第三十八話「友達なんだから」 1
「水音さん!」
天気の所為で流れが強い川あたりを一人で歩いていた桜花。桜花はその川に雨音がおぼれているということに気付く。
どうしようか、と悩んだ。普通ならば桜花は飛び込んで助けているところ。
が、飛び込めない。理由は母親に
『桜花ちゃん。流れが凄く早い川には、何があっても、飛び込んじゃ駄目よ――』。
そう言われていた。
『何があっても』はたとえ大事なものを落としても、誰かおぼれていても、誰かが困っていても。何があっても絶対に飛び込んでは駄目だった。
桜花は飛び込むか飛び込まないか迷う。しかし迷っている暇はなかった。
何故なら
「ぶぐ……っ! ぷはぁ…!」
雨音が物凄く苦しそうにしていたから。
ちょうど、川の外からも雨音の姿は見える。雨音は中に居るのに。
そして、この川の名前は『虹ノ川』。特に雨上がりにはよく綺麗に輝いているから。
その意味もこもっていて、輝く、とは虹色に輝いている。だから『虹ノ川』。
その意味は誰もが納得し、誰もが気に言っていた名前。
勿論、雨音も気に言っていた。桜花も揺も。皆気に言っていた。
「………み、おとさん。今…今助けるから!」
そう言い、桜花は通学鞄。そして買ったものが入っているバッグを地面に置いた。びちょぬれになることも関わらずに。
今度は制服の上着、靴を脱ぎ、それも地面に置く。
偶然買われていた太く、硬いヒモを桜花は橋の手すりに硬く結びつけた。反対側を自分の腰あたりにまきつける。
そして、桜花はとうとう飛び込んだ。
「(水音さん、貴方が死んだらあたしも揺も悲しむの――!)」
強い想いで飛び込んだ桜花。
「うぐぁ…(おう…か……ちゃん…? 桜花ちゃんの声? 桜花ちゃんなの…?)」
『桜花ちゃん。どうして助けにきたの』。心の中でそう思いながらも雨音は意識をなくした。
しばらく経つと、声が聞こえ、頬をぱんぱん軽く叩かれてる感覚がした。
「――おとさん。みおとさん。水音さん」
「……………? おうか…ちゃん……?」
「! よかった。目が覚めたのね」
気がつけば……。雨音は桜花の家らしきところへ居た。
その家には桜花以外の人気はない。
どうやら桜花は一人暮らしだったらしい。雨音と揺と同じ。
「お……う…か……ちゃん。なんで…なんで……どうして助けたの…」
「!」
「わ…たし……しに、たかったの…に…」
「!! 馬鹿、言うんじゃないわよ!!!」
「!」
突然怒鳴られた雨音は吃驚する。
「あんたねぇ! あんたが死んで悲しむ人、居るんだから! 居ないと思ったみたいな顔しないでよね!!」
「……て…だって…」
「あんたが死ねば、あたしも揺も悲しむ! あんたの親も悲しむ! そのくらい分かるでしょ!?」
「あ……わ…たしは…、死んだ…って………誰も…誰も……」
「悲しむわよ!!! あんたが死んだってなんの意味もない!!」
桜花のその言葉にビク、となった雨音は『だって、私意味ないもの…』と言った。
「違う! そんなじゃない!! あんたが死んでも特になにもおこらない! 知ってるんならまだ生きてたほうがマシだってことくらい、わかるでしょ!!」
『そんなこと、わからない……よ…』。
雨音はそう言い返す。
「わかってるんだろ! わかってるから自殺しようとした……。あんたは全ッ然考えてない! 人のこと……!」
物凄い勢いで桜花は怒鳴った。
「…って…わたし……わたし…」
震えた声の雨音。
「水音さんが死ねば……あたし……かなしいよ……。友達、なんだ…から……」
「! ……おう…か………ちゃ…、ん……。ごめんね、ごめんね……」
「……貴方の友達は、ここに居るんだから…。だから……だから…、死のうとしないで……、何かあれば……相談くらい…して……よ………」
「桜花ちゃん……ごめんね…ごめんね……。ごめんね…――」 |