第三十九話「友達なんだから」 2
「水音さん、話して」
「え…?」
「真実を、話して。友達なんだから、ね?」
無理に笑顔を作り、
『ありがとう』
そう返事をする雨音。
その笑顔は、元気のなさそうな笑顔。無理矢理だしている顔。
という感じに見えた。
「……私は、ね。虹ノ空色学園には入りたくて入ったんじゃないの」
真実を話し始めた雨音。
黙って訊く桜花。
部屋の中は雅に重たいかの様な空気。
「…元々、入りたくて入ったんじゃない。無理矢理入れさせられたの。おじさんとおばさんに。『お前が居ると迷惑だ。学費とかは払ってやるから家からでてけ』って…。
だけど私、『入りたくない。学校行くなら迷惑になってるほうがまだマシ!』。学校行くこと、反対したよ。たっくさん。だけど……だけど…。そんなことおばさんは許してくれなかった。その前、そしてそれからと言うものの…――」
――13年程前。
私が三歳の頃……。他の親戚のところ。まだ『学校へ行け』と言ったおばさんの家じゃないところ。
「雨音!」
「!」
私は、辛かった。辛くて辛くて、こっそり家事をさぼったことがあった。
私の部屋の押入れの奥なら見つからないと思って、じっとして隠れてた。
まあ部屋は物置以上に狭かったから、押入れもそんな広くなかった。
一時間くらいは見つからなかった。
でも、とうとう見つかってしまったんだ。
「雨音! お前何してるんだい!? さぼるなって言っただろう!」
当然のことだけど、怒鳴られちゃった。
私、おばさんに嫌われちゃった。でももともと嫌われてたよ……。
悲しくて悲しくて、まだあまり物心ついてなかったというのに、恐怖を覚えちゃった。
その恐怖は未だに覚えている…。
「ったく! 行き場のないお前を置いてやってるというのに…。こんな簡単な掃除もできないのか! この出来損ないが!」
そう。
私は出来損ないだったの。簡単な掃除の一つも出来ないくらい……。
正直言えば、私も自分に
『こんな掃除も出来ないのか。駄目じゃない』
って、思ってたよ……。
「はぁ。お前はほんっと駄目だ。役に立たない! さぼった罰だ! 今日は晩御飯はなしだよ!」
そういわれた時。私は当然後悔したよ。当たり前。
ただでさえ、日々御飯の量は少なくて、おなかすいて……。つらい家事をして…。
そんな私にとって、少しの御飯は嬉しかった。
かなり少ないけどそれが嬉しかった。とっても嬉しかった。
『私、少しだけど誰かの役にたったんだなぁ…』
そう考えると涙も出てきた。でも実際は役にたってなかった。役立たずだから。
だから、一つでも御飯がかけると、おなかもすく。当然だった。
「役立たず! 役立たず! このっ役立たず!!!」
『役立たず』。そう何度も何度も言われながら硬い木の棒で殴られ続けた。
「痛い!」
私はそう叫びたかった。
けど叫ぶ度に……
「何が『痛い』だ! さぼった罰だ! このくらいどうってことないだろう! 役立たず!!」
殴る力を強められて、ね………。
怖かった。それが怖かった。物凄く、怖かった。
だけどどんなに怖がっても、殴る力が弱まることも、やめようとする様子もなかった。
その恐怖が体にしみついてるよ。未だに。
そしてその日からの一週間後…――。
「雨音、お前は今日から別の人の家に行くことになった」
「えっ」
突然のことだった。それは。またうつるのね、と恐怖もあったよ。
すると道から一つの車が走ってきたの。
「おら! さっさと行きな役立たず!」
「まあまあ落ち着いてください。さあ行きましょう」
と、言いながら出てきたのは若くて綺麗な人だった。
金髪のロングヘアーで、更にウェーブがかかっていて、それをポニーテールにしてた。
目の色も凄く綺麗だった。右目が緑で、左目が青。更に少しの赤がかかっていた。
そして車の中。
「貴方、お名前は?」
って聞かれたの。
「…………」
私は無言。
「…水音 雨音ちゃん、でいいのかしら?」
無言だったのにその人は優しく言ってくれた。
いつも名前を答えなかったら
『名前くらい答えろ!!』
そういわれて殴られた。
今回はそうじゃなかったから、安心した。
「私の名前は、・・・・・・・・よ、宜しくね」
その人の名前を聞いた時、物凄い音がしたからあまり聞こえなかった。よく、覚えてない。
覚えてるのといえば優しかった。そのくらい、かな。
その人といて一年がたったある日。
「おは…。!」
目が覚めて一階のリビングに向かったら、誰も居なかった。私は焦った。
また、捨てられたって――。 |