第四話「学園祭の準備」 1
「……倉本さん!?」
家の前の夜道、雨音は大声で言う。その声に揺は少し驚く。
そして後ろを向き、こう言う。
「何? 水音」
さっき揺は、雨音の事を「雨音」で呼んでいた。なのに今は「水音」で呼んでいる。
今、苗字で呼ばれた雨音は反応し、「……(なんだ…空耳かぁ…)」と思った。「自分なんかが名前で呼ばれる筈ない」、とでも思っているのだろう。
だが少々雨音はショックを受けている。「空耳じゃなくて現実がよかった…」等思っているが口に出さないよう、我慢をする。
「「それじゃまた明日……あ」」
二人は同時に言った。同時に言ってしまったので「くすくす」とお互い笑っている。
いつも笑わない雨音も、笑わない感じに見える揺も、二人して笑っていた。
少し間を空け、雨音が揺に「あ、そうだ倉本さん、明日は……虹ノ空色学園、盛り上がるよ……。特に――高等部は…ね」と言い、家の中に雨音は入った。その台詞を聞いた揺は不思議そうにぼーっとしてしまう。ぼーっとしてる事に「はっ…」と気付き、揺も家の中にさっさと入って行った。
――翌日。
雨音と揺は同時に外に出る。二人とも「あっ」と声をあげる。その「あっ」に続けて雨音が
「倉本さんおはよう」
と揺に挨拶。揺も「おはよう」と挨拶し返す。二人共笑顔で挨拶をしている。
「あぁ、そうだ水音。アタシさ、学校までの道、覚えてないから一緒に行こうぜー」
学校までの道を覚えてない――という理由で揺は雨音と一緒に学校へ行く事にした。のだが雨音の反応は
「え…? 一緒に行くの? ……“一緒に”…?」
少し不自然な顔で答えた。きっと何か気にしている事があるのだ。なんせ雨音は長年の“いじめられっ子”な挙句最近その“いじめ”がエスカレートしているのだから。
その雨音の様子を見た揺は「アタシと居ると何か不安? 昨日約束したじゃん?」と雨音に訊く。雨音の答えは
「いやっ……別に嫌ってわけじゃないんだ……けど……」
「けど?」
「――……め……。“いじめ”の人達の目線が気になって……。それに最近 倉本さんと居るからその“いじめ”がエスカレートしてて……。なんだか怖いの……」
雨音ははっきりと答える。
普通、同級生が雨音にこういわれると即縁を切る筈。だが揺は
「それって――アタシのせいって意味?」
「えっ!? ちが……」
「ふ〜ん、違うんだ。じゃ、別にいてもいいよ。そのかわり、アタシがアンタを守ってあげるよ! イジメからな!」
明るい声で揺は雨音に“守る”と告げる。
“守る”といわれただけで顔が赤くなり、嬉しくなる雨音。
「もう気にしなくてもいいんだ…」と思い、揺と会話しながら通学路を歩く。だが……その後ろから嫌な目線が……。
「あーあまた水音かよ! てか家隣ってトコが」
都子の台詞に続けて
「生意気!!」
と空来が言う。「なんかさぁ、水音ってかわいこぶってるように見えるよねー」と麻子が遠く離れた場所に居る雨音を指差しながら呟く。その「かわいこっぶてるように見えるよねー」と言う言葉に都子と空来は同感した。
その三人はもう雨音を後回しにしてさっさと学校へ行く。きっと何か仕掛けるに違いない。
「(フフ……水音 雨音……倉本さんと仲良くしてる事、後悔させてやるっ!! 何故ならあんたの下駄箱に昨日サイクしたんだもの!!)」
都子は悪知恵を考えながら通学路を空来と麻子を後ろに並ばせ歩く。
廻りの目線も遠慮のない変な目線で集っている。この三人に。
――そして学校。
雨音と揺は下駄箱前で靴から上履に履き替えていた。
まだ後ろに雨音をいじめる都子、空来、麻子は居ない。だが雨音は少し廻りをキョロキョロ見回してた。
「――あの三人、気になるのか…?」
揺が雨音に訊く。雨音は「うん」と小声で答える。きっと何処かで見ているに違いない。
下駄箱に――雨音の下駄箱に“アルモノ”を入れたのだから。そして雨音が下駄箱をあけたその時……
――バラバラバラ!!!!!!
