第四十四話「桜花の最後」
ココアを飲み終わった揺と桜花は、勢いよく店を飛び出し、雨音を探すことにした。
揺は雨音の家に。
桜花は桜花の家に。
と向かった。
よく考えれば、雨音と揺の家は隣同士。
その事は、雨音も揺も。互いに忘れていた。
が、揺はたった今思い出した。
何故忘れたかといえば簡単なこと。この頃全く一緒に帰ってない。揺が入院したからだ。
だから忘れてしまったとの事。
揺は心の中で自分が情けないとないと思っていた。
――その頃の雨音。
雨音は今一人で大きな店に来ていた。
店の何処に居るか。
それはアクセサリー店。何かのアクセを真剣に探している雨音。
どんなアクセがいいか。もう既に決まっていることだから真剣になる。
「あっ!」
そのシルバーのアクセを見つけたのか。
雨音は声をあげた。小声で。
見つけたシルバーアクセ。そのアクセのデザインは
「星のアクセ! これ、倉本さんも持ってたんだよね」
星のキーホルダーだった。アクセではないが、アクセサリー店に売っていた。
見つけた雨音はルンルンになってレジに持っていく。
そのキーホルダーは、どうやら通学鞄につけるらしい。
理由は揺がつけていたから。
嬉しそうに星のキーホルダーを見つめる。嬉しさのあまり、雨音の頬は赤くなっていた。
そんなことも気にせずに雨音は包まれたキーホルダーを鞄の中へと入れる。
買った理由がもう一つ。それは……。
「(私だって倉本さんみたいになれば……――)友達出来るよね」
揺みたいになれば友達が出来るかもしれない。それがもう一つの理由。
ぼやきながら雨音は家に帰った。
雨音の家の前。
「くそっ…。雨音、居ないのか?!」
揺が雨音の家の前に居た。
しかし居なかった。姿もなかった。揺の家の中にも居なかったらしい。
あたりをキョロキョロと見回すが影すらもなかった。
焦っていた揺。
焦っていたその瞬間……。
プルルル。
揺の携帯の着信音がなる。
もしかしたら雨音かもしれないと思い揺はバッグから携帯を取り出し、携帯を開く。
携帯の画面に映っていた文字。
『桜花』
電話をかけたのは桜花だった。
「(桜花……。もしかしたら雨音が見つかったのかもしれない)もしもし? 桜花?」
早速喋る揺。
が、しかし電話相手の桜花の声は全然聞こえない。
揺は再び『もしもし』と言う。
それでも声はしない。
流石に苛々してきた揺は大声でこう言った。
「もしもし!? 桜花なんだろ?! ちゃんと喋れよ!」
と、怒鳴り声の様に。
「……よ…う………?」
「! 桜花?」
不思議そうに桜花の名前を呼ぶ揺。
電話の向こう側の桜花。
いつもの明るい声じゃなかったことに、揺は驚いた。
その声は、物凄く苦しそうで、息がゼェハァとなっていることが、よく分かる。
明るかった揺の顔。どんどん青ざめてきた。
「お、桜花!? 何があったんだ!?」
「ごめ……揺…。あ、たし………」
「……?(なんだろう…、物凄く……気まずい感じがする……)」
「あたし………。とにかく…お願い………。理由は聞かずに…びょう、いんに…き、て………」
「! わ、わかった! 今すぐ行く!」
ピッ。
電話を終了させるボタンを押し、揺は携帯を閉じバッグに戻す。次は走り出した。
青ざめた顔。汗だらけになっている顔。
揺は、現在がかなり気まずい状況だと感じて来た。
何がなんだかよくわからないが、とにかく最悪な事態が起こるかの様に。
「……れ? 倉本さんだ。どうしたんだろ」
タイミングが悪いことに雨音はたった今、家に帰ってきた様子。
走り出した揺の姿を見ながら揺は家の中に入った。
最悪なことになる。ということを知らずに……――。
虹ノ空色病院。
「桜花!」
物凄い勢いで揺は桜花の居る部屋(個室)の扉をあける。
「よ…う……」
苦しそうな声。必死に喋る桜花。気まずい空気……。
雅に絶体絶命的な光景だった。揺の視界に入った桜花の姿は。
「ごめ……。あたし、事故にあって…」
頭、手、足に包帯を巻いている。そして苦しそうな桜花。
それが、揺の視界に入った桜花の今の姿だった。
見た瞬間、揺は当然驚く。驚くことしか出来ない今。
何を言えばいいのか、よく分からない。この状況で今、何を言えばいいのか。何をどう喋ればいいのか……。
揺はかなり焦る。焦るばかり。
焦っていて、青ざめた揺の顔を見た桜花は喋りだす。
「あたし……、水音さんを探している途中………なんだ…けど……」
「!」
「猫、助けたの。大型トラックに轢かれそうな猫を。あたし、ほっとけなくて…。反射的に身体が勝手に動いちゃったんだ………」
事故の内容を必死に話す桜花。
「医者…に……言われた、んだ、けど………。もうこの怪我じゃ…命は……ない……って…」
「――! な、何を言ってるんだ! アタシは……桜花に死んでほしくない!」
「あたし…だって……。死にたく、ないよ…? だけど、死ぬしかないんだよ。今は……。ごめん……。だけどこれだけはわかって?? 揺は……あたしの…一番の………しん…ゆう……――」
そういい終わると、桜花は目を閉じ、そのまま意識を失った。
揺が握っている桜花の手。どんどんと冷たくなってゆく。涙が出そうな揺。必死に涙をこらえた。冷たくなった桜花の手。
もう、桜花は……この世界から、消え去ってしまった。
「…ごめん……桜花…。ごめん……。アタシが病院から出なければ……きっと……きっと………。今までありがとうな…桜花……。ゆっくり、休めよ…桜花………」 |