成長せずに、
まだまだ子供のままでいたかもしれない。
私、倉本さんに会えて、本当によかった!!
あ、「P.S.(ついしん)」の方が
長くなってごめんね。
明日学校で!
水音
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画面びっちしにあったのは、雨音から来た長めのメール。
携帯メールでここまで長く打つのは、結構大変だ。
なのにそれを雨音は送ってきた。そのメールの内容を読み上げた揺は、クスッと鼻で笑い、返信ボタンを押した。
パタン。
返信メールを打ち終わると、揺は携帯を閉じた。
「よしっ! アタシも、色んな出会いに感謝だ!」
やがて夜がやってきて、揺は眠りに着く。
やがて、夜が明けた――。
「はい、本当に長い間有難う御座いました」
「君のご両親には、結構お世話になっていたからね。そして、君が病院に運ばれてきた時は本当に大変だった。
頭から大量の血が出ていてね。もし、治療が遅れていたら、君の命はなかっただろう……」
深刻に、真剣に、医師はそう語った。
雨音はその話しを聞き終わると、ゴクリと唾を飲み込んだ。顔色も少し青い。
「それでは、元気でな、倉本さん」
「はい。では失礼します」
そう言い、エレベーターで下の階まで行く。病院から出て、揺は自分の家へと向かった。
そして、明日へと向かう――。 |