「きゃっ……」
押しピンが雨音の足元に一斉に落ちてきた。
雨音はかなり驚いている。揺も驚いている。
それどころか雨音の廻りに居た生徒も驚いている。すると同じクラスの何人かの女子が
「おい水音!!!」
「下駄箱に押しピン入れるなんてありえない!!」
「いい加減にしてよねー」
「メーワクなんだけど! 実際!!」
「押しピン入れといて怪我して皆を心配させようって気?」
「そんなで水音に注目いったら世界中のいじめられっ子がしてるわよ」
「同感〜」
「そうそう!!」
「倉本さんと仲良くしてるからよ〜」
続いて別のクラスの人達が
「あれ? あの子一年一組の水音 雨音じゃない?」
「ああ、あのいじめらっ子の」
「んでもってドンくさいヤツ」
「何やらかしてるのかしらねー」
「一組のほかの子がいってる通り、注目集めたいだけのかしら?」「無理無理!」
等と心配の言葉でなく攻めの言葉。揺が転校してきた時みたいに言う。
最後にそ雨音に攻めの言葉を言った女子達は雨音をバカにしたみたいに同時に大声で笑った。
攻められた挙句、笑われた雨音は顔が赤くなっている。“恥”が残った。
その雨音をバカにする言葉を次々と口にだす者の中、ただ一人静まっていた。その黙っている者が
「お前等いい加減にしろよ!!! ンな事して、恥かしくないのか!? ダサいな!」
そう言ったのは揺だった。揺が怒鳴っただけで雨音をバカにしてた者は静まる。だが少し驚いている様子。
「……(あれ…この台詞……前に何処かで………。何処……だったっけ……。遠い過去…)」
揺に怒鳴られた生徒達は何も言わずに自分のクラスの教室へ去ってゆく。なんとか助かった雨音は揺にお礼を言う。揺は「別にいいよ」と返す。最後に小声で揺は「約束したからな」と呟いた。
もうそろそろチャイムの音が鳴る。時計を見た二人もさっさと教室へ向かって行く。
――1年一組 教室。
もう全員席へ着いて授業は始まってもいい状況だ。だが担任は授業を始めようとしない。
他のクラスも始まった様に見えない。きっと何か全校で重要な事があるに違いない。
「バン!!」と机に手を置く。そうすると担任は喋りだす。
「皆! 明日は何の日か知ってるか!?」
と大声で生徒に訊く。生徒達は「なんだろ?」と言う表情しか出していない。
それを目にした担任は「はぁ…」と溜息をつき説明し出す。
「明日は“学園祭”の日! ああ、虹ノ空色学園は体育祭と文化祭混ざって三日四日はあるからな。張り切っていけよ〜。言っとくが高等部だけな。
初頭部と中等部は別の日。高等部だけだから男子も一緒と言う事、忘れずに」
担任が説明した事は「学園祭」のお知らせだった。「学園祭がある」と言う事でクラスは盛り上がる。雨音と揺はあまり盛り上がってない。
「学園…際かぁ……楽しみだなぁ…」
さっきまで暗い筈だった雨音はぼやく。揺は興味がサラサラないので読書に入る。
少し間を空け、雨音が「倉本さんは学園祭とか好き?」と揺に訊く。揺は答えた。
「……別に……むしろ…キライかな」
「え?! なんで?! まあ…私も一部嫌いだけど……」
「なんかさ……体育祭で点を争って喜んだり悲しんだりしてるのとか文化祭での仮装パーティーとか……――なんだかバカバカしいんだよね…学園祭って」
揺は冷静に本を読みながら答える。それを聞いた雨音は何故だか感動して黙ったままになってしまう。
担任はそんな二人に気付かずテキパキ全員に学園祭のプリントを渡し、学園祭の説明をし始める。クラスは結構テンションがあがっている。
サラサラ興味が無い揺は聞いてないし、“いじめ”があるから面白くないと感じる雨音も聞いてない。二人だけテンションは低い。なのでコソコソ二人で会話している。
その二人に担任は全く気付いていなかった。あの雨音をいじめてる三人も気付かず話しを訊いている。
というか二人の声は小声な挙句廻りはハイテンションでうるさいからバレてないだけ。二人はこの大声等を利用して会話しているのだろう。
「――ま、学園祭でやる内容はもう殆ど話したな。次にやるのは“文化祭”での一組がやる事、決めなきゃな!」
話しを全て終えた担任は黒板の上の方に“文化祭でやる内容”と白いチョークで「カッカッカッカ」と音を鳴らして書く。
書き終わった担任が「内容はとりあえず五個くらい決めて多数決な」と言う。
続けて担任が
「あーそうそう。なんか食べ物や飲み物とか出すのもアリだ! だがありきたりはボツな」
ありきたりはボツを聞いた者達は考え込む。
少しだけ雨音は興味を持ったから手を上げようとしたが笑われるので手をあげない事にした。
五分か経過した。まだ誰も手を上げ、答えてない。
担任は教室の雰囲気を見つめる。「何かないのか? 誰も手をあげてないじゃないか」と担任は言う。続けて「じゃ、先生が決めるヤツを決めるぞ〜。いいのか?」と呟く。
クラス全員が「そうしてください」みたいな事を担任の眼を見ながら頼む。担任は誰が選ぶか決まったみたいだ。そして選ぶ。
「そうだな……。じゃ、水音! お前が選びな!」
「――え? ……わ……私!!??」 |