第二十六話「名届 来守」
「……ああ…あれも……治すよ…」
揺はそうぼやくと寝転んだ。
「君、病気なんだ」
「!」
「あ、ごめん。脅かしちゃった?」
金髪ブルーアイで美形の少年は、窓の外へ居た。
ここは三階。どうやって登ったんだ? そう思った。が、言っても答えそうになかったので言わないでおく。
「僕は名届 来守。虹ノ空色学園初頭部五年、十歳。『ナトド』でいいよ。みんなは『クリス』って呼ぶけどね。倉本 揺さん…」
「! 何故、アタシの名を知っている?」
「高等部一年一組の人たちの名前はほぼ知ってるよ。君、倉本 揺さん。水音 雨音さん、古河 都子さん、風樹 亜来さん、秋背 麻子さん。担任は秋原 涼さん。あってるでしょ?」
「……あってる…」
そういわれると来守は笑顔で『やっぱり?』と嬉しそうに言った。
「ああ、そうだ倉本 揺さん。冬野 イオラって人、知ってる? 金髪緑目の」
「冬野 イオラ…?」
「そう。虹ノ空色学園高等部男子部、二年で生徒会長の冬野 イオラ」
しばらく揺は考え始めた。
“冬野 イオラ”……。知ってるような知らないような。そんな感じだった。
名前だけじゃ分からないから揺は『特徴は?』と来守に聞く。
来守はこう答えた。
「特徴? 僕そっくりで、ちょっとハイテンションで馬鹿っぽい人。そっくりなのは兄弟だから…。
昔、僕が三歳の頃、お父さんとお母さんが離婚しちゃって、ここ七年以上はあってない。どうしても会いたくって……。虹ノ空色学園に在籍してる事知ってね。日々こうして探してるんだ」
と。
少しの情報を手にした揺は『かわいそうだな……』と思い、一緒に探す事にした。
しかしそれだけじゃまだ情報が足りなさ過ぎるのだ。揺はもっと情報を手に入れる為に質問をまたする。
「そうか……。言っておくがここは病院だぞ? なんでここにお前の兄が…?」
「…妹……――」
「妹?」
「お兄ちゃんはお父さんの方についた。僕はお母さんの方。お父さんの再婚相手の間に出来た子供。初頭部三年の妹、冬野 歩羽茄が、病気だから入院してるらしく、それでお兄ちゃん病院通ってるって聞いた。だから僕は病院でイオラを探してるんだ。僕、はっきり言えば歩羽茄が大嫌いなんだ」
『はっきり言えば歩羽茄が嫌い』。その言葉に疑問を持った揺は
「なんで、嫌いなんだ?」
そう聞いてみた。
窓の向こう側にいる来守は瞳から涙をボロボロボロボロ流し始め、言い始めた。
「だって…、お兄ちゃんと歩羽茄は半分しか血が繋がってないのに…。完璧に血が繋がってる僕のことは対して何も思ってないんだもん…。まあ……別居してるからしょうがないんだけどね……」
「……そう…だったのか…」
「だから……歩羽茄なんか大嫌いなんだよ…、あんな奴…」
流れてくる涙を来守は服の袖でごしごしこすって拭いた。
多少目の周りは赤く腫れたが涙は止まった。
「じゃあ、ナトドが病院にいるのは……――」
コンコン。
揺と来守が会話しているとノックの音がした。
焦って揺は来守に『ナトド! 隠れろ!』。そう言った。来守も焦って隠れる。
「失礼します」
入ってきたのは女の看護士だった。
「検温の時間なんですが。あと倉本さん、さっき誰かと話してませんでしたか?」
鋭い看護士は揺をみつめ、体温計を渡しながら聞いてくる。図星だが、『はい』と言わず『いいえ、独り言です』と答えた。
看護士は『そうですか。独り言はいいですが体も休めてくださいね』。そう言った。揺は『はい。分かりました』と体温計を脇に挟みながら言う。
数分経つと体温計は『ピピ』と計り終わった音を出す。体温計には『37.1』と表示されていた。
「少し……熱、あるわね? 無理しちゃ駄目よ?」
看護士はそういいながらカルテに体温を描く。
そして『失礼しました』。そう言って病室から出た。
「ナトド、でてきてもいいぞ」
小声で揺はナトドにそう言った。ナトドはひょこ、と顔を出す。
「倉本 揺さん。君、重い病気なんだね……」
「まあな。それと揺でいいよ」
「そうなの? じゃあこれからは『揺』って呼ぶね?」
「いいよ」
会話をし始めた。
今、時間は十四時(午後二時)。雨音が来た時間は午前。桜花が来た時間は昼休みくらい。
いつも計温の時間は朝起きて三十分後と昼の十四時にある。一日二回あるらしい。
何故二回計るかは知らないが病院の規則だった。
「そういえばナトド。なんで外にいるんだ? どうやって登ったんだ?」
「自力で登った。外にいる理由は、どうせ中に入っても部屋には入れてもらえないから。入ったらまずいし。外から兄ちゃん探してる。凄いでしょ?」
「ああ。凄いな……アタシには無理だ、そんなこと。それより、お前の兄ちゃん、探してやるよ!」 |