第四十八話「激しい現実が」 4
ヒソヒソヒソ……。
コソコソ……。
ザワザワ……。
雨音が通りかかった廊下。その廊下に立っていた生徒たち。雨音が視界に入るとコソコソザワザワし始める。
慣れ。とでも言っておこうか。雨音はそんなこと気にもしてはいなかった。
ただ、感じているのは不安と緊張くらい。
あの可南子と言う人に引っ叩かれた事。
今日から屈辱的なこと、もっと残酷で悲惨なことが起こるという事。
ヒソヒソと、コソコソと、ザワザワとされていること。
そして……。
“人殺し”と呼ばれてしまった事――。
雨音は結構いっぱいいっぱいになっていた。
「ね、あれ、水音 雨音でしょ? 一年一組の」
「やぁだ〜。あの人、人殺したんでしょ? なのに捕まってないじゃん」
「しかも平然として歩いてるし?」
「直接殺したってわけじゃないけど、あれ水音の所為でもあるんだよね?」
「そうそー」
「あたし、あの子と隣の席だし…。なんか嫌〜な感じ!」
「それは不幸だったわね!」
「でももっと不幸なのは水音でしょ?」
「同感同感♪」
「ていうかさ、さっさとこの学校から出ていってくれない? 的な」
「それにも同感」
「私もそう思う。だいいち気持ち悪いよね。ああいう奴」
「ははは! うじうじしてるしねー」
「そういえば聖華と水音どうなったんだっけ?」
「そうだ! さっき校門で見たんだけど水音の奴、聖華サマに楯突いてたよ」
「うっそ! マジで?」
「でもあれでしょ。阪坂さんだっけ? 怒られてたっしょ」
「まあ阪坂さんは聖華と超仲いいし」
「あたしらにも優しいし」
「「「だけど聖華様を侮辱する奴は許さない!! アハハハハ!!」」」
三人の女子の群れの会話。
これは、校門に居た女子の群れとは違う者。一組だったら二組だったり。
クラスはバラバラ。それでも仲のいい女子たち。
雨音も、“こんな風になれたらいいな”。そう願っていた日もあった。
「ていうかさー、あいつ罰受けることにもなったんだっけ」
「あたしらも協力する?」
「うん! しよう! って、あ、水音、こっちに近づいてきてるわよ?」
「転ばす?」
「いいね。あたしが足ひっかけるよ」
「「OK!」」
だんだんとその三人組に近づく雨音。
向こうが“転ばそう”と言う事も、全く知らずに歩き続ける。
ガッ!!
女子の一人は雨音の足に自分の足を引っ掛けた。雨音は物凄い勢いと物凄い音で、転ぶ。
ズシャァアア!!
シーン……。
一度、転んだ雨音を見て、シーンと沈黙する。
が、一時そんな状況が出来ると、次は全員笑う居始める。オオウケだった。
「ぶっ!! きゃはは!! 転んでるよ?」
「何もないところで転ぶ。ちょっと天然じゃあない??」
や、
「くすくす……」
「だっさぁい」
「どんくさっっ」
他には
「ぶわはははは!! なんだあれ!」
「凄くダサくない?!」
「ゴキブリみたいにキモチワルイ!」
「ゴキブリに失礼じゃない!」
「そうだよねー!!」
等、何時もと同じ反応。
雨音は突然転んでしまった為、何がなんなのか、全く状況を理解していないと言う点もある。
他に、何時もぼーっとしているが、今日は何時も以上にぼーっとしている。
それだからもうどうでもいいというのもあったのだろう。
更には
「水音!! お前こんなところでふざけているんじゃない!!」
教頭までもが激怒だった。そしてこう付け足す。
「くそっ……。ただでさえ、お前は人が死ぬ様なことを招き、硝子を割り、その上生徒に怪我をさせたり、水綺羅さんを怒らせたりと問題を起こし続けているというのに……」
と。
その教頭の怒りの言葉に、雨音はハッと意識を取り戻し、転んだ身体を起こし、体制を元通りにした。
「あ……のっ…。私人が死ぬ様なことなんて…。それに硝子を割ったのは私じゃな…」
「黙れ!」
ビクッ!
台詞を全て言い切る前に怒鳴られる。
「今すぐ、校長室まで来なさい! それに、お前を呼んでいる!」
と、言うわけで雨音は校長室まで無理矢理連れて行かれた。
雨音と教頭がその場から姿を消すと、生徒は皆クスクスと笑っている。
そして校長室。
「何故、呼ばれてるか分かっているな?」
「……」
そんな気まずい空気の中、雨音はまだぼーっとしている様子だった。
流石にこんなところでぼーっとするのはまずい。
そうとは気付いているが、やはりぼーっとしてしまっている。雨音はゴクリと生唾を飲み込んだ。
「っ……。何故呼ばれたか分かっているのかと聞いている!」
そう怒鳴り、雨音を叩こうとした。その時。
「まあまあ。落ち着いてくださいよ」
「!」
扉からやってきたのは、この学校の理事長、渋谷 政樹だった。
24歳と言う若い年でありながら、理事長と言う凄い者でもある。
「たかが硝子を割ったくらいでしょう」
「ですがその所為で怪我人が一人出ました! それも水綺羅財閥のところの! その上人が死ぬ様なことを招いたんですよ!?」
「怪我をした者が出たことを怒っている貴方が怪我をさせてしまっては意味ないでしょう」
「…」
「それに、人が死ぬ様なことを招いたのが何故水音さんの所為になるんです? それに、彼女が死んだのは、トラックの運転手が信号を無視したからでしょう。それと水音さんの所為と、何か関係でも?」
政樹はぐっと校長を黙らせた。
失礼します。そう言い、校長は校長室から出た。校長だと言うのに。
「やあ、水音さん。大丈夫かい?」
「……」
「おや。やはり何も喋らないみたいですね。そうだ、貴方にいいお知らせがあります」
「え?」
「貴方の友達なんでしょう? 倉本さん」
「!!」
「明日、退院するそうですよ」
「………っ!」 |