第二十九話「忘れられた存在」
「……な…とど…?」
『知らない』と言われ、ショックで固まっている来守に恐る恐る話しかけてみる。
「…………」
反応はなかった。
揺は心配になり、来守の肩を掴み、揺さる。意識はあった。が、反応はない。
気まずい空気と気まずい状態になってしまった。
「おい、イオラとやら…!」
「ああ?」
「ナトド…あんたの弟なんだろう!? なんで知らないなんていうんだ!!」
睨むような目付きで揺はイオラに怒鳴る。
イオラは『しらねー奴ァしらねーんだ。それに、お前には関係ねーだろ』。
冷静に言って去っていこうとした。
ガシ!!
去って行こうとしたイオラの左手を揺は『まだ話は終わってない!』。
そう言って掴みとめた。
「お前には、関係ねーんだよ!! 他人の事情に首突っ込むな! 転校生の癖に!」
「転校生だってことのほうが関係ないだろ!! ナトドが…、あんたの弟のクルスがどれだけアンタを必死で探したのか……。分かるのか!?」
「っ!!」
苛ッとした表情でイオラは無言になる。
「アンタはなァ…、アンタは……新しい家族が出来て、歩羽茄が出来て幸せだったろうけど………、そのアンタの幸せがクルスにとっては『裏切り』になったんだよッ!!」
「それがなんだって言うんだ!! 俺がどうなったか自由だし、クルスの奴が俺に対してどう思ったかなんて正直どうでもいいんだよ!! お前に関係ねーんだよ!!
大体、弟持ってる俺の気持ちなんて、お前なんかにはわからねーんだよ!」
「…わかる……さ…。アタシにだって…双子の妹が居て……、そいつを今苦しい想いさせてしまってるんだ……。だから、あんたと同じ………だ…」
揺はそう言いながら、唇をぐっと噛んだ。
そしてこういい始めた。
「だからアンタもクルスと……」
言いかけた瞬間、イオラが『うるせぇ!』。そう言って去っていった。
「……イオラ…。ナトド、ナトド。大丈夫か、ナトド」
「…揺…さん……。ありがとう…」
「?」
「僕、もういいんです……。もう……もう…。忘れられた…そんざい……だか…ら……」
涙を出し、両手にググッと力を入れながら来守はぼやいた。
切なそうな顔をした揺は、『無理、しなくてもいいよ』。そう言った。
「…探してくれてありがとう。あと、兄を許してやってください……」
涙声で来守はそういい始めた。
「え……」
揺は不思議になり呟く。
「兄…は、もともと……ああいう性格、なんです…。だから……だから…」
「うん、わかった」
揺は即答だった。
「! ありがとう……。本当にありがとう………。僕、感謝してる」
「アタシも、だ。ナトド」
二人は手を繋いで本当の姉弟の様に病院へ向かったのだった。
――それからと言うものの、来守はしょっちゅう揺に会う為に病院へ来ている。
もう、イオラを探す為に来ているわけじゃなくなったらしい。
来守は、少しだけ大人になった気がしたのだった。それは、揺もだった――。 |